「うっせぇわ」聴いてみた

最近「うっせぇわ」なるものへの批判的なコメントが散見されるようになった。どうやらYOUTUBEでも聴ける歌らしいのできいてみた。

なかなか耳に残るメロディーで、しばらくは脳内再生が続いてしまった。
ボーカルはけっこう好きな系統かもしれない。

歌詞の形式としては「新社会人1~2年生辺りの愚痴」だろうか。
歌詞自体が直接のメッセージというより「お勉強はできたけど仕事はできないがプライドだけは高い」タイプの人間を揶揄する内容に見えなくもない。

さて、ネットで散見された批判は主に「子供が真似するので聞かせたくない」「社会批判風の曲調の割りに具体的な不満の内容がちゃち」というもののようだ。

曲中の不満の内容について

批判の多かった曲中の不満の内容だが、一見するとちゃちと言えなくもないが、よくよく読んでみるとそうでもないのかな、と思えてきた。

1番では要求される情報収集に関する不満が出てくる。
主な経済ニュースや、関連業界のニュースとトレンドのチェックは社会人として当然要求される内容ではあるだろう。
ただ、それも内容や要求されるレベルによっては「勤務時間中にやらせてくれ」とか「情報集約の担当者をつけて社内報で回してくれ」とか言いたくなることもあるかもしれない。
また、営業には世間話も必要とか言われてスポーツや芸能のニュースもチェックしたり、流行の音楽やドラマ、映画、アニメを視聴したり、有名な書籍を読んだり、ってことになると、時間はいくらあっても足りなくなる。

業務にかかわる情報収集は当然やるべきことではあるのだが、要求されるレベルや範囲、会社側の体制や姿勢によっては不満も生じうるところだ。
曲中では「社会人じゃ当然のルール」と押し付けられているようなので、「こんなこともチェックしてないのか!」としばしば叱責され、(少なくとも主人公的には)過度の負担を強いられている状況と読み取れる。

2番では飲み会ルールに関する不満が出てくる。
3つのルールが「不文律最低限のマナー」として出てくるのだが、どれも賛否の分かれそうな内容だ。

1つ目は空いたグラスがあればすぐに注げ、というもの。
これはアルハラに繋がりかねない行為だし、「1杯目は付き合いでビールにしたけど、2杯目以降は好きなものを頼みたい」という人もいるだろう。
これは必ずしも歓迎される行為ではない。

2つ目は串焼きの串を外せ、というもの。
これも好き嫌いが分かれる行為だ。

3つ目は会計で先陣を切れ、というもの。
これは言ったことも言われたこともないので分からない。
仕事関係の飲みであれば、上司や先輩が払いを持つか、幹事がいて集金をするのが一般的ではないだろうか?
新人が先に支払いをしてしまうと、上司or先輩が「いや、ここは俺がもつから」となったら二度手間だし、端数切り上げになって地味に負担が増すし、カードとか使えなくて面倒だ。
「上司or先輩が会計をすると「割り勘ね」といいづらくなるから、先に新人が立て替えて割り勘に持っていけ」ということだろうか?

不満の焦点はどこにあるのか?

前項で述べたとおり、不満の中で紹介された要求は普遍的なルールとは言い難いものである。
にも拘らず、「当然のルール」「最低限のマナー」と押し付けられている。

「串焼きの串、外しといてくれる?」と言われれば素直に外そうという気にもなれるが、「常識でしょ!言われる前にやりなさいよ」みたいな調子で言われれば「うっせぇわ!ローカルルールを勝手に一般化してんじゃねぇよ、阿呆」と思ってしまっても不自然はない。

ローカルルールや自分の思い込みを「常識」として押し付けてくる上司や先輩に遭遇した経験があるひとは少なくないだろう。
また、近年は「失礼クリエイター」とも揶揄される一部の自称「マナー講師」たちにより、珍妙なルールやマナーが流布されることも多い。

単に「串焼きの串を外すのが面倒」ということではなく、上記のような人物への対応や理由も存在すらも判然としない不文律への対応が面倒、ということと考えられる。

曲の概観

冒頭で述べたような「お勉強はできたけど仕事はできないがプライドだけは高い」タイプの人間に対する揶揄、という側面もあるにはあるのだろう。

しかし、不満の内容は共感できる部分も多い。
また、「俗に言う天才」という表現は自虐的でもあり、単なるナルシシズムというわけでもなさそうだ。
MV内で主人公は言葉の銃弾を撃ちまくるのだが、最後に自分の眉間に照準レーザーが当たっている演出にも自虐的な意図が読み取れる。

決して器用でも清廉でもない人間が、不条理なルールを押し付ける社会に不満をかかえつつも、それを噛み潰し、時に目を逸らしなら生きている、そんな主人公の心の叫び、と言ったところではないだろうか?

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「うっせぇわ」はボーカルのAdoさんのYouTubeチャンネルで視聴できる。
いくつかきいた感じでは、ちょっと病んだ感じの曲が多いだろうか。
好き嫌いの分かれそうな歌い手さんではあるが、私はけっこう好きかも。


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