『永遠も半ばを過ぎて』

中島らも『永遠も半ばを過ぎて』読了。強炭酸が身体の中を一気に駆け抜けていくような、心地よい痺れと痛みを感じる作品だった。ラストは少し気の抜けたサイダーみたいだったけど、それは中島らも自身の愛という概念への希望に拠るものなのだろう。

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「ひとつ手に入れると、ひとつ失うのよ。何でも手に入れる男は、鈍感なだけ。失ったことは忘れてしまう。哀しみの感情がないのよ、わかる?」

「孤独というのは、「妄想」だ。孤独という言葉を知ってから人は孤独になったんだ。同じように、幸福という言葉を知って初めて人間は不幸になったのだ。人は自分の心に名前がないことに耐えられないのだ。そして、孤独や不幸の看板にすがりつく。私はそんなに簡単なのはご免だ。不定型のまま、混沌として、名をつけられずにいたい。」

「あなたのは忘れられないんじゃない、思い出しただけよ」

上の2つはこの作品のいわゆる名言として多くの人が挙げている言葉みたいだけど、私は3つめが一番胸に響いた。私たちは事あるごとに「忘れられない」と軽々しく口にして、そういう感情をまるで美徳のように崇め奉っているけれど、単純に「思い出した」という瞬間的な場面をパッチワークみたいに繋ぎとめて「忘れられない」と錯覚しているだけなのだと思う。でも私は「忘れないこと」よりも「思い出すこと」のほうがずっと誠実だと思うから、何度忘れたっていいから何度だって思い出しながら生きていきたい。

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