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【崩壊3rd】「全宇宙の電子は一つだけ。」ってどういうことかの話

崩壊3rdのストーリーには、「哲学的な話の例えに科学的な説や理論を持ち出す」ということがありがちです。今回取り上げるメイ博士のセリフもその一つで、話の内容を分かりやすくするどころか更に理解を難しくしています。

例えとしてはほぼ意味が無い

まあそれはともかくとして、この「全宇宙の電子は一つだけ。」という説は実際に存在し、なかなか興味深いものなので紹介したいと思います。


導入

“Feynman, I know why all electrons have the same charge and the same mass” “Why?” “Because, they are all the same electron!”

Richard P. Feynman,"Nobel Lecture"

全ての電子はもともと一つである、というアイデアはJohn Archibald Wheelerによって提案され、「単一電子宇宙仮説」(The one-electron universe)と呼ばれています。この仮説は「何で電子って全部電荷も質量も等しいの?」というある種素朴な疑問に答える説です。

しかし、知っての通り電子はたくさんあります。身の回りの物体を構成している原子に電子が含まれることは皆さんも学校で習ったことでしょう。仮に電子が一つしかないのなら、なぜ電子は多数存在しているように見えるのでしょうか。そこには反粒子というものが関わってきます。

対生成・対消滅

higgstan.comより

反粒子とは、ある素粒子と同じ性質を持つが正負の属性が反転している素粒子を指す言葉です。例を挙げると、電子の反粒子として陽電子というものがあります。陽電子は電子とほぼ同じ性質を持ちながら、電荷の正負だけが逆の素粒子です。「反粒子」よりは「反物質」のほうが有名かもしれません。反物質とは、反粒子で構成された物質のことを指します。

反粒子はその対になる正粒子と対生成・対消滅という現象を引き起こします。この現象には、世界一有名な方程式として知られる次の式が関係します。
$${E=mc^2}$$
この式は、非常に簡単に言ってしまえば「89875517873681764ジュールのエネルギーは1キログラムの質量と等価である」という意味です。この説明は正確ではありませんが、深掘りするとそれだけで記事が一本書けるので一旦置いておきます。

対生成はこの式を左から右に読んだものです。つまり、エネルギーが質量を持つ素粒子になる現象が対生成です。対生成の際は必ず正粒子と反粒子がペアになって発生します。

higgstan.comより

逆に、この式を右から左に読むと対消滅という現象が読み取れます。正粒子と反粒子が出会ってエネルギーになる現象が対消滅です。

higgstan.comより

対生成・対消滅を位置を縦軸、時間を横軸にとったグラフで表すと次のようになります。

対生成・対消滅のグラフ
素粒子のイラストはhiggstan.comより


なんとなくイメージは掴めたでしょうか。このグラフは後の話でもまた使います。

逆行する電子

さて、ここで少し話を戻します。先程陽電子とは、「電子とほぼ同じ性質を持ちながら、電荷の正負だけが逆の素粒子」であると説明しました。二つの電荷の間には磁石のように、違う電荷間では引力が、同じ電荷間では斥力が働きます。よって、正の電荷を持つ粒子が存在する空間に電子を置けば引き付け合い、陽電子を置けば斥け合います。(電子の電荷は負で、その反粒子である陽電子の電荷は正であるため。)

正の電荷を持つ粒子との作用
素粒子のイラストはhiggstan.comより

この結果を、単に「陽電子の電荷は電子のものから反転している」という考え方以外で解釈します。例えば電子が正電荷と引き付け合い、互いに近づいている様子を動画に撮影したとしましょう。それを逆再生したらどのように見えるでしょうか。ちょうど陽電子のように、互いに遠ざかっているように見えるはずです。

順再生と逆再生
素粒子のイラストはhiggstan.comより

このことから、次のような考え方も出来ます。即ち、「陽電子とは、時間を逆行している電子である」という考え方です。つまり、陽電子は元々電子であり、時間を逆行している電子が陽電子として現れるという考えかたです。勿論その逆でも構いません。この考え方に基づいて先程の対生成・対消滅のグラフを描き直すと以下のようになります。

対生成・対消滅のグラフその2
素粒子のイラストはhiggstan.comより

勘の良い人は気がついたことでしょう。この二つのグラフは組み合わせる事が出来ます。

対生成・対消滅のグラフその3
素粒子のイラストはhiggstan.comより

グラフから分かるように、「陽電子とは、時間を逆行している電子である」という考え方を用いれば、対生成と対消滅を電子の時間軸の乗り換えという形で説明することが出来ます。つまり、対生成とは逆行している電子がエネルギーを受け取り順行するようになることで、対消滅とは順行している電子がエネルギーを放出し逆行するようになるということです。

電子は一つ

ところで、このグラフには電子が一つしかありません。一つの電子が対生成・対消滅を繰り返して時空を移動しているだけです。しかし、ある時間について着目して見ると、違う位置に電子が多数存在していることが分かります。

対生成・対消滅のグラフその4
素粒子のイラストはhiggstan.comより

仮にもっと多く電子が対生成と対消滅、つまり時間軸の乗り換えを行ったとすれば、その分だけ同時に存在する電子の数は増えます。単一電子宇宙仮説とは、このように唯一つの電子が順行と逆行を繰り返すことによって、全ての「一つずつ」の電子と陽電子が存在するのではないか、という仮説です。
この説は実験的に証明されたわけではなく、否定するような実験結果もあることから飽くまで仮説の域を出ていません。しかし個人的にはロマンがあって非常に面白いアイデアだと思っています。メイ博士もそれをケビンに共有したくて例え話として挙げたのかもしれませんね。

参考文献


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