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三映電子工業 平原工場 前編

電線アンバサダーが全国の電線製造工場を訪ねる電線ノート。
今回は、長野県小諸市にある三映電子工業 平原工場へ行ってきました!
これまでのシリーズでも初めての巻線(まきせん)工場です。
普段は見えないところにある電線「巻線」とはどんなものでしょう?


巻線ってなに?

「電線」というと配電線や送電線など、見えるものを想像しますが、モーターなどに使われる巻線(マグネットワイヤ)も電線の仲間です。
自動車やスマートフォンの中でも活躍している身近な電線で、あらゆる産業分野の部品をはじめ、見えない部分で使われています。 

三映電子工業さん提供

髪より細い電線がある 

この工場の主力製品は、非常に細い巻線、極細線です。髪の毛の半分、50ミクロンからさらに細い15ミクロンといった、目では見えないほどの細さの電線を扱っています。三映電子工業は、細い電線の製造や加工に特化しており、なんと、0.05mm未満の巻線では国内出荷量の50%以上のシェアを誇るそう。
茅野電線事業部長(現常務取締役)にお話を伺いました。

茅野電線事業部長(現常務取締役)

「極細線なので、一つの製品に使われる電線の量はわずかです。 ただ、この極細線がないと製品として完成しません。お客さまの製品の製造ラインを止めてはならない、という思いがあります。」
熱い信念を感じます。
たくさんのものづくりを支える巻線製造、工場はどうなっているのでしょう。

巻線製造工場を見てみよう

巻線の製造工程を見せていただきました。
まず見学したのは、電線にするための導体、銅線を細く引く伸線の工程です。
伸線機がずらりと並び、24時間体制で動いています。

三上製造部長

案内役の三上製造部長が、1秒間に33メートルの速さで動いています。と教えてくれました。

銅線を伸線機にセッティングされたダイスに通し、引っ張って細くしていきます。
ダイスを通る細い銅線が見えますか?一本ずつ、指で通して加工します。

絶縁被膜の焼付

続いて、導体に絶縁材を塗布する焼付工程です。
電気炉へ通し、一層ずつバームクーヘンのように焼き付けていきます。

目を凝らすと、機械の間をきらきらとした細い銅線が通っていました。

きれいでつい何枚も撮ってしまいます…いいですね。

絶縁材を均一に塗っていくのには職人技が不可欠です。
最大の塗布回数は、なんと24回掛けなのだそう!

技術を伝えるあたたかさ

焼付工程において重要な巻線表面の色や手先の感覚など、作業の上で数値化しきれないコツは、先輩が一緒に作業しながら伝えていくのだそうです。
そんな焼付工程で働いている市川さんと西澤さんにお話を伺いました。

画像左から、市川さん、西澤さん

 市川さんは入社20年のベテランです。自分も入社したての頃は、何もわからず不安でいっぱいだったと笑顔で振り返ります。 
西澤さんは入社して半年。前職も銅線と近い分野の仕事をされていました。わからないことは丁寧に教えてもらえるそう。
指導係の市川さん曰く「自分の頃よりも飲み込みが早いんですよ」とのこと。先輩のように、一人で何台も動かせるようになることが目標だそうです。
お二人のお話を聞く間は、休みなく動き続ける機械に他の先輩社員が対応され、焼付工程ではあたたかな空気が流れていました。

出荷前の検査工程

絶縁の弱い部分は、ピンホールと呼ばれます。出荷前の検査工程は人の手、人の目で行われています。
ポツンと1点でもピンホールができているのを見つけると、ボビン一巻き全部が出荷できなくなります。しかし、そういった不良はまずないのだそうです。

矛盾を乗り越えるイグニッションコイル

巻線のうち、特に高い性能が求められるのは、自動車のエンジンを動かすイグニッションという装置に使う巻線です。
燃費改善を目的として稀薄な燃料(ガソリン)に点火するため、コイル出力を上げることが求められており、そのためには一層の耐熱性が要求されます。
また、部品の軽量化も求められますので巻線の外径寸法も細くする必要があります。

今の自動車にとって燃費が良いことは必須条件です。ですから、コイル外径を抑えるため皮膜を薄くして、尚且つ耐熱・耐久性のある巻線を提供しなければなりません。
このか細い巻線には、さまざまな厳しい条件が求められているのです。
なんとも健気ですね。

医療を支える

巻線は、医療機器でも活躍しています。
心臓の内部を撮影するためのモーターや、血管を拡げるカテーテルを送るモーターに使われるのは、巻線から作られるコイルです。

一見矛盾をはらんだように思える条件を乗り越えている極細の巻線。
巻線の表面に絶縁皮膜をむらなく均等にできる技術力によって、わたしたちの日常や命をつなぐ機器が作られていると思うと、途方もない気持ちになります。

会社を取りまとめる立場である、押金会長(取材時は代表取締役社長)にもお話を伺いました。
「みんなが花を持たせようとしてくれるんですけれど、みんながやってくれているので、私は何もしていないんですよ。詳しい説明はみんなに聞いてくださいね。」

なんだかこちらもあたたかい…。
じーんとしたところで、後編に続きます。

INTERVIEW DATE:  2023/11/10


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