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コロナ禍なのに過去最高売上を達成した美容室の話

世の中はコロナウィルスにより集客が厳しくなり、軒並み売上が落ちている中、「過去最高売上」を達成した美容室の話をする。


この美容室は、もう10年近く経営されている。

その10年近い年月の中で、今が過去最高の売上とは驚いたものだ。

それは偶然ではなく、これまで技術力を売りにしてきたオーナーさんが、本腰入れて「経営」を学び始めた結果である。


本noteではこの夢物語を生み出した数々の取り組みのうち、「顧客分析」と「ターゲット選定」を中心に話を進める。美容室での話だが、もちろんどの業界にも応用できるので、頭の中で自社に置き換えながらお読みいただきたい。


本記事の完読目安:9~12分



数々の取り組みと顧客分析

この美容室がコロナ禍に過去最高売上を達成するまでに、ハガキの郵送、ポスティング代行の利用、公式LINEの開設、HPリニューアル、専売品販売の推進中止、さらには店舗リニューアルなど、様々な取り組みを行ってきた。

そんな中でも今回メインテーマとして掲げる「顧客分析」と「ターゲット選定」についてオーナーさんはこう語る。

数々の取り組みの中でも特に苦渋の決断だった。しかし最も効果的だった。



これまでのオーナーさんの活動

今回劇的な変化を遂げたこちらの美容室は、逆に言えば「これまでは正しい経営ができていなかった」ということである。

それでも10年近く潰れること無く経営できたというだけでも十分凄い事だ。

参考までに美容室の廃業率は、新しくできたサロン全体の50~60%は1年以内、3年以内には90%が、10年以内には95%が廃業すると言われている。


私はこの美容室のオーナーさんとは6年のお付き合いになる。
もちろん美容室でのカット技術においては素晴らしい腕をお持ちなので、単に経営を改善しただけで上手く行ったわけではないと明言しておく。

出会った当初は、「経営について殆ど理解が無いな」と感じた。これは悪口ではなく本人にも正面から伝えている笑い話だ。

今わざわざこんな話を書いたのは、多くの経営者がそのレベルだと感じるからだ。上記した様々な取り組みや、これからの話を読んで理解出来ない点があれば危険信号を感じた方が良い。


殆どの場合、私としては「その取り組みには何の意味があるのか」と思うことでも、実行している本人は至ってまじめである。なにも適当に経営するつもりはない。

しかし素人が行う経営は本当に悪手が多く、言ってしまえば無駄な努力が多い。(素人という言葉が適切かどうかは分からないが、「積極的に勉強をしていない人」を指す)

私が一番驚いたのは、「予約が入っていない時に自分で作ったチラシを自分でポスティングしていた」という話だ。

凄くお店のことを考えて「頑張っている」というのは分かるが、とても好手とは言えない。

好手ではないにしても、ご自身で多くの取り組みをされており、その努力する姿が私は凄く好きだ。


余談だが、正直私は大抵の美容師は好きではない。その理由はシンプルで、カットが上手くないからだ。なんなら下手な人もいる。

しかしこの美容室のオーナーさんは本当に上手いので、ある時その理由を聞いてみた。その回答が凄く納得し、関心したのでついでに紹介しておきたい。

流行りの髪型は時代によって違う。美容師の20代は大抵、良い髪型をイメージする力は優れているが、技術力が追い付いていない。ベテランは、技術力は優れているものの新しいイメージを取り入れない。だから顧客の望むヘアスタイルにすることが難しい。
(余談:30代40代はそのバランスが絶妙だと言う。)

それ加え、新しい髪型の登場によって新しいカット技術もどんどん生まれている世の中だから、常に勉強が必要である。それを踏まえた上で、勉強会にいくなど常に停滞しないように心がけているそうだ。

この「日々の勉強」が重要だということについては、美容師に限らずどの業種でも言えることだろう。


話を戻そう。

この美容室では、「年代問わず安心できるアットホームな雰囲気」を売りにしている。(重要)

店舗の雰囲気だけではなく、オーナーさんの雰囲気にも落ち着きがあり、また緩い雰囲気もあり、非常に話しやすい。

さらに「忙しいママさんの味方」を掲げ、キッズルームを完備し、「キッズルーム内にセット面を設置し、子供の隣で施術を受けられる」などの優しい取り組みを行っていた。

もちろん100%の善意ではなく、「低価格な子供料金で近隣の子供客を獲得し、同時に奥様まで巻き取る」という狙いがある。

狙いが何にせよ、そこに見え透いた嫌らしさはなく、本当にアットホームな空間を実現していたと感じる。


さてそんな優しいオーナーさんが経営に向き合い、手始めに顧客分析を始めるとどうなるのか。



初めての顧客分析

驚くことに、この美容室のオーナーさんはこれまで顧客分析をした事が無かった。

しかし何のために使うかは理解していないものの、新規顧客が来店した際にはヒアリングシートを用意し、しっかりと顧客管理をしていた。そういうものだと思っていたのだろう。

恐らくこういった店舗(企業)は多いのではないだろうか。使い道のない顧客情報、眠っていないだろうか?


オーナーさんはカット技術に自信があり、僭越ながら私からの評価も最高。そして「年代問わず安心できるアットホームな雰囲気」を目指し親子で来店できるお店作りをしてきた。つもりだった・・・

幸いにも一定のリピート顧客がおり、また一定の新規顧客の来店があったため、お店を続けられるだけの利益はでていた。だから、現状に違和感を感じながらも触れずにいた問題。


オーナーさんは経営に向き合うと決めて、初めて顧客分析することを決意した。

すると驚くべき事実いくつも出てきた。

・子供と奥様はセットで施術しないし、子供のカットに奥様は付き添わない

・「カット単体利用」でのリピート率が低い

・逆にカット+カラー/カット+パーマでのリピート率は高い

・カラー(白髪染め)のユーザー(40,50代)が特に多い


これは予想とは大きく違う。

この予想に反する事実に、オーナーさんはうすうす気づいていた。

自分の想定通りでない現実への違和感から、これまで逃げていた「経営」に向き合う気になったそうだ。


恐ろしいことにこの分析によって、やってることと実際の結果が違うという事実を目の当たりにする。

この「やってることと実際の結果の違い」はボンヤリとした違和感でしかなかったが、顧客分析によってその違和感が確信に変わった。



お客様が感じるベネフィットは予想外のモノだった

このように、単なる「来店数」と「購入されたメニュー」の分析だけでも面白い結果が見れたが、さらにオーナーさんは顧客に事後アンケートを行った。

「当店をお選びいただいた理由は何ですか?」

当然返ってくる答えは、「カットが上手い」「年代問わず安心できるアットホームな雰囲気がいい」と予想していた。


しかしその結果はまた、予想外のモノとなった。

・緑が多くて落ち着ける

・おしゃれして行くサロンのイメージとは違い、普段着で来店できるアットホームな感じが良い

あれ?カット技術は?

あれ?思っていたアットホームと違う・・

ここにもまた、先ほど感じていた違和感の答え合わせがあった。


実に恐ろしい話だ。

自信を持って売っていたものが、実はそれほど重要視されていなかったのだから。(勿論このアンケートはカット技術が高いという前提で答えられたものかもしれないが、結果として表れなかったという事実は受け止めなければならない。)

このような買い手と売り手のすれ違いは、この美容室に限った話ではない。どこにでもよくある話だ。むしろ普通である。

何故なら営業マンも販売員も受付も事務員も管理職も、その誰も「顧客分析」が自分の仕事だと思っていないから。自分が誰に対して商売をしていて、その打ち手は本当に好手かそれとも悪手かなんて考えない。

「今までそれで利益が出て来たから。」「そうやってきたから。」「他社もそうだから。」「上司がそう教えてくれたから。」「先輩がそう言ってたから。」多くの人が仕事に取り組む姿勢なんてそんなものだと思う。



あなたはどのタイミングで見直すか

先ほど私は、他の企業同様に、この美容室のオーナーさんも同じような考え方だったと書いた。

幸いにも一定のリピート顧客がおり、また一定の新規顧客の来店があったため、お店を続けられるだけの利益はでていた。だから、現状に違和感を感じながらも触れずにいた問題。

なぜこのような事が起きるのか?

様々な理由が上げられるが、簡単なポイントとしては先ほど2つあげた。

「自分がその領域(分析)の担当だと思っていない」ということと、「現状がそれで成り立っている」ということ。

それは仕方がない事なのだろうか?


もう少し踏み込んで考えてみよう。

殆どの仕事が「顧客単価×顧客数」で成り立っている。

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※この図は②であれば正解というわけでもない。

ダイソーなどは④の戦略であり、プライベートサロンなどは①の戦略である。

一概にどれが良いとは言えないが、狙っているポジションと結果にズレがある事は問題だ。

この美容室では②を狙っていたにも関わらず、顧客数の獲得に躍起になりすぎた結果④の立ち位置になってしまっていた。

このように様々な視点から自分の現状を見つめ直すことで、問題が少しずつ明確になってくる。


一度自社のポジションを見直してみてはいかがだろうか。その業界のポジションや、近しい競合のポジションも分析してみると良い。

その業界大手のポジションとズレていたら危険信号だ。それを狙ってやっているのなら問題ないが。


一見すると③低単価×集客(小)が最も危険なように感じるが、私は④低単価×集客(多)が最も危険だと考えている。

それは、③はもうすでに結構手詰まりであるため、何かを改善する必要があることが明確だからだ。これから危機感を持って取り組めばいいだろう。

それに引き換え④は、なまじ集客が多い分、危険信号を感じにくい。

この状態は、「忙しいのに売り上げか低い」「時間がないから改善どころか問題点の洗い出しもできない」といった状況を引き起こす。ずるずると寿命を削っていく。動くほどに嵌っていく底なし沼のような世界だ。

恐らくそんな世界ではスタッフの満足度は非常に低いだろう。ろくな給料を支給することができず、ろくな休みを提供することもできない。やりがいを武器に奴隷化するしかない。

そんな悪循環を断ち切るのも、経営改革がもたらすメリットのひとつである。



原因を考える

では、なぜ②高単価×集客(多)を目指していたのに④低単価×集客(多)になったのか。

勝手にそうなることはない。良かれと思ってやっていたいくつかの施策が、自然と低単価に向かわせていたのだ。


この美容室では主に2つの施策が悪手となっていた。

1.奥様を巻き取るために子供をフックに利用したこと

2.低単価のカットクーポンで新規顧客を獲得していたこと

(カット通常4,980円だが、子供は1,980円だった。また新規利用でのカットは2,980円だった。)

この前向きな取り組みが悪手として働いたのだ。

(勿論上記と同様の取り組みが好手として働く場合もあるため、取り組み自体に問題があるわけではない。この美容室には合わない手段だったということ。例えば、あえて②ではなく④を目指すという指針を立てることで上記2つを好手に変える方法もある。1000円カットのチェーン店などがその例だ。)


この前向きな取り組みが悪手として働いた理由は、先ほどの顧客分析から分かる。

・子供と保護者はセット施術しない

・「カット単体利用」でのリピート率が低い

無意識に悪手を打っていたことが分かるだろうか。


もう少し噛み砕いて理解してみよう。

1.(親目線で)子供は特別低価格だから近所の美容室(今回の場合は本店)に通わせるが、奥様自身は行きつけのお店へ行くため同時施術にならない。

この問題は、奥様の巻き取り失敗に留まらず、さらに2つのデメリットを生み出している。

①子供の施術中は他のお客様の予約を取れない(しかも子供は低単価)

②言い方は悪いが、マナー的な意味で客層が良いとは言えない。また、小さい子供は施術に危険が伴う。(じっとしていられない子が多い)

この2つのデメリットを打ち消すほどの巻き取り収益が期待できれば理想だったが、この美容室では上手くいかなかった。


2.リピート率が低い「カット単体利用」のお客様が来店する仕組みを作っていた。

またこの事実は顧客分析だけでなく、事後アンケートからも伺える。(来店目的のうちカットの重要性は高く見積もられていないということ)


たったこれだけで、この美容室にとっての好手が何か分かっただろう。



ターゲット選定を行う

ここでようやくターゲット選定を行う。

これはしっかり理解しておく必要があるが、最初もターゲット選定を行っていなかった訳ではない。

子供と奥様層+新規でのカット来店層をターゲット選定していた。

つまり、ターゲット選定を行っていなかったのではなく、ターゲット選定に失敗していたのだ。


これから取るべき打ち手は、このようになる。

①子供の来店誘導を減らす。
②新規カットの誘導を減らす。
③新規カット+カラー/カット+パーマの誘導を増やす。
④カラー(白髪染め)のユーザー(40,50代)を対象に宣伝する。


たったこれだけの分析で、正しく経営の舵を切る事が決まった。

その結果、低単価から脱出し、高単価×高リピートを実現した


その取り組みを続けた結果、コロナ禍にも関わらず10年近い経営の中で最高売上を達成することができた。

(もちろん前もって十分に伝えた通り、ただターゲットを変えただけではなく、多くの取り組みを適切に行ってきた結果だ。)



原因を考える②

さて最後に、もう一つ残った疑問を解決しよう。

顧客への事後アンケートでのズレが発生した原因は何か考える。


まずこちら。

緑が多くて落ち着ける

こちらは本当に予想外の回答だったとオーナーさんは話していた。

しかしよく考えてみればその回答結果に至る理由が見えてくる。

オーナーさんは「自分自身が管理できる範囲で仕事をしたい」という思いがあり、複数店舗経営や代理経営を望んでいない。

その結果、「自身で接客できるだけの席数を用意する」という結果に繋がり、その席数のゆとりから店内の装飾に拘ることができた事が、緑の設置に繋がった。


次にこちら。

おしゃれして行くサロンのイメージとは違い、普段着で来店できるアットホームな感じが良い

こちらは、アットホームという点では共通しているのだが、想像していたアットホームとは違った。

しかしやはりオーナーさんの人柄もあり、「アットホームな雰囲気を目指す取り組み」自体が、違う形で成果を上げたのだ。


これらの結果を俯瞰してみれば、さらに今後のすべてが繋がってくる。

新規層と子供層を減らすことは客層の安定に繋がる。また、その客層の安定が、顧客が望むアットホームな環境を生み出すという好循環。


緑に関してはただむやみに増やせば良いというわけではないが、コロナ禍という現状もあり、店舗でのしっかりした換気対策と緑の設置が相まって、より一層清潔で落ち着くイメージを与える効果を出したのだろう。

毎月公式ラインにて今月のお知らせ+換気対策について配信していたことを知っているので、その努力が実を結んだのだと考えると私も嬉しく思う。



まとめ

今回は実店舗の成功例を交えて話を進めたが、実はこの話はまだまだ序章にすぎない

これから更に多くの取り組みをしていく内の、始まりの一手と言える。

しかしこの僅かな取り組みが好手となり良い結果を生み、過去最高売上となったことはオーナーさんの明らかな自信となり、モチベーションとなっている。


「これからが更に楽しみですね」という話をしながら、オーナーさんは楽しそうに目標を語ってくれた。

自分だけではなく、「社員全員に幸せになって欲しい」と。

福利厚生は勿論、給料の引き上げも行い、しっかりと休みを確保できる環境を作る。その上できちんと学べる環境を用意する事が目標だと語られた。

その一部はもうすでに叶えられている。



余談

オーナーさんとは、ここには書ききれない程沢山の話をしたが、二人が共通して一番盛り上がった話がある。

それは、「正しい経営って気持ち良い」ということだ。


殆どの経営者は頑張っている。

しかし正しく頑張れている経営者は多くない。

暗中模索。その不安との戦い・苦しみもまた一つの「経営」だと感じる。

しかし一人で悩まずにこのように話をすることで見えてくる打ち手があることを、皆様には知っていただきたい。



最後に

多くの競合と比較される現代では、サービスの差別化だけでは戦う事が難しくなっています。

自社または製品の魅力を最大限伝える事ができるように、様々な視点から物事を捉える事が重要です。弊社は、これらを総じて「デザイン経営」と捉え、一緒に考えたいと思っています。

現在、「ブランドマネージャーの能力を個人・ベンチャー企業に取り入れる」ためのサービスをご用意しておりますので、先行に不安を感じている方はご一読ください。



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