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スピルバーグ「宇宙戦争」を弁解する

時々むしょうに観たくなる映画がある。例えばスピルバーグの「宇宙戦争」(2005)だ。
この前、映画友達と自宅映画祭を催した。特に事前にネタを決めていなかったので、僕はその時の気分で「宇宙戦争」を推した。友達はホラー好き。僕は怪獣好き。ダコタ・ファニングの名演はもうほぼホラーといってよい。そして言うまでもなく最高の怪獣映画だ。間違いない。

(「もはやダコタちゃんが怪物!」って当時みんな言ってたよね。知らんけど)

日常を引き裂くように現れるトライポッドの丁寧すぎる描写。圧倒的な破壊力で街を蹂躙し、どこまで逃げても数を増して追ってくる絶望感。怯えるダコタちゃん。人間性に問題があるトムクルーズ。大惨事。叫ぶダコタちゃん。最高オブ最高。

3時間ぐらい観ていた気がするが、時計を見ると2時間に満たない。なんて濃密。
さあどうだ。どうでした?

え? 息子がなんで生きてたか? そしてラスト、あれ何って? 中途半端? 不完全燃焼?

そんな…僕はそんな、ストーリーについての感想が出るとは夢にも思わなかったので激しく狼狽えた。息子が愚か過ぎる行動をとってなんの説明もなく生還してるのは、父子のやつはスピルバーグの普遍的なやつだから。ラストがやたらあっさりしてるのは、SFの古典が原作だから。スピルバーグに代わって必死に弁解を試みたが、友達が評価を覆すことはなかった。
だって、あんなものすごい巨大怪獣の活躍を2時間みっちり拝めたんだから、それ以上に何を望むというの?

ストーリーにアラがあろうとなかろうと、宇宙戦争はいい。なんといっても絵面が全部カッコいい。なぜならスピルバーグだから。
スピルバーグを語れるほど映画を観ているわけじゃないけれど、この人は自分が見たいと思った状況、いわば妄想を、完全再現しないと気が済まない人だと言うことはわかる。映画って全部そうでしょ、と言われそうだけど、彼はその執念が段違いに強いのだ。地面のひび割れが広がって、とうとうトライポッドが姿を見せるシークエンスの濃密さ。小さな異変を何重にも何重にも描き重ねて徐々に増幅させ、取り返しのつかない臨界点めがけて加速させてゆく。そしてついにヌッと立ち上がる異形。
あるいは、音と光と爆風だけで「外で何かが起こっている」ことを想像させ、翌朝扉を開けたら……衝撃の全貌が目の前に広がっているシーン。
宇宙人の本体が降りてくるシーンは、あれは普通の感覚なら別に見せなくてもよい。本体についてはなんとなくボヤかして最後にチョロっと写すぐらいの方が無難だろう(パシリムのアレみたいに)。だけども、スピルバーグは彼らの実在を信じているので、半端な描き方はしない。中に本体おるで。こんなやつやで。ちょっとE.T.っぽくもあるで。と丁寧に見せてくれる。その極致がジュラシックパークで、恐竜は生きてる!と彼が信じているから、暴君T・レックス、虫の息のトリケラトプス、ブラキオサウルスのヨダレにまで生命の躍動が感じられて目頭が熱くなるのだ。
宇宙戦争にしても、確かにストーリー上では「それ要る?」というシーンが少々、いやまあ、多々あったり、逆に肝心なところで説明不足だったりするが、「俺の妄想見て! とにかく見て!」という圧が終始画面を支配しているのがスピルバーグの凄みだ。

スピルバーグ作品の中でも宇宙戦争は格別だ。なぜなら宇宙戦争は「心地よい悪夢」だから。トライポッドは単体の破壊力と、群れとしての制圧力を持っている。よくある「点」あるいは「線」の侵略ではなく、「面」による世界規模の侵略から逃れるプロットは最後まで出口が見えず、絶望感が段違いに深い。例えばゴジラが現れたときの対処をシミュレーションしてみると、個人の行動としては、なるべく早く遠くに逃げれば、それでひとまず命の危機は避けられる。だからシン・ゴジラの絶望感は被害の主語を大きくすることで成り立っている。近くから、遠くから、いろいろな角度から怪獣にどこまでも追いかけられたいと心から願っている僕にとっては、宇宙戦争の逃げ場のない逃走劇はまさしく夢のような2時間、怪獣セラピー、怪獣浴と言ってもよい。
逆に言えば、怪獣セラピーが成立するためには、最終盤まで出口の見えない絶望が持続する必要がある。主人公が攻略方法を発見してクエストをクリアしていったりとか、そういう「物語の推進力」はお呼びでない。とは言ってもスピルバーグだって家族の物語をハッピーエンドにしたいだろうし、そもそも原作があるものなので、あの唐突なラストはあれでいいんですよ。
尻尾まで餡子の詰まった鯛焼きみたいに、尻尾まで絶望が詰まった怪獣映画としては、ラストのあの投げ出し感こそが正解なんですよ!!!

と今度友達に会ったら言っておきます。



(あっ、あなたそう言えば「ジュブナイル」好きって言ってたやないですか… どうして…)

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