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市場POSデータとGoogleトレンドの関係~UVケアを例に~

 主任研究員 鈴木雄高


はじめに~夏が来た!

 夏がやって来ました。昨年(2022年)は、夏の平均気温が統計開始(1898年)以来2番目に高い記録的な猛暑でしたが、今年もかなり暑い夏になりそうですね。

今年は5月に新型コロナウイルス感染症の位置づけが5類になったこともあり、コロナ禍で控えていたアクティビティ――帰省や国内外の旅行、夏祭り、海水浴、川遊び、キャンプ、プール、花火大会、夏フェスなど――を多くの人が楽しむことでしょう。

 6月21日のYouTube配信「ほぼ週刊流研ニュース」で取り上げた、イオンの「レインシャインフェア」は、日傘、雨傘、晴雨兼用の傘を集めた販売促進のフェアで、外出が増えることを想定した企画でした。夏に人々の外出が増えると、需要が高まることが予想される商品カテゴリーは傘以外にもあり、たとえば、「UVケア」は、その代表格と言えます。

 「UVケア」は、「日焼け止め」用のクリームやスプレーなどの商品からなるカテゴリーです。一人当たりの購入点数は、ワンシーズンにつき、1点ないし 2点くらいでしょうか。毎年のように多くの新商品が登場し、各社がコマーシャルの放送や店頭販促に注力するカテゴリーでもあります。そのため、購入する前に、Google検索やSNSを通じて商品情報やユーザーの評価をチェックする人も多いと思われます。

ドラッグストアにおける「UVケア」の週別売上

 それでは、ドラッグストアにおける、「UVケア」の売上を見てみましょう。
※ここでは、市場における商品の売れ行きを分析することに適した、「市場POSデータ」(複数企業のPOSデータを合算したもの)として、「流研POS」のドラッグストア業態のデータを用います。売上を表す指標として、レジ通過客1,000人当たりの売上点数=点数PIを用います。

 図 1は、ドラッグストアにおける「UVケア」の売上について、5月以降の各週の値を、2023年(今年)と2022年(昨年)で比較したものです。なお、2023年のグラフは、本稿執筆時点で分析可能だった7月2週目までの期間となっています。


図 1 ドラッグストアにおける「UVケア」の売上推移(2022年、2023年)

 2023年の「UVケア」の5月1週目から7月2週目までの各週の売上を2022年と比べると、2023年の「7勝3敗」でした(2023年の点数PIが2022年のそれを上回る場合を「勝」、下回る場合を「敗」としています)。

 2022年の夏は記録的な暑さだったとはいえ、新型コロナウイルス感染症は2類相当の位置付けだった時期で、外出を控えようという意識を持つ人が2023年よりも多かった可能性があり、暑さのわりに「UVケア」の売上は多くなかったのかもしれません。

 それでは、2023年の「UVケア」の売上をコロナ前の2019年と比べてみましょう。図 2は、ドラッグストアにおける「UVケア」の売上について、5月以降の各週の値を、2023年(今年)と2019年(コロナ前)で比較したものです。


図 2 ドラッグストアにおける「UVケア」の売上推移(2019年、2023年)

 2023年の5月1週目から7月2週目までの各週の売上を2019年と比べると、「5勝5敗」でした。ただし、6月4週目から7月2週目までの3週は、この期間に売上を伸ばしている2023年が、売上を落としている2019年を上回っています。

 図 1と図 2から、2023年のドラッグストアにおける「UVケア」の売れ行きは、2022年を上回る週が多く、2019年と比べても遜色ないようです。ただし、2019年、2022年とも、週別の売上は7月5週目以降、8月4週まで、週を追うごとに低下していることから、2023年の売上も同じように推移するかもしれませんね。

「UVケア」の市場POSデータとGoogleトレンドの関係

 さて、先ほど、「UVケア」は購入前にGoogle検索やSNSでの情報チェックをする人が多いと思われる、という仮説を述べました。この仮説は正しいでしょうか?さっそく、確認してみましょう。ここでは、広く用いられている用語である「日焼け止め」のGoogle検索件数と、先ほど見た売上の関係を確認します。図 3、図 4、図 5は、2019年、2022年、2023年の5月から8月までの週別のGoogle検索件数「日焼け止め」と、同期間の週別の売上「UVケア」の推移を重ねたものです。
※Google検索件数は、「Googleトレンド」で出力した数値(2018年7月~2023年7月の件数を指数化したもの)を使用しています。


図 3 2019年の「日焼け止め」Google検索件数とドラッグストアにおける「UVケア」売上


図 4 2022年の「日焼け止め」Google検索件数とドラッグストアにおける「UVケア」売上


図 5 2023年の「日焼け止め」Google検索件数とドラッグストアにおける「UVケア」売上

 3年分のグラフを見ると、検索件数と売上が連動している様子がわかります。検索件数と売上の相関係数は、2019年が0.882、2022年が0.835、2023年が0.726でした。つまり、「UVケア」は、検索件数が多い週は売上も大きいカテゴリーです。多くの人が、「UVケア」について検索をしてから購入している可能性がありますね。消費者行動プロセスを説明するモデル、「AISAS」――Attention(注意)、Interest(関心)、Search(検索)、Action(行動)、Share(共有)――が、ある程度当てはまるカテゴリーと言えるかもしれません。

おわりに~サマータイムブルース

 本日(2023年7月28日)はフジロック'23の初日です。現地、苗場では、きっと多くのフジロッカーが「UVケア」で日射し対策をしていることでしょう。フジロックが終わると、もう8月、いよいよ、夏本番ですね。「UVケア」は8月以降は週別売上が低下する可能性がありますが、まだ「UVケア」を買っていない人や、手持ちのものの残量がわずかという人もいるでしょうから、ドラッグストアなどの小売店舗では、消費者・生活者のニーズを喚起して、しっかりと需要を獲得したいですね。

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参考:流通経済研究所が提供する市場POSデータ「流研POS」

 なお、本稿で用いた市場POSデータは、流通経済研究所がご提供している「流研POS」です。Webブラウザ上で、簡単な操作でPOSデータの集計・分析を行えるもので、リーズナブルな金額でご提供していますので、市場POSデータを使用したことがない方も、トライしやすいと思います。また、大手メーカーの方で、自社の主要カテゴリー以外の商品の市場POSデータを所持していないケースがあると思いますが、このようなカテゴリーについて、「流研POS」をご活用いただくことで、小売業への品揃えや販促の提案を行いやすくなります。「流研POS」にご興味をお持ちの方は、以下のWebページをご覧ください。



〈注〉

既にお気付きかもしれませんが、「はじめに」と「おわりに」に添えた、「夏が来た!」と「サマータイムブルース」は、いずれも、渡辺美里さんの曲名です。