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金は命の次に大切なのか?

現代社会が企業による雇用とそれによって得られる賃金での生活に依存していることは、2008年に起こった金融危機以降、「先進国」を襲った経済危機がはっきりと示した。戦争でも飢餓でもないが、お金の流れが止まったというだけで、企業が潰れたり、自己防衛のための雇用を減らしたりして、大勢が職を失い、収入がなくなり、住宅ローンも返せなくなり、家まで失った。

(工藤律子『雇用なしで生きる』)

確かに、現状の資本主義社会ではほとんどの人がお金がなければ衣食住を充足することはできない。だから、お金がなければ生活することすらままならない状況になり得る。しかし、このようなお金に依存した暮らしは、経済危機によって脆く崩れ去ってしまう危険性と常に隣り合わせである。それは、雇用されて生きている以上、あるいは「お金」によってサービスを消費してしか暮らせないという生活を送っている以上、つきまとう危険性であろう。

いつから家を自分たちで作れなくなったのか

私たちが、自分たちの力だけで「家」を作らなくなったのはいつからだろう。資本主義社会は、あらゆる作業を商品に変えていく。それは、商品に依存しなければ、生きることがままならないことを意味している。そして、商品と交換する「お金」を誰かに取り上げられたり、経済危機や政府の破綻によって「お金」が価値を失ったりすれば、家さえも簡単に失ってしまうことを、冒頭の『雇用なしで生きる』は鋭く指摘している。

しかし、本来人々はお金に頼らなくとも、生きていくことができたはずである。もちろん、飢餓や環境要因によって暮らしが急変してしまうことはあっても、少なくとも金融危機で生活が変化するようなことにはならなかっただろう。

お金より大切なものは、自分たちだけで生きる力

お金による消費でしか生きていけないとすれば、その希少性や専門性を振りかざし、独占し、やたらとお金がまたかかるようになってしまう。それをどう回避すれば良いのだろう。極端に言えば、全て自分でできるようになれば良いのだろう。私たちが生活に不可欠だと思っている費用を上げてみよう。住宅費、食費、水道光熱費、通信費、交通費、被服費、日用品代、教育費、医療費などではないだろうか。これらのことを商品や行政サービス制度に頼らず生活することは、自分の力を取り戻すことに繋がる。自分でできることが少なくなればなるほど、「それなしでは生きていけない」状態になり、他者や制度に依存し、簡単に日常を奪われたり、あるいは騙されたりしてしまう。

医療・教育を行政サービス制度に頼らないで生きてみる。

「自分ではできない」「それなしでは生きていけない」状態は、非常に危険である。なぜなら、繰り返しになるが、制度に依存させられることで権力に騙されやすくなるからである。哲学者イバン・イリイチは、医療費・教育費・交通費について、できるだけ行政サービスや商品を消費しない暮らしを提案している。医療制度は、誰もがいつでも簡単に利用できるようになったことで、むしろ医者が新たに作り出す「医原病」であると人々を診断し、余計な治療を行うことでむしろ健康に害を及ぼしていることを指摘した。そう思えば、些細なことで病院に行くことは逆に医療による暴力を受ける可能性があり、医療費を使わないで生きていくことが哲学的な実践の一つであると思える。教育についても同じことが言える。教育制度が普及し、学校に通う人が多くなると、学校に通うこと、卒業証書をもらうこと、授業に出席し座っていることを「学ぶこと」と勘違いするようになり、人々の「学ぶ力」はむしろ奪われていると批判した。イリイチにとって、学校にお金を払って通って学ぶことは、バカにしてもらいにいくのと同義であった。お金を払ってパッケージ化された教育サービスを買うことも同じである。教育費にお金を使うのではなく、図書館で読書をしたり、様々な人と議論したりと、お金を使わないで学ぶということもできるだろう。

生活を自分の力だけで成り立たせる

他にも、住宅を自分で作ることは難しい(と思い込まされている)としても、DIYは可能であるし、食料は自分で栽培できることが多いだろう。電気ガス水道も、市民自治によって太陽光発電や水力発電を設置運営することができている地域の事例もある。交通費に関しても自動車や電車での移動が主流になったのは、本当にここ数十年の話であり、徒歩や自転車で何時間も移動しても苦に思っていなかった時もあった。服を自分でつくり、日用品も自分で用意することだってできるだろう。大切なのは、DIYの精神だとつくづく思う。DIYとは、DO IT YOURSELF(自分たちでやる)の略称なのだ。私はこれを最近知った。DIY的生活は、金融危機に強く、権力者による操作と搾取から逃れ、力強い暮らしに私たちの生活を変えていく。そして、何より今これが可能になっている。インターネットの普及によって、情報や知識は民主化され、容易に手に入れられるようになり、DIYブームも到来している。お金に依存せずに、あるいは安価に暮らす手段はたくさんある。暮らしは、お金なしに実現させることはできるし、その方が揺るぎない生活を送れることを思い起こしたい。

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