食べられるビニール

日本財団と環境省が共催する「海ごみゼロアワード」で、伊那食品工業株式会社の「食べられるフィルム」が審査員特別賞を受賞したという。
寒天を利用しており、お湯に溶けるため、カップめんのかやく・調味料入れなどに最適だということだ。

昨今、注目を集めている海洋プラスチック汚染問題への対策の1つとして期待できそうだ。
鯨やカメがビニール袋を腹に詰まらせて死んでしまう例が少しでも減ってくれればと思う。

プラスチック汚染は人間にとっても他人事ではない。
世界自然保護基金(WWF)の委託により豪ニューカッスル大学が実施した調査によると、人間の飲料水や食料にもプラスチック汚染の影響が出ており、私たちは毎週約5g(クレジットカード1枚相当)のプラスチックを食べているというのだ。

すべてのゴミが確実に、一切の漏れなく回収され、適切に処理されるのであればよいのだが、現実はどうだろうか?
わざわざ海まで確認に出かけるまでもなく、街を歩けばタバコを中心にポイ捨てゴミがそこかしこに散乱している。
仮にすべての人間がルールを守る意思を持っていたとしても、間違えることは有り得る。
事故や天災によってばら撒かれることもある。
ゴミを100%、一切の漏れなく回収することは不可能だと考えておかねばならない。

そして、自然界に漏出したゴミはどうなるだろう?
木材やコットンなどの自然素材であれば、分解されて土に還るはずだ。
しかし、自然に分解されない化学物質だったらどうだろう?
当然、自然界に蓄積されていくことになる。
漏出する量がほんの少しであったとしても、それが蓄積されていく以上、許容量を超えるのは時間の問題でしかない。
従って、自然界で分解できない物質の漏出は、限りなくゼロに近いものでなくてはならないのだ。

しかし、漏出をゼロにすることは、前述のとおり不可能と考えたほうがよいだろう。
そこで重要になってくるのが生分解性である。
自然界で分解可能で、プラスチックやビニールのように使える素材であれば、多少の漏出は許容できるのだ。

生分解性素材の開発の必要性が叫ばれ始めたのはここ最近の話ではない。
例えば、1982年連載開始の「風の谷のナウシカ」は、(アニメでは語られていないが)非生分解性の汚染物質が蓄積された近未来の地球が舞台となっている。
私も「自然界で分解可能なプラスチック様素材の開発が急務である」などと、小学校の弁論大会で発表した記憶がある。

あれから数十年経ち、近年になって生分解性素材の開発はいろいろと具体化してきているようだ。
「食べられるビニール」で検索すると、トウモロコシなどを使ったEnviGreen社、ノリを使ったEvoware社、キャッサバイモを使ったAvani社などが出てくる。
今回の伊那食品工業株式会社の「食べられるフィルム」も、そんなムーブメントの一部なのだろう。

イカの軟骨やエビの殻の分子構造を化学的に再現して、プラスチックの代用とする研究も進んでいるときく。
長期保存には向かないのだろうが、数日で使い捨てるコンビニ弁当やスーパーのお惣菜、喫茶店のストロー辺りには十分使えるのではないだろうか?
それらをすべて生分解性素材に換えることができれば、かなりのプラスチックゴミが減らせるはずだ。

私は研究者でもないし、外食産業関係者でもないので直接この動きに参加することはできない。
しかし、エビの殻でできた箱で弁当を売る店が出てきたら、弁当を買うときはできるだけそこを選ぶようにしようと思う。

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