小黒一正(法政大学教授)

法政大学教授/鹿島平和研究所理事/新時代戦略研究所(INES)理事。『財政危機の深層』…

小黒一正(法政大学教授)

法政大学教授/鹿島平和研究所理事/新時代戦略研究所(INES)理事。『財政危機の深層』『財政と民主主義』『薬価の経済学』など著書多数。専門は公共経済学。世代間問題や財政・社会保障を中心に研究。

最近の記事

「ポイント還元、店員らの不正取得疑い6000件弱」に対する雑感

以下の記事では、「2019年10月に始まったキャッシュレス決済のポイント還元制度で、不正にポイントを取得したと疑われる事例が6千件弱見つかったことが27日分かった」ということを取り上げています。 「やはり・・・」というのが筆者の感想です。以下の記事のとおり、「換金性が高い金券や郵便切手は売却益を狙った転売の横行も懸念され、対象から外す」措置などを講じたわけですが、民間の方が上手に思います。 手口は様々なようで、例えば、 ・来店客が現金で支払ったにもかかわらず、店員が現金

    • 2020年度予算の年度内成立が確定

      以下の記事のとおり、先般(2020年2月28日)、2020年度予算案が衆院本会議で可決、衆院を通過しました。 日本国憲法第60条②では、「予算について、参議院で衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院の可決した予算を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて三十日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする」と定めており、2020年度予算案の19年度内の成立が確定しました。 私も

      • 三重野元日銀総裁の証言に対する雑感②

        インフレ率2%の目標を目指しながら、異次元緩和という壮大な実験を行い、その実現に失敗した現在の日本銀行が置かれた状況は極めて深刻なものですが、1980年代後半から90年代前半のバブル生成と崩壊過程も大変でした。その時期に日銀の副総裁、総裁を務めた三重野康氏の口述回顧録をベースに、日経新聞が毎週末の連載で紹介しているものです。第2回は、「公定歩合(政策金利)が当時の戦後最低水準に下がった1987年2月から2年余りの時期の回顧」を中心に取り上げています。 記事では、「1986年

        • 三重野元日銀総裁の証言に対する雑感①

          インフレ率2%の目標を目指しながら、異次元緩和という壮大な実験を行い、その実現に失敗した現在の日本銀行が置かれた状況は極めて深刻なものですが、1980年代後半から90年代前半のバブル生成と崩壊過程も大変でした。その時期に日銀の副総裁、総裁を務めた三重野康氏の口述回顧録をベースに、日経新聞が毎週末の連載で紹介しているものです。第1回は、株価や地価などの高騰の発端となったプラザ合意を取り上げています。 この記事の中で、やはり異様に思われるのは、金利引き下げのペースです。 19

        「ポイント還元、店員らの不正取得疑い6000件弱」に対する雑感

          増税の反動減に対する雑感

          先般(2019年2月17日)、内閣府は「四半期別GDP速報」(2019年10-12月期1次速報値)を公表しました。今回の速報は、財務省「法人企業統計」の結果が反映されておらず、2次速報値(3月9日予定)で評価が変わる可能性も否定できないですが、1次速報のデータから簡単に評価しておきたいと思います。 まず、以下の記事でも説明するとおり、「増税前の駆け込み需要とその後の反動減は14年の消費税増税時ほど大きくない」というのが正しい見方です。 新聞やテレビ等では、2019年10-

          増税の反動減に対する雑感

          「自民・稲田氏、公文書の保存期間「見直し必要」」に対する雑感

          「自民党の稲田朋美幹事長代行は26日のNHK番組で、首相主催の「桜を見る会」に関し公文書の保存期間のルール見直しを主張」し、「「公文書は民主主義の基盤だから管理の方策を徹底的に検討する」と話した」という。 筆者も公文書管理の見直しは必要に思います。そもそも、現行の公文書管理法は、我が国の歴史的な歩みを将来の資産とすることを目的に制定されたもので、極めて重要な法律です。この法律の制定を主導したのは、自民党の福田康夫元首相であり、2009年に制定され、2011年に全面施行となり

          「自民・稲田氏、公文書の保存期間「見直し必要」」に対する雑感

          「デジタル通貨、中銀も備え加速」に対する雑感

          以下の記事のとおり、「日銀やECBのほか、英イングランド銀行、スウェーデン中銀のリクスバンク、カナダ銀行、スイス国民銀行の6中銀と国際決済銀行(BIS)は21日、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の発行を視野に新組織を立ち上げると発表」し、ついに日銀もデジタル通貨に関する本格的な研究を開始するようです。 ちょっと遅すぎるようにも思いますが、中国でも2020年1月に「暗号法」が施行され、中国の中央銀行である「中国人民銀行」がブロックチェーン技術などを活用した「デジタル人民元」発

          「デジタル通貨、中銀も備え加速」に対する雑感

          「中国、19年6.1%成長に減速 29年ぶり低水準」に対する雑感

          以下の記事のとおり、「中国国家統計局が17日発表した2019年の国内総生産(GDP)は、物価の変動を除く実質で前年比6.1%増」となり、「伸び率は18年から0.5ポイント縮小し、2年連続で減速」となりました。 この原因の一つに、アメリカと中国の貿易戦争の影響があることは確かに思いますが、それでも6%の成長をしていることは驚きです。 この成長率が本当に正しいものか否かは精査が必要ですが、中国の経済力の方が日本を上回っているという事実は忘れてはいけないと思います。 実際、I

          「中国、19年6.1%成長に減速 29年ぶり低水準」に対する雑感

          「財政健全化、議論空虚に 内閣府試算、増税でも悪化」に対する雑感

          以下の記事のとおり、内閣府は1月17日の経済財政諮問会議で、国と地方のPBが2025年度に3.6兆円程度の赤字になるとの試算を示しました。 これは、政府が財政再建の目標とする2025年度のPB黒字化が一段と遠のいたことを意味しますが、これは何に起因するものでしょうか。 そもそも、内閣府の中長期試算における名目GDP成長率の見通しが甘いのも一つの原因です。例えば、今回の試算では、高成長が前提の「成長実現ケース」における名目GDP成長率は2023年度以降で3.2%程度を見込ん

          「財政健全化、議論空虚に 内閣府試算、増税でも悪化」に対する雑感

          「年金額0.2%増に抑制 20年度、マクロスライド2年連続」対する雑感

          以下の記事のとおり、年金の給付水準を実質的にカットするため、厚労省が2020年度も2年連続でマクロ経済スライドを発動することに決めました。 2年連続での発動は画期的なことですが、カット率はどの程度でしょうか。上記の記事には以下の解説があります。 年金額は賃金と物価の伸びに応じて決まる。総務省が24日に発表した消費者物価指数は前年比0.5%の上昇で、厚労省が計算に使う過去3年間平均の賃金上昇率は0.3%だった。物価の伸びが賃金を上回る場合は賃金が基準になるため、本来であれば

          「年金額0.2%増に抑制 20年度、マクロスライド2年連続」対する雑感

          2020年度予算案を読む(国のPB赤字拡大で、緩む財政規律)

          以下の報道のとおり、本日(2019年12月20日)、2020年度の国の当初予算案が閣議決定されました。「麻生太郎財務相は20日、予算案の閣議決定を受け「経済再生と財政健全化の両立をめざす予算だ」と胸を張った」との話もありますが、これは本当でしょうか。 まず、政府は国と地方の基礎的財政収支(PB)の黒字化を2025年度に実現するという目標を掲げていますが、2019年度と比較して、2020年度のPB赤字は拡大しています。 といいますのは、国の一般会計予算(当初)において、税収

          2020年度予算案を読む(国のPB赤字拡大で、緩む財政規律)

          政府支出乗数は1未満か

          以下の記事は、政府が12月5日午後に閣議決定した「安心と成長の未来を拓く総合経済対策 」(以下「対策文書」という)の概要を説明しています。 記事にも説明があるとおり、「財政支出のうち、国費は7.6兆円」ですが、対策文書の36ページには以下の記載があります。 実質GDP(需要)押上げ効果を現時点で試算すれば、概ね 1.4%程度と見込まれる。また、これに含まれない成長の基盤となるインフラの構築等により促進される国内投資額は、現在の名目GDP比で、概ね 0.7%程度と見込まれる

          政府支出乗数は1未満か

          公的年金改革(案)に対する雑感③(厚生年金への適用拡大)

          以下の記事では、政府の年金改革案を取り上げています。 改革案の一つが、以下のとおり、厚生年金への適用拡大です。 政府は厚生年金の支え手拡大で、年金制度の持続性を高めることを重視した。高齢になるとパートや嘱託など短時間勤務に切り替える人も多く、働き方が変わっても厚生年金に加入できるようにする。 現状は(1)従業員501人以上の企業に勤務(2)週20時間以上働く(3)賃金が月8.8万円以上――などの条件を満たす短時間労働者が対象。政府案では企業規模の要件を見直し、まず22年1

          公的年金改革(案)に対する雑感③(厚生年金への適用拡大)

          公的年金改革(案)に対する雑感②(受給開始年齢を75歳までに拡張)

          以下の記事は、政府の年金改革案を取り上げています。 改革案の一つが、以下のとおり、受給開始年齢を75歳までに拡張するというものです。 「今は原則65歳が受給開始年齢で、60~70歳の間で時期を選べる。これを75歳まで延ばす。受取時期を1カ月遅らせるごとに月あたりの年金額は65歳で受け取るより0.7%増える。75歳まで遅らせると84%増だ。 19年度の厚生年金は夫婦2人のモデル世帯で月22万円。賃金や物価などの変動を考慮しなければ、75歳まで繰り下げた際の年金額は40万円強

          公的年金改革(案)に対する雑感②(受給開始年齢を75歳までに拡張)

          公的年金改革(案)に対する雑感①(在職老齢年金制度の見直し)

          以下の記事は、今回の公的年金改革の方向性で政治が迷走した「在職老齢年金」の見直しに関するものです。 この記事では、加藤大臣(大蔵省出身)の答弁も引用しながら、以下のとおり、公平性に関する問題を取り上げています。 在職老齢年金の減額基準には年金と賃金のみしか含まないことへの批判もある。働かなくても不動産収入や株式の配当などのある高齢者は減額の対象外で、公平性の問題が生じている。 加藤勝信厚労相は11月22日の衆院厚労委員会で「ここ(在職老齢年金)だけで調整すること自体にゆが

          公的年金改革(案)に対する雑感①(在職老齢年金制度の見直し)

          公立病院424再編リストが問いかけるもの

          以下の記事は、厚労省が2019年9月26日に公表した「公立・公的医療機関等の診療実績データの分析結果」の公表方法やデータの解釈を巡り、厚生労働副大臣の橋本岳氏、山形県・酒田市病院機構理事長の栗谷義樹氏、慶応大学教授の印南一路氏が自らの見解を示しているものです。 上記の分析結果によると、公立病院・公的病院の25%超に相当する全国424の病院が、診療実績が少なく、非効率な状況であり、再編統合の検討が必要であることを示唆しており、この分析結果は通称「424再編リスト」とも呼ばれて

          公立病院424再編リストが問いかけるもの