「あたし、魂を殺しちゃった」

「あたし、魂を殺しちゃった」
そう、少女は呟いた。

高橋源一郎さんが、どうして少女を憎んだのか———僕はおそらくそれを知ってる。

人間はおそらく、他人に対してどこまでも無関心になれる。どこまでも、どこまでも、際限なく、だ。

反論するかい?虚しいだけだよ?
だって現に、全人類を滅ぼせるだけの原水爆が、この星にはある。
原発があり、大量破壊兵器があり、合成洗剤があり、遺伝子組み換え作物があり、抗ガン剤があり、覚せい剤があり、室外機があり、コンクリートとアスファルトがあり、スマートフォンがあり、憲法9条がある。

他人にほんの少しでも関心があったなら、そんなもの持てない。あるいは、持つ必要が無い。そうだろう?

この世界で心穏やかに生きていくためには、一刻も早く魂を殺さなければならない。そんなものが息づいていたら、いちいち辛くて、悲しくて、とても生きていけないのだ。

使用済みとなった魂からはプルトニウムが取り出され、再処理されてMOX燃料になり、そうしてまた原子炉へと戻される。
不安定な放射性物質を大量に放出し、最終的な処理方法については一顧だにすることもなく、今日も僕らは魂を殺し続けている。

僕らの手はすでに、取り返しのつかないほどに汚れている。生きた魂を持った人間など、憎悪の対象でしかないのだ。

死者と生きる未来(高橋源一郎)
http://politas.jp/features/8/article/452

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