第一巻 第四章 卑弥呼と邪馬台国

〇畿内と九州の邪馬台国比定位置
N「二世紀から三世紀にかけて、『邪馬台国』が日本で大きな勢力を持っていたことが、中国の歴史書『魏志倭人伝』からわかるが、その位置については諸説あり、未だ判然としない」

〇邪馬台国・王宮
弥生時代とは一線を画した、大きな木造の建物が建ち並んでいる王宮。周囲は濠と柵で防衛されている。敷地内で立ち働く大勢の男女。馬も何頭かいる。その中でも一際大きな建物がある。

〇王宮の一室
卑弥呼(五十歳くらい)が病の床についている。付き添っている弟彦(おとひこ、卑弥呼の弟、四十五歳くらい)と台与(とよ、巫女、十三歳くらい)。他にも大勢の従者たちが看病している。
卑弥呼「……弟彦、起こしておくれ」
弟彦「姉上、無理をなさっては……」
卑弥呼「この卑弥呼、最後の鬼道を執り行わねばならぬ。台与、お前も力を貸すのじゃ」
真剣な面持ちでうなずく台与。
N「邪馬台国は女王・卑弥呼が、鬼道(呪術)をもって治めていたと『魏志倭人伝』にはある」

〇親魏倭王の金印と銅鏡
N「卑弥呼は何度も魏に使者を送り、魏王から『親魏倭王』の金印と、銅鏡百枚を授かっていた。当時の中国は『三国志』の時代で、魏・呉・蜀の三国が争っていた」

〇祭壇
祭壇に向かって祈りを捧げる、王冠を被った卑弥呼と台与。祭壇の中央では、亀から剥がされた甲羅が火で炙られている。背後で見守る弟彦。
パキリ、と音がして、炙られた亀の甲羅に大きなヒビが入る。卑弥呼、かっと目を見開く。
卑弥呼(M)「神が……降りぬ?」
と、卑弥呼の隣で、台与がトランス状態に陥る。驚く一同。
卑弥呼(M)「神はわらわではなく、台与をお選びになった……!」
台与(トランス状態)「邪馬台国は……男が治めてはならぬ……」
卑弥呼「え?」
台与(トランス状態)「女王を立てよ……鬼道で国を治めよ……」
意識を失って倒れる台与を抱き留める卑弥呼。台与、意識を取り戻して
台与「私は……」
卑弥呼「(優しく)そなたは巫女の大任を果たしたのじゃ」
卑弥呼、きっと弟彦に向き直り
卑弥呼「聞いての通りじゃ、弟彦」
弟彦「(屈辱を噛み殺して)……は……」
卑弥呼「(咳き込む)わらわが死んだ後は、この台与が鬼道で邪馬台国を治める」
弟彦「(驚いて)こんな小娘にですか?!」
きっと台与を睨む弟彦。台与、その視線にすら気づかぬほどの衝撃を受けている。
台与「そんな……私などに……」
卑弥呼「(優しく)そなたにしかできぬのじゃ。よいな……」
ふっと意識を失い、ガクンと倒れる卑弥呼。
台与「卑弥呼さま!」
卑弥呼を抱き起こす台与を、呆然と見ている弟彦。
弟彦(M)「……こんな小娘などに……!」
弟彦の目に、邪悪な光が走る。

〇王宮・広場
大勢の民衆が集められている。高台に弟彦、その脇に台与。
弟彦「皆の崇めてくれた姉、卑弥呼は亡くなった……」
一瞬、しん、と静まりかえり、それからざわめく民衆たち。
弟彦「だが何も心配はいらぬ!」
弟彦、卑弥呼の王冠をかぶり、
弟彦「これからの邪馬台国は、我が王として治める!」
衝撃を受ける台与。ざわめく民衆。
弟彦「鬼道は姉に代わり、この台与が執り行う!」
台与「(小声で)そんな……!」
弟彦「(小声で)お前に女王など務まるものか。悪いようにはせぬから、我の言う通りにせよ」
暴力をにじませた脅しに屈する台与。民衆たちも不安を隠せずにいる。

〇王宮の一室
イライラしている弟彦の元に、次々と使者が飛び込んでくる。
使者「反乱した奴国(なこく)の兵は、我が国に迫っています!」
使者「鬼奴国(きなこく)が、奴国に呼応して反乱を起こしました!」
使者「蘇奴国(さがなこく)にも反乱の気配があります!」
弟彦「もういい、さがれ!」
一人になった弟彦、辺りの物に当たり散らす。
弟彦「畜生! どうして! 俺では! 駄目! なんだ!」
卑弥呼の声「そなたに王の器はない……」
驚いて弟彦が振り返ると、トランス状態の台与が立っている。
弟彦「台与……何のマネだ?」
台与(トランス状態)「愚かな弟よ……わらわがわからぬか……」
弟彦「(心底驚いて)姉上!? そんな……」
台与(トランス状態)「力で押さえつけることしか知らぬそなたに、邪馬台国の王は務まらぬ。すみやかに台与に譲位するのじゃ……」
弟彦「(パニックになりながら)衛兵! 衛兵!」
衛兵が飛び込んでくる。
弟彦「こやつを牢に入れておけ!」
連行されつつも見せる、台与(卑弥呼)の嘲笑うような笑みに、心底ぞっとする弟彦。

〇邪馬台国・王宮
すでに濠のすぐ外にまで反乱軍が迫っている。

〇王宮の一室
台与が衛兵に引っ立てられてくる。その台与にすがりつく、憔悴しきった弟彦。
弟彦「姉上、お助けください……」
台与「(冷たく)私は台与です」
弟彦「もうどちらでもいい! とにかくこのままでは邪馬台国はおしまいだ!」
台与「……私を女王と認めますか?」
弟彦「(泣きながら)認める! だから、我を助けてくれ……」
台与「(衛兵に)聞きましたね?」
衛兵、台与を放す。台与、弟彦から王冠を取り上げて自ら被る。出て行こうとする台与に、
弟彦「……どこへ?」
台与「……女王の務めを果たしにです」
取り残されてがっくりとうなだれる弟彦。

〇王宮
大勢の反乱軍に向かい、雄々しく立つ台与。その姿には、女王の威厳がみなぎっている。
台与「簒奪者は自ら王位を返上しました! まだ争いを続けるおつもりですか?」
反乱軍「邪馬台国は力で我々を支配してきた! 今度は我々が力で邪馬台国を支配する!」
台与「武力など何の役に立ちましょう……」
反乱軍「今さら何を言う! かかれ!」
だが、反乱軍は動かない。後方の兵たちがざわめいている。
反乱軍「どうした?」
〇空
真昼だというのに太陽が陰り、みるみる欠けていく。
やがて空は真っ暗になり、太陽の輪郭だけが輝く。皆既日食である。
〇王宮
パニックに陥る反乱軍を、静かに諭す台与。
台与「天は邪馬台国に怒りを顕わにしました。しかし皆が私を女王と認めれば、再び太陽が戻ってくるでしょう」
反乱軍「わかった! わかりましたから、どうかお助けを……!」
跪いて天に祈りを捧げる台与。
やがて日食が終わり、太陽が再び天空に輝く。
歓喜の叫びをあげる反乱軍たち。台与に向かって平伏する。
それを受け止める台与には、すでに女王の風格がある。
〇陵墓の作業現場
何千人もが働く作業現場。巨大な丘が築かれ、壕が掘られている。
それを指揮している台与。
丘に埋められていく無数の、人や馬や船の形をした埴輪。
N「『魏志倭人伝』には、卑弥呼の陵墓に関する記述があるが、それに比定される古墳は、今のところ発見されていない。しかしこの前後から、大きな陵墓が作られるようになり、『古墳時代』と呼ばれる時代がはじまるのである」

〇大仙陵古墳(伝仁徳天皇陵)
N「邪馬台国と大和朝廷との関係ははっきりしていないが、四世紀末に強力な統一国家である大和朝廷が、近畿地方に成立したと考えられている。大和朝廷は大規模な古墳で権力を誇示しながら、朝鮮半島への進出を進めて行った」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?