西瓜

「私に食べられたがっているスイカが毎晩夢に現れるんですけど、出てくるたびに直径がぜんぜん違うんです」
「現実にスイカをお食べになりましたか」
「割るところまではいくんですけど、食べようとすると折り紙になります」
「それも夢のなかの話なのではないですか」
「スイカを食べたい」

「割るところまではいくんですよ」
「夢のなかで……」
「まあ夢のなかで」
「やっぱりスイカを食べてから目覚めたいですか」
「目覚めなくていいです」
「スイカを食べたら……」
「食べたら寝ます」
「それを続けていくとどこかで飽きませんか」
「スイカに飽きるということはないです」

「スイカは割らないとだめですか」
「ほんとは割りたくないです。食べたいだけですから」
「切ったのが出てくるといいですね」
「割らずに食べたいんですよ。スイカのなかに自分の頭があって、中から食べられるのがいいです」
「そういう夢はみないんですか」
「夢じゃなくて現実がいいです」

「いま夏だからスイカはお店で売ってますよね」
「買うとか嫌なんですよ。スイカなのに」
「貰いたいんですか」
「存在してほしい。存在をスタートしてほしい。どこかのをどうかするとかじゃなくて」
「夢のなかだと……」
「夢だと転がってくるんですよ。どっかから」
「それは嫌なんですか」
「嫌です」

「去年はスイカを食べましたか」
「食べてないです」
「最後に食べたのは……」
「最初に食べた時の話していいですか」
「最初はいつですか」
「わかんないんですけど、すごい直径で」
「大きかったと」
「大きいか小さいかはわからないけどすごい直径で」
「サイズの問題ではあるんですか」

「ちょっとスイカの絵を描いてみてもらえますか、あなたの理想のスイカを」
「絵じゃスイカじゃないです」
「食べられないからですか」
「食べられなくてもスイカはスイカです。だって夢にスイカでてくるけど食べられないんですよ」
「その夢にでてくるスイカの絵を……」
「絵は夢じゃないので」

「夢でスイカを割る時にどんな道具を使いますか」
「あれは道具じゃないです」
「自然物ですか、木切れとか」
「人間が使わないので道具じゃないです」
「あなたが使うんじゃないんですか」
「使わせます。というか、なんかするようになんかするんですよ」
「それを図にできませんか……」

「だいたいこんな感じなんですけど、ほんとはもっとこまかい途中の段階があるんですよ」
「この図のなかにスイカは……」
「スイカ?」
「これはスイカを割るしくみですよね」
「あ、ここにはなんかさせるための手順しか描いてないです」
「スイカはないんですね」
「食べられないですし」 

「スイカを食べられないと幸せじゃない、という感じですか」
「幸せとはあんまり関係ないです。スイカはスイカです」
「でも食べられたら嬉しいですよね」
「そこで気持ちは変わらないでほしい。スイカもなくならないでほしい」 「食べる必要は本当にあるんですか」
「あります。スイカなので」


(文フリ発表『わざわいのあじわい』より)

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