おんぼろRVで砂漠を走る / アーティストマネージャー Mariko Kurose  reasons why we travel

つい先日エストニアでスモークサウナに入る機会があった。何もない森の中をひたすら走って日が暮れたころに着いたのは、森の少し開けたところに佇む古くて愛らしい木造の家だった。エストニア定番の野外の釜付きダイニングキッチン、そしてサウナ小屋。五右衛門風呂からのびるデッキの先には、小さな泉があった。

サウナの番をしているおばあさんと一緒に服を脱いで小屋に入る。おばあさんが「アイトゥマ アイトゥマ」と小声で歌いながら白樺の葉で身体を清めてくれる。じんわりかき始めた汗が、しばらくしてドバッと噴き出る。

泉に飛び込み、サウナに入り、を繰り返す。すっかり暗くなって月が昇りはじめる。五右衛門風呂に浸かりながら、カリフォルニアのピラミッドレイクに秘密の温泉を探しに行った旅を思い出していた。

バーニングマンという祭に参加して出会った、ピンクしか着ない男の子。ピンクのキャミソールにミニスカ、ピンヒールで、マウイ島に暮らすピンクと、イタリア人のミエルコ、ニューヨーカーのうらら、そしてわたしの4人で、その温泉探しの旅は始まった。

ミエルコのおんぼろRVに乗り込み、砂漠の中をガタゴト走る。ピラミッドレイクというとても静かで淡い、鏡のような湖にたどり着いた。朝起きて湖に飛び込んで体を洗い、火を起こして料理をして、また泳いで。淡く美しい湖と空にいつまでも見とれて、気がつくと、数日経っていた。夜、焚き火を囲んでいると、パトロールの警官が声をかけて来た。ひとしきり話をした後、「秘密の温泉を知らないか」、とたずねる。警官はしばらくしらばっくれていたのだけど、わたしたちの諦めの悪さに、ついには道のりを教えてくれた。道のりといってもひたすら荒野なので、「木のあるところを左」、とか、そんな感じ。翌朝、さっそくその道を行ってみることにした。何度か行きつ戻りつしながら、夕方になる前には、辿り着いた。途中、温泉帰りのヒッピーとすれ違わなければ、見つけられずじまいだったかもしれない。

その温泉は、荒野の中に、ポツンとあった。どっちを見渡しても、荒野。誰も居ないし、何もない。空と、荒野と、温泉と、私たちだけだ。

一体どのくらい居ただろうか。4人しか居ない。電波も通じない。スピーカーと食料とお酒はある。それで十分だった。ただ他のどこかに行く理由がなかった。それだけシンプルなことだった。

うららが仕事に戻らなくてはならない日になって、みんなはついにそこを発つことにした。実際には2、3日だっただろうか、1週間だっただろうか。わたしには随分長く感じられた。 

時間は伸び縮みするし、人間の心も大きくなったり小さくなったりする。 地球くらいの大きさになったり、みじんこくらいになったり。一瞬で変わるから不思議。ふとした時に、匂いや色や湿度、言葉では言い表せないさまざまな感触が、いつかの旅の瞬間にワープさせてくれる。そんな時、心はとっても穏やかになる。時を止めて、その瞬間の景色やリアルな肌触りを私に思い出させる。そしてそっと、私の心を広げて去っていくのだ。

【プロフィール】

Kurose Mariko
音楽を求めて世界のフェスを巡り旅をする。現在は音楽業界にて面白いことを企てる人たちと働きながら勉強中。サウナにハマってます。


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わたしたちの旅の理由。
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