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一日限りの「ゼルダの伝説 スカイウォードソード」演奏会 空オケに訊く #1 運営と編曲者 篇

先日、Twitterの“ゼルダの伝説”トピックにおいて、以下のツイートが話題になりました

「ゼルダの伝説」といえば、任天堂の名作ゲームシリーズ。ストーリーやゲームシステムはもちろん、ゲーム音楽が素晴らしいことでも非常に高い評価を得ています。

直近では株式会社ハル研究所主催により「30周年記念カービィミュージックフェス」が開催されるなど、公式公演も多くなったゲーム音楽。しかし、上記のツイートで取り上げられているゼルダ伝説の演奏会は、有志による非公式のアマチュア公演です。

本公演の該当タイトルは2011年にWiiで発売、2021年にswitchでHDリマスター版が発売された「ゼルダの伝説 スカイウォードソード」(通称:スカウォ)。ストーリーやゲームシステムには「これまでのゼルダらしさ」を凝縮・昇華させた一方で、音楽面では初めて全編通してオーケストラを中心に制作された名作タイトルです。

そんな壮大なタイトルのオーケストラ公演を、入場料無料で聴ける……!?

一体どのような経緯でこの企画が生まれ、そして「空オケ」と名付けられたオーケストラ団体が誕生したのか。

今回の演奏会に懸ける想いも含めて、空オケ運営兼編曲者の吉岡竜汰さん(@ryuchan_GGWL)と空オケ運営のあいらさん(@NOTSWOJECNAILLA)ご夫婦に伺いました。

吉岡 竜汰
東京都出身。
幼少の頃よりゲームで遊ぶ母や叔父たちを見て育ち、自身も大のゲーム好きに。中学生のころ、同年代の人が作った吹奏楽曲を聞いて、「自分にも作曲できるんじゃね?」と勘違いスイッチが入り作曲に興味を持つ。昭和音楽大学作曲学科作曲コース卒。在学中より作品発表や編曲などを行い、音楽制作会社のアシスタントを経て現在はフリーランスの作編曲家・サウンドクリエイターとして活動中。
好きなハーゲンダッツはマカダミアナッツ。
あいら
酒場突入の人。
小・中学生時代の吹奏楽部の経験から音楽の楽しさを知る。高校生になり「金管・木管は経験したから、あとは弦楽器♪」というノリでヴァイオリンをはじめ、以来すっかりその魅力にハマる。
2016年頃からゲーム音楽を扱うオーケストラでの演奏活動ひっそりと開始し、2021年頃から〈ぼくのかんがえたさいきょうのゼルダコンサート〉を妄想していたら気づけばこんなところまで来てしまった…

そもそも「空オケ」とは?

——まずは、空オケについて簡単に教えていただけますか?

吉岡竜汰さん(以下:竜さん):一回限りのオーケストラ団体として有志で集まり、「ゼルダの伝説 スカイウォードソード」の曲に焦点を当てた演奏会を今回限りで実施する、それが空オケという企画です。

有志として集まったメンバーはコーラス隊も含めて92名。普通のクラシックの演奏会と同じように、相模女子大学グリーンホール(相模原市)をお借りして10月2日(日)に開催されます。

他の多くのゲーム音楽アマチュアオケもそうなのですが、常設団体を立ち上げるための企画ではないため、基本的にオケも演奏会も何もかもが一回限り。その回を逃したら、もう二度と同じ曲目、同じ編成、同じコンセプトのオーケストラを生で聴くことができないんです。だから今回もできるだけ多くの人に来ていただきたいと思っています。

今後もしかしたら、僕たちが再びオケを企画する、ということはあるかもしれませんが、それは今回の空オケとはまったく異なる文脈になると思いますね。

ハープを交えた練習の様子 空オケ公式Twitter(@Skyloft_orche)より

“やってみたいこと”を話したときに「魂を込められるゲーム音楽を編曲して、オケを立ち上げるところから始めたら?」と言われて……

——たとえ一回限りだとしても、実際にオーケストラを立ち上げて演奏会を実施するまでに至った経緯を知りたいです。

竜さん「自分が作曲した曲をオーケストラに演奏してもらいたいな〜」なんて、漠然と思ってた時期がありました。かといっていざそれを自分で実現しようとすると、途方もないお金が掛かってしまう。どうしたらいいかな?みたいなことを、あいらさんに雑談がてらお話ししたことがあって。

そのときに「ゲーム音楽を編曲して、アマチュアオケを立ち上げるところから始めてみれば?」って言われたんです。

僕は当時ゲーム音楽のアマオケと全く関わりがなかったので、「はぁ、そういうのもあるのかぁ」って感じで聞いていました。そしたら……。

あいらさん:私から「あなたの魂を込められる作品はなんなのよ」って聞いて(笑)

竜さん:当初考えていたような自分のオリジナル曲ではないですが、自分が編曲した曲をオーケストラに実際に演奏してもらうのはものすごく勉強になる。だからそういうのもありかなって思ったんです。

それに、当時遊んでいたゲームをオケで演奏する、なんてロマンがある話じゃないですか。

で、魂を込められるのはスカウォだ!って思って、そこから話がどんどん進んでいきました。

——素敵な話ですね!でも、竜さんはもともとゲーム音楽のアマオケと関わりがなかったということなので、それでも大変な道のりのように思えるのですが……。

竜さん:いや、本当に大変でした。

オケを立ち上げるには信用とか、参加してもらえそうな方周辺での知名度が重要なんです。ゲーム音楽のアマオケにたびたび参加していたあいらさんはともかく、僕は誰からも知られていないのでこのままじゃ人は集まらないぞ、と。

だから最初は演奏会という形ではなく、2021年の7月頃に「スカウォの曲をオケで演奏する一日オフ会」という形で人を集めました。

そこでまず僕のことを知ってもらって、参加者の方々に運営に対する良い印象、もっと言えば信頼を持ってもらいたいという気持ちがありました。

あいらさん:もちろん竜さんの顔を売るというのもオフ会の意義としてはあったんですけど、「竜さんの編曲した曲を演奏する機会さえあれば、絶対にみんな気に入ってくれる!」と私は思っていたので、オフ会を開催できた時点で大丈夫だなって。

竜さん:オフ会では編曲の方向性を示すことができたし、逆に当時参加していただいた方の演奏の雰囲気や得意な部分も見ることができたので、それが今の空オケにも繋がっていると思います。

“ゲームの追体験をする”をコンセプトに掲げて、ただひたすらに進んでいった。

——今回の演奏会の編曲は全て竜さんが担当されたと伺っています。曲数も多いと思うのですが、編曲にはどれくらいの期間を要したのでしょうか?

竜さん:オフ会があったのが去年の7月で、そこからオケの初回練習までに間に合わせようと頑張って書き上げたのが今年の4月なので、半年以上かかってますね。

また演奏会用に楽譜を仕上げるにあたって、ゲームの追体験ができるような構成にしたい気持ちが強かったために、曲の順番も悩みました。例えば、「この曲は進行上2つの場面で使われてるけど、どっちに配置すればより印象的になるんだろう?」といった感じで。

——半年以上もかかっているんですね。曲数を減らすことなどは考えなかったのでしょうか?

竜さん:実はこれでも当初想定したものから、諸事情で泣く泣く削った曲もいくつかはあります。ただ、自分の中で「ゲームを追体験する」という意識が強かったので、一度プログラムを固めてから削った曲はありません。

そして何度も言うように、自分が企画するスカウォの演奏会は今回限りという認識なので。やりたいこと全部詰め込もう!という感じで突き進みました

——「ゲームの追体験」というワードがたびたび出てきますが、今回の演奏会において重要な要素を占めているのでしょうか?

竜さん:そうですね。それには、今回の演奏会の副題である『Episode of Master』が深く関わっています。

この『Episode of Master』の『Master』は、もちろんスカウォで誕生秘話が描かれるマスターソードのことを指しているんですけど、それと同時にスカイウォードソードの精霊・ファイに「マスター」と呼ばれるリンクのことも指している。

そして、リンクはプレイヤー自身の分身でもあるから、「マスター」はプレイした自分自身のことも指している。

あいらさん:『Episode of Master』には、「ゼルダの伝説 スカイウォードソード」はゲームの中だけで展開される物語じゃない。ゲームをプレイした思い出を含めた「あなたの物語」なんだよって意味が含まれているんです。

竜さん:それを今回の演奏会でオケとともに感じてほしい。そういう想いを込めて副題をつけました。

 空オケ公式Twitter(@Skyloft_orche)より

スカウォは「はじまりの物語」なので、ゼルダの伝説の流れや歴史を大切したい。

——空オケにかける想いがアツすぎますね。どの編曲にも相当力が入っていると思うのですが、特に思い入れのある曲はありますか?

竜さん:全部好きなんですけど、とりあえず現状アナウンスしている曲の中から紹介しますね。

まずは「空の大精霊 ナリシャとの戦い」。僕自身、そもそもこの戦いがゲームの中でめちゃくちゃ好きなんですよ。魔物に取り憑かれた大精霊を相手に戦うっていうシチュエーションもそうなんですけど、スカウォの中にあるほぼ唯一の空中戦っていうのがいいですね。

スカウォって空を自由に移動できるのに、空中戦が多くないのがもったいない!ってずっと思っていたんです。スカウォの前に出たトワイライトプリンセスとかは、騎馬戦がピックアップされてるのに、スカウォは空中戦があまり多くない。

だから、ロフトバードと一緒に戦えるナリシャ戦はとにかくテンションが上がりましたし、音楽も最高に格好いいじゃん!ってなりました。でもナリシャ戦の原曲って、実は生オケじゃなくて打ち込みなんです。

僕自身は絶対この曲は生オケのほうが格好いいだろ!ってプレイ当時から思っていて(笑)。だからこそ「自分ならこういうオケにするぞ!」という想いを存分にぶつけました。一番最初に編曲に着手した曲でもあります。

——確かにスカウォは空中メインかと思いきや、戦闘では空中戦はそこまでピックアップされていないですよね。他にも力を入れた曲はありますか?

竜さん:あとは「ギラヒムとの戦い」ですかね。

「何を食べたらこんなに天才的な曲が生まれるんだ?」って、初めてゲーム内で聴いたときに衝撃を受けました。

ギラヒムのキャラクター性が非常によく出ている曲で、彼の性質である「傲慢不遜」「大胆不敵」がそのまま表現されている。ゲーム内ではバトル曲なんですが、音楽の部類としては「舞曲」だと思っています。

そういう踊るようなニュアンスを含んだ曲なのも、彼のキャラクター性にものすごくマッチしているし、彼を音楽にするならまさにこの曲!という感じですよね。とにかく格好良いし完成度が非常に高い。

こんな名曲をせっかく編曲するなら、ちゃんとした形に残したいと思いました。なので、この曲はアレンジせず、耳で聴いたそのままを楽譜に落とし込んだ感じですね。

——みんな大好きギラヒム様ですね! この曲を楽しみにされている方も多いのではないでしょうか。これまでの話を聞くと、割と原曲を再現するように編曲されている印象を受けるのですが、全編通してそうなのでしょうか?

竜さん:基本はそうです。アコースティック楽器中心の楽曲が多いので、オケにするにしてもその雰囲気を損なってはいけないと思っています。

ただ、ネタバレになるので詳しくは言えないのですが、原曲の雰囲気を最大限に活かしつつも、ゼルダのエッセンスを詰め込んだ編曲になっている曲もあります。

でも編曲でアレンジをする際には、無闇にゼルダの有名なフレーズを詰め込むような真似はしたくない気持ちがありました。そこにはハイラルの流れや歴史を存在させたいと思っています。

スカウォがゼルダの伝説の「はじまりの物語」だからこそ、後々のゼルダの伝説との繋がりを大切にしたかった。「もしかして…」と思ってくれたら、それだけで嬉しいです。

楽譜の装飾にも気を配っている 空オケ公式Twitter(@Skyloft_orche)より

 聴きに来てくれた人はもちろんのこと、奏者も満足できる演奏会に。

——基本は原曲を再現しつつも、往年のゼルダファンをニヤリとさせる仕掛けもある、ということですね。もしかしたら、スカウォ以外の曲が聞けちゃうなんてことも?

あいらさん:現時点では、あるかもしれない、とだけ言わせてください(笑)

ひとつだけ言えるとすれば、当日はプレコンサートもあるのでぜひそちらも聴いていただきたい、ということです。現在開演前に4組のプレコンサートを予定していて、開場の20分後である14時5分から最初のプレコンサートが開催される予定です。聴いて損はない曲目となっていますので、早めにお越しいただけると、その分ニヤリとできるかもしれません。

——楽しみですね。私、演奏会のチラシを見たときにスカウォへの深い愛を感じて胸がいっぱいになったのですが、やはりこちらにもこだわりがあるのでしょうか?

あいらさん:チラシについてはロゴデザインも担当し、空オケでもトランペットを担当されている桜林さん(@41Onok)に依頼して描いていただいています。

実は、運営側から何か細かい指示をしたというわけではないんです。デザインに関して我々は詳しくないので、プロである桜林さんに任せました。通称が空オケなので、「青基調がいいね」とか「水彩画調がいいね」みたいなレベルの話しかしていません。

竜さん:桜林さんがスカウォの世界観を大切に扱ってくださっているので、あがってくるラフを見るたびに「最高です!」しか言えなかったです。お任せして本当に良かったなって思います。

——最後に、演奏会へ来てくださる皆様へ向けてひと言お願いできますか?

竜さん:やはりゼルダを扱うからには、演奏会にも“ギミック”が必要不可欠だと思っています。聴きにきてくださった方々へはもちろんですけど、我々の企画に応募してくださった奏者の方々も満足できたり、驚いたりできる演奏会にしたいと考えています。お楽しみに!

あいらさん:チラシだけでなくパンフレットにもこだわっているので、それらを持って帰れるカバンやリュックもお忘れなく。スカウォに対する想いや編曲の意図などを綴っていて、とんでもない厚さになっていますので(笑)。来てくださった皆様の想い出として、お土産に持って帰っていただければ幸いです。

——演奏会まで残り二週間!準備などでお忙しいなか、貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。

空オケのチケットはなんと残りわずかとのこと!気になる方はお早めにご予約ください。
ご予約はこちらから:teket.jp/1730/8666
(2022.09.25 追記)
現在車椅子席を除いて完売しています。

「空オケに訊く #2 指揮者 篇」はこちら


スカイロフトオーケストラ演奏会 - Episode of Master -
2022年10月2日(日) 
開場: 13:45 / 開演: 14:30 / 終演: 18:30
相模女子大学グリーンホール 大ホール
全席指定・入場無料

公式ハッシュタグ:#空オケ
チケット情報:teket.jp/1730/8666


空オケの最新情報はこちら!

ライター:宮本デン



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