第四巻 第三章 織田信長の統一事業

〇天文二十一(一五五二)年頃の駿河・三河・尾張の勢力図
N「尾張を治める織田信秀(織田信長の父)と、駿河を治め『東海道一の弓取り』と呼ばれた今川義元は、松平家の治める三河、そして独立した経済拠点である津島・熱田を巡って激しく争っていた。津島と熱田は信秀が抑えたが、三河は義元が制圧し、松平元康(徳川家康)は今川家の人質となっていた」

〇萬松寺
僧侶三百人が集まる壮大な信秀の葬儀。
N「天文二十一(一五五二)年、信秀は病死し、信長が織田家を継ぐ」
本堂にうつけ姿(湯帷子を着て荒縄を帯にし、腰にひょうたんを下げ、茶筅髷を結った姿)の信長(十九歳)がずかずかと入ってきて、信秀の位牌に抹香を投げつけ、またずかずかと出て行く。呆然とそれを見送る、土田御前(信長・信勝の母、中年)と信(のぶ)勝(かつ)(信長の弟、十五歳くらい、最近までは信行という名だと思われていた)。
その様子を物陰から見ている今川の間者。

〇駿河館
義元(三十四歳)と太原雪斎(義元の軍師、五十七歳)が、碁を打ちながら、間者からの報告を受けている。
間者「織田の嫡男は全くのうつけ者。恐れることは何もございませぬかと」
雪斎「……うぬの目にはそれしか見えぬのか」
きょとんとする間者。
義元「いいよ。ご苦労だった、下がれ」
下がる間者。
雪斎「織田のうつけ殿……思わぬ強敵となるやも知れませぬ」
義元「うん。でも、余は負けない」
義元、碁石入れに突っ込んだ手を握りしめる。
義元「まずは尾張。そして、美濃。そこまで取れば……京に手が届く」
雪斎「この戦乱の世を終わらせ、民に平安を……!」
見つめ合う二人。

〇桶狭間
義元(四十二歳)の率いる五千の本隊が桶狭間山で休息を取っている。本陣で弁当をつかっている義元。
N「永禄三(一五六〇)年、義元は二万の大軍で尾張に侵攻した」
義元(M)「信長みたいな、何をしてくるかわからない相手は、大軍で正面から押しつぶすに限る」
義元「……だよね、雪斎」
周りの小姓たちがきょとんとした顔で義元を見上げる。義元、空を見上げ
義元「見てくれてるかなあ、雪斎……」
その空がにわかにかき曇り、豪雨が降ってくる。
その豪雨の中から、信長自ら率いる、織田の精鋭二千が山に攻め上ってくる。大混乱を来す義元本隊。
義元(M)「ああ……天運ってのは、こういうことを言うのかな……」

〇信長軍本陣
信長(二十七歳)が義元の首級の前で手を合わせている。
信長「義元公、俺は尾張からずっと、あなたの政を見てきた……父の政とあなたの政、一つにすれば天下に手が届く!」
意気上がる信長の家臣団。

〇清洲城
信長(二十九歳)と松平元康(二十歳)が杯を交わしている。
N「義元の死をきっかけに三河で独立した松平元康は、信長と清洲同盟を結び、信長は西へ、家康(元康)は東へと勢力を拡大していく」

〇岐阜の町
繁栄している楽市。
N「信長は征服した土地からは関所を撤廃し、町では楽市・楽座を開いて商人を呼び込み、経済の発展に努めた」
楽市を仕切り、あれこれ指図をしている木下秀吉(豊臣秀吉、三十一歳)。

〇京の町
信長の大軍が整然と行進する。それを見物している京の町衆。
京の都は応仁の乱以来の戦乱で、荒れ果てたままである。
N「永禄十一(一五六八)年、美濃を制圧した信長は、十五代将軍・足利義昭を奉じて上洛した」
女の声「きゃあっ!」
行列の後ろの方で、信長軍の足軽が見物人の女にいたずらを仕掛けている。足軽、背後の気配に気づいて振り返ると、憤怒の表情の信長(三十五歳)が立っている。
足軽「お、お館さま……ぎゃあっ!」
信長、一刀のもとに足軽を斬り捨て
信長「(大声で)この京の町で不埒(ふらち)な真似をはたらく者は、この信長自ら成敗する! 戦乱で荒れ果てた京の町を、共に立て直そうぞ!」
信長に歓声を送る京の町衆。
N「信長は幕府と朝廷の権威をバックに、天下統一へ向けて本格的に乗り出す」

〇長篠の戦い
信長軍の柵に突撃を阻まれ、集中射撃に倒れていく武田軍の騎馬隊。
N「天正三(一五七五)年、信長は長篠・設楽ヶ原の戦いで、信玄の息子・勝頼の率いる武田軍を壊滅させた」

〇信長軍本陣
信長(M)「敵より多くの軍勢を揃え、敵より優れた武器を揃えて、正面から敵を叩き潰す……義元公、あなたの教え、確かに受け継いだ」

〇安土城
その壮大な偉容。

〇安土城・天守閣
信長(四十七歳)が宣教師のルイス・フロイス(四十九歳)に、天守閣から、安土の城下町の繁栄を見せている。
フロイス「(感嘆して)この城は、祖国の大聖堂よりも素晴らしい……そして安土の町はリスボン以上です……!」
信長「(上機嫌で)腐った仏教を掃除するのに、キリスト教は役に立つ。支援するゆえ、どんどん広めるがよい」
フロイス「感謝の言葉もございません……」
信長「日本を平らげたら、唐天竺に攻め入る。その折はその方たちも協力せよ」
驚くが曖昧にうなずくフロイス。

〇本能寺の変直前の織田軍団配置図
N「信長は配下の将にそれぞれ一軍を指揮させ、日本全国に戦線を広げていた」

〇亀山城下
明智光秀(五十五歳)が一万三千の軍勢を閲兵している。
N「天正十(一五八二)年六月、信長は明智光秀に一万三千の兵を与え、中国地方で苦戦する羽柴秀吉を救援に向かわせるが」
光秀「……敵は本能寺にあり!」
驚く一同。
光秀「今、本能寺の上様の下には、千足らずの兵しかおらぬ。秀吉や勝家は京から遠く、駆けつけることはできぬ。『敵より多くの軍勢で、正面から叩き潰す』、今こそまさにその時!」
光秀の目に野心の炎。

〇本能寺(夜)
騒がしい物音に目を覚ます寝間着姿の信長(四十九歳)。
信長「何事だ……!?」
外に出た信長は、境内のあちこちから火の手が上がっているのを見る。森蘭丸(信長の小姓、十八歳)が駆けつけてきて、
蘭丸「攻め手は桔梗紋の旗を立てています!」
信長「光秀が……!?」
一瞬の驚きの後、大笑する信長。
信長「ははは! 光秀め、余が義元公から受け継いだ戦略、己の物にして見せたか!」
笑いながら炎の中に消えて行く信長と、供をする蘭丸。
N「六月二日、織田信長は配下の明智光秀に、京都の本能寺で討たれた」

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