悠久地下鉄道

 ここでの移動手段のひとつとして鉄道が挙げられる。悠久地下鉄道である。
それは…おそらく?鉄道である。
私は「家」から拠点まで行く際、この地下鉄を使うことがある。(「家」に関しては別の機会に書くとする。)

特に案内表示があるわけではないが、それらしい地下へと続く階段があればそれが駅の入口だ。下まで降りると、それらしいホームへのゲートと、チケットの発行機が置いてある。駅員はいない。無人駅だ。

ホームには「壁」がある。実はこれがホームドアだ。ガラス張りではない壁という他ない壁だ。したがってその先にある筈の線路がどうなっているのか、到着した車両がどんな形をしているのかを確認できない。車両が到着すると壁から入口が開き、そこから車両に乗り込むことになる。

実は車両とホームの間に多少の隙間があり、乗り込む時に僅かではあるが下を覗けるのだが、なにか青白いものがうっすらと光っているのを確認できるだけで、実際のところ何がどうなっているのかはわからない。

だが、そういったことは大した問題ではない。厄介なのはチケットの発行だ。この地下鉄に路線図は無い。時刻表も無いし、料金表も無い。

簡単に言えば発行機に行先までの駅名を申告してボタンを押し、チケットが発行されたらゲートを通過し、ホームで車両の到着を待つという手順なのだが、何が問題かと言うと、行先の名前を知っていなければならないという点だ。

私の場合、「拠点」は私自身が設定した場所なので「拠点」という申告で問題ない。これで最寄りの駅まで行ける。別の「拠点」なる場所があればそれはそれで発行機側が「理解」してくれるのでその辺は融通が利く。

だが、まだ行った事のない場所に行く場合は正確な名称や具体的なイメージがないと正しいチケットが発行できない。間違ったチケットが発行される。そのまま車両に乗るとその間違った場所で降りることになる。
間違っている場合、大抵その場所は不安定で、地上に出たとたんに自分の位置がわからなくなり駅へ戻ることも困難な状況に陥る可能性が高い。
そうならない為には正確な情報の入手が重要なのだが、その難しさはここに来たことがある人なら理解できるだろう。
したがって、この地下鉄を使って自由に移動するためには、相当な努力が必要だ。

それとは別のこともある。
私はちょっとした好奇心で「地獄」行きのチケットを発行したことがあった。

何の問題もなくそれは発行された。

ゲートを通過しホームで待っていると、程なくして車両が到着したのだがドアが開き車両に入ると全ての座席に「何かの存在」が座っていた。それが何かは認識出来ないのだが存在感だけがはっきりとしている。何かわからないがそれは確実に居た。普段、拠点までの移動でこんなことはない。ごく稀に私と同じような放浪者に出会うことがあるくらいだ。

「これはいけない」そう感じてすぐにホームに戻った。ドアが閉まり、壁の向こうで車両が発車したのを確認して、胸をなでおろしたのだった。あのまま地獄行きの列車に乗っていたら、どうなっていたのだろうか。

放浪者に出会ったと書いたが、その中にはこんな人物がいた。
私が拠点までの時間をぼけっと座って過ごしていると隣りの車両からその人物が現れ、挨拶して暫く会話をしたのだが、ざっとこんな内容であった。

その人物はもう随分と長い間、この地下鉄に乗ったまま移動を続けているのだという。生活はどうしているのかと尋ねると、チケットを発行する際、それらを賄える特別車両を手配したのだそうだ。チケットでそんなこともできるのかと驚いている間に私は目的地の駅に着いてしまい、その人物がどこへ何の目的で移動しているのか聞きそびれてしまった。

悠久地下鉄道に関する謎はまだいろいろあるのだが今日はこの辺りにしておこう。

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