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「はじめて」が、「いつもの」へ

はじめて寝返りをうった日。
はじめてハイハイした日。
はじめて自分の力で立った日。
はじめて「ママ、パパ」と口にした日。

これらは子育てにおいて、定番の「はじめて」である。生後1ヶ月の我がむすこはもちろん、まだどれも経験していない。 わたしはむすこが生まれるまで、この程度のはじめてしか存在を知らなかった。

だが、赤ちゃんにとっては(親にとっても)たくさんの新しいものが日々生まれているのだ。現に、生後1ヶ月の彼のもとには、すでに数えきれないほどの小さなはじめてが訪れている。

些細、でも驚きのはじめて

はじめてこの世に生まれ出た日、彼は「コクッ」とシャックリした。
母のおなかの中でも頻繁にしていたはずだが、この世界でするシャックリはまた一味違うらしい。生まれて間もないころ、彼は「コクッ」と言うたびに両手をあげてびっくりし、また自分の大きすぎるオナラにも驚いて泣いた。

親だけが興奮するはじめて

はじめて彼がニッコリした日を、わたしたちは忘れないだろう。
「見て!」という妻の声にわたしが駆けつけると、彼はすでにポーカーフェイスに戻っている。そのあとで、少しだけ“残り笑い”を見せてくれた。

あとから気づくはじめて

「あれ、最近多いよね」と後追いで気づくこともある。
気がつくと泣き声以外に「あうー」「あっあっ」など、言葉なき言葉が加わっている。おーい、何か伝えたいのかい。さみしくなっちゃったのかい? わたしたちが話しかけると、むすこはふたたび口を閉ざす。あるいは濁音オンリーの叫び声に転じて親を困惑させるばかりである。

まだ早かったはじめて

腹ペコエネルギーは、彼を“寝返り寸前”まで連れてゆく。
「ウギアーーーー」と全身を震わせながら、隣にすわる母のオッパイめがけて、ほとんど横向きになるくらいまで体全体をねじる。がんばれ、がんばれ! 平均生後5、6ヶ月ごろと言われる寝返りを世界最速で実現……そんな親バカギネス記録を夢見るもむなしく、彼はまた仰向けにひっくり返り、拾い上げた母の手によってオッパイへ飛び込んでいった。

はじめては繰り返されて

自分のシャックリやオナラに驚き、
笑顔をチラ見せ、
言葉以前の言語をくり出し、
寝返りチャレンジに挑む。

ほんの1ヶ月の間だけで、彼はたくさんの小さなはじめてや、はじめて未満にぶつかってきた。

そして今。むすこは──。

シャックリしても、もう動じない。
オッサンみたいなオナラをかまし、涼しい顔を浮かべている。
おっぱいをたっぷり飲んだあと、3回に1回は微笑んでくれるようになった。
「あうー」に「あっぷう」が加わった。
相変わらず、寝返りは未踏の地である。

たぶん、もうすぐしたら「あっぷう」が「ママァ」になったり、もっとニコニコしてくれたり、寝返りどころか寝相の悪さにこちらがウンザリするようになるのだろう。

「はじめて」は繰り返され、「いつもの」になってゆく。

さらに物心がつけば、彼は自分の手で何かを「はじめる」ようになっていくのだろう。

そして日常がはじまる

大人のわたしたちが「あ、もう1ヶ月経っちゃった」と過ごした時間を、彼ははじめてにぶつかりながら駆け抜けている。わたしが何度も繰り返し、口どけまろやか、舌ざわりなめらかに感じている毎日を、彼は大騒ぎしながらゴリゴリ咀嚼する。

そんな高カロリーな毎日を繰り返しながら彼は日々の常連になり、「日常」をはじめていく。そばで見ている身にとっては、ちょっとさみしいことで、とてもうれしいことだ。気がつけば、小さなはじめてはもう二度と見ることができない、贅沢な思い出になっている。

むすこが生まれる前、わたしは周囲に吹聴していた。

「自分の子どもをパシャパシャカメラで撮るのに抵抗があって。
ここぞ、という記録だけにしたいんです」

そんなわたしの写真フォルダは、ゆうに500枚を超えている。

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出来幸介

インバウンドメディア「MATCHA」で編集してます。前職の新潮社では単行本・月刊誌編集。主な仕事に『ママは日本へ嫁に行っちゃダメと言うけれど。』、『つかこうへい正伝 1968-1982』、『一発屋芸人列伝』(山田ルイ53世)など。2019年6月より半年育休取得中。
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