入社前の産休申請

大阪府立病院機構・大阪急性期・総合医療センターに内定していた女性医師が、就業前に産休申請をした件が物議をかもしている。

1日も勤務していない状態で産休申請をしたことについて批判が集まる一方で、産休に難色を示したセンター側職員に対しては、マタハラにあたるとして(懲戒ではない)厳重注意がなされたという。
件の女性医師は内定を辞退したそうだ。

センターの対応を含め、批判の根底にあるのは「産休の前提として、企業への相応の貢献があるべき」という考えがあるようだ。
筋は通っているように見えるが、私はこの考えには賛同できない

「新米社員の産休」と「ベテラン社員の産休」、どちらが業務への影響が大きいかは考えるまでもないだろう。
いつかは取られる産休ならば、早いうちに済ませてもらったほうが企業側にとって都合がよいのだ。

「ベテラン社員の産休」が一般化すれば、女性はキャリアを寸断されることになるし、企業は女性社員を重要なポストに起用しづらくなる。
これは企業にとっても不利益になるし、女性の社会進出にとって大きな障害となるはずだ。

また、流産や障害児出生の発生率が非常に低く、女性が最も安心して出産に臨める年齢が18~25歳くらいだ。
産休を取る前にある程度の実績を積むことが求められる状況では、身体が最も出産に適した時期を逸してしまう。

「産休の前提として、企業への相応の貢献があるべき」という考えは、産休の業務への影響を増大させ、女性の社会進出を阻害し、晩婚化と出産年齢の高齢化を加速し、不妊や障害児出生に悩む夫婦を増やすなど、実にデメリットが大きい
産休が原則として無給であることを知らず、有給休暇と混同して反発しているケースもあるようなので、そのあたりの周知も必要だろう。
若い女性が安心して産休を取れる環境づくりが大切だ。


さて、今回のような、内定後入社前の産休申請となるとどうだろう?
一度も勤務することなくいきなり産休に入るというのは、確かに印象は悪い。
ただ、これについては背景にある社会の状況についても考えたほうがいいだろう。

女性の身体的出産適齢期は、大学生から社会人最初の数年にかけてである。
海外では大学生で出産することは多いようだが、日本では一般的とは言えず、かなりハードルが高い。
かといって入社早々に産休を取るのも、周囲の反感を買いやすい上、産休明けに改めて仕事を覚えなおすのも効率が悪い。

ならば卒業後すぐに出産し、子育てが一段落してから改めて就職するのはどうだろうか?
一生分の出産を終えるためには、3回としても5年くらいはかかるだろう。
その間ずっと無職・無就学というわけにも行かないし、女性の人生設計をかなり縛ることになってしまう。
また、いわゆる「新卒カード」が使えなくなる上、実務経験なしでは就職活動はかなり難しくなる。
とすると、この案も現実的ではない。

こういった条件を並べてみると、内定を取って就職先を確保した上で、すぐに産休に入るというのは、現状においてはベターな選択であるように思える。
件の女性医師を「無責任」と批判する声も多いようだが、もしかしたらいろいろ考えた上での決断だったのかもしれない。


若い女性の妊娠・出産はめでたいことのはずだ。
素直に慶び、歓迎できる世の中でありたい。

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