通史日本史 第一巻 第一章 日本列島に住み始めた人々

〇恐竜時代・白亜紀(昼)
地上を闊歩するティラノサウルスやトリケラトプス。
N「今から六千五百五十万年前、中生代白亜紀。昼間の地上は、ティラノサウルスをはじめ
とする恐竜たちの世界であったが」

〇恐竜時代・白亜紀(夜)
木や草の影を機敏に動き回る、ネズミのような生物たち。
N「夜の闇を、我々哺乳類の祖先たちはすでに駆け回りはじめていた」
足を止め、空を見上げるネズミのような生物。
巨大な流星が、空を覆い尽くしていく。

〇大衝突
N「白亜紀末期、現在のメキシコ・ユカタン半島に衝突した巨大隕石により、恐竜は大絶滅し
哺乳類のほとんども絶滅したが」

〇地中から顔を出す「Protungulatum donnae(プロトゥンギュレイタム・ダネー)」
※ネズミのような生物
N「現在の哺乳類の祖先に当たる「Protungulatum donnae(プロトゥンギュレイタム・ダネ
ー)」が生き残り、哺乳類繁栄の礎を築いた」

〇ホモ・サピエンス
N「二十万年前にアフリカで誕生した人類の祖先は」

〇人類拡散の図
N「世界中に広がっていき」

〇一万二千年前の日本
サハリン経由、対馬経由、台湾・琉球経由の三つのルートで渡来する日本人。
N「一万二千年ほど前に、三つのルートから日本列島に渡来、定着した」

〇平原
獣の皮で作った服をまとう、槍を手にした男たちが走っている。
N「その頃の気候は、今よりだいぶ寒冷で、まだ日本列島は森林に覆われていなかったと考
えられている」
彼等が追っているのは、ナウマン象の足跡。
リーダー「獲物はだいぶ疲れているぞ! もうすぐ追いつく!」
N「人間はたいていの大型草食獣より足が遅いが、長距離が走れる。獲物が疲れ果てるまで
追って、動けなくなったところを仕留めるか、落とし穴などに追い込むような狩りをしていたようだ」
ついに彼らの眼の前に、巨大なナウマン象が現れる。
槍を手に、じりじりとナウマン象に近づく男たち。
リーダー「落とし穴まで追い込め!」
と、ナウマン象が暴れ、先頭の男、イシ(十五歳くらい)が跳ね飛ばされる。
崖から落ちていくイシ。男たち、そちらを見るが
リーダー「……あいつはもう助からない。獲物を追うぞ!」
ナウマン象を追って行く男たち。

〇崖下
ぼんやりした意識で、それを見送り、意識を失うイシ。

〇旧石器時代の住居の中
意識を取り戻すイシ。自分が木と皮で作られたテントの中にいることに気づく。
イシ「ここは……」
イシを看病していた女性ナミ(十五歳くらい)、イシが意識を取り戻したことに気
づく。
ナミ「……言葉、ワカル?」
イシ、半身を起こしながら
イシ「少し違うみたい。でも、わかる」
ナミ「ヨカッタ」
差し出された水を美味しそうに飲むイシ。それを見て微笑むナミ。
イシ「ここは?」
ナミ、テントの入り口をまくって見せる。同じようなテントがいくつも並んでいる。
ナミ「倒レテルノ、見ツケタ。マダ息、アッタ」
イシ「……ありがとう」
N「旧石器時代、日本人はまだ定住せず、移動しながら狩猟採集の暮らしを続けていた」

〇森の中
ナミが木の実を採集するのを、杖を突き、足を引きずりながら手伝うイシ。犬も
付いてきている。
ナミ「大きい動物はなかなか獲れないから、毎日の食べ物はこうやって集めるの」
イシ「俺の村もそうだった」
ナミ「それに狩りは危険だしね」
イシの引きずっている足を見る。
イシ「……もう走れないから、狩りはできない」

〇石切場
石を砕いて石器を作っているイシと、それを見ているナミ。イシの脇には杖。犬も
付いてきている。
ナミ「イシは石器作るのが上手ね」
イシ「でも狩りは上手くなかった……だから……」
落ち込むイシの背中を、優しく抱くナミ。
ナミ「……みんな得意なことは違うわ。だから一緒に暮らすの」
イシ「……そうだね」
ナミの手を握るイシ。
イシ「俺の村では、こういう石器も作ってたんだ」
大まかに砕いた石器を、別の石で擦りはじめるイシ。磨製石器である。
イシ「持ち手をこうすると手を石で切らないし、刃をこうすると切れ味が良くなる」
感心して見ているナミ。

〇海岸
イシ(二十歳くらい)が、息子のマド(五歳くらい)と一緒に釣り糸を垂れている。イ
シの脇には杖。犬も脇に座っている。
マド「……なあ、父ちゃん」
イシ「どうした、マド」
マド「どうして父ちゃんは、みんなと一緒に狩りに行かないんだ?」
イシ「(笑って杖を手にして)父ちゃんの足で狩りに行ったら、みんなの足手まといになる」
マド「だけどみんなの父ちゃんは……!」
イシ、マドの頭を撫でて
イシ「この釣り針だって父ちゃんが作った。みんなの父ちゃんみたいなことはできないけど、
父ちゃんもちゃんとみんなの役に立っている」
納得しない顔のマド。

〇林
木片を石器で削っているイシ。マドは犬とたわむれている。
イシ「……できた! おい、マド!」
イシ、マドを呼び寄せる。槍を手にして、
イシ「いいか、普通に槍を投げると……」
槍を投げる。三十メートルくらい飛ぶ。
イシ「だけどこの、新しい道具を使うと……!」
投槍器(アトラトル)に槍を引っかけて投げると、百メートル近く飛ぶ。目を丸くす
るマドと、自慢げなイシ。
※アトラトルの画像は検索ですぐに出ます
マド「すげえや……だけど父ちゃんが狩りに行くわけじゃないんだろ?」
イシ「(笑って)ははは、それもそうだ」
上機嫌なマドに不満げなイシ。

〇草原
ナウマン象を百メートルくらいの距離で包囲しているイシの村の男たち。手には槍
とアトラトル。
リーダー「投げろ!」
一斉に投げると、ほとんどの槍がナウマン象に命中。ひとしきりもがいて、息絶え
るナウマン象。
リーダー「やった!」
わっと沸き上がり、ナウマン象に駆け寄る男たち。
N「旧石器時代の狩りのもう一つのテクニックが、投石と投槍である。これによって安全に大
型獣を仕留めることができるようになった」

〇集落
男たちが解体したナウマン象の肉を持って帰ってくる。
男「やったぞ!」
誇らしげな男たち。出迎える女子供とイシ(二十五歳くらい)。嬉しそうなイシを
見て、がっかりしているマド(十歳くらい)。
マド(M)「俺の父ちゃんは、ダメな奴だ……」
しかし男たちはイシの元に集まって、
男「イシ、お前の道具のおかげで、象をうまく仕留められた!」
男「この成果はイシのおかげだ!」
皆がイシを褒め称えているのでびっくりするマド。マドの妹、ルカ(五歳くらい)が
マドのところにやってきて、
ルカ「(キラキラした目で)父ちゃんはスゴイんだね!」
マド「あ、ああ……(きっとルカを見据えて)そうさ、父ちゃんはスゴイんだ!」

〇集落(夜)
三十人くらいの村人たちが大きな火を囲んで車座に座って、焼いた肉を食べてい
る。太鼓を叩く者や、踊っている者たちもいる。長老(五十歳くらい)が口を開く。
長老「……次の長は、イシがよいのではないかと思う」
村人「うん、俺も賛成だ」
イシ「……俺はよそものだ。足も悪い。本当にいいのか?」
村人「もう子供も二人居る。お前は俺たちの身内だ」
村人「それに、イシの道具がないと、俺たちは狩りができない」
村人「そうだそうだ!」
イシ「(感激して)ありがとう……」
びっくりしてイシを見つめるマドに、「今頃気づいたか」という視線を向けるナミ。

〇集落
村人たちがそれぞれのテントを解体している。
イシとマドも自分たちのテントを解体している。
マド「また引っ越すの?」
イシ「このあたりには、もう象がいないみたいだ。大きな動物が、もっとたくさんいるところ
を探す」
ナミとルカも荷物をまとめている。
N「まだ人々は定住しておらず、狩猟や採集に適した場所を求めて、移動しながら生活して
いたと考えられている」
マド「どこへ行くの?」
イシ「太陽が昇る方へだ。父さんが長になる前も、太陽が昇る方へ、太陽が昇る方へと移動
してきた」
X     X     X
それなりの大荷物を持って移動するイシの村人たち。
N「こうして人々は、日本列島のあちこちへと拡散していった」

第二章 縄文時代の暮らし

〇竪穴式住居の並ぶ村
十くらいの竪穴式住居の並ぶ、四十人くらいの住む村。村の中心には、環状列石の
ある広場。
N「縄文時代に入ると、人々は定住するようになった」

〇森林
ドングリを拾っている縄文人たち。植物の繊維で編んだ服を着ており、大人の体に
は入れ墨が入っている。
N「気温の上昇により、日本は森林に覆われるようになり、移動しなくても食糧が安定して
手に入るようになったからである」
その中にハセオ(十五歳くらい、男)。
ハセオ(M)「もうじき成人式か……」
身震いするハセオ。

〇竪穴式住居の中
何人もの大人の男性がハセオを抑えつけている。覚悟を決めて、真っ青な顔のハセ
オ。
医師が、木槌と石器のノミをハセオの歯に当てる。
N「縄文時代には、成人の儀式として抜歯をしていたらしいことがわかっている」

〇村
誇らしげな表情で歩くハセオ。歯が抜かれ、体のあちこちに入れ墨も入っている。
N「入れ墨やアクセサリーの存在がわかっており、縄文人はなかなかファッショナブルだった
ようである」

〇森
ウサギの巣穴に、犬がワンワン吠え立てている。
弓矢を手に後を追ってきたハセオ
ハセオ「よーし、よくやった」
犬をひとしきり撫でた後、ウサギの巣穴に手を突っ込む。ごそごそやって、大きめ
のウサギを一匹引っ張り出す。
ハセオ「やったぞ!」
浮かれるハセオの足下に、犬がじゃれつく。
N「この頃になるとナウマン象などの大型動物は減少し、ウサギや、大きくとも鹿などの動
物が狩りの獲物となった」

〇村の一角
男女が調理をしている。ハセオの獲ってきたウサギをさばく横では、火にかけられ
た土器の中で、ドングリが煮えている。
N「旧石器時代と縄文時代を分ける大きな特徴は、土器の存在である。土器により煮炊き
ができるようになったことは、食べ物の幅を大きく広げた」

〇海辺
ハセオがヤスで魚を捕る脇で、アヤナが貝を拾っている。ちらちらアヤナを見るハセ
オ。視線に気づき、にっこりと微笑むアヤナ。真っ赤になって目を逸らすハセオ。
N「魚や貝も、旧石器時代と変わらず、重要な食料源であった。縄文人が食べた海産物を捨
てた跡が、『貝塚』として残っている」

〇村の広場(夜)
環状列石をぐるりと取り囲んでいる村人たち。列石の脇で焚かれている火に向か
い、一心不乱に祈っている女性のシャーマン。
N「縄文の村の中央で発見される環状列石は、宗教的な祭事の場であったと考えられてい
る」
X     X     X
環状列石を囲んで踊り狂う村人たち。木の太鼓や琴を演奏している者たちもい
る。
踊りながら、アヤナに近づくハセオ。アヤナ、ハセオを受け入れ、抱き合うようにし
て踊る二人。
N「祭事の場は、恋の舞台でもあったのだろう」

〇村の一角
粘土で縄文式土器を作っている男女に交じって、ハセオ(十七歳くらい)が土偶を作
っている。
村人「アヤナのためのまじないか?」
ハセオ「(嬉しそうに)うん。健康な子が産まれますように。アヤナが出産で死にませんよう
に」
N「現在でも途上国における妊産婦の死亡率は、十六人に一人程度である」

〇ハセオの家
無事産まれた子供を抱いてあやしているハセオ。アヤナも疲労してはいるが無事で
ある。
ハセオ「そうだ!」
ハセオ、赤子をアヤナに預けると、アヤナの枕元の土偶を持ち出す。

〇村の一角
ハセオ、土偶を粉々に打ち砕いて、一箇所に丁寧に埋める。
N「土偶は出産や多産のまじないと考えられているが、何故か発見される土偶のほとんどに
は、破壊された痕跡がある。縄文時代の呪術だったのだろうか」

〇村の外れ
畑に大豆を植えているハセオ(二十歳くらい)と、その後をついてまわるミイナ(ハセ
オの娘、三歳くらい)。
ミイナ「ねえ、何してるの?」
ハセオ「大豆を植えてるんだ」
ミイナ「???」
ハセオ、大豆を見せながら
ハセオ「この種を地面に植えて、時々水をやる。しばらくすると、たくさんの大豆がなる」
ミイナ「ふーん、不思議だね!」
微笑み合う二人。
N「本格的な農耕の開始は弥生時代になってからだが、縄文時代にすでに、栽培植物の畑作
はおこなわれていた形跡がある」

〇村の一角
村人たちが、他の村から来た村人と交易をしている。
山人、熊の毛皮を広げて
山人「どうだ、冬はこれを着ると暖かいぞ!」
村人「うーん……塩を甕に一杯でどうか」
山人「干し魚もつけてくれんか?」
N「交易は盛んだったが、まだ貨幣は存在せず、物々交換が基本であった」
ハセオに山人が囁く。
山人「海を渡って、大勢やって来とるぞ」
ハセオ「?」
山人「色が白くて、顔の平たい連中だ。何でもそいつらは……土地を欲しがっているらしい」
ハセオ「土地なんかどうするんだ?」
山人「水を張って、イネとかいう草を植えるらしい。何でも、一粒を植えると、百粒になるそ
うな」
ピンと来ない様子のハセオ。

〇森の中
弓矢を持ったハセオが、犬を連れて狩りをしている。
と、遠くを大勢の人が通っているのが見える。
ハセオ(M)「……白くて平たい奴ら?」
ハッとして、村に戻ろうとするハセオ。だが気がつくと、白くて平たい奴ら=弥生人
に囲まれている。怯えるハセオ。
と、弥生人の集団の中から、縄文人が進み出てくる。
縄文人「彼らは言葉が違うから、俺が代わりに話す」
えっ、という顔をするハセオ。
弥生人たち、微笑みを浮かべて、精一杯敵意がないことを示そうとしている。

〇村の広場
村の全員が集まっている。村長に報告しているハセオ。
村長「……そいつらは、土地が欲しいと言うのか」
ハセオ「はい。沼地に、イネという草を植えるそうです」
村長「確かにわしらに、沼地は無用じゃ。だが、大勢なんじゃろう?」
ハセオ「この村と同じくらいの人数です」
村長「……争いには、ならんじゃろうか」
ハセオ、弥生人たちの笑顔を思い出す。
ハセオ「……俺は、ならないと思います」
村長「……そうか」
村人たちの、喧々諤々の議論がはじまる。
アヤナに抱かれたミイナ、心配そうに、
ミイナ「私たち、この村から、追い出されてしまうの?」
アヤナも不安そうな顔。
ハセオ、ミイナの頭を撫でて、
ハセオ「そんなことにはならないよ。仲良くできるさ、白くて平たい奴らとも」

〇村の一角
ハセオたち村人と、弥生人の集団が顔合わせをしている。どちらも武器は持ってい
ないが、緊張感が漂う。
村長と弥生人の村長がハグをして、緊張感がほどける。

〇村の広場(夜)
縄文人と弥生人が、火の回りで一緒に宴会をしている。
ハセオ、弥生人から差し出された米の飯を恐る恐る一口口にして
ハセオ(M)「……うまい!」
ハセオ、たちまち一椀たいらげてはっとする。物欲しそうに見ているミイナ。
弥生人、ミイナにも一椀米の飯を渡す。やはり恐る恐る一口食べて、それからがっ
ついて一椀食べる。それを微笑ましげに見ているハセオと弥生人、顔を見合わせて
笑い合う。
火の回りで踊る縄文人たちと弥生人たち。すでに縄文人と弥生人のカップルも誕
生している。
N「縄文から弥生への移行は、長らく弥生人が縄文人を戦って北へ追いやったかのように思
われていたが、近年の研究で、平和裡に共存と混血が進んだ可能性が指摘されている。また、縄文人の人骨から、暴力による死亡率は二パーセント以下であることが判明しており、縄文時代までは戦争がなかった可能性も指摘されている」


第三章 ムラからクニへ (稲作の広まり)

〇環濠集落
水を張った堀と木の柵に囲まれた、三十戸ほどの竪穴式住宅。五件ほどの高床式
倉庫。中央には、木造の大きな建物。柵の近くには、木製の物見櫓が立ち、弓を手にした見張りが立っている。
集落の周囲には水田が広がり、農民たちが石庖丁を使って、稲刈りに勤しんでい
る。
見張りの声「大変だ! 敵が攻めてくる!」
遠くからときの声が聞こえる。
慌てふためく農民たち。稲刈りを中断し、弓矢を取りに走る。
村に向かって、数十人の、青銅器の武器で武装した男たちが攻め込んでくる。見張
り台からの弓矢で何人かが倒れるが、構わず攻め込んでくる敵。
村人「俺たちの収穫を取られてたまるか!」
集落の男たち、弓を取って堀の内側に集まり、敵軍に向けて射る。敵軍からも射返
してくるが、集落からの矢の方が明らかに多い。
前進を止め、じりじりと引き返していく敵軍。集落から歓声が挙がる。
残された敵兵の死体の中に、まだ息のある者がいる。
X     X     X
広場の中で縛り上げられている敵兵。負傷には一応の手当てがされている。
村長・ヤオハル(三十歳くらい)が敵兵(二十歳くらい)を訊問している。
ヤオハル「どうしてこの村に攻め込んできた」
敵兵「……先月の大嵐で、うちの村の稲は全滅したんだ」
ヤオハル「言ってくれれば、少しくらいは食料を分けてやったのに……」
敵兵「断られたら俺たちは飢え死にだ! 力尽くで奪うしかなかった……」
敵兵の必死の形相に、憐憫の情を催す村人たち。ヤオハル、村人に合図して、敵兵
をほどかせる。
ヤオハル「……お前、自分の村に帰れ」
敵兵「い、いやだ! 帰ったら俺も飢え死にだ!」
敵兵、哀れみを乞うように
敵兵「なあ、この村に置いてくれ! 働く! 何でもする!」
顔を見合わせる村人たち。
ヤオハル「……お前は生(せい)口(こう)(奴隷)になるが、それでもいいのか」
敵兵「構わない! 飯さえ食わせてくれれば!」
ヤオハル「みんな、いいか」
うなずく一同。歓喜する敵兵。
N「人類は農耕をはじめたことにより、食料の安定した供給と引き換えに、飢餓と戦争に対
処しなくてはならなくなったのである」

〇村の広場(夜)
村人たちが収穫を祝って祭りをしている。
かがり火の側では大型の銅鐸が打ち鳴らされ、それに合わせて踊る村人たち。
N「銅鐸の使い道は長らく謎とされてきたが、近年では祭祀に使われた楽器説が有力であ
る」
村人たちは、高坏(たかつき)に食べ物を持って食べている。
村人の輪の外で、ぽつねんと座っているミシロウ(敵兵)。ヤオハル、酒の入った器を
持って近づき、
ヤオハル「飲め」
ミシロウ「(驚いて)い、いいのか?」
ヤオハル「今日は祭りだ」
器を受け取り、嬉しそうに酒を飲むミシロウ。
N「縄文時代から果実酒らしき物が作られていた形跡があるが、米が主食となった弥生時
代になると、本格的に酒造りがはじまる」
ヤオハル(M)「今回は敵を撃退できた。だが、もっと大勢で、もっといい武器で攻めて来たら
……」

〇見張り台
ヤオハルが遠くを眺めている。と、近づいてくる影に気がつき、弓矢を手に取る。
近づいてくるのは、男女十人ほどの、見慣れぬ衣装の集団(渡来人)である。彼ら
が武装していないのを確認して、
ヤオハル「おおい! 見慣れない奴らが来る! 用心しろ!」
弓矢を持ったまま見張り台を降りるヤオハル。弓矢や青銅器の矛で武装した何人
かがそれに従う。

〇村の入り口
渡来人たちを出迎える、武装したヤオハルたち。渡来人たち、手に武器を持ってい
ないことを示してから、リーダーのソンイル(三十歳くらい)が進み出る。
ソンイル「お前たちの言葉が話せるのは俺だけだ」
ヤオハル「海の向こうから来たのか?」
ソンイル「そう。助けて欲しい」
顔を見合わせるヤオハルたち。

〇大きな建物

〇建物・内部
ヤオハルとソンイルが話し合っている。少し離れて、村人たちと渡来人たち。
ソンイル「海の向こうで、大きな戦があった。村が焼かれたので、逃げて来た」
ヤオハル「海からここまでは遠い。なぜこんなところまで?」
ソンイル「海の近くに、いくつもの村をまとめた、大きな村がある。最初はそこに入れてもら
おうと思った。だけど、生口にされそうになったので、逃げて来た」
ヤオハル「その大きな村には、何人くらい住んでいる」
ソンイル「三百人くらいだと思う」
村人「俺たちの村の三倍以上だ……!」
ヤオハル「助けてくれたら、これをやる」
ソンイル、袋の中から鉄剣を取り出す。ヤオハル、手に取って
ヤオハル「見たことのない金属(かね)でできている……」
ソンイル「青銅の剣よりずっと強い。試してみてくれ」
ヤオハル、青銅剣を持ってこさせて、鉄剣で斬りつける。真っ二つになる青銅剣。驚
きの声をあげる村人たち。
ソンイル「時間と材料があれば、たくさん作れる」
ヤオハル「だが大きな村に追われているんだろう?」
ソンイル「そうだ。助けてくれ」
ヤオハル「……みんなで相談する。とりあえずどうするか決まるまで、村に居ていい」
ソンイル「ありがとう」
ヤオハルの拳をぎゅっと握るソンイル。
ヤオハル(M)「他の村とも相談しなくては……!」
深刻に青ざめているヤオハル。

〇ヤオハルの村・集会場
ヤオハルと周辺の村々の長が集まっている。
ヤオハル「……ということになっている。おそらく、その大きな村の兵隊が、遠からず探しに
くるだろう」
村長「そんな奴ら、引き渡してしまえばいいではないか」
村長「いや、そのままおとなしく引き上げるとは限らない。ついでに我々の村も襲っていくか
もしれん」
村長「……ヤオハル。何か考えがあって、我らを集めたのだろう」
ヤオハル、うなずいて
ヤオハル「俺たちの村一つ一つでは、大きな村にかなわない。しかし、俺たち全部が力を合わ
せれば、勝てるかもしれない」
村長「……勝算は、あるのか」
ヤオハル、うなずいて、脇に置いてあった鉄剣を手に取り、銅剣を真っ二つにしてみ
せる。驚嘆する村長たち。
ヤオハル「この武器は、まだあまり数はない。そこで……」

〇草原
百人を超える「大きな村」の武装した兵士たちが移動している。武装は弓矢と、青
銅器の剣や矛、木の盾と鎧。
と、その前にヤオハルが立ちはだかる。
ヤオハル「そんな大勢で、武器を持って、何をしに来た」
リーダー(三十歳くらい)「お前たちの村に、海を渡って来た奴らが逃げ込んだろう。引き渡
してもらう」
ヤオハル「……引き渡したらおとなしく引き上げるのか?」
馬鹿にするように笑って答えないリーダー。兵士たちも馬鹿にしたように笑う。
ヤオハル「……彼らは引き渡さない。俺たちの村にも手出しはさせない」
ヤオハル、鉄の剣を掲げる。それを合図に、隠れていた村人たちが大勢出てくる。
慌てる兵士たち。
ヤオハル「この剣の威力は知っているだろう。おとなしく引き上げないと、ここでお前たちを
皆殺しにする」
兵士たちが意気消沈しているのを見て、歯がみするリーダー。
リーダー「……覚えていろ。必ずお前たちの村も、征服してやる」
引き上げていく兵士たち。わっと歓声をあげる村人たち。ほっと大きく息を付く
ヤオハル。

〇村の広場
かがり火が焚かれ、銅鐸が打ち鳴らされ、村人たちが踊っている。ヤオハルの村人
だけでなく、周辺の村の村人も踊っている。渡来人も踊っている。
ヤオハルと村長たちが、車座になって酒を酌み交わしている。
村長「ヤオハル、何もかもお前のおかげだ」
ヤオハル「何を言う。みんなで力を合わせたからだ」
村長「……だが、大きな村の奴ら、必ずまた攻めてくる」
村長「そこでみんなで相談したのだが……俺たちも大きな村を作ろう」
村長「長はヤオハル、お前だ」
驚くヤオハル。
ヤオハル「いや、俺はそんな……」
村長「バラバラでは奴らに勝てない。力を合わせ、鉄の武器をたくさん作って、自分たちで
身を守る」
皆の視線を受けるヤオハル。ぐっと杯を干して、
ヤオハル「できるかどうかわからないが、やってみよう」
わっと歓声をあげる村長たち。それっとヤオハルを取り囲み、胴上げする。
村長「ヤオハルは村長の長……大長だ!」
困惑しながらも、責任の重さに身震いするヤオハル。
N「このようにして、村々は自衛のために団結し、いつか大きな村は『クニ』と呼ばれるように
なっていった」

〇漢の宮廷
日本人の使者団が、漢の皇帝から金印などを授かっている。豪奢な漢の服装や内
装に比べ、あまりにもみすぼらしい日本人使者団。

〇金印のUP
N「江戸時代の天明年間、現在の福岡県の志賀島で、『漢委奴國王』と刻まれた金印が発見
された。この金印を与えられた『國王』も、こうしたクニの長の一人であったと考えられている」


第四章 卑弥呼と邪馬台国 (「ムラからクニへ」「大和朝廷の誕生」)

〇畿内と九州の邪馬台国比定位置
N「二世紀から三世紀にかけて、『邪馬台国』が日本で大きな勢力を持っていたことが、中国
の歴史書『魏志倭人伝』からわかるが、その位置については諸説あり、未だ判然としない」

〇邪馬台国・王宮
※纏向遺跡の復元図を参考にしてください
弥生時代とは一線を画した、大きな木造の建物が建ち並んでいる王宮。周囲は濠
と柵で防衛されている。敷地内で立ち働く大勢の男女。馬も何頭かいる。その中でも一際大きな建物がある。

〇王宮の一室
卑弥呼(五十歳くらい)が病の床についている。付き添っている弟彦(おとひこ)(卑弥呼の弟、
四十五歳くらい)と台(と)与(よ)(巫女、十三歳くらい)。他にも大勢の従者たちが看病している。
卑弥呼「……弟彦、起こしておくれ」
弟彦「姉上、無理をなさっては……」
卑弥呼「この卑弥呼、最後の鬼道を執り行わねばならぬ。台与、お前も力を貸すのじゃ」
真剣な面持ちでうなずく台与。
N「邪馬台国は女王・卑弥呼が、鬼道(呪術)をもって治めていたと『魏志倭人伝』にはある」

〇親魏倭王の金印と銅鏡
N「卑弥呼は何度も魏に使者を送り、魏王から『親魏倭王』の金印と、銅鏡百枚を授かってい
た。当時の中国は『三国志』の時代で、魏・呉・蜀の三国が争っていた」

〇祭壇
※鬼道の儀式の実際はほとんどわかっていません。陰陽道の祭壇を参考に、原始的
な物を創作してください。
祭壇に向かって祈りを捧げる、王冠を被った卑弥呼と台与。祭壇の中央では、亀か
ら剥がされた甲羅が火で炙られている。背後で見守る弟彦。
パキリ、と音がして、炙られた亀の甲羅に大きなヒビが入る。卑弥呼、かっと目を
見開く。
卑弥呼(M)「神が……降りぬ?」
と、卑弥呼の隣で、台与がトランス状態に陥る。驚く一同。
卑弥呼(M)「神はわらわではなく、台与をお選びになった……!」
台与(トランス状態)「邪馬台国は……男が治めてはならぬ……」
卑弥呼「え?」
台与(トランス状態)「女王を立てよ……鬼道で国を治めよ……」
意識を失って倒れる台与を抱き留める卑弥呼。台与、意識を取り戻して
台与「私は……」
卑弥呼「(優しく)そなたは巫女の大任を果たしたのじゃ」
卑弥呼、きっと弟彦に向き直り
卑弥呼「聞いての通りじゃ、弟彦」
弟彦「(屈辱を噛み殺して)……は……」
卑弥呼「(咳き込む)わらわが死んだ後は、この台与が鬼道で邪馬台国を治める」
弟彦「(驚いて)こんな小娘にですか?!」
きっと台与を睨む弟彦。台与、その視線にすら気づかぬほどの衝撃を受けている。
台与「そんな……私などに……」
卑弥呼「(優しく)そなたにしかできぬのじゃ。よいな……」
ふっと意識を失い、ガクンと倒れる卑弥呼。
台与「卑弥呼さま!」
卑弥呼を抱き起こす台与を、呆然と見ている弟彦。
弟彦(M)「……こんな小娘などに……!」
弟彦の目に、邪悪な光が走る。

〇王宮・広場
大勢の民衆が集められている。高台に弟彦、その脇に台与。
弟彦「皆の崇めてくれた姉、卑弥呼は亡くなった……」
一瞬、しん、と静まりかえり、それからざわめく民衆たち。
弟彦「だが何も心配はいらぬ!」
弟彦、卑弥呼の王冠をかぶり、
弟彦「これからの邪馬台国は、我(われ)が王として治める!」
衝撃を受ける台与。ざわめく民衆。
弟彦「鬼道は姉に代わり、この台与が執り行う!」
台与「(小声で)そんな……!」
弟彦「(小声で)お前に女王など務まるものか。悪いようにはせぬから、我の言う通りにせ
よ」
暴力をにじませた脅しに屈する台与。民衆たちも不安を隠せずにいる。

〇王宮の一室
イライラしている弟彦の元に、次々と使者が飛び込んでくる。
使者「反乱した奴(な)国(こく)の兵は、我が国に迫っています!」
使者「鬼(き)奴(な)国(こく)が、奴国に呼応して反乱を起こしました!」
使者「蘇(さが)奴(な)国(こく)にも反乱の気配があります!」
弟彦「もういい、さがれ!」
一人になった弟彦、辺りの物に当たり散らす。
弟彦「畜生! どうして! 俺では! 駄目! なんだ!」
卑弥呼の声「そなたに王の器はない……」
驚いて弟彦が振り返ると、トランス状態の台与が立っている。
弟彦「台与……何のマネだ?」
台与(トランス状態)「愚かな弟よ……わらわがわからぬか……」
弟彦「(心底驚いて)姉上!? そんな……」
台与(トランス状態)「力で押さえつけることしか知らぬそなたに、邪馬台国の王は務まら
ぬ。すみやかに台与に譲位するのじゃ……」
弟彦「(パニックになりながら)衛兵! 衛兵!」
衛兵が飛び込んでくる。
弟彦「こやつを牢に入れておけ!」
連行されつつも見せる、台与(卑弥呼)の嘲笑うような笑みに、心底ぞっとする弟
彦。

〇邪馬台国・王宮
すでに濠のすぐ外にまで反乱軍が迫っている。

〇王宮の一室
台与が衛兵に引っ立てられてくる。その台与にすがりつく、憔悴しきった弟彦。
弟彦「姉上、お助けください……」
台与「(冷たく)私は台与です」
弟彦「もうどちらでもいい! とにかくこのままでは邪馬台国はおしまいだ!」
台与「……私を女王と認めますか?」
弟彦「(泣きながら)認める! だから、我を助けてくれ……」
台与「(衛兵に)聞きましたね?」
衛兵、台与を放す。台与、弟彦から王冠を取り上げて自ら被る。出て行こうとす
る台与に、
弟彦「……どこへ?」
台与「……女王の務めを果たしにです」
取り残されてがっくりとうなだれる弟彦。

〇王宮
大勢の反乱軍に向かい、雄々しく立つ台与。その姿には、女王の威厳がみなぎって
いる。
台与「簒奪者は自ら王位を返上しました! まだ争いを続けるおつもりですか?」
反乱軍「邪馬台国は力で我々を支配してきた! 今度は我々が力で邪馬台国を支配す
る!」
台与「武力など何の役に立ちましょう……」
反乱軍「今さら何を言う! かかれ!」
だが、反乱軍は動かない。後方の兵たちがざわめいている。
反乱軍「どうした?」

〇空
真昼だというのに太陽が陰り、みるみる欠けていく。
やがて空は真っ暗になり、太陽の輪郭だけが輝く。皆既日食である。

〇王宮
パニックに陥る反乱軍を、静かに諭す台与。
台与「天は邪馬台国に怒りを顕わにしました。しかし皆が私を女王と認めれば、再
び太陽が戻ってくるでしょう」
反乱軍「わかった! わかりましたから、どうかお助けを……!」
跪いて天に祈りを捧げる台与。
やがて日食が終わり、太陽が再び天空に輝く。
歓喜の叫びをあげる反乱軍たち。台与に向かって平伏する。
それを受け止める台与には、すでに女王の風格がある。

〇陵墓の作業現場
何千人もが働く作業現場。巨大な丘が築かれ、壕が掘られている。
それを指揮している台与。
丘に埋められていく無数の、人や馬や船の形をした埴輪。
N「『魏志倭人伝』には、卑弥呼の陵墓に関する記述があるが、それに比定される古墳は、今
のところ発見されていない。しかしこの前後から、大きな陵墓が作られるようになり、『古墳時代』と呼ばれる時代がはじまるのである」

〇大仙陵古墳(仁徳天皇陵)
N「邪馬台国と大和朝廷との関係ははっきりしていないが、四世紀末に強力な統一国家であ
る大和朝廷が、近畿地方に成立したと考えられている。大和朝廷は大規模な古墳で権力を誇示しながら、朝鮮半島への進出を進めて行った」

※第五章は「大和朝廷の誕生」の予定でしたが、史料がほぼない時代で、展開的にも今までの章と似た内容の繰り返しになりますので、この章の末尾と次章の冒頭でフォローを入れ、次章は「聖徳太子の国づくり」にいたします。
第七章の予定だった「律令国家への道」を、「大化の改新」と「壬申の乱」に分割します。


第五章 聖徳太子の国づくり

〇朝鮮半島(百済・新羅・高句麗)と隋
N「四世紀から六世紀にかけて、朝鮮半島では百済・新羅・高句麗の三国が分立する時代が
続く。しかし六世紀後半に、中国が隋によって再統一されると、その争いは終焉に向かう」

〇来日する僧侶たち
N「日本は積極的にこの争いに関与した。六世紀中頃、百済から日本に仏教が伝えられたの
は、日本の軍事的援助に対する返礼だったと考えられている」

〇仏教寺院
仏教寺院が、武装した兵士たちに取り囲まれ、火をかけられている。兵士たちは
仏像を運び出して破壊し、僧侶や尼僧を捕らえている。それを指揮している物部守屋(中年)。
N「敏達天皇十四(五八五)年、飛鳥」
そこに馬に乗って駆けつけてくる蘇我馬子(中年)。
馬子「物部どの、いったい何をなさる!?」
守屋「近頃、疫病が流行しておるのは、異国の教えである仏教を受け入れ、神祇をないがし
ろにした罰である。大王(おおきみ)(敏(び)達(だつ)天皇)からも、仏法を止めるよう詔(みことのり)が出ておる!」
歯がみする馬子を背に、高笑いする守屋。
N「有力な豪族であった、蘇我氏と物部氏は、仏教受容をめぐり、激しく対立した」

〇磐余池辺雙槻宮(いけのへのなみつきのみや)、王宮
用明天皇、馬子、守屋、豪族たちが会議している。
用明「……大陸の文化と、仏法とを切り離すことはできぬ。これよりは仏法を積極的に受
け入れ、多くの渡来人を招いて、国を豊かにするのだ」
歯がみする守屋を見て、ほくそ笑む馬子。

〇飛鳥寺
五重塔と、それを取り囲む三つの金堂でできた、壮麗な建物。
庭では百済からの渡来人たちが、仏像を彫っている。
その様子を、豪族たちに見せて回っている馬子。
豪族「こんな高い塔が、雨にも風にも、地震にも耐えるとは……」
豪族「百済の技術は素晴らしいものですな」
得意げな馬子。
N「馬子はその後も仏教の受容を進め、百済からの渡来人を招いて、最新の大陸の技術を取
り入れた」

〇物部邸(夜)
篝火の焚かれる中、武装した兵士たちが集まっている。
N「仏教が広がり、蘇我氏が力を増して行くことに焦った守屋は、ついに挙兵する」

〇磐余池辺雙槻宮(いけのへのなみつきのみや)、王宮の一室
厩(うまや)戸(ど)王子(聖徳太子、十四歳)、馬子、額(ぬか)田部(たべの)王女(ひめみこ)(推古天皇、三十四歳)が密談
している。
馬子「物部は兵を集め、泊(はつ)瀬部(せべの)王子(崇峻天皇)に代わって、穴(あな)穂部(ほべの)王子を大王に立てようとしているようです」
皇女「豪族たちもどちらに付くべきか、迷うておる様子。このままでは……」
厩戸「……恐れることはありませぬ」
厩戸を見る二人。
厩戸「仏法は常に、正しい者の味方です。必ず我らが勝ちます」
厩戸の背後に、後光差す仏の姿を見る二人。
N「『聖徳太子』は後世の諡(おくりな)であり、生前は厩戸王子と呼ばれていた。また、太子の業績と
されてきたものは、厩戸を含む複数の人物によるものだった可能性が指摘されている」

〇戦場
蘇我軍と物部軍が激しく戦っている。蘇我軍を指揮しているのは、厩戸と馬子。
乱戦の中、厩戸が何かに気づき、部下を呼ぶ。
厩戸「あの樹の影を射よ」
部下「え? ……あ、はい」
部下が射ると、樹上から人影が落ちてくる。射抜かれた守屋である。
厩戸「守屋は倒れた! 一気に敵軍を突き崩せ!」
意気上がる蘇我軍と、パニックに陥る物部軍。
N「この戦いで物部氏は没落、蘇我氏はその権力を盤石のものにした」

〇四天王寺の建設現場
N「五九二年に推古天皇が即位、推古・厩戸・馬子の三人が中心となって、四天王寺を建立
するなど、仏教に基づく国づくりを進めて行く」
百済系の渡来人たちが日本人の大工を指揮している。

〇隋の宮廷
文帝に謁見している遣隋使の一行。
N「推古天皇八(六〇〇)年、日本は隋と国交を結ぶべく、遣隋使を派遣するが」
だが、遣隋使は格好一つ取っても、隋の宮廷の群臣たちと比べて、余りにもみすぼ
らしい。群臣たちは、笑いを押し殺している。居心地悪そうにしている遣隋使たち。
文帝「倭国はどのような法に基づいて政を執り行っているのか」
遣隋使「大王の徳に拠っております」
どっと笑う廷臣たち。
文帝「……では、官吏の位はどうなっている」
遣隋使「力のある豪族が政を助けております」
さらに大きな声で笑う廷臣たち。恥ずかしさに真っ赤になる遣隋使たち。
N「この遣隋使の存在は、日本側の記録から抹消されている」

〇豊浦宮
遣隋使の報告を受けている、厩戸(二十八歳)・推古(四十八歳)・馬子。
推古「……『国としての体裁を整えてから、出直して参れ』と……」
悔しそうにしている遣隋使たち。顔を見合わせる厩戸と馬子。

〇冠位十二階の図解
N「厩戸らはまず、それまで豪族たちが世襲で務めていた国の仕事を再編、冠位十二階を
定め、能力で人材を登用するようにした」

〇小墾田宮の一室
厩戸が文机を前に考え込んでいる。
厩戸(M)「国としての基本は、やはり法律だ。だが、我が国には、どのような法律がふさわ
しいのだろう……」
いつしかうとうとする厩戸。

〇厩戸の夢
雲の上の、天上界のような神々しい世界に立っている厩戸。
気がつくと、救世(ぐぜ)観音(かんのん)菩薩(ぼさつ)が隣に立っていて、
菩薩「人の和なくしては、何事も成し遂げることはできませぬ」

〇小墾田宮の一室
はっと目を覚ます厩戸。猛烈に筆を走らせる。
厩戸(M)「和を以て貴しと為す……」
少し考えて、
厩戸(M)「篤(あつ)く三宝を敬え。三宝とは、仏(釈迦)・法(仏法)・僧(僧侶)なり」
N「推古天皇十二(六〇四)年、十七条憲法が制定された。日本ではじめての明文法である」

〇隋の宮廷
小野妹子ら遣隋使が、煬(よう)帝(だい)に謁見している。
N「推古天皇十五(六〇七)年、厩戸らは再度の遣隋使を派遣する」
国書を読み上げる妹子。
妹子「日出ずる処の天子、日没する処の天子に致す。つつがなきや……」
煬帝「……待て。倭王は自らを『天子』と称しておるのか?」
ビクっとして沈黙する妹子に、鋭い視線を投げる煬帝。
N「『天子』は皇帝にしか許されない称号であった」
煬帝「この地上に天子は、朕一人である。そうであろう?」
答えられない妹子。
煬帝「倭王ごときが、自らを『天子』と称するなど、言語道断。その思い上がり、正しておか
ねばならぬなあ?」
冷や汗が妹子の額と背中を濡らす。緊張に包まれる遣隋使たち。
煬帝「……だが今は、倭よりもまず、高句麗を征伐せねばならぬ。この非礼、見なかったも
のとしよう」
ほっと息をつく妹子と遣隋使たち。
N「この後、日本は遣隋使を何度も派遣し、多くの留学生を隋に送り、最新の大陸の知識や
文化を積極的に取り入れていく」

〇法隆寺・西院伽藍
N「法隆寺は厩戸が推古十五年に創建した。西院伽藍は創建当時のものではないが、現存
する世界最古の木造建築物群である」

〇法隆寺・夢殿
瞑想している厩戸。

〇仏像を彫る仏師
N「百済からの渡来人の影響を大きく受けた、四天王寺や飛鳥寺などの寺院建築や、飛鳥
寺釈迦如来像・法隆寺金堂釈迦三尊像 などの仏像群などを総称して『飛鳥文化』と呼ぶ」

〇文机に向かう厩戸
N「厩戸は歴史書と思われる『天皇記』『国記』や、仏教の解説書である『三経義疏(さんぎょうぎしょ)』など、多
くの著作を遺したとされているが、そのほとんどは失われている。『三経義疏』中の『法華義疏』のみ、厩戸の真筆とされる物が、御物として皇室に伝えられている」


第六章 大化の改新

〇唐の最大支配領域
N「隋を滅ぼして中国を治めた唐帝国は、その支配領域の広さだけでなく、属国や周辺国か
らの文化を積極的に取り込む点でも、まさしく世界帝国であった」

〇飛鳥板(あすかいた)蓋宮(ぶきのみや)の一角
遣唐使が持ち帰った唐三彩(焼き物)や、ガラス器、書画などの数々の素晴らしさ
に、驚嘆している中大兄王子(少年)。
中大兄(M)「何という美しさだ……これほど素晴らしい芸術品の数々を、惜しげもなく下
賜するとは、唐という国の国力は、いったいどれほどのものなのだろう」
南淵請安(みなぶちのしょうあん)「お気に召しましたかな」
N「南淵請安は遣隋使として中国へ赴き、唐建国の過程を見聞して帰国した学問僧である」
中大兄「請安先生、教えてください。大唐帝国はどうやって、これほど強大な国になったので
すか?」
請安「一言で言えば、中央集権です」
中大兄「中央集権?」
請安「諸国を支配する豪族から、土地と私有民を取り上げ、公のものとしたのです。そして
科挙によって、家柄にかかわらず優秀な者たちを官僚とし、効率的に国を運営しているのです」
中大兄「素晴らしい! 我が国も早く、そのような仕組みを取り入れるべきです!」
興奮ぎみに話す中大兄に、悲しげな微笑みで応える請安。中大兄、はっとして
中大兄「そうでした。我が国は……」
恥ずかしげにうつむく。

〇蘇我入鹿(そがのいるか)と蘇我蝦夷(そがのえみし)
N「厩戸王子と蘇我馬子は協調して政治を行ったが、馬子の孫の入鹿の代になると、蘇我氏
は権勢を振るいはじめた」

〇燃える斑鳩宮(いかるがのみや)
入鹿の兵が逃げ惑う人々を虐殺している。
N「皇(こう)極(ぎょく)天皇二(六四三)年、入鹿はついに、厩戸王子の長男である山背大兄王(やましろのおおえのおう)を斑鳩宮に
襲撃、亡き者とする」

〇飛鳥板蓋宮の一角
請安に学んでいる中大兄王子(十八歳)と中臣鎌足(なかとみのかまたり)(三十歳)。
鎌足「入鹿め、ここまでやるとは! 王子、あなたも身辺に十分お気をつけてください」
中大兄「豪族に過ぎない蘇我氏が、これほどまでに権勢を振るっているようでは、我が国は
とうてい、先進国とは言えない……」
請安「……『快刀乱麻を断つ』!」
請安の一括に驚く二人。
請安「王子、いずれは大王になるやも知れぬあなたがそのようなことでは、我が国が先進国
になる日は永遠に訪れませぬぞ!」
中大兄「それは……」
請安「あなたが自ら先頭に立って蘇我氏を討ち、我が国を先進的な中央集権国家にするた
めの改革を進めなくてはならぬのではありませぬか!」
中大兄と請安、じっと見つめ合う。請安の熱量が、次第に中大兄に伝染していく。
中大兄「……先生、おっしゃる通りです。蘇我氏の専横が続いたために、蘇我氏以外の豪族
は力を失っております。今、蘇我氏を倒せば、政治を改革する好機ともなりましょう!」
鎌足「王子、私も及ばずながらお力になります!」
鎌足の手を取る中大兄。
N「南淵請安は間もなく亡くなるが、二人は蘇我一族の長老である蘇(そ)我倉(がのくら)山田(やまだの)石川(いしかわ)麻呂(まろ)を
仲間に引き入れ、周到に準備を進めた」

〇太極殿
新羅・百済・高句麗の使者が皇極天皇(五十二歳、中大兄の母)に謁見している。入
鹿(帯剣していない)も列席している。
N「皇極天皇四(六四五)年六月十二日、太極殿で、新羅・百済・高句麗の使者が皇極天皇に
謁見する」
石川麻呂が表文を読み上げているが、その手は震え、汗にまみれ、声がうわずって
出ない。
入鹿「どうしてそれほどまでに動揺しているのか?」
麻呂「……へ、陛下の御前であることが、あまりにも恐れ多くて……」
と、隠れていた中大兄(二十歳)が躍り出て、入鹿に長槍を向ける。驚愕する入鹿
を、躍り出た鎌足(三十二歳)が矢で射る。さらに躍り出た同志二人、入鹿を剣で斬りつける。必死で皇極の前に這っていく入鹿。
入鹿「陛下、お助けを! 無法者どもが……」
皇極、驚いて
皇極「王子(中大兄)……これはいかなる事態か」
中大兄「入鹿は王族を滅ぼし、自ら大王の位に就こうとしています」
皇極、無言で席を立ち、殿中へ消えて行く。がっくりと肩を落とす入鹿に、同志二
人がとどめを刺す。

〇燃える蘇我氏の館
N「息子の死を知った蝦夷も館に火を放って自害、蘇我本宗家はここに滅びた。この一連の
争乱を、『乙巳(いっし)の変』と呼ぶ」

〇宮廷
孝(こう)徳(とく)天皇(五十一歳)が改新の詔(みことのり)を、豪族たちに読み聞かせている。孝徳の脇に
控えている中大兄(二十一歳)。
N「中大兄は自ら即位はせず、叔父の軽王子(かるのおうじ)を孝徳天皇に即位させて、自らは皇太子とし
て実質的に政権を運営した」
孝徳「豪族のみならず、王族も土地や人民を私有してはならない。全ての土地と人民は、国
家のものである」
どよめく豪族たちだが、中大兄が一にらみすると、皆沈黙する。
N「『公地公民』を柱とした、中大兄による一連の改革を『大化の改新』と呼ぶが、その改革
がどの程度徹底されたかについては、疑問の声も多い。しかし、『大化の改新』によ
って、日本が中央集権国家への第一歩を踏み出したことは確かである」

〇戦火に焼かれる百済
N「斉明天皇六(六六〇)年、唐と新羅の連合軍が、百済を攻め滅ぼした」

〇岡本宮、宮廷
百済の使者が中大兄(三十五歳)、斉(さい)明(めい)天皇(皇極天皇が重祚、六十七歳)、鎌足
(四十七歳)らに謁見している。
使者「倭国の援助があれば、必ずや百済を再興してみせます!」
斉明「……よくわかった。いったん下がるが良い」
退出していく使者。
斉明「王子、どう思いますか?」
中大兄「……唐は確かに強大です。しかし、唐そのものを相手にするわけではなく、敵は唐
の遠征軍と新羅の連合軍です。しかも彼らは、百済を滅ぼした戦いで、疲れ切っているはずです」
鎌足「しかし、唐を敵に回しては……直接の矛先が我が国へ向いたら、大変なことになりま
す」
中大兄「失った半島への足がかりを取り戻す、またとない好機ではないか。唐に、もはや我が
国が、蛮族ではないことを見せつけてやるのだ!」
沈黙する鎌足。うなずく斉明。

〇白(はく)村江(すきのえ)の戦い
唐の大型船に火矢を射かけられ、次々炎上していく倭国の小型船。
N「しかし天智(てんち)天皇二(六六三)年七月、日本・百済連合軍は白村江の戦いで唐・新羅連合軍
に大敗」
※天智天皇の即位は六六八年ですが、日本書紀の記述に基づき、六六二年を天智
天皇元年とします

〇畿内の地図
岡本宮から近江大津宮への遷都の図。
N「唐からの追撃を恐れた中大兄は、都を内陸の近江大津宮に移し」

〇水城の復元図
N「北九州に防御施設である水城を築き」

〇進軍する防人たち
その表情は疲れ切り、装備もぼろぼろである。
N「諸国から防人を徴兵して防衛に当たらせたが、唐と新羅が高句麗討伐を優先したた
め、唐・新羅連合軍が日本に攻めてくることはなかった」

〇近江大津宮の一角
天智天皇(中大兄、四十四歳)が死の床の鎌足(五十六歳)を見舞っている。
天智「鎌足、お前が正しかった……まだまだ我が国の国力は、唐には及びもつかなかったの
だ……」
鎌足「唐を敵とするのではなく、師として、強き国のあり方を学ぶのです……」
天智「今、臣民の戸籍を作る準備をしている。これが完成すれば、徴兵も徴税も、確実に公
平におこなえるだろう」
N「この『庚(こう)午(ご)年(ねん)籍(じゃく)』は翌年に完成、日本の戸籍制度の礎となった」
鎌足「息子たちには、大王に忠義を尽くすよう、固く命じておきました。息子たちをよろし
くお願いします」
天智「本日をもってそちを内大臣に任じ、一族には藤原姓を与える。そちの息子たちを、決
してないがしろにはせぬ」
鎌足「(涙を流して)ありがとうございます……」
N「この翌日、藤原鎌足は亡くなった」


第七章 壬申(じんしん)の乱

〇大海人王子(三十八歳)
N「天智天皇七(六六八)年、中大兄王子が天智天皇として即位すると、弟の大海人(おおあま)王子は
東宮(とうぐう)(皇(こう)太(たい)弟(てい))として、その政治を補佐した」

〇近江宮の一角
大海人と天智(四十三歳)が会話している。
天智「かつて我が国は、唐の圧倒的な国力に敗れた。これからは唐に学び、強大な国家を作
って行くのだ!」
大海人「兄上、私も微力を尽くしてお手伝い申し上げます」
満足げにうなずく天智。
大海人(M)「……確かに唐は進んだ大国だ。だが、唐にべったりでは、属国にされてしまう
かもしれない。独立を保つためには、独自の外交も模索せねばならぬのではないか
……?」

〇大友(おおとも)王子(弘(こう)文(ぶん)天皇、二十四歳)
N「多くの者が、大海人こそが天智の後継者であると思っていたが、天智天皇十(六七一)
年、天智天皇は息子の大友王子を太政(だじょう)大臣(だいじん)に任命する」

〇唐と新羅
高句麗はすでに滅亡し、半島は新羅が統一している。
N「折しも唐と新羅の戦争がはじまり、両国とも日本に軍事援助を要請してきていた」

〇近江宮(おうみのみや)の一角
病の床の天智(四十六歳)を、大海人(四十一歳)が見舞っている。部屋の隅に大
友。
天智「私はもう長くない……だが、大友はまだ若い。次の大王には、お前がなってくれない
だろうか」
驚く大海人。だが、天智の目は真剣である。部屋の隅の大友、かたずを飲んで見
守る。

〇大海人の回想
蘇(そ)我(がの)安万(やすま)呂(ろ)が大海人に警告している。
安万呂「大王は、あなたが大友王子を廃して、王位を狙っていると恐れておいでです。大王
が『お前を次の大王にする』とおっしゃっても、決してお受けにならぬよう。お受け
になれば、あなたは大王に殺されるでしょう」

〇近江宮の一角
大海人、しばし沈黙してから
大海人「……大友王子はまだお若いですが、きっと立派な大王になられることでしょう。私
は出家して、吉野に隠棲します」
深々と一礼して退出する大海人を、複雑な表情で見送る天智。
大友、天智の元に駆け寄り
大友「父上、あれは果たして、叔父上の本心でございましょうか?」
大友、大海人の退出した方向を見やって
大友「虎に翼をつけて、野に放ったことにならねばよいのですが……」
不安げな大友と、複雑な表情の天智。

〇近江宮の一角
朝廷を主宰する弘文天皇(二十五歳)。
N「天智が亡くなると、翌天武天皇元(六七二)年には大友王子が弘文天皇として即位、朝
廷を主宰した」
弘文「唐と新羅の両国が、ともに我が国に軍事援助を求めて来ている。この機会に唐を援助
し、唐との関係をより深めていきたい。それが亡き父の志でもある」
うなずく廷臣たち。

〇吉野宮、広間
大海人(四十二歳)と、妻の鸕野讃(うののさら)良(ら)王女(二十八歳)が、密偵からの報告を受け
ている。
大海人「唐に一方的に肩入れするのは、果たして我が国のためになるのであろうか……?」
鸕野讃良「高句麗なき今、新羅が敗れれば、半島の全てが唐の物となります。そうなってし
まえば、唐と我が国を隔てる物は海峡のみになってしまうでしょう」
考え込む大海人。
と、血相を変えた舎人(とねり)が駆け込んできて、
舎人「美濃や尾張で、朝廷の役人が徴兵をはじめました!」
大海人「(冷静に)慌てるな、唐への援軍の準備であろう」
と、別の舎人も飛び込んできて、
舎人「朝廷の兵が、宇治橋を封鎖しています!」
これには大海人の顔色も変わる。
大海人「宇治橋を封鎖したと言うことは、ここ吉野への物資の移動が抑えられたということ
か……」
皇女「大王の……いえ、大友の意図するところは、もはや明らかです。王子、ご決断を」
大海人、深くため息をついて
大海人「……向こうから仕掛けて来たとあっては是非もない。それに、誤った外交が我が国
を危うくするのも見過ごしてはおけぬ……」
大海人、立ち上がって
大海人「挙兵して、大友王子を討つ!」
頷いた舎人たち、飛び出して行く。

〇関ヶ原
激突する両軍の兵士たち。
N「東国で兵を集めた大海人は、関ヶ原で大友軍と激突。敗れた大友王子は自害し、翌年、
大海人は飛鳥(あすか)岡(おか)本宮(もとのみや)(後の飛鳥(あすかの)浄(きよ)御原宮(みはらのみや))で、天武天皇として即位した」

〇勝利する新羅軍
N「この戦乱のため、日本は唐だけでなく、新羅にも軍事援助をすることはできなかった
が、六七六年、新羅は自力で唐軍を撃退する」

〇飛鳥浄御原宮、宮廷
天武(四十六歳)、鸕野讃良(三十二歳)らが廷臣たちと会議している。
天武「新羅に味方することはかなわなかったが、これはよい機会でもある。我が国はこれよ
り、唐とも新羅とも対等な国家として、両国との外交を進めていきたい。それには
まず、唐に劣らぬ律と令を制定することが第一である」
うなずく廷臣たち。
N「『律』は刑法、『令』は行政法を意味する。律令を整備するということは、近代的な法治
国家としての形を整えることに他ならなかった」

〇天武に朝貢する新羅の遣い
N「天武の治世の間には、遣唐使は派遣されなかったが、新羅には朝貢使を求めている。新
羅は唐への対抗上、どうしても日本との外交関係を必要としていたのである」
屈辱を押し殺している朝貢使。

〇飛鳥浄御原宮の一角
稗田阿礼(ひえだのあれ)らが、『古事記』『日本書紀』の編纂作業をしている。
N「天武天皇十(六八一)年、天武は稗田阿礼らに命じて、後に『古事記』『日本書紀』とな
る、歴史書の編纂作業を開始させる」
そこに入ってきた天武(五十一歳)、紙に大きく『日本』『天皇』と書く。顔を見合わ
せる阿礼たち。
N「この時に国号としての『日本』、尊称としての『天皇』が制定されたと考えられている」

〇藤原京の建築現場
天武(五十六歳)・鸕野讃良(四十二歳)が、舎人らと共に作業を見学している。
天武「后よ、ここに新たな京を作るのだ。これまでのように一代ごとに都を移し、宮殿を建
て替えるのではなく、末代まで政を行える、偉大な京をな」
天武を頼もしげに見る鸕野讃良。
N「天武は藤原京の完成を見ることなく天武天皇十五(六八六)年に亡くなる。鸕野讃良は
夫の跡を継いで即位、持統天皇となり、持統天皇八(六九四)年、藤原京を完成さ
せて遷都した」

〇藤原宮
持統天皇(五十歳)が香久山を見上げて歌を詠んでいる。
持統「春過ぎて 夏来るらし 白妙の 衣干したり 天(あめの)香(か)具山(ぐやま)」
N「この歌は小倉百人一首にも選ばれた」

〇藤原宮
大宝律令を読み上げる文武天皇(十九歳)。
N「天武天皇が制定を命じた律令は、大宝元(七〇一)年、大宝律令として公布される。す
でに天武は亡く、その孫・文武(もんむ)天皇の治世であった」

〇唐の宮廷
則天武后(そくてんぶこう)(女帝、七十八歳)に謁見する、粟田(あわたの)真人(まひと)(中年)ら遣唐使たち。
N「大宝二(七〇二)年、日本はついに唐との正常な国交を回復すべく、遣唐使を派遣する」
武后、国書を見て
武后「『日本』……? その方らは、倭国の者どもではないのか」
真人「倭国は生まれ変わりました。これからは『日本』とお呼びください。また、『倭王』では
なく『天皇』と」
遣唐使を視線で威圧する武后。受けて立つ真人。武后、笑って
武后「ははは、面白い。よかろう、認めてつかわす」
ほっとする遣唐使一同。
N「日本は動乱の東アジアの中で、新たな地位を確立したのである」


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