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美少女戦士セーラームーン(2003年実写ドラマ版) 感想

今回は実写版のセーラームーンについて話そう。
バンダイ版ミュージカル(バンミュ)の大成功を受けて作られた、とかそんな経緯らしい。Pは白倉伸一郎。監督は田崎、脚本は小林靖子が全話執筆。仮面ライダー龍騎かな?
TTFCにも東映アニメchにも無いのでわざわざDVDを購入して観返した。
ここから先は原作漫画版を読んでいる前提で話します。未読の方は私の便所の落書きなんて読んでないでさっさと原作を読みましょう。とても良い漫画ですよ。


評価点①「Crystal」に先駆けた原作準拠の映像化

白倉P曰く「原作至上主義でやる」らしく序盤の展開は原作版にかなり忠実だった。
特に第3話「三人目の戦士は巫女のレイちゃん」は原作の「Act.3レイ-SAILORMARS-」通りに進行する。しかし、この3話が僕の中で本作の全盛期でした…
なぜなら以降は改悪としか思えないレベルの改変が続くからだ。原作至上主義が聞いて呆れる。


評価点②レベルの高い役者陣

北川景子のレイはあまりにも有名だが、個人的に一番ハマっていたのは沢井美優のうさぎだ。天真爛漫さと戦闘時の鋭い目つきのギャップが完璧にセーラームーンだった。

ダーク・キングダム側は杉本彩が演じるクイン・ベリルが素晴らしかった。ベリルはああ見えて乙女なのだが、エンディミオンへ思いを馳せるシーンはまさに原作のベリルそのもの。ちゃんと可愛い部分も再現してくれて嬉しかった。

ゾイサイトは最初デマンドかと思った。


評価点③脱・ヒロインを果たしたタキシード仮面

俺は背負った前世に決着をつける…。前世に囚われてるからじゃない、今を生きてゆくためだ!

第48話「衛がメタリアにのっとられた!」より地場衛

原作・旧アニの共通点として地場衛/タキシード仮面は男児向け作品で言うところのヒロインとしての立ち位置だった。原作第二部では変身できなくなったうさぎの代わりに戦い幹部のエスメロードを撃破する大金星を見せたが、他の部や旧アニメ版ではアシストやうさぎの心の支えとしての役割が基本の立ち位置である。旧アニメ版のタキシード仮面に関してはトロフィーワイフの男版としか思えないから嫌いだ。
しかし本作は違う。四天王との前世での主従関係が原作よりも強調され、下手をするとセーラー戦士よりダーク・キングダムとの因縁があるように感じた。
四天王たち特にクンツァイトは衛に対し「エンディミオン」「マスター」と呼びつつ愛憎入り混じったような態度を取り、衛も「俺は地場衛だ」と譲らない。前世を乗り越えるのは原作・旧アニともに同じだが、今作は明確に前世に「NO」を突きつけ今を生きるために戦うと宣言するのは良くも悪くも新鮮だった。そう、良くも悪くも…
引用した48話の台詞なんてタイムレンジャーそのものだし正直主役を食いかねないくらいかっこいい。
Special Actで四天王を引き連れスーパー戦隊のレッドのように立ち回る衛は笑ってしまった。


評価点④英題「Pretty“Guardian”」

旧アニメ版やミュージカル版の英題は「Pretty soldier SAILORMOON」であったが、今作から「Pretty guardian SAILORMOON」に変更され新装版以降の商品展開でもこの表記が続いている。私が本作において何よりも高く評価している点だ。セーラー戦士は戦士であっても兵士ではない。愛と正義を胸に戦う守護者なのだ。直子姫か小佐野か白倉か?誰の案か知らないが本当にありがとう。

参考程度に旧アニメ版のDVDジャケット


微妙点①第二部以降を彷彿とさせる独自展開

水野亜美は中盤でクンツァイトに洗脳されダークマーキュリーという悪の戦士になってしまう。第四部でフィッシュ・アイに心の内面に入り込まれた展開と第二部のブラック・レディを合わせたような展開で「ああ、欲張ったな…」と思った。

セーラールナもといルナの人間体はもっと酷い。原作第四部か「かぐや姫の恋人」辺りから引っ張ってきたのだろうが、スタントマンがいないせいかアクションができずギャグ要員だし役者も全然可愛くないし出した意味が本気で理解ができない。しかもそこそこレギュラーとして居座りますからね、セーラールナ。

映画「かぐや姫の恋人」のルナ。作中で一番かわいいまである
チェンジで(無慈悲)


問題点①リアルさと作り物感が中途半端

今作は実写版のため変身前はリアルさを意識したのかウィッグなどをつけずに黒髪や茶髪のまま演じている。

左からまこと、うさぎ、レイ。

そのせいで変身後とのギャップが凄くコスプレAVのように見えてしまう。参考程度にバンミュ版のうさぎと衛である。

衛役は仮面ライダーJの瀬川耕司を演じた望月祐多

実写版以上にコスプレ丸出しだが、大山アンザ(ANZA)が堂々とした態度で演じている。本物だと錯覚するくらいに堂々と演じている。要は「開き直れ」と言っているのだ。
中途半端なリアル志向が逆に安っぽさを生んでいるのだ。

そしてこれは本作のルナである。

本作のルナの設定は「喋るぬいぐるみ」である。猫を撮影に使うのが難しいとはいえこれはふざけすぎではないか。まあそれに限界を感じていたから人間体が急に生えてきたのも納得できるのだが…
個人的に一番酷かったのはプリンセス・セレニティだ。

こんなの額に三日月つけただけの沢井美優ではないか。せめてこの時くらい銀髪のウィッグつけなさいよ。ベリルや四天王はつけてるんだから…

あと美奈子。黒髪は仕方ないとしてもせめてリボンくらいつけろ。


問題点②愛野美奈子/セーラーヴィーナス全般

原作での美奈子は「コードネームはセーラーV」時代からアイドルになる事を夢見ている「普通の女の子」でありながら内部戦士の中で一番ヒロイックな戦士でセーラーチームのリーダーとして華々しく大活躍した。そしてアイドルという夢に関しては第四部でさらに掘り下げが入り、戦いが終わった後の彼女は恐らくアイドルになるために努力しているのであろう。
しかし本作では最初から大人気アイドルであり、登場こそまあまあ早いものの全然仲間に加わらない。そして病弱設定付き。原作の美奈子はいつも元気いっぱいだったはず。それどころかレイとバチバチに対立するし最終決戦前に病死し存在そのものが消されたような扱いを受ける。美奈子にとってアイドルという夢がどれだけ心の支えになっているか何も分かってない。そして原作では銀水晶の剣でベリルを倒す大活躍をしているのに本作の最終決戦には参加すらさせてもらえない。どうして…

問題点③前世に対する考え方

原作・旧アニメ版において前世の事で悩む事はあっても前世に対してネガティブな発言をする事はほとんどなく、むしろ「私はプリンセスなんだからしっかりしなくちゃ!」と戦う勇気に変える。だからセーラー戦士は強くてかっこいいのだ。

しかし今作は前世に対してかなり否定的な作劇になっている。うさぎや衛にとって前世は「罪の記憶」だし、レイに至っては「前世なんて言葉が嫌いになった」と言ったりしまいには美奈子に向かって「あなたは前世に縛られている」と言い放つ始末。待てと。今すぐ「カサブランカ・メモリー」読み返してこい!と私は言いたい。しかし第34話「はなしあう親子」を見るにレイと父親の確執が描かれているので小林靖子はしっかりカサブランカ・メモリーをチェックしていると思われる。なのにどうしてここまでレイの解像度が低いんだ…


問題点④前世の設定改悪

本作の前世への考え方が上記のようになっている事には理由がある。なぜなら本作においてシルバー・ミレニアムを滅ぼしたのはプリンセス・セレニティなのだ。
さらに言うと本作のクイン・メタリアの正体はセレニティの負の心が銀水晶の力で増幅されたものであり、強化形態のプリンセスセーラームーンは事実上の乗っ取り形態である。
そりゃこんな前世は否定しなきゃいけないし、使命感の強い美奈子は最終決戦前に存在が抹消されるのも仕方ない…わけあるか!
ちなみにプリンセスセーラームーン登場後のベリルは完全に物語の蚊帳の外です。どうせ空気なら原作通りにヴィーナスに倒されても良かったのではないか。


最後に軽く総評

私は小林靖子の描くスーパーヒーローが大好きだ。仮面ライダー龍騎、仮面ライダー電王、タイムレンジャー、ギンガマン、ゴーゴーファイブ。どれも本当にかっこいい。
ここでタイムレンジャーのCase file25,26「途切れた信頼」「信頼の秒読み」を思い出して欲しい。そう、小林先生はめちゃくちゃ恋愛描写がヘタクソなのである。
セーラームーンと恋愛は切っても切り離せないテーマだ。そんな脚本家に本作の全話脚本を任せた時点で失敗なのだ。
そしてその上で原作理解度が非常に低い。いや理解した上で破壊して再構築したのだろうか?どのみち原作準拠を謳い出来上がった作品がこのザマなのだからどうだっていい。
加えて言うと問題点の項目で挙げた前世に対するネガティブなスタンスは原作準拠アニメ「Crystal」にも受け継がれている。
原作準拠が聞いて呆れる。
研究目的でまた観返す事があると思うのでDVDは売らずに残しておきます…

もし次に原作準拠でセーラームーンのアニメを作る事があるなら原作の理解度が高いスタッフを集めて欲しいです。

では今回はこの辺で終わり。

友よ、また会おう。


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