パラダイムシフト

高校生の頃に読んだ漫画で、1つだけ、今でも強烈に覚えているものがある。長編などではなく、たった一片の四コマ漫画。それも、たまたま友達の家かどこかで読んだものだったような気がする。

その漫画とは、相原コージの『コージ苑』。

あやふやな記憶で恐縮だが、その当時、吉田戦車の『伝染るんです』や、中川いさみの『くまのプー太郎』など、シュールさを前面に出した四コマ漫画がブームになり始めていた時期で、どれもこれも、当時の自分には衝撃的に面白かった(今でも面白い)。『伝染るんです』と『くまのプー太郎』は単行本も持っていたのだが、コージ苑だけは、ややエロい話が多く実家に置きづらかったせいか、今でも記憶の中にしか存在していない(買えばいいのだが)。

というわけで、漫画を見ることもできず、画像を貼ることもできず、ただ記憶だけを頼りに書くことになるのだが、その内容はいたってシンプルで、パッとしない男性がAVを観ながらオ◯ニーをしている、ただそれだけの話である。一コマ目から四コマ目までずっとそうだった気がする。で、その行為の途中に、男性がふと、以下のようなことに気づき、心の中でつぶやく。

「俺はいま、男性のほうにではなく、女性のほうに共感して興奮していたのでは…」

実際のセリフはもっと切れ味が良かったと思う。それについてはご容赦いただきたい。ただ、いずれににせよ、劇中の男性は、AVを観ている途中に「早く服を脱がせ!」「早くおっぱいを触れ!」ではなく、「早く服を脱がせて!」「早くおっぱいを触って!」という、女性側(受け手側)の気持ちになって興奮していたことに気づき、愕然とするのである。

文章で書くと全く伝わらないなあ。本当にごめんなさい。でもなぜか、この話だけが妙に印象に残り、そして当時から25年ほど経った今でも、この話だけを強烈に覚えているのだ(その割にはあやふやだが)。理由はきっと明快で、「自分もそうやってAVを観ることがあるから」だと思う。いや、もう少し正確に言えば、この漫画のことがずっと頭の片隅に残っていて、ある日、AVを観ながらこの男性の気持ちになってみたところ、驚くほど「しっくりきた」ということかもしれない。相原コージ氏が、AV鑑賞において散見されるパラダイムシフトを四コマ漫画という形で世に問うたところ、それを読んだ私の中にもパラダイムシフトが生まれ、新たな価値観を獲得することになってしまったのだ。

賢げな単語を使いながら、結局自分の性癖の足跡を辿るだけの文章になってしまった。果たしてこれを公開する意味があるのだろうか。でもあの漫画だけは、もう一度どこかで手に入れて読んでみたいと思う。

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