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ひとりで泳いで何が悪い

コロナ自粛でかれこれ3週間電車にもバスにも乗っていない。ましてや飛行機や船になんか5ヶ月乗ってない。東京に戻る機会を逃して、自然に囲まれてリモートワークできており、まだ散歩が楽しいと思えているけど、いつまで飽きずに過ごせるか自信がない。

最近は、コロナ収束後にどんな楽しいことをしようかと妄想すること、過去の旅行の記憶に耽ることがかろうじての楽しみだ。温泉もサウナも行きたいし、晴れた夏の海でぼんやり何も考えずに浮かんでいたい。


何度も行っている沖縄出張のうちに、「私はなんでこんなに沖縄に来ているのに、海に入っていないんだろう?」という考えに至った。なんでかってひとりだからだ。そもそも学生時代に友人たちと海ではしゃぐなんて経験がほとんどないまま卒業してしまった。温泉もサウナもドライブもバーも、旅先でだいたいのことはひとりで楽しめるようになっている。でも海で泳ぐのってどうなんだろう?

考え始めたら止まらなくなった。「海 一人 泳ぐ」なんて頭の悪い検索ワードを調べてみた。恥ずかしいだとか、ナンパされるから危険だとか、とりあえず総論として「やめておいたほうがいい」ということになっていた。例外としてサーファーだったら問題ないらしい。なんでサーファーはよくて、水泳(というかただ浮き輪で浮かぶだけ)はだめなのだ。

ナンパは断ればいいとして、恥ずかしいってなんだ? 恥ずかしいかどうかを決めるのは私自身だ。たしかになんとなく、海でひとりで泳いでいたらなにか恥ずかしい感じはする。でもその恥ずかしさの原因ってなんだ? 知っている人にばったり会ったり、ひとりで水着ではしゃいでいるところを目撃されたら恥ずかしいだろうか。じゃあ知ってる人が全く誰もいないビーチなら、案外問題なく泳げるんじゃないか?

……と、逡巡した結果、ひとりでレンタカーを借りて、ひとりで泳いで見ることにした。

宿にいるうちから、服の下に水着を着込んで、もう気合いは十分だ。せっかくだから気持ち良い道を、通ったことのない道を経てドライブしてみたい。この日の目的地は、沖縄の海中道路の先の先、伊計島。他のビーチはパラソルがだいたい埋まっているくらいの混み具合だったけど、ここはあんまり混んでいなかった。

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人が少ないどころか、日本語さえほとんど聞こえてこない。海外の知らないプライベートビーチに来たような気分になった。はしゃぎ放題じゃないか! と思って舞い上がり、海に入る前にアイスを買ってしまった。もちろんブルーシールだ。はしゃぎついでにダブルで頼んでしまった。

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7月後半、海水浴にはうってつけの快晴。日差しが強くてアイスの表面はみるみる溶けてなめらかになっていく。この日、沖縄の気温は30度。その頃、東京は40度だった。真夏の沖縄のビーチの方が、東京よりも気温が低くて快適だなんて、そんな日を体験できるとは思ってもいなかった。そこはかとない優越感(誰に対してかはわからないけど)に浸る。

さて、いざ海だ。贅沢をするつもりで来たので、パラソルも借りた。浮き輪も借りた。海は冷たいけど、水上に肌を出せば日差しが暑い。しばらくただただ波に揺られてぼんやりしていたら、この照りつける暑さと海水の冷たさの温度差に、サウナと水風呂の交互浴のような快感を見つけた。いつまででも入っていられる。

一度砂浜に上がって日陰に入り、海風の心地よさを浴びながら微睡む。これ、なんで夏の沖縄でしかできないんだろう。海に入っている時間も砂浜でのんびりする時間も、全部ひとりだから周りを気にする必要がない。一応日焼け止めを何度か塗ったけど、焼けることより今の快感の方が優先度で勝ってしまう。忙殺された仕事生活からリセットされる感がたまらない。日常的に、毎日とは言わないから週に1回、いや月に1回でいいから味わいたい……。そう思いながら砂浜と海を往復する度に、短時間とはいえどんどん日焼けが濃くなっていった。

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インターネットの世界では恥ずかしいだのナンパが危険だのと否定的なことばかり書いてあったけど、ひとりで泳ぐのって、とんでもなく最高だ! この楽しさを独り占めしたくて、体験者が誰にも教えてないんじゃないか? 快適なビーチ選びさえ間違えなければ、きっと誰にだってこの開放感は味わえると思う。

シャワーを浴びてさっぱりしたら、再びひとりで運転だ。来るときは泳ぎたい気持ちのあまり、横目にだけ見て通り過ぎた海中道路も、帰りは寄り道する余裕もある。

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ウインドサーフィンをしている人が小さく見える。このエメラルド色の海を独り占めするなんて、さぞかし気持ち良いだろうな。初めてマリンスポーツにハマる人たちの気持ちを、ちょっとだけ想像できた。

せっかくだから夕焼けも見たい、と欲張ることにした。この日は休みだったけど、どうしてもビデオ会議に出なければならず、泳いだ後だなんてことはもちろん内緒で、会議の時間までに到着できる、夕日が見えそうな駐車場を探した。だいたい目星はついていた。

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たっぷり泳いでリラックスして、つかの間の会議を終えて見えた夕日がこの景色。休日返上の会議だって許せちゃう。こういうオンオフの切り替えが、私にはもっと必要だな、と改めて思った。


今はコロナで毎日在宅で仕事していて、油断するとオンオフの切り替え方がわからなくなる。そんなとき、少しでもこの沖縄で泳いだ日のことを思い出して、脳内だけであの波の感触を思い出せたら、いつだってたぶんちょっとはリラックスできる。コロナが落ち着いたら、こんな風にお守りみたいに思い出せるような旅をまたしたい。

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