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遠藤周作の文学展を巡る旅(長崎、町田)

遠藤周作さんは今年で生誕100周年ということで、各地の文学館で記念するイベントを実施しているようです。

私もそこまで本をたくさん読んだわけではないですが、多くの人と同じように「海と毒薬」「沈黙」などで強い印象を受けました。
遠藤周作さんは長崎生まれでは無いですが、小説の取材活動などを通じて親交を深めた長崎の外海(そとめ)地区に対する愛着を持たれていたようで、彼の死後に長崎県外海地区に彼の名前を冠した文学館が設置されました。

ということで、これだけを目的にした訳では無いですが、長崎県に訪れ、遠藤周作文学館に訪問をしてみました。

遠藤周作文学館

長崎駅〜遠藤周作文学館

遠藤周作文学館は長崎県の西彼杵(にしそのぎ)半島、長崎駅の北西方面に伸びている半島の西側の海に面した「外海地区」にあります。なお東の大村湾側は内海(うちめ)と呼ぶようです。
長崎駅からだと、車でおおよそ40〜50分、多くのトンネルをくぐり起伏の激しい山の中を走り続けると海が見える開放的な場所にたどり着きますが、そこが外海地区です。

遠藤周作文学館
外海の海を望む。遠くには炭鉱で有名な池島も見える

東シナ海の開放的な海の風景が印象的な場所に、文学館は建っていました。
「神様がぼくのためにとっておいてくれた場所だ」と遠藤周作氏は外海地区について述べたそうです。どのようなお気持ちでそのような言葉を残されたのか私ごときでは汲むことは難しいですが、静謐で穏やかな自然が残った気持ちの落ち着く場所だなとは私も訪問して感じました。

文学館内のインスタレーション
作品のあらすじが書かれたポストカード
思索空間アンシャンテ

館内は一部のインスタレーションを除いて基本的には写真撮影は不可。今は生誕100周年を記念して、遠藤周作の生涯についてまとめた展示がされています。

遠藤周作というと、「海と毒薬」「沈黙」などのように、非常に重たいテーマで小説を書かれる、真面目で小難しい人、という印象を持ってました。亡くなられてから30年経ち、私のように彼の活動をリアルタイムで見る機会がなかった人間の感想です。
実際の遠藤周作氏は本当に多彩な面を持っていることを展示を通じて知ることができました。戯曲を書き、劇団を興し、自らもCMに出演し、「狐狸庵先生」の名で極めて人間的なエッセイを記す。
とくに「ぐうたら人間学」などのエッセイ作品を読むと、事あるごとに「う◯こ」の話ばかりが書かれていて、数作の作品程度の印象で作家の人間性を判断しては絶対にいけないと思い知らされます。

デビ夫人に対して「お風呂のなかでオナラをしたことありますか?」と聞いたり、色々な理屈をこねくり回してデビ夫人の膝をさすったりしたエピソードはなかなか強烈で、諸々厳しくなった今の世だったら確実に大炎上していたでしょうね。

くだらないことが大好きで、様々なものに興味を持って行動に移す、好奇心の塊のような人、というのが文学館訪問後の遠藤周作先生の印象です。そんな人だからこそ、あそこまで人間の本質に迫った作品群を書くことができたのかなと思います。

出津集落

遠藤周作文学館のほど近くに、出津(しつ)集落があります。出津集落は隠れキリシタンが潜伏していた場所として有名で、2018年に「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」として世界遺産にも認定された場所です。
遠藤周作の「沈黙」の舞台にもなった場所。

外海歴史民俗資料館の近くには、遠藤周作にちなんだ石碑があります。その名も「沈黙の碑」。

沈黙の碑
「人間がこんなに哀しいのに 主よ 海があまりに碧いのです」

出津集落を象徴する風景は、出津教会堂でしょうか。車もおいそれと入れないような急峻な道を辿った先にひっそりと佇む神聖な雰囲気の教会堂です。
私は休日に訪れましたが、世界遺産だからと観光客があふれるような状況とは無縁の姿を見せてくれます。

出津教会堂

長崎グルメ

せっかく長崎まで訪れたので、ステロタイプ的に語られる象徴的な長崎グルメの数々も味わってきました。
美味しいかどうかは別として、長崎でしか味わうことはなさそうな料理が多い印象です。

トルコライス
ミルクセーキ
シースクリーム
ちゃんぽん
カステラアイス
ハトシロール

個人的に今回の旅で一番美味しかったのは、写真には載ってない、ヒラス(ヒラマサ)の刺し身でした。長崎はお魚が美味しいですね。

西九州新幹線

こちらも行きがかりのついでで、昨年開業した西九州新幹線にも乗車してみました。長崎〜新大村の短い距離、乗車時間はわずか15分でした。

武雄温泉までしか行かないのに「博多行き」と頑として表示する精神力の強さを感じます。日本人もこれくらい根拠のない自信を全面に出して行動した方が良いと思います。
今回は昼の時間帯に乗りましたが、私の他には乗客は数名程度しかおらず、乗車体験としては極めて快適でしたが乗車率に関してはかなり不安を感じました。正直、博多までの移動を考えると、高速バスの方が本数が多いし乗り換えはないし安いし、で使い勝手は良さそうですからね。

町田市民文学館

町田駅〜町田市民文学館

長崎とはまったく関係ないですが、東京でも町田の「町田市民文学館」で遠藤周作先生の記念展示が行われていたので、訪れてみました。

私も訪れるまで知りませんでしたが、遠藤周作氏は3年半ほど町田周辺に居住をしていたようで、そういう縁もあっての展示のようでした。

展示内容としては、私が外海の文学館に訪れる前に抱いていたような「遠藤周作像」を壊さないような、余所行きの格好をした遠藤周作についての展示が多かった印象です。もちろん、敬虔なクリスチャンとして書かれた純文学の世界こそ、遠藤周作先生が世界的に評価されている世界そのものなのは間違いないです。

遠藤周作セット

文学館に併設されている「喫茶けやき」では、遠藤周作にちなんだコーヒーセットが提供されていました。僕は違いが分かる男ではないですが、美味しくいただきました。

小説を読んで作品については理解したつもりでいても、作家の人生をひとつのストーリーとして網羅的に理解する機会はあまり多くなく、文学館の展示などに参加すると今まで知らなかった作家の横顔や人生などを学ぶことができ、新たな発見が多いです。
日本では文学館は美術館ほどには多くない印象ですが、周年になると有名作家については記念イベントを行われるので、そういう機会に足を伸ばしてみるのも楽しいな、とあらためて感じました。

両展示の記念品
日めくりカレンダーと、名刺
僕も「サンザ・ン・クサイ糞学博士」とか名乗っても笑って許されるような人間になりたい


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