見出し画像

[公開日映画レビュー]シェイプ・オブ・ウォーター

「パシフィック・リム」のギレルモ・デル・トロ監督の本作を「どんな映画?」と聞かれたなら私は「似たテイストの映画」として以下の作品を挙げます。

1.アメリ(2001年:ジャン=ピエール・ジュネ監督)

2.ロスト・チルドレン(1996年:ジャン=ピエール・ジュネ監督)

3.シザーハンズ(1990年:ティム・バートン監督)

奇しくも1.2は同監督です。異形と純粋な愛を描いたメルヘン作品と強引にまとめる事が出来ましょうか。

時代の設定は1962年。まだ米ソ冷戦下のアメリカ。政府の研究施設で清掃員として働く聾唖女性のイライザが主人公。友人は2人。同じ清掃員のゼルダと広告代理店をクビになり今はフリーで広告イラストを描く同じ映画館の上階アパートメントに住むジャイルズ。彼との経緯は特に触れられていませんが、ジャイルズからは「恋人未満」の感情のように思います。

この映画ではこのジャイルズとロシアから送り込まれているスパイ、ホフステトラー博士以外の皆は性欲旺盛。まずイライザ自身入浴中に自慰に耽る場面からスタートして面食らいます。それ以降なにかと登場人物は自己の性欲をむき出しにします。果たしてここは何を意図したものか知りたいところです。

ともかく、貧しくとも慎ましく暮らすこれらの人々の中に突如登場してくるのが、劇中の設定でも「不思議な生きもの」としか書かれていないアマゾンで捕獲された半漁人。

ポイントは誰しも「奇怪」としか感じない、あるいは政府にとっては米ソ冷戦の軍事研究材料としか映らないのこの存在を、やはり社会からは若干外れた存在のイライザだけが先入観なしに「感じる」事で心を通わせる所です。

動物や植物も言葉がわからずとも人の感情は察知することが出来るといいますから、むしろ言葉よりも純粋なコミュニケーションはやはり感情なのでしょう。

結局この「不思議な生きもの」が米国の兵器開発のために解剖される事を知ったイライザとホフステトラー博士が両者同床異夢ながらこの「不思議な生きもの」を助けようとするところから物語が大きく動き始めます。

それと同時にストリックランドのモンスターの様な狂気が物語の終焉をスリリングにする事に成功しています。

ラストは書きませんが、ここで「風の谷のナウシカ(1984年:宮崎駿監督)」から定番となってアメリカ映画に波及した「蘇生術」に触れておきます。

同作品では「王蟲」が青い光とともに金色の触手を伸ばし生命を蘇生させますが、まずこれを「アバター(2009年: ジェームズ・キャメロン監督)」に登場の“エイワ”が生命蘇生の触覚を青い光を伴い登場させています。

本作品でも「不思議な生きもの」がケガをさせてしまった人々に手をかざし治癒させる際に全身から青い光を放ちます。

どうやら日本のファンタジー描写が米国ファンタジーにも定着した姿を見届けた思いがしました。

ところでこの作品は「米ソ冷戦下」を利用する事で成り立っていますし、設定が1962年であることの意味はそれ以外に現代の利便性が、ストーリーを描く上で邪魔になるのではとも感じました。携帯電話やインターネットが存在していたとするとこの作品の多くのスリリングな設定は成り立たないですから。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?