見出し画像

「British Hustle」制作インタビュー

石山:Brit Funkをテーマにしたミックス「British Hustle」を作るきっかけは?

松本:パンデミックで(アメリカへの)買い付けの回数が減った分をオンラインでの仕入れで補おうという局面がありまして。アメリカで知り合ったイギリス人レコード・バイヤーがいたのでその人に連絡とってみたところ(レコードを)何箱か送ってくれて買いました。最初はレゲエを仕入れてたんですけど、オマケで何枚かつけてくれていたのがジャズ・ファンク系のレコードでした。で、そのレコードがおもしろかったんで「こういうのをもっとたくさんくれ」とオーダーしました。

石山:それはブリット・ファンクのレコードっていう認識でした?バイヤーもそう言ってたんですか?

松本:いや、お互い何も言わずにって感じですよ。イギリスらしく真っ白のラベルの12インチ・シングルで。「なんか白レーベルのレコード入ってるで」「あー、おまけね」くらいの感じで。

石山:笑。あくまでおまけ。いいですね。

松本:まあ、それで興味持ったのとレコードを供給してもらえたのがデカかったですかね。「普段の買い付けでは手に入らないレコードが手に入って嬉しいな」くらいで。さっきも言いましたけどメインはレゲエのレコードでしたから。

石山:なるほど。レゲエのバイヤーがおまけにくれたUKソウル〜ファンクのレコード。その繋がりが面白いですね、英国のDJ事情にも繋がりそうな話です。

松本:って事なんでしょうね。やっぱり。その人からは「ノーザン・ソウルもどうだ?」って言われましたけど「バカみたいに高いんだろうな」と思って「いらない」ってなりました。ジャズ・ファンクやファンク系のレコードとノーザン・ソウル、レゲエ、、、、そのイギリス人からしたらその辺のジャンルは全部一緒(?)なんだなってのがわかりました。

石山:レゲエもノーザン・ソウルも扱っていたと。いわゆる英国のクラブ・シーンみたいなところで重宝されたジャンルを扱っていたということなんですかね。

松本:ハウスまでは普通に持ってるって感じでしたね。

石山:さっき言っていた白レーベルの12インチ・シングルやレコードはどこらへんのアーティストだったんですかね?例えばCENTRAL LINE、JUNIOR、SHAKATAK、LEVEL 42とか?

松本:最初はイギリスのアーティストでアメリカでも売れたようなレコードは、ひと通り送ってもらってました。たとえばSHAKATAKなんかだとイギリス・オンリーのシングルがたくさんありました。

石山:そうなんだ、どれも良さそうですね。そのイギリス人とブリット・ファンクについて話しました?

松本:なにこのレコード?って聞いたら最初はディスコって返答でしたよ(笑)。そんな突っ込んだ話はしてないです。英語苦手ですし(笑)。レゲエはスタイルとしてはっきりしてるんで大きくはブレないんですけど、その他のソウル、R&B、ディスコ、ファンク、ジャズ・ファンク、みたいなレコード(のジャンルわけ)はいい加減な感じでしたよ。

石山:笑。今ミックス聴きながらインタビューしてるんですが、雰囲気として都会感みたいなところは共通してる気がします。当時のアメリカで人気だったディスコ系ソウルやジャズ・ファンク〜フュージョン、AOR、ブラコン、、、、ジャンルの風味がごっちゃになってますね。

松本:結構な量のレコードから選曲できたってのもありますけどね。

石山:そういう英国産をセレクトしたと。つまりブリット・ファンク?僕は最初ブリット・ファンクと言うワード聞いて「クラブで踊れるファンクね」くらいにしか思ってなかったんですが、このテープ聴いて少し様子が違うなって思ったんです

松本:どういうふうに?

石山:その各バンドの音のクロスオーバー具合っていうか。ジャズやソウルやってた人らがディスコの影響を受けた感じがすごい出てる。いわゆるレアグルーヴで掘り起こされたソウルやファンクとは違うというか。

松本:あー。レアグルーブってのがまた曲者ですよねー(笑)

石山:英国名物、ジャンル作り(笑)。街角で流行ってるもんがパッケージされる段階でジャンル付けされますよね。

松本:明確に音楽的な特徴を捉えてジャンルにするわけじゃないですからねー。

石山:悪く言えば音楽の文脈を分断するんだけど、良く言えばDJミックス的な感じで曲に新しい価値観を与える。ヒップホップのサンプリングにも共通するところがありますよね。話がずれました。

松本:そういうDJ的な感覚を取り入れて演奏した音楽だって考えればブリット・ファンクとかジャズ・ファンク、アシッド・ジャズって納得がいくんですけどね。レコード・レーベルの運営側にDJの人が多いみたいですし。

石山:確かに納得ですね。DJとバンドがかなり近い。しかもレーベルも。そうなるとダンス・ミュージックがきちんと商売になりますよね。それこそ英国のチャートや「トップ・オブ・ザ・ポップス」みたいな歌番組にもそういう(クラブ系の)アーティストが入ってくる。

松本:イギリスのチャートはかなり遅くまで総合チャート一本しかないですもんね。ミックスにも入れましたけどLOWELLの「Mellow, Mellow Right On」は英国のチャートに入ってますね。

石山:そうですね。アメリカでも売れたんでしたっけ?

松本:アメリカだとR&Bチャートで32位。イギリスでは総合で37位。これかなり規模が違うと思ったんですよ。レコードでもイギリス盤のほうが種類も流通量も多いし。ちなみに、サンプリングされるのもアメリカだとちょっと遅い。

石山:認知度もイギリスのほうが高いと。

松本:イギリスだけ12インチ・シングルがリリースされたってのはすごく象徴的たなーと思ったんですけどね。

石山:12インチ・シングル=DJ仕様=クラブ仕様ってことですもんね。

松本:イギリスでは91年にMASSIVE ATTACK「Lately」でサンプリングされてます。アメリカでは、95年にPRINCE MARKIE DEE Feat. HASSSAN THE LOVE CHILD「Mellow」、97年にCOMMON「Reminding Me (Of Set)」。と、イギリスのほうが少しだけ早い(笑)。

石山:つまり、この曲がレア・グルーブ〜ブリット・ファンクのキーになるんじゃないかと。

松本:ブリット・ファンクって括りにしながらこの曲を入れたのはそう言うことでもあります。

石山:なるほど。今更ながらこのミックスの奥深さを知りましたよ(笑)。時間がかかってすみません。アメリカの様々なレコードを英国人が掘って自国でDJがプレイする。良い曲だとそればポップ・チャートに行ってしまうほどのヒットになる。しかも、DJ向けに12インチ・シングルにまでする。大袈裟にいうと、DJ文化みたいなものがどっかり英国のポップスの中にあったと。

松本:レアグルーブってタイトルについててROD STEWARTやらTHE KINKSとか入ってるTV通販用のコンピまであるんですよ。こちらが思ってる以上にレアグルーブって名前は一般的だったみたいですね。時代の移り変わりでノーザン・ソウル、ブリット・ファンク、レアグルーブって呼び名は変わったみたいですけど基本やってる事は一緒ですよね。

石山:これって「青春のポップス全集」みたいなもんで、おじさんとかおばさんが買うもんですよね(笑)。それほど一般的だったっていう象徴的な感じですね。

松本:ひとつ流行りが起きるとコンピが大量にでますからね。イギリスは。

石山:今これが流行ってるから売れるうちに売っとけ!的な??

松本:話変わりますけど、イギリスらしいもので「階級」ってあるじゃないですか?例えば60年代なんかは(例外ももちろんあるでしょうけど)音楽聴くだけの連中と楽器を演奏する連中って労働者階級と中産階級みたいな感じでかなり違う気がしてるんですけどね。

石山:シビアな階級社会。でもDJってその壁を超えたかも。世界的なディスコ・ブームによってDJ(ダンス・ミュージック)はある程度大衆化したよね。

松本:イギリスって例えばアメリカの54みたいな大箱キラキラ・ディスコってあったんですかね?

石山:調べてみたんですが、ロンドンのオックスフォード ストリートに「100 CLUB」という箱があって。元々はジャズ・クラブだったらしいんだけどロックが盛んになった頃からたくさんの有名なバンドが演奏したらしい。そういうロックの盛り上がりと同時に1979年からは現在も続いている「6T’S RHYTHM AND SOUL SOCIETY」が開催されている。これってなかなか象徴的じゃないですか?

松本:そういう所でジャンルのクロスオーバーが起きて大きなシーンになったんだとしていたら象徴的ですね。

石山:クロスオーバーしてたみたい。例えばFREEEZのJONN ROCCAはレコード屋でバイトしていたらしくアメリカのジャズ・ファンク系のレコードを片っ端からメンバーに聴かせてたとか。そんなJONN ROCCAの兄貴はパンクスで一緒にロックで有名な〈THE MARQUEE CLUB〉に行ったらそこにはダンス・クラブ系の客もファンク・バンドやってる若い連中もいて一緒に暴れてたんだって(笑)。ガーディアンの記事に載ってた。

松本:へー。

石山:で、パンクと同時にファンクのシーンも急成長していてパンク・バンドとファンク・バンドが一緒にライブするみたいなシーンもあったらしい。

松本:なるほど。SEX PISTOLSやRAMONESは1976年とか1977年ですもんね。そういう事があっても不思議じゃないですね。ちょっと話変わるんですけど、パンク以前、テッズ、モッズ、スキンズとかって労働者階級の消費の「スタイル」ではあったけど多くは楽器を持ってバンドをやるような連中ではなかったと想像していて。そう言う人たちが楽器を持って演奏するようになるまでには少し時間がかかってるんじゃないかな?と。

石山:パンクの登場でしょうか?

松本:そこ。パンクはロックンロールの再現だったけどポスト・パンクって言われた時期に、スカのリバイバルがあったり、PAUL WELLERがあからさまにソウルっぽい曲をやったり、THE CLASHがレゲエ〜ダブやったり。古くからDJ達はファンクやレゲエを盛んにプレイしていたようなのでパンクスにも少なからず影響を及ぼしたんじゃないかな?と。で、楽器ができる連中は特にそういう方向へいった。と。

石山:みんなパンク時代を経て演奏力も上がってロックンロール以外もプレイできるようになった。だったらクラブ聴いて好きになったあのスカ〜レゲエ〜ソウルやファンクをやってみよう的な感じでしょうか?HI-TENSIONのメンバーがなんかのインタビューで言ってたのは「ブリット・ファンク・シーンのプレイヤーの多くはカリブ海の背景を持っています」って。ジャマイカはじめ西インド諸島なんかからの移民のことですかね?

松本:1948年から1971年の移民政策で来た人たち(=WINDRUSH GENERATION)ですね。

石山:うまく融合していたと。

松本:NATIONAL FRONTやBRITISH MOVEMENTが台頭した頃以外はうまくやってたみたいですね。で、移民の人たちのほうが楽器できたのはご家庭の雰囲気?かな?と思ってるんですけど。

石山:映画「THIS IS ENGLAND」の世界。ご家庭の雰囲気?ジャマイカン特有みたいなことですかね?

松本:その頃の一般的なイギリス人家庭で楽器の演奏、しかもロックだのファンクだのってのはまだまだ考えにくかったのかなー?と。日本と同じで「エレキは不良」みたいな(笑)。「隣に引っ越してきたジャマイカ人(=RUDE BOY)」みたいなインパクトは大きかったのかなー?と。で、そんな中でも象徴的な存在に思えるのがTHE EQUALSですよ。

石山:ということは、EDDIE GRANT!

松本:66年くらいからやってるビート・バンドっていうのも象徴的でしょ?

石山:今調べたら公式に初の人種混合バンドって言われてるみたい!これはすごい!

松本:イギリス〜ヨーロッパではすごい売れたみたいですけど人種融合のグループは受け入れられないだろうって判断でアメリカではあまりプロモーションされなかったとか。あのバンドは面白いですね。しかも、EDDIE GRANTはイギリスのレゲエをTROJAN RECORDSやPAMA RECORDSなんかとはちょっと違う感じで後々まで牽引しますからね。

石山:確かに。アメリカでは裏方で人種混合バンドはいたけど表舞台ではいなかったでしょうね。人種差別が公式に無くなったと言われてるのは1964年だから、その数年後でも人種混合バンドは抵抗があったかもしれませんね。

松本:EDDIE GRANTはイギリス領ガイアナの出身ですね。旧英領からはいろんな人が来たみたいですね

石山:英領かー。いろんな文化が混ざる理由のひとつですね。THE EQUALSは、UB40やTHE CLASHもカバーしてますね。

松本:THE EQUALS、EDDIE GRANTの作品は一通り聴いた方が良いですよ。アメリカのディスコでもヒットした「Funky Like A Train」みたいな曲もあるし。EDDIE GRANTが主宰したICEレーベルは弟さんまで含めてレゲエ、ファンク・シーンへの影響がデカいと思います。あとAWBとかDELEGATIONS、HEATWAVENなんかの話もしないといけないですね。笑

石山:ブリット・ファンクがテーマだからね、そっちにバンドこそ話して欲しい(笑)。

松本:HEATWAVEの「Mind Blowing Decision」の7:36のバージョンの後半部分はリズムが完全にレゲエになっちゃうやつ。「あーイギリスだなー」と(笑)。これ書いて店でレコード売るとすぐ売れるんですよ。イギリス人ってのは相当レゲエ好きなんだなと。これ当時のイギリス産レゲエの12インチの真似だと思うんですよね。

石山:レゲエ好きにもほどがある(笑)。

松本:サッカーのチェルシーの試合前に必ず「Liquidator」がかかる国ですから。

石山:そうなんですか?HARRY J. ALLSTARS?

松本:サッカー好きでしょ?これチャントがあってみんな歌えるみたいですよ。しかも69年からずっとやってる。

石山:こりゃすげーーー!ちょっと震えた。てか鳥肌

松本:これも書くとレコードが一瞬で売れるんすよ(笑)。こちらが思ってるよりもレゲエはあの国で身近なんだな。と。ジャマイカ人はスキンズみたいな連中が自分達の音楽で熱狂してくれたのが嬉しかったみたいですよ。

石山:そうなんですね。AWBについてはどうですか?

松本:スコットランド出身で世界的に成功したのは良いお手本になったでしょうね。JOHNNY NASHのヒット曲「I Can See Clearly Now」のホーン・セクションがこのバンドの母体(?)なのはここまでの話に繋がるところかな?

石山:DELEGATIONSについてはどうですか?

松本:プロデューサーのKEN GOLDの存在はデカいでしょうね。

石山:ソングライター、プロデューサーで70年代入ってから英米のソウル系シンガーに曲書いてますね

松本:THE REAL THINGでもヒット飛ばしてますし。

石山:知らないバンドも多い。ソウル〜ディスコ系=ブリット・ファンクってことですかね?

松本:やっぱりアメリカの音楽をトレースしてるとこはあるでしょうね。

石山:筒美京平的な?

松本:言語は同じなのでもうちょい距離感としては近いでしょうけどね。でもそういう感じだと思います。

石山:で、そこにレゲエの要素も入ってきちゃう感じ?音楽的にパッとわかる感じじゃなくてもセッション・プレイヤー集めたらそうなっちゃうみたいな?そう言う耳で「Oh Honey」聴くとレゲエっぽく聴こえてしまう(笑)。

松本:なんとなくベースの音量がデカい気しますもんね。

石山:それ重要ですね。

松本:あと歌。アメリカっぽいゴスペル、教会ルーツの人が少ないと思うから割とあっさり歌ってるうように聴こえるような。例えばWHITNEY HOUSTONみたいな歌い方の人はあまり居ない。「エンダァァァァ!」みたいな。笑

石山:こぶしまわさないし歌い込まない?みたいな。

松本:割と平たく歌っちゃう。幼少期から毎週教会で歌ってた、みたいなのとはちょっと違うんでしょうね。

石山:それは日本人にも言えますね。そこは日本のポップスに似てる気もする。このテープのテーマ〈BRIT FUNK〉について話したら、移民政策とDJカルチャー、レゲエと他ジャンルの異種配合がひとつになって英国のポップスの歴史は作られてるってことがわかりました。気になった曲があればぜひ探して購入してください。御用命はVinyl7Recordsまで。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?