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梅の美味しさ美しさ

実家の庭には4本の梅の木がある。昔あった柿の木や、今もあるカリンの木などは、実がなってもたいてい猿がやってきて食べてしまう。梅はなぜかいつもきちんと収穫できるので気に入っていた。大人になってからは、梅酒を漬けたい友人などを招いて、みんなで梅雨の晴れ間を狙って収穫したものだ。だけど今年はコロナのこともあって、一人で楽しむことになった。

庭にはほとんど白梅ばかりだが、一本だけ紅梅が咲く。家の門をくぐってすぐに目につくのがこの木なので、冬空に赤い花が映える。決して大きくもなく立派でもない細い木だけれど、実が付き始めるのはだいたいこの木が一番最初。小さな実が見えてくると、春から夏に変わる兆しのようで嬉しくなる。大きくなるのはまだかまだかと心待ちにしながら、毎日眺めて過ごしていた。

6月に入ってそろそろかな、という頃に、高枝切り鋏を引っ張り出して、一人で黙々と収穫した。私は背が高くないし、とにかくずっと上を見上げ続けているのですぐに首が疲れてしまう。それでも切り落とした枝にたくさんの梅がついていると嬉しくなる。

枝からひとつひとつはずして、新聞紙を広げたダンボールに集めていく。だんだん届く範囲の梅を収穫し終えてしまい、脚立を出してさらに高い枝に手を伸ばす。あっという間に5〜6キロの重さになっていた。はちきれんばかりの青々とした実と、その表面にうっすら見える産毛みたいな触り心地が好きだなと1年ぶりに思う。

台所で一通り洗って、一粒ずつ丁寧に水分を拭き取って並べていく。せっかくだからと思って、『海街diary』の映画を見ながら、縁側に足を伸ばしながら梅仕事。農家でもないし、なんのこだわりもなく勝手に実るのに、こうして並べてみるとこんなにサイズが揃うものなのか、と驚いた。

乾かしながら、爪楊枝で今度はヘタをはずしていく。この作業がとてつもなく面倒で億劫な印象があったけれど、映画を見たり縁側を眺めたりしながらのんびりやっていたら、すぐに終わった。案外こういう単調な作業が好きになってきているみたい。

準備ができたら、今度は梅酒と梅シロップの仕込み。今年はブランデーで漬けることにした。瓶を消毒して、氷砂糖と梅を交互に積んでいく。出来上がる頃にはみんなで集まって飲めたらいいなと、オンラインでの会話だけが続く生活を振り返りながら思った。

残りの梅はシロップに。生梅を氷砂糖と漬けたものと、冷凍梅で漬けたものの2種類を作ってみた。冷凍は初めてだったが、一晩凍らせた梅と氷砂糖を同量ずつジップロックに入れて1週間経ったら、もう完成していた。早い。

早速氷と炭酸水と一緒にグラスに入れて、熱中症になりそうな暑い日の散歩終わりに飲んだら最高だった。真夏の都会の自販機で衝動的に買う梅ソーダとは全然違う。

1週間ほど経った頃、先日の収穫のときに手が届かなかった高い高い枝の先になっていた梅が熟して、木漏れ日の合間に落ちているのに気がついた。地面から甘い香りが立つのでこの季節が好きだ。

よく見たら全然傷もついていないし、すごくきれいで状態も良い。良さそうなものを見繕って拾い集めてみたら、1キロ以上あった。いつも青梅しか収穫していなかったけど、完熟の落ち梅も悪くない。

洗ってヘタを取って、ホーローの鍋で全部の実が浸るくらいの水で沸騰するかしないかくらいの状態で20分くらい煮る。アク抜きが終わる頃には実がホロホロになっているので、手でほぐして種をはずす。種を除いた実の重さを量り、その6割くらいの砂糖を入れて煮詰めてジャムにした。

普通にトーストに塗っても、ヨーグルトに入れても美味しい。でもなんかもっと美味しいことしたい。なんだろう?と考えた末に、小田原名物の皮だけ最中を買ってきて、最中をレンジでチンして香ばしくしたところに、クリームチーズと梅ジャムを挟んで食べると言うのを思いついた。もう完璧。めっちゃ美味しい。たぶんワインとか合う。すごい早さでクリームチーズがなくなってしまった。

これに味をしめて、なんかもっと梅ジャムでおいしいことしたい、という欲が湧いてくる。そういえば和菓子の「のし梅」が昔から大好きなのだが、あれって作れるんだろうか?いくつかレシピを見たけれど、がさつな性格が出て目分量だけで作ってみることにした。

梅ジャムに砂糖を足してさらに煮詰め、水でふやかした棒寒天を入れて煮詰め、クッキングペーパーに平たく伸ばして冷やすだけ。まぁ失敗してもまずくはならないレシピだなと思っていたが、想像してた通りののし梅が完成した。

これ、梅酒に浸かってる梅の実を甘露煮にして、寒天と煮詰めてもできるみたい。来年は梅酒の実でもやってみよう。

そんなこんなで、花から実まで、とにかくまるごと梅を堪能できた。今すでに来年の梅が楽しみである。

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