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東京で住まいを失った人への支援:今後何が必要か。そして何が問題か。

東京都では年末年始に住まいがないネットカフェ生活者等への緊急宿泊事業(ビジネスホテル提供)を実施していた。当初1月19日までの事業だったが、緊急事態宣言を受けて、2月7日までその期間を延長している。

支援情報についてはこちらを参照ください。→コロナ禍で住まいを失う人が相談できる窓口紹介(東京)随時更新中


この間東京都は1000室のビジネスホテルを確保しており、住居喪失者は概ね2週間程度ビジネスホテルに滞在することができる(期限が切れたら再び申請可能)。こうした緊急宿泊事業は大変ありがたいが、十分活用されているかというとやはり課題がある。
1月4日時点での利用者は235人だった(都知事会見後の質疑にて、担当部局の回答)。
年末年始に相談会や炊き出しを行った支援団体の話を聞くに、実際に支援を必要としている人数とはおそらく大きく乖離があると考えられる。
今後ますます困窮者が増加していくことが予想される中で、どういった課題があるのかを考えてみたい。

広報の課題

一つには、広報の課題がある。
せっかく1000室のホテルを用意しても、その情報が届かなければ意味がない。
元々ある程度の収入がなければネットカフェでの生活を続けることはできないため、いわゆるネットカフェ生活者は基本的に日雇い派遣なども含め、継続的に仕事をしていた人たちである。
しかし、昨今の雇用情勢から、収入が途絶え、ネットカフェでの生活が立ち行かなくなった人も数多くいるものと思われる。

現政権では殊更自助を強調していたが、言われるまでもなく多くの人は困っても自分でなんとかしようとしているのが現状だろう。ある支援団体に相談に来た方は、携帯はすでに止まってしまっているが、wi-fiが入るところではまず職探しをしているため、自分がホテル提供などの支援を受けられるとは知らなかった、と言っていたという。この話は非常に象徴的であり、こういった方が実際のところ多いのではないか。

まずは政府や東京都から、支援の情報を積極的に発信していただきたいところだ。せっかく1000室も確保しているのだから・・・。


さらに、悩ましい問題として、緊急的な事業だから仕方ない、という面もないわけではないが行政施策の硬直性ともいうべき:簡単に言えば縦割りによって生じる課題がある。順に説明する。

元来の制度の対象層とのギャップ

今回、ビジネスホテル提供の主な窓口となっているのはTOKYOチャレンジネットという支援窓口だ。
元々ネットカフェ生活者を対象としたもので、3ヶ月の「一時住宅」に住みながら転宅費用を貯蓄し、アパートでの自立を目指すという枠組みだ。それゆえ、基本的にはある程度の収入がある人を想定しているため、食事提供や現金給付は無い。これは、雇用情勢がよければある程度機能すると思われる。

今回(と、昨年の緊急事態宣言時)の緊急宿泊事業は、この既存の枠組みに上乗せするような形で運用されている。つまり、ビジネスホテル→一時住宅(延長してMAX4ヶ月)で貯金する→アパート自立、という構想だ。

上述のように、ある程度の収入があればこれでも機能するはずだ。しかし、コロナ禍の雇用情勢悪化により、収入が途絶え、ネットカフェ生活を継続することも難しくなったという層が一定程度、あるいは結構な人数がいるのではないかと推察される。

そういった層に対しては、今回の枠組みはうまく機能しない。一時住宅に移行して住所設定できれば貸付等を利用できるとはいえ、手持ちが尽きてネットカフェにいられなくなった、という場合にはフィットしにくいと考えられる。しかし残念ながらそうした層の人がどれだけいるかということを考える根拠となりそうなデータは今のところない。

生活保護への抵抗感

手持ちの現金や貯蓄が非常に少ない場合には、現状では生活保護はほとんど唯一の選択肢だが、支援現場の話を聞くに多くの人が生活保護への抵抗感が極めて強い。ある支援者は「忌避感」という言葉まで使っている。それほどまでに生活保護への抵抗感が強いことを肌で感じておられるのだと思う。

先の緊急宿泊の広報も大事だが、政府や東京都から、生活保護の利用を促す強いメッセージが必要だ。年末に厚生労働省がHPで生活保護申請は国民の権利であるということを明記した。これは画期的なことだったが、もっともっと発信していただきたい。また、小池都知事は会見でチャレンジネットやウィメンズプラザへの相談を、と呼び掛けた。同じかそれ以上の熱意で生活保護の利用についても発信していただきたいところだ。

また、呼びかけと共に申請のハードルを下げることも必要だ。例えば、生活保護申請に伴う家族への連絡「扶養紹介」が心理的には大きなハードルになっているが、これは実際に家族による扶養につながったケースも著しく少ないことから、効果の面からも疑問がある。これについては、稲葉剛さんがweb署名を行っているのでぜひ賛同していただきたい。

困窮者を生活保護制度から遠ざける不要で有害な扶養照会をやめてください!

しかしながら、生活保護への抵抗感が軽減すればそれでOKというわけでもない。住居のない状態から生活保護を利用した際に、その後安定した住居を得るということにも大きなハードルがある。まずは先にのべた緊急宿泊事業について、続いて一般論としてその問題点をあげたい。

緊急宿泊事業における制度的な誤謬

前述のビジネスホテルに関しては、チャレンジネットと一部の自立相談支援機関から利用することができるが、生活保護の場合は利用できない。これとは別に都協定ホテルという宿泊可能なホテルが区市に紹介されているが、数に限りがあること、また活用している区市が一部であることから、どの自治体からでも利用できるわけではない。

住居が無い状態から生活保護を利用する場合、無料低額宿泊所を斡旋されるケースが依然として多い。無料低額宿泊所は、もちろん善良なる施設もあるが、劣悪な環境だったり相部屋の施設もある。新規の利用に関しては原則個室というルールがあるが、どこまで守られているかはわからない。昨年4月時点での個室の空き状況は100ちょっとであり、十分な量かというと微妙である。

やはり生活保護利用であっても、前述のビジネスホテルを利用できるようにすべきだろう。緊急宿泊事業のビジネスホテルを生活保護では利用できないというのは縦割り構造によって生じるもので、なんら合理性はないと思われる。上述のビジネスホテルのようなところ(つまり感染防止上も安全な個室)で一定期間過ごしながら、支援団体の助けも借りながら住まいを確保できた方がスムーズであると思われる(本来は居住支援法人などがちゃんと機能すれば一番良いと思うが)。

逆に、ビジネルホテルから「一時住宅」に入ったものの、就職先が見つからず手持ちも尽き生活保護を利用するとなる場合も想定できる(こういうケースは一定数想定できる)。その場合、一度そこから出て生活保護を申請、無料低額宿泊所に、という可能性がある。それを避けて円滑に居宅に移行するのは、民間支援団体の基金を利用するなどの工夫がないと、自力では難しいかもしれない。

本来アパート転宅の初期費用は生活保護で賄えるのだが、上述のビジネスホテル利用者が生活保護に切り替える場合には、制度間の接続の悪さから、現状では一度不安定な居住状態を経ないといけないということになりかねない。そして繰り返しになるが、生活保護を利用したからと言ってちゃんとした住まいを得られるとは限らない。

こう言った制度の複雑さー支援者でも混乱するーを克服し、支援の全体像をわかりやすく設計する必要があり、そのためには既存の構造を維持するだけでは対応できない部分がある。

居宅の確保

最後にやはり依然として居宅の確保は課題としてある。

ちゃんとした住まいを得るにはちゃんとした住まいがないと難しい、という鶏が先か卵が先かというような現状があり、路上や施設から居宅(個室のアパート)を得るにはハードルがある。

普通に引っ越す際の家探し自体、結構労力がいるものだが、
生活保護利用者を大家が避ける場合もあり、さらに難しい。

そしてこれは生活保護の話ではないが、前述の「一時住宅」は昨年緊急事態宣言時に都庁職員が奔走し400戸の増強に成功した。これは大変に苦労があったと推察する。しかし、一部局の職員の頑張りに依存するようなスケールの話では本来ないのではないか。奔走した職員には敬意をひょうしたいが、もしもさらに倍の数必要となった時に、同じやり方で通用するとは思えず、サステナブルなやり方ではないだろう。これは一担当課でどうにかなる話ではない。

元々日本は「公的な住まいの補助」が歴史的に脆弱であり、ヨーロッパ先進国の半分くらいの水準だ。多くを占めるのが生活保護の住宅扶助で6000億円。住居確保給付金は昨年大幅に利用が増加したが、住宅扶助の10分の1以下だ。

中長期的には、もう少しハードルの低い公的家賃補助が必要だと考えられる。しかし、今後ますます厳しい状況となることが予想される中では、緊急的な住居確保の措置が必要だろう。
例えば、災害時の応急借上住宅(いわゆる見なし仮設、見なし公営住宅というものだ)を適用するなどして、行政主導により無料または低廉な家賃で利用できる社会住宅を大量に確保できる体制をつくるということも必要になってくるのではないか。何も公営住宅をガンガン建設せよ、という話ではなく、今ある賃貸住宅を利用するということだ。これは都知事の権限で可能である。その際、民間支援団体との連携や既存の社会資源も活用しながら、各制度間の接続を整える必要があるが。

これらの要望は、1月6日に14の支援団体とともに東京都や各会派に提言をした。各会派には現場の声を届けるなど、状況の改善が図られるよう、継続的に取り組んでいこうと思っている。
何より重要なのは、こうした状況をしっかりと見つめ、こぼれ落ちる人がいないかを注視することだ。今回の要望には書いていないが、一体どれだけどのように困った人がいて、支援はちゃんと届いたか、支援を受けてどうなったか、ということを明らかにしていくことが重要である。
こうした情報は情報開示請求なども用いながら分析して行きたいと思うが、既存の情報だけでは限界がある。あらゆる対策には実態把握が必要不可欠であるが、日本ではそう言った部分にコストをかけるのを避ける傾向にあるように思う。きちんと実態を見るということは都市や国の姿勢としても必要であり、それなしに問題の解決は無いということも、強調しておきたい。


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