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MetamaskってInternet Expolorerみたいじゃないですか?

こんにちは。リサーチャーのweb三郎です。

私はマニアというほどではないですがブラウザをコロコロと乗り換えるタイプでして、スマホには常時3個のブラウザをインストールして使い分けています。メインのPCではChromeを使っていましたが、スマホのメインブラウザがChromeではなかったのでChromeにこだわる必要はないのではないかと思い、つい最近、Edgeに乗り換えました。

Windowsを介してあの手この手でEdgeを利用させようとするMicrosoftのやり口は一部から強く非難されていますが、AI機能が充実してるのはもちろんのこと、Chromeとほとんど操作感は変わらないどころかChromeよりもよい部分も多く、さらに拡張機能もChromeで使っていたものがそのまま使えるので、思っていたよりも快適で驚いています。

ところで、こうしてブラウザをあれこれ使い分けているうちに気づいたことがあります。「ブラウザとウォレットって似てないか?」と。

Webにおけるブラウザとweb3におけるウォレット

「ユビキタス社会」が死語になるほどにインターネットが普及した現代社会において、人とデバイスとインターネットとをつなぐブラウザは、生活にもビジネスにも必要不可欠なソフトウェアです。

Web黎明期ならいざ知らず、現代のブラウザはきわめて多種多様な役割を果たしていますが、ここではあえて単純化してその役割を定義すれば、Webにとってのブラウザの役割とは「人間に優しい方法で、サーバーの持つ情報を取得・表示し、また必要に応じてサーバーへ指示すること」です。

ではweb3のウォレットはどうでしょうか。web3とは、あるプロトコルに従う世界中に分散したノードが構成するネットワークです。その意味では一般的なWebもweb3もあまり変わらないと言えますが、重要なのは「あるプロトコル」という部分です。

プロトコルとは要するに通信する上での決め事という意味ですが、web3の場合、通信を成功させるために「複数のノードが賛成しなければならない」とか「ノードに報酬として電子通貨を払わなければならない」とか「すべての命令はウォレット(EOA)から送信されなければならない」といった色々な決め事があります。

この決め事にがんじがらめな世界で人間がいちいちあれこれ操作していてはキリがありません。WebにもHTTPプロトコルやTCPプロトコルといった様々な決め事があり、これをいちいち人間に考えさせていたらキリがないのでブラウザというソフトウェアが生まれてきたわけです。web3においてもこの面倒な部分を代行するべくウォレットというインターフェイスが作られました。

つまりブラウザもウォレットも、Webかブロックチェーンか、という違いこそあれ、その世界の最も重要な決め事に従うための諸々の作業を人間に代わって行うソフトウェアであるという点で似た存在であるということです。

さて、ブラウザとウォレットが似ているという前提が説明できたところで、いくつか本稿の結論を先取りしておきます。

私は「MetamaskはいつかInternet Explorerのように他のウォレットに抜かされ置き換わるだろう」と予想しています。この予想に説得力をもたせるため、もう少しブラウザの話にお付き合いいただければ幸いです。

ブラウザシェアの推移

では、次はブラウザ業界の動向に目を向けてみましょう。

上の動画は1996年から2023年にかけてのブラウザシェアの推移を示しています。

インターネット黎明期はFirefoxの前身ブラウザであるNetscape Navigatorが市場を支配してました。しかし、1998年には社会現象にもなったWindows 98がリリースされたこともあり、WindowsOS標準搭載ブラウザのInternet Explorerが過半のシェアを獲得するに至ります。その後もNetscape Navigatorを突き放して、2000代前半まで9割近くのシェアを独占します。

2006年頃よりMozilla Foundationが開発するMozilla FirefoxがInternet Explorerからシェアを奪い始め、2009年には3割のシェアを獲得するに至ります。Firefoxはポップアップブロッカーやタブブラウジング、ブラウザ拡張機能などの現代のブラウザにも見られるモダンな機能をいち早く実装しており、Internet Explorerの開発の遅延なども相まって、新世代ブラウザとして人気を博しました。

しかしFirefoxの快進撃は続かず、2010年以降はInternet ExplorerとともにGoogleが開発するChromeからシェアを奪われる構図になります。現在に至ってはChromeが7割近くのシェアを獲得し、Firefoxは数%のシェアにまで落ち込んでいます。

トレンドが目まぐるしく変わるWeb業界に「盤石」はありません。ブラウザ市場はまさにこれを象徴する市場であるといえるでしょう。

孤立したFirefox

ここで注目したいのはChromeの支配的なシェアではなく「Firefoxとそれ以外」という対立の構図です。

https://gs.statcounter.com/browser-market-share#monthly-202301-202401-bar

上図は最新のブラウザシェアを示しているのですが、この並びのなかでSafariとFirefoxだけが他と根本的に異なるブラウザであり、逆に他のブラウザは概ね同じようなブラウザである、という見方が可能です。このことを理解するためにはChromiumというキーワードをおさえておく必要があります。

Chromiumとは主にGoogleが開発・メンテしているオープンソースのブラウザコードベースです。コードベースというとわかりにくいですが、要するにはブラウザを開発する上で利用される雛形みたいなものだと理解してもよいでしょう。

名前こそ違えど、現代のブラウザの大半はChromiumをベースにして開発されています。上図のなかでも、現時点でChromiumベースではないブラウザはSafari、Firefoxだけです。SafariはAppleのエコシステムと密接に紐づいているため扱いが難しいのですが、Appleを除いたWindowsやAndroidといったOSに限れば、現代のブラウザ市場はChromiumの独占状態にあるといえ、FirefoxだけがChromiumに依存しないブラウザとして数%ながらもシェアを保っている状況にあるのです。 

Chromiumの躍進

Chromiumが伸びた理由は色々ありますが、一つにはそれがゼロベースで開発されていたことが重要であったと考えられます。Chromiumが登場した時期はスマートフォンが普及し始めた時期や、web2.0=常時接続の時代の始まりとも被っています。

このようなオンライン環境の劇的な変化に対してレガシーコードに対処しなければならない既存のブラウザは適応するのに時間を要しました。他方、Chrome(とChromium)はモバイルとweb2.0の世界を見据えてゼロベースで開発されていたため、環境の変化へなめらかに適応することができました。

またChromeのコードベースをChromiumとしてオープンソース化するという決定は、Internet Explorerというクローズドに開発されるブラウザへのアンチテーゼとしてインパクトがありましたし、同じくオープンソースで開発されていたFirefoxを贔屓にする開発者やユーザーへのアピールとしても効果的でした。

Metamask≒Internet Expolorer?

話をウォレット業界に移しましょう。

web3版ブラウザともいえるウォレットとして最も有名なのはMetamaskです。2023年のCoinGeckoによる集計では、Metamaskが2位のCoinbaseにダブルスコアをつけています。

https://www.coingecko.com/research/publications/most-popular-crypto-hot-wallets

ウォレットの利用状況に関するデータは限られており、この集計もweb、iOS、Safari、MacOS、Linux、Windowsのデータが含まれていませんから数字を額面通りには受け取れません。しかし、開発者向けドキュメントから初学者向けの記事に至るまで、ウォレットの代表例としてMetamaskが挙げられる場面は多いですし、実際、「ウォレットといえばMetamask」というイメージはweb3業界で広く浸透していると思います。

Metamaskはweb3の黎明期より存在しており、良い意味でも悪い意味でもInternet Explorerに近い存在といえます。使い方に関するナレッジは他のどのウォレットよりも広く共有されていますが、UI/UXはそれほどユーザーフレンドリーではなく「他人任せ」な設計に感じられます。

しかも、MetamaskはあくまでもEVM互換チェーンのためのウォレットであるため、BitcoinやSolanaといったEVMと互換性のないチェーンでは利用できません。やや強引ですが、Internet Explorerもごく僅かな時期を除いてWindows以外のプラットフォームをサポートしていませんでしたから、そういう点でも似てるといえるのではないでしょうか。

Metamaskはモダンなウォレットに喰われるのか?

Internet ExpolorerはよりモダンなブラウザであるFirefoxやChromiumにシェアを奪われていましたが、Metamaskも同じく後発のモダンなウォレットに喰われるという顛末をたどるのでしょうか。

ウォレットにおける「モダン」とは何でしょうか。今まさにそれを定義すべく各ウォレット事業者がしのぎを削っている状況ですが、主観的にいくつかポイントを挙げてみましょう。

  • Cross Platform:Android/iOS/Windows/MacOS/ブラウザ拡張といった様々なプラットフォームのサポート

  • Multichain:非EVM互換チェーンのサポート

  • Exchange:ウォレット内でのトークンスワップのサポート

  • Onramp/Offramp:ウォレット内でのフィアット取引(カード払いやCEX連携)

  • Security:疑わしい取引の自動検知・アラートや、アプリ内Revork

  • Plugin:任意の拡張機能のサポート

  • Account Abstraction:Ethereumの推進するウォレットの再定義を含むプロトコルアップデートプランへの対応。

  • Social Recovery:秘密鍵紛失時のリカバリーメソッドの多様化

  • DID:分散型IDの統合(+ウォレットKYC, SNS)

  • MPC:マルチシグに代わる秘密鍵の分散管理

  • DeFi Portfolio:DeFiをサポートするポートフォリオトラッカー

これらすべての機能を備えるウォレットは管見の限り、現時点では存在していないようですが、しかし、Rabby WalletやRainbow、Phantom Wallet、Argent、Safeなど部分的にこれらの機能を備えるウォレットもチラホラ出てきています。

最近のMetamaskもアプリ内でトークンをクレカで購入したり、別のトークンとスワップしたり、プラグインを追加すればセキュリティアラートを表示することもできるなど、着実にモダンな機能を取り入れています。この点においてはブラウザ戦争とは状況が異なるといえるでしょう。

また、Metamaskはローンチ当初からオープンソース開発されており、現在は部分的にライセンス制限を課しているものの、その点でも完全にクローズドに開発されていたInternet Expolorerとは異なります。

オープンソース開発の現場を支えるweb3エンジニアの間でMetamaskが業界標準であるという認識を根本から揺さぶるような出来事がない限り、Metamaskはオープンな開発精神のもとでモダンな機能を取り入れ進化していくでしょう。

Chromiumを彷彿とさせるウォレット?

とはいえブラウザ業界においてはモダンであったはずのFirefoxがたったの数年でChromiumに喰われる事例もあったわけです。

Chromiumは先ほど説明した通り、モバイルの波とWeb2.0の波に乗った時代の寵児であり、Firefoxはレガシーコードに足を引っ張られChromiumに先越されてしまったのです。

私は技術者ではないのでMetamaskがFirefoxと同じく致命的なレガシーコードを抱えているのかどうかの判断はつきませんが、いちユーザーとして「なぜイマドキこんなこともできないのだ」と思う瞬間は少なくないです。仮にMetamaskが肥大化したレガシーコードに足を引っ張られているのだとすれば、今後、何かしらの大きな変化に追いつけなくなる可能性も十分にあるでしょう。

そして、ブラウザ業界の歴史になぞらえれば、そのような「大きな変化」にいち早く対応するのは既存のウォレットではなく、ゼロから開発された全く新たなウォレットであるかもしれません。

先ほど掲載したウォレットの利用者数ランキングでいうと、Solana対応ウォレットとして人気を博すPhantom Walletは比較的リリースから日が浅いです。日が浅いといっても2021年には既にローンチしていますから、もう既に中堅どころになりつつあるような気もしますが、直近ではSolanaチェーンの人気が加熱していることや、Bitcoin Ordinals/BRC-20トークンのサポートを開始したことなどもあり、これまでで最も多くのアクティブユーザー数となっているようです。

これが一時的なものであるかどうかはわかりませんが、web3上の大きな変化としてEthereumやEVM互換チェーン以外が大躍進するという未来があるのならば、EVM互換チェーンへの対応にフォーカスするMetamaskは厳しい戦いを強いられるでしょうし、逆に非EVM互換チェーンでユーザーベースを拡大しつつあるウォレットが次世代のウォレット戦争を率いていく可能性も想像に難くありません。

また、EVM互換チェーン向けウォレットでもMetamaskの乗り越えを狙うウォレットは少なくありませんから、仮に今のEVM互換チェーンがweb3業界をリードする状況が続くとしてもMetamaskの地位は常に脅かされていると考えるべきでしょう。

まとめ

ウォレットとブラウザの比較から、ブラウザシェアの変遷、Metamaskの現状とその未来について個人的な見解を述べてきました。

この見解はあくまでもブラウザとウォレットには似ているという仮説から出発しているため、「技術的にもビジネス的にもウォレットとブラウザは全然違うものである」という観点に立てば、あまり意味のない議論であったかもしれません。

それでもWeb業界がそうであるようにweb3業界もトレンドのサイクルは速く、1年後には全く違うプレイヤーがトップに躍り出ていた、なんてことも日常茶飯事です。加えてウォレットはweb3のユーザーにとって、ブラウザに匹敵する「インターフェイス」です。そのインターフェイスに求められる要件は、トレンドの巡りとともに急速に変化していきます。ですから、ブラウザと同じような変遷になるかはさておき、Metamaskが不動の地位にあるという見方は支持できません。むしろMetamaskは絶えず下からのチャレンジを受け続けていると考えるべきでしょう。

ちなみに私は最近になってウォレットをMetamaskからRabby Walletに切り替えましたが非常に満足しています。皆さんも惰性で使い続けてるMetamaskから少し離れてお気に入りのウォレット探しをしてみてはいかがでしょうか。

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