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Webフリーマガジン「特技でメシを食う」 第4回 阿佐美ザウルスさん(整体サロンオーナー)

インタビュー企画「特技でメシを食う」シリーズ

ルールは至ってシンプル。下記の3つのみ。

1.特技でメシを食っている人に極意を聞く。

2.質問事項は毎回、以下の5つに固定。

3.次にインタビューする特技メシな人をご紹介いただく「紹介制」を導入。

第4回目にご登場いただくのは新田明臣さんからのご紹介で、タイ古式マッサージサロン「オーガニック広尾」オーナーの阿佐美ザウルスさん。

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阿佐美ザウルス(あさみ ざうるす)

1985年東京生まれ。高校3年からボクシングをはじめ、2007年に「RISE」でプロ格闘家デビュー。2011年以降は現役選手を続けながら、バンゲリングベイでトレーナー、さらに国内のタイ古式マッサージ店でマッサージ師としての修業をはじめる。2014年に「オーガニック広尾」をオープン。2016年3月に惜しまれながら現役格闘家を引退した。

30歳にして広尾のマッサージサロンオーナー歴3年目の阿佐美ザウルスさん。これだけでも話は十分に面白そうなのに、数年前までは「現役格闘家」「ジムトレーナー」「マッサージ師」「サロンオーナー」と4つの顔を持っていたというから驚きだ。2カ月前に現役を引退したばかりの阿佐美さんに話を聞く。

①あなたがメシを食べている特技は何ですか?

僕の特技は「タイ古式マッサージ」です。

タイ古式マッサージは2500年の歴史があると言われています。「世界一気持ちがいいマッサージ」との声もあるこのマッサージの特徴は、整体と比べるとアクロバットな技が豊富にあって、ストレッチの種類も非常に多い点です。

マッサージ師との「2人ヨガ」と呼ばれるぐらい体を大きく動かすので、しっかりやると汗だくになるし、筋肉の深部まで伸ばすことができます。代謝が上がるのでダイエット効果もあるし、プロポーションアップにも繋がります。

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僕がタイ古式マッサージを初めて受けたのは、現役格闘家だった2011年にタイへ武者修行に行ったときのことでした。1カ月ほど滞在したのですが、タイ語が全くわからず、練習以外にやることがなかったので、練習場の隣にあったタイ古式マッサージのお店にふらっと入ってみたんです

そこで初めて受けたマッサージが本当に気持ちよくて、しかも料金が1時間150円という安さだったので、ハマって毎日そこに通うようになりました。

タイ古式マッサージの魅力を知った僕は日本でお店を出したら面白いんじゃないかと考えて、早速ネットを使って調べてみました。すると、日本にもタイ古式マッサージのお店があったので、帰国後は現役選手とトレーナーも続けながら、目星をつけていたマッサージ店に就職して、方法を習得しました

その店には「絶対に1年で独立する!」と覚悟を決めて臨みました。実際に1年後にはフランチャイズという形で独立して、売上不振の店を買い取ったところ、半年後には売上をメキメキ上げて、2014年には完全に独立。

現在は、広尾駅の近くにあるタイ古式マッサージサロン「オーガニック広尾」のオーナー兼セラピストとして働いています。

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店名にもあるように“オーガニック”にこだわっているのには理由があります。僕は現役の頃に添加物が含まれたサプリメントを毎月3万円分ぐらい飲んでいたのですが、現役のラスト2年間は飲むのを一切やめたところ、自然と筋肉がつくようになって、体調もよくなったんです。

つまり、添加物は内臓にダメージを与えて、体が疲れやすくなる、栄養が吸収されなくなる、むくみやすくなるということ。これらは僕が自分の体で感じたことであり、体験から学んだことです。

②特技でメシを食っていこうと思ったキッカケは?

タイでマッサージに出会ったことは1つのキッカケでしたね。

タイへ武者修行に行った理由は「何かを変えたい」と思ったからです。25歳の頃の僕は現役格闘家 兼 トレーナーとして、毎日休みなく活動していました。おかげさまでトレーナー業の人気が出て、全て指名で埋まるほどでした。

ただ、格闘家って現役の頃は常に不安なんです。

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リング上ではスポットライトを浴びて、会場では握手やサインを求められますが、歳を重ねていくと「俺はこの先、どうなるんだろう」と…。僕も若手ファイター8人で音楽のCDを出したこともありますが(笑)、選手を辞めたら誰にも相手にされなくなるんじゃないかと悩んでいました。

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その頃、プロデビューからファイトマネーだけは手を付けずに貯めていて、貯金が100万円を超えたので、「何かを変える」キッカケを掴みに行こうとタイへ武者修行に行くことにしました。

それで今は本当にタイ古式マッサージサロンを経営しているのだから、人生って面白いですよね。

シビアな話をすると、格闘家が将来に不安を抱く心理の背景には「現役を辞めた後の成功モデルが少ない」という現実があります。その点、僕がトレーナーとしてお世話になったバンゲリングベイ代表の新田さんは引退後に事業をされて成功した数少ない1人。その姿を近くで見ていて、僕も“新田さんの2番目”になりたいという気持ちがあります。

自分はチャンピオンベルトも持ってないし、大した選手ではありませんでしたが、新田さんに続くことで若手や後輩に「引退しても大丈夫だよ」「ちゃんと道はあるよ」と見せてあげたいですね。

③特技を収益化するうえで、これまでにあった苦労や失敗は?

サロンオープンまでとオープン当初は大変でした。

格闘家は世間知らずな面があります。よく「縦社会で厳しいんでしょ?」と言われますが、それはあくまで自分達の狭い世界に限ったことで、多くの人は外の世界のことがよくわかっていません。

僕もお金で騙されたり、信用していた人に裏切られたりと、サロンをオープンする際に大変な目に遭ったこともありました。

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※取材は広尾のB.cafeにて。オーガニック広尾から徒歩1分。

現役格闘家だった頃はリング上で殴り合った相手でも、同じ苦労をしている仲間だから翌日には仲良くなるものでしたが、世間に出てみると、世の中には気持ちが繋がっている人や信用できる人ばかりではないんだと思い知りました。これは現役を引退した格闘家の多くが感じる部分だと思いますね

サロンの経営面でいくと、オープン当初にビラ配りをしましたが、それが自分の中では落ち目に感じて辛かった(笑)。“サインを求められる立場”から、“受け取ってもらえないビラを渡す立場”の落差が自分の中でなかなか受け入れられなくて…。

でも、スタッフにやってもらおうと思っても、オーナーが率先してやらないと絶対についてきてもらえないんですよ。

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だから、電車の始発の時間から駅前に1人でスタンバイしてビラを配ったり、お店に泊まってビラの準備をして、また早朝に配りに行くということをよくやっていました。ただ、お店は「ゼロからのスタート」なので、ビラを配ったりするのは当然のこと。大変なときも「絶対に早く上にいってやろう!」とパワーに変えるようにしていました。

マッサージ店自体はフランチャイズで売上を激増させた経験があるので多少の自信はありました。

人気が出た理由を自分なりに分析すると、僕は格闘家なので筋肉の名称や解剖学などの知識があって、どこの筋肉が疲れやすく、どのマッサージが効果的かということを知っていたことも大きかったのかもしれませんね。

④特技でメシを食うことの最大の喜びは?

マッサージ師は技術職なので、自分がいいと思ったことがお客様に認められるとうれしいものです。それでお金をもらえることも。うちの実家は正直、裕福ではなかったので、僕はお金ばかり追いかけてきた面もあります。

厳しい状況でも、両親は僕と兄にはご飯をたくさん食べさせてくれたおかげで立派な体になりました。いろいろとワガママを聞いてくれた両親に早く楽をさせてあげたいという気持ちもあって、とにかく早くお金が欲しかった

だから、最初のファイトマネーで両親に食事をご馳走したときはうれしかったですね。

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今も僕は決して裕福ではありませんが、サロンがようやく軌道に乗って、これからもっともっと成功したいと思っています。最近、「人に認められればお金はついてくるんだ」と気づいたんです。前は欲求の順番が「お金がほしい」→「認められたい」だったけど、今は順番が入れ替わりました。

ちなみに、今後はタイ古式マッサージを原点に「美容整体」をやろうと思っています。その理由は、いくら効果が持続するマッサージでも、時間が経過するとお客様が「腰が痛いからまたお願い」と来店されて、いつまで経っても腰がよくならない、つまり「根本が改善されない」からです。

では、根本は何かというと「姿勢」なんです。

その場凌ぎではなく、根本から姿勢を直すことが僕はやりたいんだと気づきました。最近、モデルさんのマッサージをさせていただく機会が増えましたが、モデルさんはスタイルがいいのに普段の姿勢が悪くてもったいないと思うこともよくあって

今後は僕が考案した姿勢を改善する「ビューティストレッチ」を取り入れたバンゲリングベイとのコラボサロン「バンゲリングベイビューティ」を恵比寿につくる予定です。6月上旬にオープン予定で進めています。

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⑤特技でメシを食うための「あなただけの秘訣」は?

うーん、なんだろう…。1つは自分年表をつけることですかね。小学生の頃にワタミの渡辺美樹さんの本『夢に日付を!』を読んでから、ノートには書かないものの、自分年表を具体的にイメージする癖がつきました。

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だから、僕は10代の頃から「30歳になったら格闘家をやめる」と決めていました。30歳になったら起業したいと思っていたんです。正直に言えば、業種は何でもよかった。実際のところ、今も飲食店やエステなどにも興味があります。

今後の年表も自分の中にはあって、5年後には複数店舗を経営して、僕自身は現場のセラピストを抜けて指導者にまわり、セラピストの数を増やすといったイメージがあります。僕の手は2本しかないので、僕がいなければお店が成り立たないのでは困りますからね。

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あと、これは「秘訣」と言えるものかわかりませんが、義理堅く生きていこうと思っています

足立区の下町で育った人間なので。義理と人情は忘れずに、先輩から受けた恩は下の世代に返していこうとは常に思っています。僕はいまだに近所のガキンチョが悪さをすると怒鳴りつけたりしますからね(笑)。

―編集後記―

阿佐美ザウルスさんの芯にあるのは「体験」と「実感」だ。

「自分が体験して良いと感じたものをお客様に伝える」ことを自分の芯に置いている人――お話を聞いていて、そんなイメージを抱いた。

格闘家、トレーナー、マッサージ師、サロンオーナーと複数の仕事を経験し、今後もさまざまな事業に興味があると話す阿佐美さんは、数年後にまた取材にお邪魔したら、想像もしないような新たな展開を笑顔で話してくれるに違いない。

でも、アウトプットの形は変化しても、芯の部分は変わらないはずだ。

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取材・文:廣田喜昭

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