見出し画像

[公開日映画レビュー]「運び屋」は。。。

まず掲載が遅れてしまい全然“公開日レビュー”ではなくなった事をお詫びいたします。

──私は映画鑑賞の際にはなるべく先入観を持たないよう極力、公式ウェブサイトさえも目にせず映画を観ます。そのせいか思い違いをしている場合もあり、今回も「事実の映画化」と思い込んでいました。しかし実際には主人公の家族に触れる部分は完全に創作でした。エンドロールにも“着想を得た”とことわりが出てきます。

2014年、The New York Times Magazineの記事“The Sinaloa Cartel's 90-Year-Old Drug Mule”での犯人レオ・シャープが今回クリント・イーストウッドが演じる主人公アール・ストーンです。

着想元となったレオ・シャープ

なぜ「運び屋」に手を染めたのかに関し映画では、孫娘ジニー(タイッサ・ファーミガ)の婚前ブランチパーティの参加者から声を掛けられた流れになっていますが、実際はレオが所有する農場にメキシコ人が従事しており、そこで誘われたようです。

本題に入りますが、前置きとしてなぜこのような事を書くかというと、先入観なく観ていた私が「うーん薄っぺらいなあ」と感じていた部分がそっくり創作だったからです。

まず仕事を優先した挙げ句家族と亀裂が入った部分。なぜ荷物が危険なコカインであると知ってからも「運び屋」を続けたかの理由として、孫娘の結婚パーティ資金や、退役軍人ハウスの維持、差し押さえとなった自分の農場を取り戻すためなど、どれもちょっと陳腐だなあと感じました。まるで義賊の“鼠小僧”めいていて、お金が欲しい理由にキッチリとした動機付けなど不要だと思うのです。ロジカルすぎてむしろリアリティを感じないんですね。

レオが生涯を捧げたデイリリー(1日だけ開花するユリ)

印象に残ったセリフがあります。

アールは仕事を請け負うと目的地に向かう以外はマイペースです。そもそも速度を上げることもなく安全運転で50年以上違反キップを切られた事がないのがウリでスカウトされたのですから。

ある日今までの100キログラムより大幅に物量を増やした282キログラムの仕事を任せようとしたものの、仕事に不安を感じたカルテルのボス、ラトン(アンディ・ガルシア)はハンドラー(監視役)に部下のフリオ(イグナシオ・セリッチオ)を任命します。しかし道中でアールはパンクで困っている家族に停車し手を貸したり、相変わらずマイペース。ハラハラしどうしのフリオはアールを殺してしまうおうとラトンへ許可を得るべく電話をしますが、そこで

「アールは自分の自然な行き方で今まで捕まらないで成功してきたのだから彼のやり方に任せろ」

と言われます。ボスらしい広視野な物事の見方だと思います。結局フリオも次第にアールに好意を抱いて行きます。

カルテルのボス、ラトン

そしてこの大仕事を無事に終えた事でラトンはメキシコの豪邸へアールを歓待さえします。

この席で楽しんで一息ついたアールは1人でいたフリオに、彼の根の真面目さを見抜いていたのでしょう。「お前もこの仕事を辞めて好きな事をやった方がいい」とアドバイスをします。しかしフリオはプラプラしていた自分を“男”にしてくれたのはラトンであって恩義もある──とんでもない。と返します。

──実は私はこれが伏線になると思っていました。結局ラトンは手下に殺されてしまいますが、ラトンを慕っていたフリオが義侠心から組織を裏切るか、アールを救うのかなと期待していましたが、そんな事は起こりませんでした。

ここもそうですが、脚本のせいなのか家族の件も含めて予定調和過ぎます。

ラトンを慕うフリオ(手前)

DEA(麻薬取締局)のベイツ(ブラッドリー・クーパー)がカルテルの携帯電話を傍受し、運び屋が宿泊するであろうモーテルに張り込み中、そばのワッフル屋でアールとニアミスし、そうとは知らないベイツが人生訓で諭される場面もあるのですが、これもラストに何か活きてくる部分なのかと期待しましたが、ひねりはありませんでした。「あんたか」──それだけでした。

実際のDEAジェフ・ムーア捜査官と公判時のレオ・シャープ

レオ・シャープはクリント・イーストウッドとどことなく似ていますし、ジェフ・ムーアもラッドリー・クーパーがピッタリでキャスティングはベストを尽くしたと感じますが、公式ホームページ以上の内容ではなかったのが感想です。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?