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デスボイスの聞き方

デスボイスに聞き方も何もあるかという話ですが、発声技術の習得にあたっては大いにあります。

別に好きなアーティストを聞いている分には何もいらないです、声カッケ~で良いですよね。
ただ、その音声を再現するにあたっては分析が不可避なわけです。

さて、分析というと波形を見るのかいとか筋電図でも刺すのかい、あるいはEGGなり声門の開閉を追うのかい等々…やり方自体は大なり小なり色々あります。
今回進めていくのは、ざっくりとした主観的な聴覚的分析の一助となれば、という程度のものです。

今すぐに歌いたい我々という目線では、即時に暫定的な回答を設けることはそこそこに優先されるでしょうから。


0.留意事項

今回お伝えする内容に関して、再現性は正直なんとも言えないです。

一応、などと逃げるような前置きは出来ない程度にボイストレーナーをしましたし、現職の言語聴覚士で音声障害のリハビリもしている身です。
色々なことに取り組む中で、本当に重要だなという一つのスキルがあるわけです。

耳の良さ、の一言に尽きます。

より正確には、音声を聞いて目標点とのギャップを逆算し、知識ベースで何を施すことで到達可能となり得るかをする必要があるわけです、音声のトレーニングもとい大抵の事物は。

AとBが違うのは自明の理でも、その二者間における要素をより細かく分解して捉えられるかが重要なわけですね。

まずはその大前提を、大まかに言語化してみますかという試みです。
そのため、読んだところで何かが上手くなるわけでは無い点をご留意ください。

1.手法

相も変わらず大げさに始めていますが、話は非常にシンプルです。

・声の高さ(ピッチ感)
・声の厚さ(倍音構成)
・エッジの重さ(粘膜振動の周期)

大体は上記の3点で完結しがちです。
これ以外の要素による聴覚印象上の変化は多くございますが、内喉頭で起きていることと共鳴腔全体で起きていることは切り離して考えます。

①声の高さ

そのままです。
高いなぁ低いなぁ、です。

デスボイスにおいて「音程がよくわからない」という意見はあるかもしれませんが、個人的には基本周波数…では無いかもしれませんが、周期上の一番強調される帯域があったりして暫定的なピッチは見つかるかな、と思ってます。

ここで重要なのは、結局は大体どこか、という点です。
極端な話、地声か裏声か直感的にわかれば良いんです、分析する上では。

ベースの声帯周囲の運動を予想する要素でしか無いので、例えば「う~ん、これA4(hiA)!」みたいな精度はいらないです。
余談ですが、音程で発声バランスを一元的に語れないですからね、出る人は地声でも裏声でも同じ音域は出るじゃないですか。

広すぎる音声というマップの中から、地域を絞るくらいのイメージです。

②声の厚さ

ただ、上記では気にするなと言いながら、声帯側の運動も推定する必要はあります。

全部つながって考えられればそうでも無いのですが、ごちゃごちゃして分からないうちは別で捉えるべきというだけです。

この順番になっているのは意図があります(多分)。
個人的にこの順で考えている、というだけですが…
ピッチで大まかな地域を絞って、その中で起こり得る運動のバランスを推定しているって感じです。

例えば、凄い高い声だった場合の甲状披裂筋なり声帯筋なり言われる厚み出す系と言われる筋肉ですが、バチバチに働いていると予想するでしょうか?
また、その場合に声帯に伸展をかける輪状甲状筋なりの働きはだとか、声門閉鎖にかかる披裂間筋だとか…と、話を展開できると考えます。

端的に申せば、この①と②はベースの音声パターンを見極めよう、というだけです。

どちらが発展と言えるかは難しいですが、基本的にデスボイスはクリーントーンの応用と捉えられるでしょう。
基礎が出来ないと~というより、イメージ出来ない運動パターンを実現することのハードルの高さはエグい、というニュアンスです。

③エッジの重さ

やっとデスボイスって感じのテーマですね、エッジの感じです。

個人的には細かい・荒いor軽い・重いと表現しがちです。
厳密にいくなら、恐らく振動周期の程度で示される点かと思いますが、その中身はブラックボックスなのでよくわからないです。
研究はありそうな気もしますが、怠惰なので調べられていません。

デスボイスにおける美的感性において、一般的には仮声帯の振動周期が高い状態=トゥバのカルグラ的な二重音声は忌避される傾向にあると思います。
デスボイスはその特性上、カルグラほど喉頭の共鳴腔が安定していないというのもあり振動する箇所の増加による二重音声は起こりにくいと考えますが、それでもなおカルグラ的な音声へ傾倒している場合を重いor荒いと表現しがちです。

逆に、軽さへ接近する要素は何でどうするととなると、よくはわかりません。
ベースが裏声らしくなると体感統計上は良い感じになると思うので、おそらくは内喉頭の緊張度が相対的に低い寄りになるものかと思いますが、はたしてどうなんだか。

重さに関しては、カルグラへゴールしようとすると仮声帯の安定的な振動の実現=仮声帯の閉鎖、引いては声門上部の構造における安定感を目指すかなと考えますのと、甲状披裂筋と仮声帯との連続性を支持する文献をソースとして声帯への緊張が高まる=地声感が強まり声門閉鎖は強化されると推測すれば、結果的にデスボイスたる要件から遠ざかるかな、という雑な結論です。

2.適用デモ

ここまでの執筆で結構なカロリーなので、簡易的に取り組みます。

Imperial Circus Dead Decadenceです、退廃的だ。
個人的には懐古厨なので同人時代の2ndが一番好きです。

閑話休題、幾つかのフレーズをピックアップして考えましょう。

a.0:00~0:19

冒頭です。
①ハイピッチですね、高いな~。で良いです。
②ホイッスルがベースっぽく、後ろのローピッチは厚さがある。
③めちゃくちゃ細かいですね、仮声帯の関与は除外しがちです。

こうなると、吸気発声を疑います。
呼気でこれをやるのは、物理的には可能だと思いますが、現実的では無いなぁと個人的には思うわけです。

別の人の音源と比べるなどするわけですね。こちらのハイピッチは、①は同じですが②はやや重たさがあるも厚みはなく③は相対的に荒いと判断します。これなら呼気発声かなぁ、という見方です。


b.0:42~0:52

ベースの分析は先述の①~③と変わらないので割愛します。
ここで注目したいのは子音です。

aの段階で吸気発声では?というバイアスを持って聞くわけですが、
大多数の部分はヴォイヴォイしていて高次倍音でようわからんわけですが、
「私の問いは当たり前」の部分の/t/と、「最後の望みは何が欲しい」の/h/の二点です。

要は破裂音がかなり曖昧で摩擦音はしっかり発音されている、という点ですね。

吸気をやってみればわかりますが、破裂音を吸気でやるのは結構しんどいんですよ、呼気圧でやってる音声なので。
出来なくは無いですが、空気の流れと恐らく口腔内での構音模様がin-outで変わったり音響的変化もありそうだなというところですが、なかなかに弱くなります。

他方、摩擦音はどこか擦れてれば出やすいので呼気-吸気での差異が生じにくいというわけですね。

c.結論

この楽曲内では吸気発声を使用している、という結論を自分の中では下せるわけです。

中には吸気発声を親の仇のように見る人もいますが、宗教上の差異みたいなものだと思うので、拘りは好き好きで良いと思います。
結局、ここで大事なのは自分でどういうゴールを設定していくか、でありますので。
加えて言えば、個人で取り組む上では想像の範疇を超える代物はやりようが無いので、これで呼気だった場合にはもう素直に人に教わります、そういうことです。

好きな曲をパッと持ってきましたが、普通に問題としては悪問で悲しかったです、吸気とか変化球過ぎる。

ただ、ここがわからないで、自分の知っている中で取り組むことの恐ろしさに気付いてもらえれば良いかなと思います。
何事もそうですね、自戒も含めて。

3.終わりに

ちゃんと聞いてみるかと初めて取り組んだが故に少し予想外でしたが、流れは掴んで貰えたかなと思います。

蓋を開ければやっていることはシンプルです。
ただ、恐らく着眼点が圧倒的に不足している、というのが大多数の方だと予想します。

そこのショートカットがボイトレ教室などです、音声なら。
習熟している誰かを頼って解決するならそれが一番です。

今回示したものも網羅的では無いですし、常々申しておりますようにエビデンスは無い肌感での個人的なものです。
意外と、やり方がわかったら出来る人もいるものではありますので、何かの一助になれば良いなと思います。


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