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デスボイスの発声メカニズムに関する一考-感覚論との統合を目指して-

洞察を得たので、乱雑に。


0.きっかけ

Twitterでも呟いたのですが、こちらの動画です。

Vocologyで有名なIngo R. Titze氏監修(?)のもと、海外の有名ボイストレーナー(?)のチャンネルで行われた試みです。
Titzeと言えばストロートレーニングもといSOVTの起源ですね。
医師でクラシック系のボーカルでもある彼ならではの、深い知見から生まれたものですね(浅い感想)。

要は凄い人のもとでデスボイス(動画ではharsh voiceとしている)の発声動態を観察したよ、という動画です。

英語がわからなくても得られる知見は多いので、おすすめです。



1.デスボイスの発声原理

端的に結論を言えば、声帯のアンバランスさから生まれる周期性が相対的に低い音声パターン、なのかなという所です。

これは聴覚印象上と特別な乖離はないものかと思います。

声帯でどのような振動が実現されているか、というのはいつまでもテーマになることかと思います。
数学も物理もまだ拙い今は発言を控えておきます。
先々、クリーントーンでされている声帯振動の研究を基礎として研究手法を含め理解した先で、何か研究立案が出来ないかなと思っています。

では、上記の発声バランスを実現するために行われる王道な主義は
・仮声帯を用いた呼気発声
・吸気発声

この2つに大別されるかと考えます。

呼気吸気の2つに分けて、私的見解をまとめます。


①呼気

呼気発声でのデスボイスは仮声帯の関与が必須と考えます。

フライだのフォールスコードだのグロウルだの様々ありますが、仮声帯が全てを解決していると予想するわけです。

先述の動画にて、喉頭内視鏡にて呼気でのデスボイス発声時は仮声帯の非対称性が確認されています。
より正確には、一側の仮声帯(動画の彼のパターンでは左側)は過閉鎖となり喉頭蓋(学名的には舌骨下喉頭蓋の辺り?)に接触しています。

11/7追記:
仮声帯との接触部位は楔状結節ではとご指摘いただきました、仰る通りでした(無いしはもう少し大きい範囲として披裂結節。圧倒的感謝です。
また、仮声帯では無く、上喉頭内壁粘膜ではとのご指摘もありました。
断言できる材料は無いながら、動画45:25辺りのDr.Amandaの解説を支持して仮声帯と判断するとしました。検討の余地は圧倒的に残っています。
非常に貴重なご意見・ご指摘、こちらでも感謝申し上げます。

音声学と言語学に圧倒的に強いフォロワー様より(お名前は伏せておきます)

これにより、仮声帯発声とはまた別の発声様式と出来そうな状態が成立しているのでは、と考えます。
動画内の右仮声帯も振動はしているかなと予想されますが、少なくとも声帯振動をベースのモデルと出来そうな仮声帯における周期性の高い振動は実現し得ないでしょう。

ここから推測するに、呼気におけるデスボイスの重要な点は
・声門上部の非対称性および粘膜組織の振動
・上記による非対称性が声帯へ作用することによる声帯振動における非対称性

これらに収束するのかな、と考えたわけです。

さて、ここでひとつ疑問が生じる方がいるかもしれません(本当に?)。

Q.フライスクリームは声帯だけでデスボイスをしているのでは無いか?

この質問をより正確にするのであれば、
他の組織の干渉なしに、所謂ミックスボイスのようにフライスクリームは声帯及びそれに付随する内喉頭筋群で実現し得る振動パターンでは無いか?ですね。

これに対するアンサーは、呼気では不可能ではないか、となったわけです。

呼気で非周期性の高い、要は嗄声なわけですが、
それらを実現される状態っていうのは基本的にポリープなり浮腫なり、声帯における器質的変化に由来すると考えます。

理屈上、左右の声帯の物性なりが変われば何かしら可能なのかなとも予想されますが、恐らくそこまで高度なパターンは排除して話を進めて良いのかなと思っています。

声帯ではなく、仮声帯で非対称性を実現し、物理的に声帯へ作用する結果として声帯振動における非対称性を実現していた。
これがスマート且つ再現性が高そうなひとつの結論になるかなと思います。

そのため、多くの音声健常群における呼気でのデスボイス生成には仮声帯の関与は不可避、と言う結びとなるわけです。

②吸気

他方、吸気発声は声帯のみで基本的に実現し得るデスボイスと考えます。

呼気では声帯の非対称性を実現出来ないと言っているのに矛盾はあるようにも思います。
しかし、吸気発声は呼気とかなり毛色が変わるわけですね。

※大前提として、多くは推測の域を出ない話ですが…

まず、内喉頭の形状による呼気との差異です。
声帯は言わば、「フ」が左右対称についたような形態をしているわけですね。
この下方から呼気は流出されるわけで、声帯の粘膜振動は上向きに跳ねるように色んな科学的な補助を受けながら振動するわけです。
それを逆から吹き込むわけですから、空気力学的な機序が大きく変わることが予想されます。
どちらかというと、綺麗に周期的な運動を実現することが難しくなるかなと予想します。

もう1点、直感的にわかりやすい所ですが、吸気発声って結構難しいです。
より正確には、我々くらい呼気での発声で慣れまくっている人類にとって、無意識的には閉鎖を取り除く吸気相で相反する運動をするわけです。
吸気の詳しいメカニズムを把握できているわけでは無いですが、医療現場で使われるレベルで吸気発声は仮声帯の内転を軽減することが示唆されています。

色々申しましたが、要は吸気発声はそもそも声帯の周期性が高い状態を作ることが相対的に難しく、仮声帯の関与を受けないながらも声帯の非対称性が実現されうる要素は多く考えられる、という見解です。

すなわち、吸気発声のみが純然たる声帯のみのデスボイスを実現し得るのではないか、という所です。


2.幾つかの発声導入手技

デスボイスの発声導入において、本当に色々な手技があるかと思います。
思い当たる範囲で、基本的には呼気を中心に考察をしていきたい所存です。

①咳き込み

発声原理を考えると、なんだかんだ生理学的にも一番理には適ってそうな気がする手法です。

咳き込み・咳嗽は本来的には咽頭・喉頭の異物を気管外へ排出することを目的とする防御的な反応です。
誤嚥防止弁として、我々は一般的に喉頭蓋・仮声帯・声帯三層構造をしており、その中で取り分け声帯が音声コミュニケーションのツールとして発達していった、のような背景だったと思います。

基本的に、内喉頭へ接触した瞬間に咳嗽反射というむせ込みが起こるメカニズムでして、まぁ随意的にも出来るわけですね。
その際、三層弁の下の呼気圧を高めて一気に放出することで異物を呼気で出そうとするわけです。
それにあたって、多かれ少なかれいきみ・怒責が生じるわけですね。

ご存じの通り、いきむ際には声帯等が閉鎖して、呼気流入をストップして胸郭の可動域を制限するような状況が出来るわけです、呼吸関連は浅いので深くは突っ込めませんが。

それにあたって、結果的に仮声帯の閉鎖方向への運動は実現できるわけで、そこからデスボイスへ行こう!という主義です。

出来る人はこれだけで一瞬で出来ます。

他方、出来ない人は以下の問題点が考えられます。
・呼気圧が低い
・咳嗽に際して声帯等の開大が早い=咳嗽が浅い
・ちゃんと閉鎖したままやって結果的に仮声帯発声止まり(二重音声)

大体この辺な気はします、多分。

②ボーカルフライからの派生

親の名前より見た手法です。

エッジからそのまま上手くいけばデスボイス!というタイプの導入ですね。
理屈はよくわかるのですが、そこから声帯の非対称性を実現する過程で仮声帯の関与が必須にはなるのかなと予想します。

その運動を誘発するための感覚論として、「ボーカルフライを力んで!」になるのかなと。
内喉頭の緊張が高まることで上手いこと仮声帯が当たってくれれば、それはデスボイスの発見には繋がれると思います。

咳嗽に比し、呼気圧迫など声帯への負荷が相対的に低いため安全な手技に思えますが、仮声帯が上手いこといかないと永遠にデスボイスに会えない手技だなぁとも思います。

③溜息

よく使っていた手技のひとつです、わかりやすいので。

随意咳嗽と違って、呼気流量の力を頼って一瞬当たる仮声帯に対してデスボイスになってくれと祈るような手技です。

これも咳嗽の手技と同じ困難さを抱えますが、弛緩方向に誘導している音声パターンであるため仮声帯が当たれば割と出来上がりやすい肌感はあります。
まぁ仮声帯発声が上手いと普通に緩い二重音声になるだけです。

この手の発声は、そもそもの仮声帯発声が上手くない・安定感が無い=仮声帯閉鎖の非対称性を偶発的に狙う手技かなと思うので、結局は人を選ぶかなと。

ここで導入出来ますと、あとは溜息ベースから音声パターンを変えつつ実現できたノイズを安定させるだけという筋道は作りやすいですね。



3.感覚論との統合

呼気のデスボイスは時に「脱力」を語られ、時に「力み」が重要視されます。
この背景に関して、パッと思いついたことを述べます。

上記の2つに関して
・脱力=仮声帯より上の内喉頭の組織および声帯閉鎖
・力み=仮声帯および声帯

を対象とした形容表現として混在するのかな、と考えます。

当たり前に、声帯の過閉鎖は避けたいわけなのです。
声帯の過閉鎖は呼気圧迫による声帯炎リスクを増加させますから、要は喉痛めちゃうということ。
また、当たり前に、仮声帯は閉じないと始まらないわけなのです。
デスボイスは呼気である以上、仮声帯による非対称性が無くして実現されない音声パターンなのですから。

なんともややこしい、然るべき筋肉だけ使えというのは簡単ですが落とし込むのは非常に難しいわけですね。


4.簡単にデスボイスやりたいそこのアナタへ

そんなアナタは大人しく吸気発声が板!というワケですな。
動画は大学時代のコピバンで曲を通して吸ってるやつです。
初っ端から息継ぎなしで20秒くらい音出してるフレーズありますね。

確か4曲くらいやった3曲目か4曲目で、かなりフレーズは忙しい楽曲なので、普通にカラオケで楽しむぶんにはこんな苦しそうにはならないでしょう。
慣れればクリーントーンとの切り替えもそこそこ出来ますよ。

と言いますのも、相対的に再現性の高いものは吸気発声かな、と思うワケだからです。
用途・表現などにもよるでしょうが、絶対に呼気で無いといけないパターンはそう少ないと思います。


5.まとめ

いつも通り、勢いで初めて尻すぼみになりました。
本当は研究課題の検討も書きたかったですが、気が乗ったら続きで書きます。

ひとまず、結論としましては
・呼気は仮声帯必須
・声帯のみのデスボイスは吸気のみ

というところでございます。

そこそこ理に適っているのではと思うので、深堀して院試の時に提出する方向へ何か繋げたいです。

目指すは確固たる理論の構築、というよりエビデンスの構築であって、何もかもは過程にある未熟なもので、言ってしまえばacceptしたとて絶対的なものでは無いわけです。
道はそこそこ険しそうで、まぁまぁ長いです、30代で何か通過点を超えたいです。

忌憚のないご意見をお待ちしています。

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