見出し画像

旧統一教会が関わる地方からの「草の根」運動

※ 本文中の《》は引用、引用内の〔〕は筆者注

引用ではなく註釈

「熊本ピュアフォーラム」の運動史

杉田水脈政務官のように《役員》で片付けると見誤る団体

杉田水脈 衆院議員の2019年熊本講演を主催したKPF社会教育委員会(=(一社)熊本ピュアフォーラム。以下、まとめて「熊本ピュアフォーラム」)が旧統一協会関連団体の平和大使協議会の下部団体なのは既に記した通りだ。しかし「熊本ピュアフォーラム」とはどのような団体なのだろうか。

杉田水脈 新総務大臣政務官は2022年8月15日の就任会見の場で、「熊本ピュアフォーラム」について開き直りに近い説明を行った。その説明のなかで、旧統一協会系政治団体の国際勝共連合熊本県本部(以下、「勝共連合熊本」)の代表でもある「熊本ピュアフォーラム」の稲富安信事務局長は、あくまで《役員の1人》と呼ばれ続けていた* 。

※ この講演主催団体、「熊本ピュアフォーラム」と旧統一協会関連団体・イベント役員との重複は杉田水脈 総務大臣政務官が述べた《役員の1人》にとどまらない。そのほか詳細については別記事を参照。

引用ではなく註釈

杉田政務官が繰り返したこの《役員の1人》という言葉から、いわゆる名誉職的な《役員》という印象を持ったなら、それは全くの勘違いだ。稲富事務局長は「熊本ピュアフォーラム」設立以前から、いわゆる「草の根」な運動の現場で活躍し、着実に成果を出してきた人物だからだ。

「熊本ピュアフォーラム」の陳情・請願運動から知る未成立「法」

熊本ピュアフォーラムは2016年に一般法人として設立されたが、前身団体が存在する。熊本県下で「青少年健全育成基本法」制定推進運動などを行ってきた稲富氏らが、2014年5月に設立した熊本フォーラムがそれだ。そして熊本ピュアフォーラム代表の元県教育長と、稲富 事務局長のコンビはこの前身団体でも変わらない。(以下、前身団体の熊本フォーラムについても必要ない限りまとめて「熊本ピュアフォーラム」と表記)

彼らは何年もかけ、県内の県市町村議会に「青少年健全育成基本法」の成立を求める意見書を《国》へ提出するよう訴える陳情・請願活動を行ってきた。しして2016年には一般社団法人化し、またその際に現在の団体名へと改称した。そして2018年からは目標を「家庭教育支援法」の意見書提出へと切り替えて、陳情・請願運動を続けてきた。その目標の変化は「熊本ピュアフォーラム」の関心が大きく変化したわけではない。彼らにとっては「青少年健全育成基本法」と「家庭教育支援法」が、同じテーマについての法律であることは彼らの請願文書からも見て取ることができる。

健全な青少年は健全な家庭から育成されるという原点に立ち返り、家庭の価値を基本理念に据えた「青少年健全育成基本法」の制定が必要である。

『「青少年健全育成基本法」制定について国への意見書提出を求める請願』(提出先:熊本県議会)より

説明内容としては、青少年の心のよりどころとなるはずの家庭が、昨今の核家族化、母子家庭の増加、地域のつながりの希薄化等の社会環境の著しい変化によって脅かされている。その結果、虐待や家出等が問題になっている。

長洲町議会 令和元年第3回定例会会議録 より
(『家庭教育支援法の制定を求める意見書提出に関する請願』提出者による委員会説明の本会報告より)

上が「熊本ピュアフォーラム」による「青少年健全育成基本法」についての請願書の最後の一文、そして下が「家庭教育支援法」に関する請願について担当者が行った説明* の一部だ。彼らにとってはどちらも《青少年》のための《家庭》の問題であることがわかる。

※ 正確には、「熊本ピュアフォーラム」担当者は請願審査を付託されている委員会で説明をした内容を、その委員会委員長が議会で「提出者からこのような説明がされた」と語ったものの一部。

引用ではなく註釈
杉田水脈 現総務大臣政務官が講演した「熊本ピュアフォーラム」イベントタイトルは
『青少年育成と父母の役割を学ぶ集い』。その開催は彼らの陳情・請願運動の対象が
「家庭教育支援法」へと変化した後だった。 

「家庭教育支援」と「青少年健全育成」はいまだに生きてる話題

長らく実現を熱望していた右派団体などの声にも後押しされるかのように* 、《教育の憲法》** とも呼ばれた教育基本法が《全面改正》*** されたのは2006年のことだった。この《全面改正》で大きく変わった第2条、そこに加わえられた《伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、……》の条文が教科書制作過程などに及ぼした影響はよく知られている。

教育基本法 前文から第2条 新・旧比較表 (文部科学省サイトより) 

※ 日本会議は「新教育基本法」が《全面改正》されたことを讃えながら、《全国各地における大会や街頭キャンペーンの推進、365万人の国会請願署名や37都道県420市区町村での地方議会決議などを促進し、その実現を図って》きた自身らの運動を誇っている。(参照:日本会議『[新教育基本法] 日本の教育が大きく変わります』2009年4月15日

※※ 旧教育基本法支持や改定反対側からのみ《教育の憲法》と呼ばれたのではない。例えば《教育の憲法ともいうべき教育基本法の見直しも私は必要と考えます》と訴えた中曽根弘文参議院議員(1998年12月1日 本会議代表質問)など、改定を望む側もそう呼んでいた。

※※※ 《改正》だけでは「全体の一部分のみを改める」との受け止められかねないため、ここでは伊吹文科大臣も当時の国会答弁(2006年11月28日 参・教育特別委)で使用した《全面改正》を使用する。また内閣が国会に提出した「新教育基本法」議案の冒頭でも《時代の要請にこたえる我が国の教育の基本を確立するため、教育基本法の全部を改正》との説明がされている。

引用ではなく注釈

この教育基本法《全面改正》で新設された第10条の『家庭教育』項目* に依拠する形で推進されてきたのが「家庭教育支援法/条例」だ 。そして、その制定を推進する側からは「家庭教育支援法」と《車の両輪》とも呼ばれているのが「青少年健全育成基本法」である。このような両法の関係は「熊本ピュアフォーラム」の陳情・請願運動の推移、またそこでの主張にも表れているのはすでに見た通りだ。そして「家庭教育支援法」と「青少年健全育成基本法」を推進してきた自民党においても両法の密接な関係は変わらない。

※ 2016年5月28日の全国教育問題協議会の大会において小林正元参議院議員が《教育基本法改正》に取り組む際に、愛国心、家庭教育、宗教的情操の寛容の3点に特に焦点を当てたと語り、また《家庭教育についてだけは納得できる結果になったと語った》との報告(山口智美2016 『日本会議と神社本庁』収)もある。

引用でなく註釈
教育基本法 第10条 新・旧対照表

自民党は教育基本法の《全面改定》以降、「家庭教育支援法」・「青少年健全育成基本法」を成立させるべく、国会への法案提出も何度も行なってきた。ときには新法制定ではなく、既存の法律の《全面改定》で条文と法律名を変えて対応しようとまでしたほどだ。しかし両法どちらの成立もいまだ果たされてはいない。かといって自民党にとってこの両法の話は決して過去の話などではない。

自民党が2021年10月に発表した総合政策集は《詳細な政策を、分野ごとに》記載したものだったが、教育政策の一番最初には次の項目が掲げられている。

674 青少年の健全育成
青少年健全育成のための社会環境の整備を強化するとともに「青少年健全育成基本法(仮称)」 及び「家庭教育支援法(仮称)」を制定します。 またITの発達等による非行や犯罪から青少年を守るための各種施策を推進します。

自由民主党『総合政策集2021 J-ファイル』(2021年10月18日発表) p.111

重点政策のみを掲載したという同年の自民党政策パンフレットでも、『「教育」は国家の基本。 人材力の強化、安全で安心な国、 健康で豊かな地域社会を目指す。』の項には《「家庭教育支援法」の制定に向けた取組みを取組みを推進します。》、《青少年健全育成基本法(仮称)」を制定します。》と謳われていた。

講演会活動に表れる三段構えと、そこに通底するキーワード

「熊本ピュアフォーラム」が力を入れてきたのは陳情・請願運動だけではない。彼らは前身団体設立直後から多数の講演会や勉強会を開催している。同団体サイトの『沿革』でそのイベントテーマや演題を確認すれば、そのほとんどが「青少年健全育成(基本法・条例)」、「家庭教育(支援法・条例))」、「同性婚・パートナーシップ制度・LGBT」にまつわる内容が占めているることがわかる。そしてこれらの話題や主張は独立したものでない。旧統一協会の現在の教団名「世界平和統一家庭連合」を思い起こすまでもなく、それらは「家族」や「家庭」(またそれを規定する「結婚」)というキーワードによって結ばれている。

宗教法人世界平和統一家庭連合の公式サイトです。家庭連合の特色である、「結婚と家庭」の他、死生観や教義、信仰生活についてご紹介しています。

世界平和統一家庭連合公式サイトの説明文 より

そのことを端的に表現しているのが、2022年参院選で「旧統一教会」の支援があったと報じられた井上義行 現参議院議員* による2020年7月2日の街頭選挙演説だ。

選挙期間中の2022年7月6日に行われた旧統一協会系の集会での「井上先生はもうすでに食口(シック=旧統一協会用語で信者のこと)になりました!私も大好きになりましたー!」との紹介音声はメディア上で繰り返し流された。

引用ではなく註釈

この該当演説のなかで井上 現参院議員は、自身の『6つの国づくり』の2つ目、『すべての若者が高度な教育を受けられ、家庭を持てる国』について以下のように語っている。

「私はこの家族がいたから、今こうやって立っています。私はこの家族をしっかりと作るために、私は同性婚には反対!そして、そのための青少年健全育成法〔ママ〕を作ってまいります!そして、どの家庭でもしっかりと家庭が持てるために、家庭教育支援法をしっかりと制定してきます!

井上義行 2022年7月 2日 街頭演説 より(該当発言部:以下の動画の48秒辺りから。太字は筆者)

通りすがりの人にこの演説を聞こえても、おそらくは全く意味不明の言葉にしか聞こえないだろう。しかし動画を見れば、井上 現議員が放つキーワード《同性婚には反対》、《青少年健全育成〔基本〕法》、《家庭教育支援法》に聴衆が反応し、声を上げていることがわかる。

「沿革」に表れた「熊本ピュアフォーラム」と青津和代氏の深い関係

「熊本ピュアフォーラム」サイト掲載の『沿革』によれば、最初のイベントは前身団体設立から間もない2014年7月に開催された第一回『青少年健全育成熊本セミナー』。講師に招かれたのは溝口幸治 熊本県議と、国際勝共連合幹部でもある青津和代 国際青少年問題研究所所長だった。

溝口 熊本県議* は2012年12月に全国で初めて成立した『くまもと家庭教育支援条例』の立役者として条例について語り、青津氏は『子供達を取り巻くネット社会の危険性』 と題して「青少年健全育成」について講演した。

※ 『沿革』によれば溝口幸治 熊本県議も計2度の講演を行っている。

引用ではなく註釈

また青津氏は翌月に行われた第2回セミナーにも招かれ、第1回と同じ演題で講演を行ったという 。さらに青津氏は2016年の一般法人化を祝う『一般社団法人「熊本ピュアフォーラム」設立記念講演会』でも講師をつとめている。

2016/10/23『一般社団法人「熊本ピュアフォーラム」設立記念講演会』で講演する青津和代氏
2016年10月23日の一般社団法人「熊本ピュアフォーラム」設立記念講演会で講演する青津和代氏

さらに「熊本ピュアフォーラム」の『沿革』には、他団体が主催した『阿蘇市青少年健全育成推進大会』への青津氏の登壇が《特別出演》として掲載されている。

これらのことから、「熊本ピュアフォーラム」と津和代氏との間の深い関係を感じるとることができるだろう** 。

※※ 実は熊本ピュアフォーラムサイトの『沿革』に「青津和代」の記載はなく、本文で取り上げた3つの講演はすべて、《講演 「子供達を取り巻くネット社会の危険性」 講師 青木和子氏(家庭力の回復こそ大人の役割)》となっている。しかし『第9回 阿蘇市青少年健全育成推進大会』(2015年2月22日)で行われたのは青津和代氏による同題講演であることが確認できる。このことから同『沿革』の《青木和子》はすべて「青津和代」の誤記、もしくは偽名・本名と判断した。

引用ではなく註釈
2015/2/22『第9回阿蘇市青少年健全育成推進大会』には青津和代氏が登壇(WebTVアソ2015/2/25より)
2015/2/22『第9回阿蘇市青少年健全育成推進大会』には青津和代氏が登壇した。
WebTVアソ2015/2/25より)

「熊本ピュアフォーラム」サイト掲載の請願・陳情リストだけでは見えないもの

「熊本ピュアフォーラム」サイトでは、彼らの長年わたる請願・陳情運動の成果が誇らしげに報告されている。そのリスト(2022年8月現在)によれば
・「青少年健全育成基本法」請願:21自治体採択済
・「家庭教育支援法」請願:4自治体採択済
となっている。

しかし筆者の調べにより、「熊本ピュアフォーラム」サイトの《請願採択済》・《請願提出済》リストにはいくつもの不備があることも判明している。請願ではなく陳情だった例、「熊本ピュアフォーラム」関係者が個人名で提出している例* 、既に採択済みだが《請願提出済》に分類されている例、さらには「熊本ピュアフォーラム」が提出し採択済みにもかかわらず記載自体がされていない例までもある。これらの殆どは記載漏れや更新漏れの類いだと思われる。リストを修正**すると、
・「青少年健全育成基本法」:22採択済(陳情5・請願16・不明1)
・「家庭教育支援法」:6採択済(請願6)
となった。

※ 「熊本ピュアフォーラム」関係者が個人名で陳情提出を行なったが、その数ヶ月前に八代市で採択されたの請願の存在により、議会側に組織的運動との疑念を持たれた事例もある。この事例では、陳情提出者は議会側からの問い合わせに対し、「自身は真の家庭運動推進熊本協議会城北支部の事務局長であり、会員がそれぞれの居住地域などで提出している」などと説明した。

※※ 2022年8月26日現在の筆者収集データを使用。「熊本ピュアフォーラム」関係者の個人名での提出されたものも含む数字。ただし、筆者が詳細を確認できなかった請願・陳情については、「サイト掲載のリストが正しい」と仮定のうえでも数字となっている。

引用でなく註釈

議会に提出される請願と陳情の一番大きな違いは、請願を提出するためにはその議会議員に所属する議員に「紹介議員」になってもらう必要があることだ。

そして「熊本ピュアフォーラム」提出の請願には、溝口幸治 熊本県議が「紹介議員」となった「青少年健全育成基本法」請願* 、今中真之助 宇土市議** が「紹介議員」となった「家庭教育支援法」請願以外にも、「熊本ピュアフォーラム」や「ピースロード」および県平和大使協議会など、「旧統一協会」と関係してきた議員が「紹介議員」となったものがいくつも確認されている。このことから、「旧統一教会」イベントなどで育まれた関係のなかから請願が生まれていくサイクルを想像するのは容易だろう。

※「熊本ピュアフォーラム」サイトの《請願》リストでは、県議会にも《青少年健全育成基本法の制定を求める請願》を提出し《請願採択済み》とされている。溝口幸治 熊本県議らが「紹介議員」となった同名の請願は採択され、溝口議員が《県民の意見を反映した重要な意見書》と呼ぶ意見書も同日に採択されている。筆者はこの請願の提出者を現時点では確認できていない。

※※ 今中真之助 宇土市議は、熊本県平和大使協議会から2018年11月7日『平和大使セミナー』で平和大使に任命され、「ピースロード熊本」のまた同協議会の理事も務めてきた人物。 熊本ピュアフォーラムと杉田水脈氏を繋いだ「杉田水脈 熊本初講演」の実現に深く関わる人物。(詳細は別記事参照)

引用ではなく註釈

また採択された陳情・請願の多くは、本会議での質疑や反対討論も行われないままに委員会判断を満場一致で追認する形、もしくは反対討論が行われたとしても極少数の反対票しかないなかで採択されている。

もちろん「熊本ピュアフォーラム」の陳情・請願のすべてが採択されてきたわけではない。少ないながらも不採択となった事例も見つかっている。そのなかでも長洲町議会議事録には、他議会では見られない、興味深い展開が記録されていた。

2019年。長洲町議会に「熊本ピュアフォーラム」によって『家庭教育支援法の制定を求める意見書提出に関する請願』が提出された。請願を付託された委員会では、数カ月にわたる審査を継続した末に《採択するもの》と決定を下した。しかし後日、その審査経過などを本会議において説明した委員長に対して、1人の議員から、請願の内容や委員会審査についての多くの問題点の指摘がなされた。そしてその後の本会議での採決では、賛否拮抗ながら、請願は不採択となった。

以下、福永栄助 長洲町議(現在、町議会議長)が行った質疑を一部転載する。

そもそもこの法律そのものはないわけですよね。なくて、熊本県には県条例としてこういった形のものがあるという中で、家庭教育支援法を制定しなさいちゅうて国に求めているわけです。その中で、法律がないけども、じゃあ、その中身についてですよ、この児童虐待、深刻さを増しております。これはもう同じ認識ですが、このような状況を一刻も早く解決しなければなりません。この家庭教育支援法を制定すれば、こういった状況は解決できるんですか。そういった内容になっているんですか。

《大体ですね、国会とか国に対してこういうことを求めるのは、恐らく国会だったらば、これはこういう問題だったらですね、与野党一致ですよ。与野党一致で協議する案件なんですよ、これは。ここに書いてある提出先を見れば自民党と公明党でしょう。与党でしょう。法律は、いわゆる議員提案でもできるんですよ。
 だったら、本当に必要だと認めるならば、全国会議員ちゅう形じゃないんですか
。党派じゃないんですか。その中身をもっと、原案とか何とかあればいざ知らず、こうだからつくりなさいって、大変おこがましいし、その家庭教育支援法の内容がわからないのに、私は採択するちゅうことは時期尚早だと思いますが。

福永栄助 2019年9月19日(長洲町議会議事録 令和元年第3回定例会(第1号) より/太字は筆者)

この福永町議の質疑では、上のような請願内容への指摘だけでなく、審査を附託された委員会が請願内容をどのように理解したのかも問うている。この部分も非常に重要だ。福永栄助 町議と浦邊朝章 長洲町議(審査を附託され「採択すべき」と結論を出した建設経済文教常任委員会委員長)とのやりとりの一部を見てほしい。

◯福永栄助議員
〔前略〕もう一つ、途中にあります未来社会の担い手である子どもたちを育成する家庭は、社会と国の基本単位であり、家庭倫理が社会倫理の基盤となっていきます。この社会と国の基本単位ということはどういうことを指すんですか。

◯浦邊朝章議員
  請願者のはっきりしたそこのところは、もうこちらで推測するしかないことですけど、やっぱり今いろんな問題の原因というか、そういうものは全て家庭内のですね、その問題が起因していることが一番大きいんじゃないかと。虐待にしろ、そういう家庭の一つの道徳というか、倫理というかですね、そういうものが欠如しているからそういう現象が起こっているのではないかと、そういうふうにちょっと私たちも感じましたので、一応そういうものをつくって、国全体で取り組む必要があるんじゃないかということで、これを一応採択ということで決めたところであります。

◯福永栄助議員
 今現在は家庭に問題があるからさまざまな事が起こっておると。私がお尋ねしてるのは、この家庭教育支援法の中身を知らないからお尋ねしているんであって、その中で社会と国の基本単位というのはどういう意味ですか。子どもたちを育成ちゅうか、育て上げる家庭は社会と国の基本単位、単位ちゅうとは、いろんなはかりがあるんだと思いますけども、この社会と国の基本単位であるということのこの意味合いは何ですか

◯浦邊朝章議員
  私たちが考えたのはですね、家庭というのがやっぱり最小限の一つの単位じゃないかと。それが集まって社会ができ、国ができているのではないかと思いますので、一つの基本的なところをしっかり改めてつくり直す必要があるというか、そういうのに支援する必要があると、そういう意味合いじゃないかなと思っております。

福永栄助・浦邊朝章 2019年9月19日
長洲町議会議事録 令和元年第3回定例会(第1号)より/太字は筆者

ここで委員長が語っているのは、読み手側が《こちらで推測する》とか《そういう意味合いじゃないかな》と考えるような「理解」と、「自分もなんとなくそう思う」といった類の「賛同」だ。先に紹介した各地方議会での採択の状況からも、多くの採択はそのような「理解」や「賛同」に支えられていたのではないか。

そして「青少年健全育成基本法」や「家庭教育支援法」についての陳情・請願は、熊本以外にも全国各地で行われている。そしてそのなかで「熊本ピュアフォーラム」と同じように、旧統一協会関連団体やその関係者による陳情・請願だと確認された例はいくつもある。

そういった例を見る前に、まずは島根での陳情・請願運動とそこに広がる「草の根」運動の一端を紹介しよう。

島根で確認された「旧統一協会」による陳情・請願運動

2009年7月、島根人格教育協議会なる団体が設立された。設立当時の会長には倉井毅 元島根県議会議員、副会長に青戸良臣 賣布神社宮司ら。また世話人には細田博之 衆議院議長の親族で、細田 衆院議長の父である細田吉蔵の初当選以来《60年以降、父子2代計21回の衆院選を支えた》(朝日新聞2021年11月11日)と言われる地元大物政治家の細田重雄 島根県議会議員らが名を連ねている。この細田 島根県議は日韓トンネル推進島根県民会議の議長、島根県平和大使協議会の議長など、旧統一教会関連団体の島根県支部のトップをつとめてきた人物でもある。

そして人格教育協議会もまた平和大使協議会系列の団体だ。堀展賢 世界平和教授アカデミー事務総長は、2014年に開催された北海道人格協議会設立総会の基調講演において、人格教育協議会の目的を《霊性人格教育・純潔教育を実践すること》だと説明したという。

各地の人格教育協議会のなかでも最も早く設立された島根人格教育協議会は毎年開催する『島根人格教育シンポジウム』、『島根人格教育フェスティバル』をはじめ活発に活動している。それらのイベントは地元の全日教系教職員団体とともに、自治体、地元教育委員会、地元メディアなどが後援。また県教育庁課長、現役教育長ら県内の教育関係者、さらには大学関係者、地方議員らが参加してきた。

そして設立から14年が過ぎた現在、役員が連れ立って知事室を訪問するほどの存在感を示している。現在は会長に元島根県教育長、副会長に吉田雅紀 島根県議と元小学校教諭、事務局長には県平和大使協議会事務局長などもつとめてきた吉岡登 国際勝共連合島根県本部代表が就任している。

同協議会の初代会長だった倉井毅 元県議は、《島根人格教育協議会 会長》の肩書きで県下各地の地方議会に対して、2010年には『「選択的夫婦別姓を認める民法の一部改正」に反対を求める意見書提出に関する請願』や同内容の陳情を、2013年には『青少年健全育成基本法の制定を求める意見書に関する請願』を提出してきたことが確認されている。

また同協議会の世話人でもあった細田重雄 県議は、旧統一協会関連団体であるアジアと日本の平和と安全を守る島根フォーラム* の会長として、「緊急事態基本法」に関する意見書提出の請願を県下各地の地方議会に対して行ってきた。

※ 上部組織は、アジアと日本の平和と安全を守る全国フォーラム。全国各地で「緊急事態基本法」意見書提出の請願活動を行なってきた。同団体サイトによれば、《2017年12月現在》で意見書採択256(県議会25、市区町村議会231) に及ぶという。ただしこのリストには2011年以降のものしか含まれないため、細田重雄 島根県議が行った2007年の請願は含まれていない。

引用ではなく註釈

全くの余談だが、倉井 元県議は、2020年2月の『島根県議会において平成25年6月26日付で決議された"日本軍「慰安婦」問題への誠実な対応を求める意見書”の撤回決議を求める請願』の提出者には《日本会議島根会長》として名を連ねている。この請願は作家の豊田有恒氏と、画家の野々村直通氏の両名によって2014年12月から始まったもので、何度不採択となっても繰り返し提出するタイプの請願運動だ。倉井 元県議の初参加となった2020年2月提出分から数えても、既に10回の提出が行われている。しかしなによりこの請願運動の特徴といえるのは提出される毎に長くなっていく請願名にある。執筆時点で最新の2022年5月提出分の請願名は以下の通り。繰り返しになるがこれは請願の本文ではなく、請願のタイトルだ。

『島根県議会において平成25年6月26日付で決議された"日本軍「慰安婦」問題への誠実な対応を求める請願"並びに、これを基にして政府に出された意見書(文中では「当該意見書」と記します)は事実無根の強制連行を認めるものです。これらの趣旨は戦没者の方々を冒とくし、未来の子どもたちに根拠なき憎悪をもたらすものであり、絶対に認められるものではありません。また韓国側は、島根県による「竹島の日制定」を「第二の侵略」「大韓民国の独立を否定する行為」と捉え、竹島問題と慰安婦問題を一体化させ、国際社会における我が国の地位を貶めています。このことは我が国固有の領土である竹島の領有権が、韓国側にあるかのように国際世論を誤認させるために看過できない力を発揮しています。従いまして平成25年6月26日付で決議された"日本軍「慰安婦」問題への誠実な対応を求める請願"並びに、これを基にして政府に出された意見書を無効とする決議を求めます。』

島根県議会に2022年5月25日に提出され、同年6月26日には不採択となった請願タイトル
(提出者:島根県立大学名誉教授 豊田有恒、日本会議島根会長 倉井毅、画家・教育評論家 野々村直通)


では続いて、「熊本ピュアフォーラム」とおなじ「家庭教育支援法」に関する陳情・請願を行なっていた神奈川県下での「草の根」運動を見てみよう。

神奈川で確認された「旧統一協会」による請願運動

神奈川県では2017年、大学教授らを会長・副会長に迎えて神奈川人格教育協議会が発足している。

設立当初の役員名簿には、理事や顧問に小林正 元参議院議員、石川将誠 相模原市議、高木吉勝 南足柄市議、国松誠 神奈川県議、横山正人 横浜市議、松原成文 川崎市議といった地方議員の名前とともに、公立小学校教諭などの教育関係者が含まれていた。事務局長には神奈川県平和大使協議会の事務局長でもある、武者宗悦氏が就任。この武者氏は国際勝共連合神奈川県本部の代表もつとめる人物だ。また事務局次長の二人には、旧統一協会関連団体である世界平和アカデミー神奈川支局事務局の肩書きがついていた。

翌2018年、家庭教育を推進する会なる団体から、神奈川県下各地の地方議会に対して『家庭教育支援法の制定を求める意見書に関する陳情』が提出された。その数は確認されただけでも10以上。提出不明の同名陳情も含めれば、その数はさらに大きくなる。そしてこの家庭教育を推進する会の代表と事務局担当が、神奈川人格教育協議会の会長と事務局長であることが確認されている。

2018年に神奈川県下の地方議会に「家庭教育支援法」についての陳情・請願を出していたのは旧統一協会関連団体関係者であることを示す画像
2018年に神奈川県下の地方議会に「家庭教育支援法」についての陳情・請願を提出していたのは
旧統一協会関連団体関係者であった。陳情・請願は11ほど確認されたが総数は不明だ。

その他の地方と、その手のやり方

他にも「旧統一教会」関係者による「青少年育成基本法」や「家庭教支援法」についての陳情・請願は、長野、栃木、長崎など多くの地域で確認されている。また国会議員を介した国会への請願でも見つかっている。さらに、「旧統一教会」の関わりが確認されていなくとも、それらと同じ文面・共通の言い回しの使用から雛形やテンプレートの存在を想起させるものも含めれば、その数はさらに多くなるのだ。

【関連記事】‬

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?