「巴がゆく!」に見るポリアモリー的関係性と「幸福なマウント」

ポリアモリー読書会でとても楽しい気づきがあったので。

参考図書の中で、V型関係の要にいる人物が語る「(互いにメタモアである)二人のパートナーが仲良くしているのを見て感じる幸福感」について、「これはコンパージョンだろうか?」という議論になった。
「コンパージョンのバリエーションだと思う」
「友達同士が仲良くしているのを見て嬉しいのと一緒ではないか」
「いや、それよりはマウントの匂いがする」
ここまで話が進んだ所で、ピンと来た。
「田村由美の『巴がゆく!』だ!」
残念ながら参加者に、『巴がゆく!』の読者がいなかったので、不要領な説明にならざるを得なかったが、とても面白い気づきだったので記録して公開しておきたい。
ポリアモリー用語(あるいはポリアモリーの概念そのもの)ご存じない読者は置いて行きます。

『巴がゆく!』は、一九八七年から九十年にかけて、『別冊少女コミック』で連載されていたマンガ作品である。作者の田村由美は、この作品が出世作となり、『BASARA』『7SEEDS』『ミステリと言う勿れ』とヒットを飛ばす。
バブル東京を舞台にしたこのアクション作品のあらすじは、以下のようになる。
「主人公の少女・巴は、自分の通っていたスタントマン養成所の教官であり、恋人でもあった氷室が実は殺し屋で、巨大コンツェルンの御曹司・伊織を暗殺しようとしている事を知り、伊織を守って氷室と戦いながら、伊織と恋に落ちていく」
要は今カレを殺そうとする元カレから、今カレを守るために戦うヒロインの物語である(もちろん伊織も、守られているだけの今カレではない)。
さて、ここからは物語のオチにかかわる話なので、先に原作を読みたい方はいったんここで止まって、原作をお読みください。三十年前の作品とは思えぬ面白さを保証します。小学館文庫なら全五巻なので、田村由美入門としても手頃だし。

(以下ネタバレ)

最終的に失敗続きの氷室に業を煮やした悪の組織は、氷室・伊織・巴の三人をまとめて抹殺にかかる。巴を守るため、殺し合っていた氷室と伊織は、互いに悪態を突き合いながらも共闘。もちろん、その一夜限りの共闘ではあるのだが、その様子を見た巴は、言いようのない幸福感を感じるのである。
ようやく本題。
「自分を守って共闘する元カレと今カレを見て感じる幸福」と、「パートナー同士が仲良くしているのを見て感じる幸福」は、同質の物ではないだろうか。
そこには、参加者の一人が指摘した「マウント関係」が存在するかも知れない。しかしそれは、誰も不幸にしない「幸福なマウント関係」ではなかろうか(この表現について「表現に情緒がない」との指摘がありましたww)。

ポリーフレンドリーでない人にもわかりやすく説明するなら、
「ハーレムの賢明で良心的な主は、妻たちの関係を良好に保とうとする」
と言う話になろうか。そこにマウント関係があっても、不幸になる人がいないならそれでいいのではないだろうか。

『巴がゆく!』はそもそもポリアモリー作品ではないのだが、それでも三十年前の少女マンガに、尖端である(と自負する)ポリアモリーの一つの到達点が描かれていたのだ。田村由美スゲエ。少女マンガスゲエ。
「その地点は、田村由美(あるいは日本の少女マンガ)が三十年前に通過しているッッ!」
思わず烈海王(『刃牙』シリーズのキャラクター)にもなってしまおうというものである。

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