うずまきのように / 作家 寺井暁子  reasons why we travel


たくさんの場所に旅をして、旅が仕事になってきた今日この頃。著作を書いたり、エッセイを寄稿したり、あるいはインタビューをしたり、映像の構成を考えたり、撮影に同行したり。作家として活動を始めて数年が経ち、仕事の幅も広がってきたけれど、書くことと同じくらい、旅先で物語を見つけることが大事だなと感じている。

そんな中でも、何度も用事ができてしまう「磁力を持つ場所」というのがあって、わたしにとって瀬戸内はそういう場所のひとつ。気づけばかれこれ8年くらい通っている。

「せっかく合宿免許を取るのなら、海の見える町に行こうかな」
きっかけはせいぜいそんなことだった。

無事に免許が取れた帰り道、「あっちの方に行ってるなら素敵な場所があるから帰りに寄ってみたら」と、東京の知り合いから紹介されたのは温泉だった。

建物の中に入るとまず休憩所でやられてしまった。天井の高い真っ白な部屋に、木のテーブル、壁一面の窓から太陽がさんさんと入ってくる空間はギャラリーのようで、新聞を読みながら休んでいるおじいさんは美しく、走り回る子供達の声も透き通るように響いている。温泉の中は緑がたくさんあって本を持ち込んで読めるようにベンチまで置かれていて、ゆっくりと豊かな時間が流れている。心がいままでにない解け方をした。

番頭さんであり、建築家でもあるというオーナーと会うことができた。お話を聞いていると地域の実にさまざまな取り組みに関わっている。でも、その人はそれを声高に話すことはなく、かわりに素敵な哲学を教えてくれた。

「三角形の面積とおんなじだと思うんですよ。注目されすぎちゃうと、その盛り上がりも短命に終わっちゃうというか。だから僕はゆるやかににやにやとやっていきたいんです」

話の続きが聞きたくて1年後に再訪すると、そのひとは「時間があるならあの島に行ってみたら?」と勧めてくれた。

フェリーで島に降り立つと、どこまでも続く素晴らしい抜け感の浜辺。しばし息を飲んだ。民宿に泊まることにして、どこに出かけるでもなく穏やかな波を眺めていてら、宿のオーナーでもあり、島で食堂やレストランを切り盛りする料理人さんと話が弾んだ。その人は観光にあまり興味を示さない私をドライブに連れて行ってくれた。

「こんな場所にもね。毎日、面白いことがたくさんあるんだよ」

ひっそりとした夜の島で、島の人しか行かないよという浜辺で釣りをしながら、故郷の島で暮らそうと東京から帰ってきた話を聞かせてくれた。

その料理人さんが、「あっちの街にはあなたに合いそうな本屋さんがあるよ」と教えて行くれて、今度は近くの街の本屋さんに行ってみる。選び抜かれた写真集と旅の本。喫茶スペースのカウンターからはやはり、瀬戸内の海が見える。

本屋さんで働いていた女の子が、「あの島の図書館が好きなんです」なんていうものだから次の旅で訪ねてみたら、たまたま図書館に来ていた地元の写真家さんと仲良くなった。サングラスにニット帽。いかつい機材を背負いながら彼は岩場を身軽に超えて波打ち際や人にシャッターを切っていた。

「存在が風景と循環している人たちがいるんです。そういう人たちの写真を撮っています」

うずまきのように旅をしていると思う。

新しい場所、見たことのないものへの好奇心はもちろんあるけれど、気がつくと同じところに何度も通っている。旅先で出会って好きになった人たちにもう一度会いに。繰り返し。

ひとつの場所、ひとりとの出会いを起点に、ぐるぐるぐるぐる。人の縁が渦を巻きながら広がり、深まり、体温のあるものになってゆく。

流れに任せればいいや、という余白の多い旅をしていると、その人の暮らしや仕事のひとこまに含んでもらえるような、内側を見せてもらえるような瞬間というのがあって、「そう、私もそれを大事にしたかった!」というような価値観や、それをぎゅっと凝縮した言葉に出会うことができる。

それはわたしの東京での暮らしをも豊かにする。ふとした瞬間、例えば仕事で何かを決める時、今日のご飯を考える時、少し空いた時間に何をしようかと考える時、豊かな会話の片鱗が蘇って「そうそう、それを大事にしたかった!」と進みたい方向に背中を押してくれたりする。だから私はこっそり、自分の人生に仲間や先輩を見つけて行くのが旅だと思っている。

出会いが連鎖していく様は、ひとつの物語を生きているみたいでもある。たとえば瀬戸内のご縁では、その後、地域の雑誌からお仕事をもらったり、本屋さんで自分の本の刊行イベントをやらせてもらったりと、仕事の広がりも生まれている。

島で知り合った写真家さんとは先日、ルーションというフランスの田舎に取材にいった。

地中海に浮かぶ島々。
風の恵みを受けて育つ果物や野菜たちが並ぶテーブル。
揚がったばかりの魚をさばいたシンプルで新鮮な料理。
そこに暮らす人たちの肩肘張らない生きかた。

作り込まれた観光がないぶん、暮らしの手触りや哲学に触れさせてもらうことができた。

「あれこの光景、瀬戸内のあの島みたいですね」
写真家さんと毎日あっちこっち行きながら、大陸の反対側に日常で見た風景があることに、同じようなことを話すひとたちがいることに、いちいち驚いた。そして自然なことだよね、と笑ったりもした。

うずまきは、どこまで広がっていくだろう。
最近の旅の楽しみは、そんなこと。

photo:shintaro miyawaki

【プロフィール】

寺井暁子(てらい・あきこ)

作家・エッセイスト。留学・旅・仕事を通じて、約100カ国の人と繋がりを持つ。国外・国内の色々な場所を訪ねては、その土地に暮らす人たちの物語を書いている。遠い場所や人が身近な存在となる瞬間と、海辺が好き。主な作品に、かつての仲間たちを探して30カ国を訪ねた「10年後、ともに会いに」(クルミド出版)。あるマサイ族の長老との旅を綴った「草原からの手紙」(クルミド出版)。アフリカの音楽バンドとともにナイル川を旅した物語が英治出版より近日発売予定

著書:「10年後、ともに会いに」 、「草原からの手紙


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