見出し画像

長期での成功を見据えた技術ドリブンでの起業。ロボットで人間の存在拡張を目指す「TELEXISTENCE」

DEEPCOREの出資先であるTELEXISTENCE(テレイグジスタンス)は、「すべての惑星上のすべての人々に、ロボット革命の恩恵を授ける」をミッションに掲げ、AIを活用した遠隔操作ロボットの開発に取り組んでいます。代表の富岡仁さんにディープテック企業における事業選定の考え方や、本日発表した資金調達についてインタビューしました。

<プロフィール>
Telexistence株式会社 代表取締役
富岡 仁(Jin Tomioka)
スタンフォード大学経営大学院修士卒。2004年三菱商事入社、海外電力資産の買収などに従事。東京大学舘名誉教授のテレイグジスタンス技術に魅了され、2017年1月にテレイグジスタンス株式会社を起業。2018年5月量産型プロトタイプ開発に成功。2021年に遠隔操作・人工知能ロボットTX SCARAのコンビニへの実装を実現する。ロボットの活躍の場を工場の外に広げ、小売/物流業界における単純労働作業をロボットですべて代替し、社会の基本的なあり方を変革することを目指す。

ディープテックやハードウェアスタートアップは、登る山を途中で変えられない

——まず、テレイグジスタンスの事業概要を教えてください

富岡:私たちは東京大学名誉教授で当社の会長である舘暲博士によって最初に提唱された技術システムである「TELEXISTENCE」によって、人間の存在を拡張することを目指した遠隔操作・人工知能ロボットの開発と、それらを使用した事業を展開しています。ロボットというと工場で使われているものをイメージする方が多いと思うのですが、我々は工場以外の場所でのロボット活用を推進していて、コンビニやスーパーなど小売業向けの商品陳列ロボットを提供しています。

——創業した2017年から、今の事業に取り組むまでどのような経緯があったのでしょうか?

富岡:使う技術は決まっていたものの、それを何に使うかが決まっていない「技術ドリブン」でスタートした会社だったので、まずは対象とするマーケット決めに時間をかけました。

特にディープテックやハードウェアに取り組む場合、「どの山に登るか」を決めることが重要です。ソフトウェアサービスと比べて事業成果が出るまでに時間もお金もかかりますし、途中で下山して登る山を変えることは、会社の体力的にほぼできないと考えたほうがいいでしょう。

なので、まず1年目はどこのマーケットに取り組むとインパクトがあるのかを探りました。私たちは産業用ロボットが工場の中を自動化しているのに対して、工場の外にある反復的な単純作業を自動化していきたいと考えています。そのために、X/Y軸だけではなくZ軸も含め、空間で物体を持ったり置いたりつまんだりという動作が繰り返し行われるロボットに特化しているんです。

リサーチをしながら、BtoBの観点で100社ほどと約7ヶ月かけて面談もしました。その過程で中国へ視察に行ったのですが、現地では無人コンビニがとても発展していました。それを見て、商品の陳列にロボットが活用できたら面白いんじゃないかと思ったんです。

——小売に決めたとき、どんな世界を想像したのですか?

富岡:小売が無人化されていく絵が想像できました。毎日必要な単純労働がロボットに置き換えられて、それこそ5.5万店舗以上あるコンビニや2万店舗以上あるスーパーに導入されたらすごくワクワクします。もともと生活の中にロボットが溶け込んでいる世界を実現したいと思ってこの会社をやっていますから。

もちろん小売以外にも選択肢はありましたし、どれにも良し悪しあるのですが、心からやりたいと思えるもので、未来に向かって取り組みたかったんです。

——その後、事業化はスムーズに進みましたか?

富岡:最終的には直感で「小売」という山に登ると決めたのですが、登り方は無限にあります。そこは合理的に検討していきました。まずはじめにローソンと契約が決まり、人型のロボットを使って飲料とお弁当の陳列を全部やろうとしました。

そのときはいちばん合理的な山の登り方だと思っていたのですが、精度が悪いとかスピードが遅いとか、求める水準に至らないことがわかりました。そこで、飲料とお弁当の陳列を分けて考え、どう設計したら水準を満たせるのか、専門に特化した場合でもエコノミクスが合うのかなどを検討し直す必要がありました。

すべての資金計画を当初の人型ロボットで組んでいたので、かなり苦労しましたね。でもそこからは凄まじい速さで切り替えていきました。

その後、飲料補充AIロボット「TX SCARA」がファミリーマートの300店舗に導入されることも決まって、実績ができたことで大手企業にもより導入を検討いただきやすくなっています。

230億円の調達を終え、次のステージへ

——DEEPCOREとの出会いについて教えてください

富岡:DEEPCOREにはシリーズA1で2019年頃に出資いただきました。代表の仁木さんとはもう長い付き合いになります。

最初は担当キャピタリストが会社に来て面談をしてくれました。一般的なキャピタリストであれば、事業計画などを質問してくるのがセオリーですが、DEEPCOREのキャピタリストは違いました。ロボットの実物もなければ、ビジネスも始まっていない状態だったので、そこに合理的な答えは出せません。だとしても、そこに構想がないといけないし、技術の価値の片鱗を見せないといけないと説いてくれたのです。それについて約20分のディスカッションを経て、「やりましょう」のひと言をもらいました。

その後、仁木さんとの面談が設定されました。会社の説明をする約30分間、無表情でひと言もリアクションがなかったのでさすがに「終わったな」と思ったのですが(笑)、最後にひとこと「やりましょう」と言っていただきました。

シードから入ってもらっている投資家以外で、初めてシリーズA1で決まった調達だったので、とても勇気をもらえました。DEEPCOREのいいなと思う点は、あまり細かく管理しようとせず、こちらから「こういうことできますか?」とリクエストを出すと必ず力になってくれるなど、ほどよい距離感でコミュニケーションが取れることです。

——富岡さんは商社勤めから独立されて今に至ります。DEEPCOREとのやり取りや会社経営を通じて、起業家として大切にしていることはありますか?

富岡:技術ドリブンであることを前提として話します。

まず1つ目は時間軸です。スタートアップは早ければ早いほど良いと思いがちなのですが、それは失敗する確率が高いのではと考えています。例えば2年でやると想定した場合、他の人も同じように考える可能性が高くなるんですよね。なぜなら、2年でやれてしまうことは大抵、不確実性が低いからなのです。

私たちは事業領域を決めたときに、7〜8年かけないと最初の結果が出ないものをやると決めていました。例えば日本の大企業で7年後でないと結果が出ない事業を提案しても、GOが出ないですよね。あとは、ディープテックやハードウェアの観点でいうとテスラは製品を出すまで9年、スペースXも最初のロケットを打ち上げるまで7年かかっています。このように最初は誰も成功しないだろうと思うことをやろうとすると、競合がほとんどいない事業環境になります。

不確実性が高く、すぐに結果がでない状況で、それでも製品を世の中に出せたとすれば、獲れるマーケットが大きくなり、グロースしていくと考えています。もちろんファイナンスが重要になってきます。

2つ目は仕事の密度です。スタートアップが少ないリソースを使って誰もやったことがないことを成功させるには、リソースを集中させて密度を上げるしかありません。能力、資金など色んな要素がありますが、平たくいうと一点集中させないと密度が高まりません。密度が上がらないと、どんなに構想が良くても実現しないと思います。

最後には、やり続けられるかどうかです。そのために、やり続けたいと思うことを見つけることが重要になります。幼少期の体験が起因することもあるでしょうし、この技術にワクワクしたからやりたいとかコンプレックスがあって世の中をこう変えたいとか、強烈なエネルギーの湧きどころがないと途中で心が折れてしまうでしょう。

——本日、総額約230億円の資金調達を発表されました。この調達でTELEXISTENCEのステージはどう変わっていくのでしょうか?

富岡:国内の小売向け事業は思いっきりアクセルを踏んでグロースさせていきます。海外は、アメリカと台湾に進出したいと考えています。台湾の事業環境は日本と似ているところがありますし、私自身のルーツも台湾にあるんです。

今回新規投資家としてソフトバンクグループに参画いただいたのですが、投資に加えて、同社の子会社であるSoftbank Roboticsと北米およびその他地域でのロボティクス事業推進を目的とした戦略的事業提携に合意しました。

同じく新規投資家のFoxconnとは、TXの次期モデル「GHOST」の生産技術の確立および量産における連携を進めます。

数十台レベルの小規模なロボットの研究開発・実証実験のステージから、数百台の自社ロボットを工場外の動的環境下に展開し、商業ベースで大規模かつ日常的に運用するフェーズに突入しました。

今後は、既存事業のロボットオペレーションを最速で拡大することに加え、全てのロボット関係者の目標である、人間レベルの汎用性を持つロボットの開発を推進します。そのためには組織強化が最も重要なカギであり、多様な専門性を持つ地球上で最優秀な人材を探し求め、組織の能力密度を一層高めることが必須となります。国籍や年齢、在籍期間にかかわらず実力があれば活躍の機会は無数にあるのがTelexistence組織の特長です。その実、今のチームには25カ国からメンバーが集っています。私たちのミッションに賛同する世界中のプロフェッショナルの参画をお待ちしています。

▼採用情報
https://tx-inc.com/ja/career-jp/

■会社概要
会社名:Telexistence株式会社(TELEXISTENCE Inc.)
設立日:2017年1月
事業内容:テレエグジスタンス技術を活用した遠隔操作ロボットの製造販売、サービスの提供
代表取締役:富岡 仁
所在地:東京都中央区晴海4-7-4Cross Dock Harumi 1階
コーポレートサイト:https://tx-inc.com/


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?