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飲食店の前に「バイトをさせてほしい」旨のビラを貼っても仕事はやってこない

「アルバイト募集中。1名。時給○○円。」

こういった張り紙はよくお店の前に貼ってある。よく見る。もちろん、わざわざ説明するまでもないが「お店で働く働き手(アルバイト)を募集している。」という意味だ。

ある日、店内にて数人で話をしていたのだが、「変なバイトをやりたいなあ。」ということになった。普通のバイトじゃつまらない。何か、刺激のある、変なバイト。たとえば、という風には例えられないようなキテレツなやつ。欲しい。どうやったら舞い込むのだろうか?

張り紙を貼ろう!

そういうことになった。そして、お店の前に貼ることにした。こうすることで「こんなバイトありまっせ〜」「ヤモリの鳴き声のモノマネしてくれたら5万円あげますよ〜」「米50キロあげるからドングリ食べてほしいです!」みたいな話がバンバン来るんじゃないか!

しかし、ビラを書いていて思った。「ウチで働くバイトを募集しています。」という内容 は即座に書けるが、「店にいる我々がむしろバイトをしたいので、そういった案件がある人は教えてください。ちなみに普通のじゃなくて変なのでよろしく。」といったややこしい内容を簡潔に、一目で分かるようにビラにまとめるのは難しい。「バイト」「募集中」という単語が並ぶ紙が、店の前に貼ってあるという事実がどう足掻いてもややこしい。パッと見ただけだと、人は今までの経験に照らし合わせて即座に判断してしまうので、やはり「ああこのお店でバイトを募集しているんだな。」と早合点してしまうだろう。ううむ、難しい。そこそこ悩んだ挙句、絞り出したのが以下のものだ。

「バイト」ではなくきちんと「バイト案件」と書いてあるし、「3人」の後にも働き「たい」人数である旨明記してある。極め付けは「働かせてほしい!!」という一文だ。ここまでストレートに言えばもはや誤解の余地など残されていないだろう。ビラを書き上げ、店外に張り出した。はたしてどんな仕事が舞い込んでくるのだろうか?すごく刺激的な日々が始まるに違いない…。

数日後、知らない番号から電話がかかってきた。

「もしもし」「はい」「あの、ビラを見たのですがバイトの件で…」

きた!はやる気持ちを抑え、耳を傾ける。

「ああ!どうも!どういった内容でしょうか!」「あの、ぜひ働かせてください!」

あ、申し訳ない…。勘違いさせてしまった。丁寧に事情を説明し、何度も謝り電話を切った。やはり書き方が悪かったのだろうか?まあ、ひとまず一旦を様子を見ることにした。

そしてまた数日後。

「あの」

店のドアが開いた。

「あ、どうもどうも。」お客様だと思い席を案内するが、「ビラを見たのですが……。」と切り出される。

これはこれは……。巨大スズメバチの早食いをするとか、アゴで相撲を取るとかそういう話がいよいよ舞い込んで来たか……。ここで迂闊に喜んでしまっては沽券に関わる。ドッシリと構え、余裕のある雰囲気で「あ、どうもどうも」と答える。

「あのー。働きたいんですけど業務内容ってどんな感じですか?」

剥がそう。あのビラはダメだ。人に迷惑をかけてしまう。再度平謝りを何度も繰り返した。わざわざ2階まで来てもらったのに誠に申し訳ない。

しかし、どうしても剥がす気にはなれなかった。やはりビラの可能性を信じたい。
そういってはや3ヶ月近くが過ぎた。それ以来何も音沙汰はない。そして、梅雨の時期を経て雨風に打たれてビラはヨレヨレになってしまった。ここでこのビラをなかったことにしてしまうのは勿体無い。逆境にもめげず、ずっと張り付いていてくれた。いつの日か吹き飛ばされてしまうその日までビラ様には頑張っていただきたい。

また、貼る場所が違えばまた違った結果になっただろう。「店の前」という文脈により、内容は容易にミスリードされてしまう。いや、そもそも書き方が悪いのだろうか?レイアウトの問題?

ビラって奥深いな。ありがとう、ビラ。変なバイトが来るその日まで、持ち堪えてくれ。


追記:この文章を書いたのは7月でしたが、9月頃には風で流されてビラは消滅しました。
変なバイト案件をお持ちの方、お待ちいたしております。

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