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Allen Toussaint - Life, Love And Faith


鈴木邦男氏が亡くなった。清濁併せ呑むスタイルは、左右両サイドから煙たがられたが、今のような時代にこそ必要な存在だった。そもそも何が善で、何が悪だなんて、そもそも立場を変えれば容易に反転するもの。鈴木氏はただ、そんな物事の本質をわきまえ、自らの過去を総括しながら、純粋なるものに疑いの目を向け続けただけ。三島的なヒロイズムにも堕することなく、静かに生をまっとうした。

そんな鈴木氏が、右だ左だなんて!もう古いんですよ!と訴え出してから30年以上が過ぎようとしているが、両者の溝はただただ深まるばかり。それは僕らの思考力が低下しているのか、はたまたゆとり教育による教養のなさゆえか。僕らが考えなければならないのは、国家とか天下とか、そんな大袈裟なものなのではなく、自分や家族、友人、隣人、あるいは故郷の平和と安全のこと。それらを守るために武器を取らざるを得ない場合は躊躇なくそうするけど、それは間違っても国家のためではない。そこに右も左もない。あるのは愛だけだ。

Allen Toussaintという音楽家もまた、あるときは裏方として、あるときは演者として、ニューオーリンズの芳醇な歴史、文化の魅力を広く世界に発信し続けた、信念の人だった。最後は、賑やかなマドリッドで息をひきとったのもらしくていい。

1960年代には裏方として数々のヒットを飛ばしたAllen Toussaintが、本格的に一人の音楽家として人前で歌い出したのは、1970年代になってから。周囲のすすめもあったというが、周囲の職業ソングライターたちの動向にも触発された部分もあったのかもしれない。

それらの作品は、当時の一般的なリアクションについてはわからないけど、今も多くの音楽好きを唸らせ続けている。もちろん、同時代(1960年代末~1970年代)にリリースされた他のファンク作品に比べれば、テンションも低いし、歌唱だってお世辞にも上手いとは言えない。しかし、優れた楽曲と、緻密なアレンジが施された抑制の効いたファンクネスは、より幅広い層にアピールしたはず。

その最良の作品とされるのは、名盤『Southern Nights』ということになるのかもしれないが、前作である『Life, Love And Faith』も忘れ難い。もはや発明とも言える素晴らしい楽曲群も去ることながら、モデリステ擁するリズム隊の、ノリよりも楽曲中心主義的なアレンジの妙を優先した演奏がたまらない。ニューオーリンズの芳醇な文化と、その洗練化をめざしたAllen Toussaintの創造力が程よくブレンドされた名盤だと思う。このアルバムを手にしたおよそ四半世紀前には、考えもしなかったことだけど。

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