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新ロゴはミッションを体現する北極星。DERTAリブランディングの舞台裏

新潟に拠点を構え「UPDATE LOCAL」をミッションに掲げる株式会社DERTA。設立2年目にしてリブランディングを計画し、2024年3月に新コーポレートロゴやウェブサイトを公開しました。その裏側で、時にはDERTA以上にDERTAの未来を模索したのは新潟に縁のある二人のデザイナーでした。

今回、本プロジェクトを主導した4名に、リブランディングの中心的取り組みとなったコーポレートロゴリニューアルの軌跡を聞きます。新ロゴに秘めたコンセプトや裏テーマ、「ロゴが引っ張る」DERTAの未来の可能性とは。

話し手:
アートディレクター/デザイナー 中野 浩明さん
グラフィックデザイナー/アートディレクター 齋藤 拓実さん
DERTA 代表取締役CEO 坂井 俊
DERTA 取締役CDO 須貝 美智子


地方の未来をリードするリブランディング

坂井:
DERTAは、創業わずか2年目にしてリブランディングを決めました。創業当初には想定していなかったところまで事業が広がっていたからです。コミュニティ運営事業、コンサルティング事業、メディア事業ー。事業やサービスが拡大すると共に、社内外の人へDERTAについて説明する難易度が増していた。DERTAの今後の発展や成長をリードするブランディングが必要だと考えました。

須貝:
DERTAは、今後も新事業・サービスのリリースを控えています。その前にリブランディングが必要だと考え、まず中野さんにお声かけしました。中野くんは前職で一緒だったデザイナーで、その仕事ぶりに信頼を置いていて。彼ならDERTAの今後の方向性を一緒につくっていけると一番に思い浮かんだんです。

加えて、DERTAは新潟を拠点に置き「UPDATE LOCAL」をミッションに掲げている。中野さんも新潟出身のクリエイターだったことも理由の一つでした。これをお伝えすると、「自分に加え、体現する人をアサインしたい」と同じく新潟出身のデザイナーである拓実くんを繋いでくれたんです。

そういえば、お二人とも売れっ子で忙しいのに、どうして依頼を受けてくれたのですか。

中野さん:
DERTAは、新しいことをやっていてそれらは社会に“効く”ことばかり。でも、新しいがためにその価値が伝わりにくく、加えて視覚的な印象の面で少し損をしているのではないかなと。

損というのは、「UPDATE LOCAL」を掲げているのにも関わらず、主にプロモーション領域の視覚表現の面で「垢抜けきれない地方感」が出てしまっていることを感じていました。

もちろん活動のメインが新潟ということもあり、戦略的に間口を広げていたという側面もあったかもしれませんが、それでも全国、ひいてはグローバルにその価値を展開できる可能性を秘めるDERTAにとって、それはデメリットの方が大きいはず。

なので、今回依頼を請けて、ロゴの刷新をきっかけにDERTAというブランドを面でとらえることで、Webサイトや写真から、意識、振る舞いまでアップデートして、DERTAとして本来目指すべき姿を統合的に具現化していけたら「面白いな」と考えました。

とはいえ、一番の理由は公私共に付き合いの長い美智子さんからの依頼なので、どうやったら面白くなるかなぁと、お引き受けする前提ではありました(笑)。

拓実くんとは、以前からずっと一緒になにかやりたい気持ちがあったんです。彼のことは個人的に知っていて、つくるものも共感できるし話していて価値観も合う。加えて、新潟出身で東京で活躍したのち新潟での活動もスタートしていた。DERTAが掲げる「UPDATE LOCAL」を地で行くような動きをしていて、ぴったりだなと思いお誘いしました。

齋藤(拓実)さん:
実は、中野さんにお誘いいただき会社の名前も内容も聞いていない状態で「やります!」と返事をしていました(笑)。僕も、ずっと中野さんとご一緒したかったんです。驚いたのが、いざ詳細を聞くと「DERTA?知ってる!」って。

僕の父は新潟で経営者をしているのですが、新潟でも仕事を探したいと相談した時DERTAを紹介してくれたんです。他にも、僕が定期的に開催するワークショップの運営メンバーからもDERTAの話を耳にしたり。あまりに多方面から話を聞くので、気になって調べてみるとDERTAが運営するSwiing(旧sin DERTA)を見つけました。こういったシステムが地方で始まっていたことに驚きと可能性を感じたんです。嬉しくてすぐに登録してしまいました。

Swiing(スウィング:新潟特化型のクリエイター検索サービス)
齋藤さんのページ:https://sin-derta.com/creator/2616/

今、東京から新潟に帰ってきて思うのは「新潟、元気ないな」ということ。僕はデザイナーなので、特にデザイン的な部分の話です。その中で「UPDATE LOCAL」と掲げる人たちがいて。新潟のクリエイティブやデザイナーの「導き」にもなっているなと感じたんです。そんなDERTAのリブランディング。ただ良いものをつくるだけじゃ足りない。一歩二歩進んだロゴをつくらなきゃいけないんじゃないか、と背筋が伸びました。

不安感を払拭した熱量の交換

中野さん:
二人の役割は、僕がディレクター、拓実くんがクリエイティブ制作です。どちらかというと僕の方がDERTAの事業であるサービスデザインやデジタル領域のデザインの経験が多く、コミュニケーションの窓口役を担うことに。とは言え、お互い意見を出し合い同じように手を動かす進め方にしました。

須貝:
そうそう。印象に残っていることがあって。中野さんが「媒介者になる」と言ってくれたんです。「スタートアップ界隈やDERTAのやっていることは特殊。外部の人にはストレートに伝わりづらいかもしれないから、自分が媒介者になります」と。これはDERTAや事業をきちんと理解してくれている中野さんにしかできなかったことですよね。

中野さん:
自分も特殊だったのかもしれません。音楽を聴くみたいな感覚でグラフィックデザインをはじめとする視覚表現を見漁りながらも、ビジネスやデジタルと近い位置にいる人間だったので。だからデザイナーの拓実くんとも共通言語があるし、経営目線でロジカルな説明を求められる経験もあった。そのバランスが今回の立ち回りに向いていたのかもしれませんね。

齋藤さん:
中野さんの翻訳力には何度も助けられました。僕の説明って感覚的なことが多すぎて、伝わりにくかったと思うんです。どうしても「シュッとしてる」とか「フワッと」みたいな表現が多かったところ、それをロジカルに言葉を補完し伝えてくれて。安心感がありました。

坂井:
それでいうと、自分が一番ロジカルに寄った思考だったのかもしれません。この4人の中で一番クリエイティブ経験が浅い。かつ、「株式会社」を運営する「代表」という立場です。どうしても、ロゴの案を見た時にこれらをどうビジネスに繋げていくか。という頭になってしまって。最初は、そこの“繋がり”に悩んでしまっていたのが正直なところでした。
馴染みのない新ロゴへの不安感も相まって、実は中野さんと拓実さんときちんと対話する時間を作ったことがありました。どういった想いでこのプロジェクトを進めているのか知りたかったんです。

お二人は、「自分たちは生涯をかけたものをつくるし、納得できないものを世に出さない。時間やお金関係なく、自身が納得できるかどうかという哲学を持ち視覚表現に向き合っている」というお話をしてくれて。すごく心強かったです。

自分からも「生涯をかけてDERTAに取り組み、意義あるものにしたい。そしてできるだけ長く続いていくものにしたい」という気持ちをお伝えしました。それくらいの覚悟を持っているものだ、と。なので「中長期的にこのロゴがそれを引っ張ってくれる存在になるのか」と、不安視していた問いを投げかけてみたんです。

すると、「間違いなく問題ないし、それを証明するのは坂井さんの仕事ですよね」と言われてしまって。特大ブーメランで返ってきてしまったなと(笑)。もともとお二人のことを信頼はしていたのですが、仕事のスタンスや哲学の踏み込んだ話を聞けたおかげで、すっかり絶大な信頼を置いています。この熱量を含め、お任せして大丈夫だ、と。

須貝:
あの時間は思い返すと胸が熱くなりますね。私は中野さんの仕事の仕方を知っているので、揉みに揉んで最高傑作を出していることは行間に感じていました。このアウトプットは、100やった上での1なんだなと。それを坂井にも理解してもらった瞬間でしたね。

「見るロゴ」よりも「使うロゴ」で真価が分かる

須貝:
そういえば、今思うと面白いのが、ロゴに対する印象の変化です。

当初、昔のロゴとは全く印象が違うものを提案いただいて。以前と比べるとフォントが細く、色もビビットで三角の辺も分裂していた。これまでのロゴに馴染みがあった分、解釈し飲み込むまで少しギャップを感じてしまって。以前と変わりすぎてしまって不安も拭えなかったのが正直なところでした。

いま、案を見てから3ヶ月くらい経っていますが、不思議なことに目にする度「きっとこのロゴはわたしたちを奮い立たせ、指針になってくれる」と思うようになったんです。直感的なんですけどね。これでよかった、と素直に感じています。

中野さん:
迷いが生じるのは当然です。そもそも、当初の依頼ではコーポレートロゴの優先度は低かったですもんね。「今の形のままでいいから、リファイン程度で。サービスロゴをメインにお願いしたい」という話でした。DERTAという社名から象徴的なものは三角であるのは不変だし、シェイプや色などのディテールの調整程度で、と。でも、僕らは「そうじゃないだろ」とひっくり返してしまって(笑)。

齋藤さん:
中野さんと僕の間では割とすぐそうなりましたよね(笑)。

中野さん:
ロゴは、みんなを引っ張り上げる力を持つものなんです。地域を牽引するDERTAだからこそ、少し背伸びしなきゃいけない。もちろん身の丈には合っていなきゃいけないけど、少し背伸びして手が届くところにしていきたかった。おそらくその“背伸び部分”が、坂井さんや美智子さんが初見で感じた不安部分だったんだろうと思います。

まだディティールの処理も甘い初案でしたが、僕は拓実くんの初案を見た瞬間にこれでしょ、と確信を持ちました。コンセプトや展開性、拡張性、汎用性などを加味したときに、この案がベストだと思えました。展開やロジックを考えたときに、こいつはどの方向からでも全てを叶えてくれていたので。

須貝:
今回学んだことがあって。ロゴは単体だけを見るよりも、実際に使い出したときに真価を発揮するということです。実際にWebや紙媒体でどう使われるかという展開案を見たときに、可能性や凄さを実感したからです。止まった紙の上のロゴを見ただけでは分からなかった。「これでいい気がする」という70%位の確信が一気に100%になりました。あぁ、これは化けるなって。

坂井:
美智子さんの言う通り、使われているところを見て納得しました。不思議と「すごい」と声が出た。自分でもスマホの壁紙にしてみたり、他のスタートアップロゴと並べてみたりしたんです。実際に使ってみて、比較してみて、圧倒的に抜けていた。僕もここですごく納得しましたね。

こだわり抜いた「ドット密度」

中野さん:
実は、今回のロゴには、近年のロゴデザインの潮流に対するチャレンジもあったんです。

みなさんも目にすることが多くなっていると思いますが、特にアパレルブランドやデジタルサービスのロゴが独自性を削ぎ落とし、どんどん均一化している流れがあります。これは一定フェーズ以降の企業においては一つの合理性でしょう。ですが、これから意志を新たに「UPDATE LOCAL」を掲げるDERTAのロゴが、均一化されたようなものは絶対したくなかったんです。

元々グラフィックデザインは、カウンターや実験があって文化が成長してきた背景があります。DERTAも、新しいことをやろうとしている挑戦者。カウンターやアンチテーゼがあって新しい形を模索している姿は、僕らの制作に対する姿勢も重なると思い、一つの裏テーマとしていたんです。

齋藤さん:
そうなんです。その中で新潟でやる意味を考えました。新潟におけるデザインの傾向って綺麗で静かでおとなしいものが多いんです。いいんだけど、全部それってつまんない。新潟県民として少しの寂しさも感じていました。DERTAが新潟を引っ張っていく、という姿勢は大事にしていました。例えば、文字の組み方も単純に横組みにしないとか。

坂井:
そうだったんですね。カウンターカルチャーという観点が強烈に刺さりました。ビジネスを通してカウンターカルチャー的なことをやっていたのですが、視覚領域で表現していただいていたなんて。それが最初は理解できていなかったんですよね。「文字って斜めでいいんだろうか」って。思いのほか、既成概念に囚われていたようです。

齋藤:
特にこだわったのは、さまざまな媒体でもきれいに見えるドットの密度です。このロゴを提案した当初からここが肝になることは分かっていて。ベースの形が大枠これだと決まってからはひたすら検証しました。

ドットの総数や隙間の感覚などさまざまな組み合わせを試行
ドットの総数や隙間の感覚などさまざまな組み合わせを試行

少し間隔を広げたらもっと綺麗に見えるのか。ドットの並べ方にも様々なパターンがあるので、どのパターンだと斜めの線がきれいなのか。この大きさのドットだと密度に違和感がないか、など。このような組み合わせを無限に比較しました。やるからには可能性は全部潰そうと思って。徹底的にドットと戦いましたね。ちょっと嫌になるくらい(笑)。

また、ロゴが実際に使われる場面では、Webで見ることもあれば紙に印刷したものを見ることもあります。なので、ディスプレイ上だけでなく出力してみて双方で検証しました。理想は、遠くから見ると三角の辺がそれぞれ3色に見えるようにしたかったんです。コントラストを確認するために、出力して家中に貼りまくって確認しました(笑)。

坂井:
ほんとクレイジー(笑)。ここまでやってもらったら信頼するしかないですよね。

ロゴがたぐりよせる未来と可能性

坂井:
中野さんと拓実さんに、こんなプロフェッショナルな仕事の姿勢を見せていただき背筋が伸びました。ロゴが会社を引っ張るとはこういうことなのかと。

今回、会社について考え抜く過程で気づいたことがあります。DERTA(デルタ)という社名ですが、単純に英語表記するとDELTAなんです。でも僕らの社名は「L」のところが「R」。当初の理由はディレクターの「R」くらいの考え方をしていました。でも、新しいロゴの形は右矢印のような形にも受け取れるなと思っていて。これって「Left to Right(左から右へ)」とも読み取れる。数直線上で右に進んで行く、つまり未来を前に進めることができるとも言えるんじゃないかと気づいたんです。

今回のリブランディングを通して、いろんな根本的な気づきや解釈を得ることができました。このロゴの通り、より大きな可能性の広がりを感じています。

須貝:
DERTAは、広義のデザインの重要性を広く知っていただく活動もしています。では、そこからさらに意匠に落としこんだ時にどうなるのか。という過程が、今回のプロセス全てだったなと感じています。ここで終わりではなく、むしろ今後DERTAとしてどう体現していくのかは、問い直さなければならないと強く思いました。

中野さん:
「いいロゴをつくる」は、今回の僕らに与えられたミッションから考えると、料理人が美味しい料理を作るのと一緒で、ある種最低限のこと。なので、ロゴという形をつくるだけではなく、「僕たちからDERTAはこう見えていて、こういうことを期待していて、こういう可能性を秘めている」という問いを視覚表現に込めました。

そしてDERTAの方々はそれを受け止め、咀嚼してくれた。つくる仕事をしている人間として、これほど嬉しいことはありません。それに加えて、みなさんがDERTAとその未来について改めてよく考えるきっかけになった時間自体がすごく良かったと思っています。

齋藤さん:
「ロゴはみんなを引っ張り上げるものだから背伸びすべき」と言いましたが、僕自身もこのロゴを作るのに背伸びしているんです。その上で、自分でも納得しつつ、新潟のデザインの傾向と少し離れ「面白い」と胸を張って言えるものを作ることができました。なかなかそこまではっきり思えることも少ないと思うので。本当にラッキーです。

お客さんの「こういうものが欲しい」を超えて、攻めながら様々な面で納得できるものができた。それって多く経験できることではないんです。だから、すごく嬉しくて。デザイナー冥利に尽きます。

坂井:
今回のリブランディングは、社会への想いも込めていただきました。「もっと新潟がこうなるといいよね」というみんなの想いを乗せて、可能性を切り拓いていきたいです。

まだリリース前ですが、不思議とすでにロゴには愛着があるんです。それくらい個人的にも好きになっています。今後の広がりを表現できるロゴを望んだつもりでしたが、僕らの想定以上に、僕らの可能性を広げてくれました。他の地域に打って出るという意味でも、日本を代表する会社を目指す上でも、世界へ挑む上でも、十分戦えるものになった。

これからは、僕らがその期待に応える番です。DERTAのさらなる成長を楽しみにしていてください。