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【実験結果①パスの分析】『Decomposing the Immeasurable Sport: A deep learning expected possession value framework for soccer』【リーガ・エスパニョーラ】

MIT Sloan Sports Conference2019で発表された 『Decomposing the Immeasurable Sport: A deep learning expected possession value framework for soccer』という論文の実験結果を紹介するシリーズ第1弾はパスの分析(4.Value: The missing key to pass analysis)です。

1. パスの成功確率とEPVの増分との関係

横軸を成功したパスの成功確率、縦軸をボールを受けたあとのEPV(パスの成功確率)の増分としたときの散布図となっています。また、それぞれの点の色と大きさは、パスが出された瞬間のEPVの増分を示しています。

この図から分かるのは、試合中のほとんどのパスは成功確率が高く、そしてEPVを向上させないものであるということです。ヤット風に言うと、遊びのパスが多くを占めているという仮説を立証しています。一方、EPVを高めるパス(大きな黄色の円)は失敗しやすい傾向にあると言えます。
※図の注釈にもあるように、ここでプロットされたパスは全てバルセロナの試合のものであるため、一般的にこのような結果になるとは言い切れない

2. EPVの分布と提案されるパスの選択肢

こちらの図は試合中のある瞬間のEPVの分布を可視化しており、赤い場所ほどその値が高いことを示しています。加えて、赤い矢印が最も報酬のあるパスを、水色の矢印が最も相手にボールを渡すリスクの低いパスを、そして黄緑の矢印がベストなパス(リスクと報酬のバランスが良い)を表しています。

論文中に実験結果の考察がなかったので、ここは私の考察になるのですが、この図が示しているパスの方向は私の経験とほとんど一致していると感じました。しかしながら、右の大外につけるパスは奥も空いているためリスクはさほど高くないものではないかとも考えました。したがって、まだまだモデルの改良の余地が残されていると思います。

3. よりよいパスマップ

既存のパスマップからは、試合中の各選手の平均ポジションと選手間で交換されたパスの本数を確認することができます。それと比べて、本論文のパスマップからは、上記の情報だけでなくシュートで終えるためのポゼッション期待値(EPV)も見てとることができます。ここでは単純化のため、ラキティッチから出るパスの各種情報を可視化しており、各選手の円の大きさはパスを受けた際の余裕(周囲のスペースの大きさ)を表しています。また、それぞれの矢印はEPVの増分の全パスにおける割合を示しています。

この図から分かるのは、ラキティッチがどの選手へEPVを向上させるパスをよく出しているか、受ける選手の余裕です。ピケへのパスは、ボールを下げているものの、EPVを向上させていることが見てとれます。左のインサイドハーフに位置するラキティッチから右のCBのピケへのパスは、攻撃サイドを変えるという意味でもEPVを向上しやすかったと考えられます。

4. ゾーンごとのCBとプレイメーカーのパスの構成

この図で赤いゾーンでボールを持った各選手が各ゾーンへ出すパスが持つEPVの割合を示しています。

まずはZ1から出されたパスを示す一番左の列について。ラモスは相手の1stラインを超えるパスを積極的に出していることと、ピケはZ1に止まるパスが多いものの前進するパスはいずれもポゼッション期待値を向上させるものであったことが分かります。
次にZ2から出されるパスを示す中央の列についても両クラブのCBについて興味深い結果となっています。ピケがラモスの2倍の本数のバックパスを出していることや、ラモスはEPVを下げているものの前進するパスを多用しています。これは選手に依存した結果ではなく、両クラブが受けるプレッシャーの違いが影響していると論文中には記載がありました。
最後にZ3からアタッキングエリアに出されるパスを示す右の列については両クラブのゲームメイカーに大きな違いがありませんでした。しかしながら共通して言えるのはZ2へのバックパスがEPVを高める結果となっていることです。この分析からバックパスは有用である!と言いきることはできないでしょうが、少なくとも彼らのものはゴールで終える期待値を上げることが確認できました。

次回は「実験結果②オフ・ザ・ボールの分析」です。乞うご期待ください。

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