第四巻 第五章 江戸幕府の成立

〇五大老・五奉行
N「秀吉は自らの死に備え、五大老・五奉行の制度を設けて、互いにけん制させようとしていたが」

〇名護屋・波止場
朝鮮から帰国した加藤清正(三十七歳)らを出迎える石田三成(三十九歳)。
三成「まことにご苦労にござった。上洛の折には茶会など開いて、そなたたちをもてなしとう存ずる」
清正「(吐き捨てるように)結構! 我らは朝鮮でさんざん、冷え粥をすすって参った!」
とりつく島もなく歩み去る清正。
N「三成を中心とする五奉行は、急速に支持を失っていった」

〇伏見・利家邸
病床の利家(六十一歳)を見舞う家康(五十七歳)。利家、家康の手を取って
利家「くれぐれも、くれぐれも秀頼さまのことを……!」
うなずく家康。
N「しかも利家が亡くなると、五大老の中でも家康に対抗できるものはいなくなってしまった」

〇東海道を進軍する家康軍
N「利家の息子・利長を屈服させた家康は、会津の上杉景勝を討つべく軍を起こす」

〇佐和山城の一室
石田三成(四十一歳)と大谷吉継(三十六歳)が茶を呑みながら会見している。吉継は覆面姿。
N「一方、加藤清正ら武断派の恨みを買った石田三成は、佐和山城に隠居していた」
吉継「三成どの……あなたは家康どのの不在のスキをうかがい、上方で兵を起こすつもりでしょう?」
何も言わず茶をすする三成。
吉継「おやめなされ。あなたには人望がない。あなたが立っても、ついてくる者はおりませぬ」
三成、黙って茶碗を吉継に差し出す。

〇吉継の回想
秀吉の茶会で、諸大名が集まっている。
覆面の吉継(三十歳くらい)の番になり、茶をすすると、吉継の顔から何かが茶碗に滴る。
露骨に嫌な顔をする諸将と、うろたえる吉継。
と、三成(三十五歳くらい)がその茶碗を受け取って飲み干し
三成「喉が渇いておったので、飲み干してしまった。皆の衆、すまぬ」
吉継、深い感謝の視線を三成に送る。「気にするな」と言いたげな三成の目。

〇佐和山城の一室
三成と吉継、熱い視線を交わす。吉継、三成の茶碗を受け取って飲み干し
吉継「……あなたが大将では、兵は集まりませぬ。毛利輝元どのを大将にし、安国寺恵瓊どのに諸将を説得していただきましょう」
深い感謝の礼をする三成。

〇小山・家康本陣
家康(五十八歳)が鷹狩りをしながら、間者の報告を聞いている。
家康「……そうか、三成が兵を起こしたか。で、どのくらい集まった? 三千か? 五千か?」
間者「それが……毛利輝元どのを大将に、十万の軍勢が起ちました」
あんぐりと口をあけて驚愕する家康。

〇家康本陣
手紙を書いている家康。周囲には手紙の山ができている。
N「家康は西軍諸将を寝返らせるべく、必死の手紙攻勢をかける」
家康(手紙)「小早川秀秋どの……」

〇関ヶ原の戦い
激突する両軍。
N「家康の工作により、西軍の多くは積極的に動かなかったが、それでも石田三成や大谷吉継の奮戦により、互角の戦いとなっていた」

〇家康本陣
爪を噛む家康。
家康(M)「……あやつはまだ動かぬか!?」
家康、立ち上がって、
家康「松尾山の小早川本陣に、鉄砲を射かけよ!」

〇松尾山・小早川秀秋本陣
轟音に腰を抜かす小早川秀秋(二十四歳)。
秀秋「な、何事ぞ!」
小姓「家康本陣から、こちらに向けて一斉射撃がおこなわれました!」
ひっ、と息を呑む秀秋。
秀秋「た、ただちに松尾山を降りよ! 大谷吉継の隊に突っ込むのじゃ!」
動き出す本陣。
N「この西軍・小早川秀秋の寝返りが決めてとなり、家康は関ヶ原の戦いに勝利した」

〇関ヶ原戦前後の豊臣直轄領の減少
N「勝利した家康は、豊臣家の直轄領を削り、関ヶ原で活躍した親徳川の大名に分け与えた。これにより二百二十二万石であった豊臣家は、わずか六十五万石の一大名になってしまった」

〇正装の家康(六十一歳)
N「家康は慶長八(一六〇三)年、征夷大将軍の宣下を受け、江戸幕府を開く」

〇大坂城本丸の一室
淀殿(三十六歳)、秀頼(十三歳)、千姫(秀忠の娘で秀頼の妻、九歳)が会話している。
淀殿「こうして千を秀頼に嫁がせたからには、家康どのも秀頼成人の暁には、将軍職を譲るおつもりのはず……」
と、小姓が飛び込んで来て
小姓「い、家康どのが、秀忠どのに将軍職をお譲りになりました!」
衝撃を受ける淀殿。千姫をきっとにらみつけ、扇子を投げつける。
辛そうにそれを受ける千姫。秀頼、千姫をかばって
秀頼「母上、千に罪はございませぬ!」
それでもまだ腹立ちのおさまらない淀殿。


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