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読書感想:しあわせの理由:人の心がテーマの SF短篇集

グレッグ・イーガンの短篇 9篇が収録された、日本版オリジナルの短篇集。
どの話も面白かったです。特にこの本のタイトルにもなっている「しあわせの理由」には惹き込まれることぐいぐい!

SF という括りですが、機械機械、電子電子した世界というより、どれも人の心をメインのテーマにした話と感じました。

カッラカラのカッサカサじゃなくて、ちょっとしっとりしてる。
話によって差はあるけど全体的にちょっとウェットで、それが場合によっては気持ち悪く、少し怖い。

以下、収録順に少し感想を記します。
ネタバレはありません。

適切な愛

私達は他者を何でどう認識するか?
顔?体?匂い?動作?話し方?話す事柄?考え方?
見た目?脳?心?

猫そっくりの見た目で、触った感触もそっくり、鳴き声や動きも猫そのもののロボットが居たら、きっと猫を愛するようにそのロボットを愛するでしょう。
ドラえもんも猫型ロボットだけど、見た目も動きも猫とは程遠いので猫のようには愛せない。

相手がヒトならどうか?

文中の『いまこの子は生きていなかったと思う。』が印象的。
え!?この子って言った?

闇の中へ

人が生きていくのには何が必要か?

『引きかえしなどしたら、他人がいかに理解してくれようとも、わたしが自分に耐えられないだろう。』
『自分が糞であることは否定しようがないが、それでもわたしはこの仕事がやれるし、成果をあげられる。重要なのはそのことだ。』

別の短編集に収録されている「無限の暗殺者」を思い出します。

愛撫

『自分は特別だ。自分は美しい。それ以上の説明は不要なのだ。』
『わたしを定義づけていたなにもかもが奪われていた。』

1,000人の聴衆を前にしてさすがに緊張していつもの自分じゃなかったってことあるけど、その時の自分は自分じゃないの?
本当の自分とは?
自分が何であるかを決めるものは何なのか?

この話、こんな展開になるとは!予想外の展開にドキドキ!
「愛撫」というタイトルですが、お子様にも安心な内容です。

道徳的ウイルス学者

コメディだこりゃ!

『そうなる理由がウイルスだなんて、まちがってる。』

良いこと言った!
宗教への皮肉? いや、盲信や宗教を悪用することへの批判か。

移相夢

夢と現実の違いはどこにあるのか?それをどう判断、認識できるのか?
今、私が感じているこれは日常なのか、もしかすると死の瞬間なのかも…?何でそれを区別できるというのか?

チェルノブイリの聖母

探偵ものとしても面白かったです。
作者の宗教に対する見方が出てる気がする。

話の筋とは別にこの文章が気に入りました。

『理解をはばむ障壁という障壁を突き抜けているようだった。それはバベルの塔崩壊以前の文書を読むようでもあり、テレパシーのようでもあり、音楽のようでもあった。』

そういうものを自分も作ってみたいものだなぁ。

ボーダー・ガード

なぜこれがこんなタイトルになるんだろう?と思っていたが、そういうことだったのか!

『死についての手のこんだ噓』

死があるから生が輝いて見える、そういうものだと思っていたけど…?

血をわけた姉妹

運命、迷信、人の手によって決められる運命、自分の意思で選ぶ運命。

しあわせの理由

心、人間らしさとは。
人造人間、ロボット、機械、それが人の脳と同じ機能を持つとしたら、人間と何が異なるだろう?

『ぼくをもっとも困難の少ない道に導くのは四千人のドナーのうちのだれか、という問題に還元されるなら、ぼくは自分の人生を生きているといえるのだろうか?』

他人と自分を区別するものはなにか?
自分が自分であるとはどういうことか?

これは傑作!とっっっても面白い!






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