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事業立ち上げのビジュアルブランディング

こんにちは、グラフィックデザイナーの森田です。今回はとある会社の立ち上げに際してのデザイン一式をさせて頂いたのでその話をしようと思います。

社名は「sayme(セイミー)」、事業は保険代理店です。

僕自身もそうなんですが、保険代理店と聞くとやっぱり少し警戒してしまうのではないでしょうか。「騙されるんじゃないか」「必要ないものまで契約されるんじゃないか」。そして個人的には現時点で28歳ということもあり、正直そもそも保険の重要性・必要性をあまり感じていません。

ただお客さんの主な年齢層は僕に近い人たちとのこと。僕と同じようなイメージを抱いている若い世代にもしっかり「保険」を伝える、ということをデザイン面でサポートしなければいけません。

まず手始めに今ある様々な保険代理店を調べると、やはり「お堅い」印象を受けるデザインが多い。お金を運用したり、病気や事故というワードとも直結している事業なのでそうなる理由も分かります。でもだからこそ、自分がそこから遠いところにるイメージを持つ若い世代は敬遠しがちなのではないだろうか。デザイン自体はもう少し軽やかな印象を持たせつつ、全てのツールで一貫性を保つことで真剣な姿勢も伝わるのではないか。試行錯誤の末その結論に至りました。

ビジュアルブランディングの場合、

①企業コンセプトを軸にイメージコンセプトを決定

②コンセプトに合わせたロゴを制作

③ロゴの世界観の中で名刺や封筒などのツール制作

と大きくこの3段階に分かれます。①がなければ②が出来ず、②が半端なものだと③への展開も半端なものになるという、全てが影響し合う重要なパートです。僕が関わるお客さんの中には、自分でもはっきりしたコンセプトを見つけられずにいる方もいます。そうした状況で「ロゴをつくりたい」というご要望を頂くのですが、僕としては「つくりようがない」というのがその時の本音です。

デザイナーはアーティストではないし、あるべきではないと僕は考えています。そしてデザインは主役ではなく主役を引き立てる脇役です。主役のキャラクターがはっきりしていないと、脇役は主役をどう引き立てていいのか分かりません。

ですのでそういう時は、お客さんの事業のきっかけ、目的、理想像、そしてお客さんの過去や性格をヒアリングした上で、無理に背伸びのしていないコンセプトづくりから一緒にします。

この「無理に背伸びのしていない」というのはとても大切なことで、ここで格好をつけたり、思ってもないことを掲げたり、理想と現実が全くかけ離れたコンセプトを設定してしまうと、ギャップに頭を抱えるようになり段々とコンセプトから離れていってしまって、一貫性がなくなってしまって、外見も内面もちぐはぐな企業に陥りがち。持続可能なコンセプトを探し出してそれを掲げる、ということがとても大切です。

さて今回の件では、「保険があれば色んなことにチャレンジできるようになると伝えたい」とのことでした。保険の種類は本当に多岐に渡りますが、いざという時にあまり役に立たないものも多く、それを知らずに加入し続ける人も多い。しかしsaymeが売る保険は最新の医療に対応しつつ、一定期間何事もなく過ごせればしっかりお金が戻ってくる。だからこそ「もしも」を心配して一歩踏み出せない人を安心させたい。そんな想いで保険を売っている。との話を聞きました。

だったら尚更堅くないイメージがいいし、むしろ楽しそうで躍動感を感じるデザインがぴったりではないか。若い人に「なんだかオシャレ」と思ってもらえる、ロゴやデザインからワクワクを感じ取れるような方向性でいくことにしました。

今回提案したビジュアルブランディング案は2つ。まずはA案。以下の画像は実際のプレゼンに使ったシートです。


A案のビジュアルコンセプトは「楽しもう、あなたを!」。先ほどのsaymeの企業コンセプト通りです。これはこの言葉を感じるようなビジュアルを目指します、という指標です。クライアントにビジュアルだけで見せると、解釈が曖昧になりがちで僕が考える目的地とお客さんが考える目的地にズレが生じやすく、それを回避するためにも大事な部分ほどしっかり言葉で伝え、共有を図ることが大切になります。


A案ロゴ。スクリプト体(筆記体)をベースにすることでリズムを感じることが出来、「何だか楽しげ」な演出をしつつ、頭文字の「S」を大きくすることで躍動感も表現しています。アルファベットのみだとファッショナブルさを感じますが、日本語で「保険代理店セイミー」と抑えを入れることで最低限必要な「会社らしさ」を残すデザインにしています。


こちらはこのロゴとビジュアルブランディングのコンセプトのイメージです。躍動を感じ前向きでリズムを感じるものを集め、こうすることでより明確な共有を図れます。


こちらは実際に作る・作らないに関わらず、「例えばこのロゴを用いてツール展開するとこんな感じ」という具体的な展開例です。ロゴはロゴだけで見られることは100%ありません。このように様々なツールに印刷・モニターにレイアウトされて第三者の目にさらされます。その時に果たしてどう映るのか、という検証もして初めて「ロゴ」として成り立つかどうかも決まります。


こちらの2枚は先ほどとは少し違い、目下制作することが決定することが決まっている現実的なツール展開です。ただしこの段階ではまだ深いデザイン制作は行いません。あくまでもロゴを使用した時のイメージです。


続いて以下はB案。

こちらは先ほどのA案と全く違う切り口です。「楽しい」ではなく「安心感」にフォーカスしています。安心をもってやりたいことにチャレンジしてもらう。そんなイメージを持たせるビジュアルブランディングです。


「対話」をキーワードに、頭文字のSを双方から出る吹き出しにしてマーク化。A案よりは保険会社らしく、しかし可愛らしくもあるロゴを目指しました。元が同じコンセプトでも切り口を変えることで全く違う雰囲気のデザインが可能で、はっきり住み分けをすることでクライアント側はより自分の思うコンセプトをハッキリさせることができます。


こちらはA案と同じくビジュアルコンセプト、ロゴコンセプトに沿ったイメージ画像です。「対話」「安心」「希望」をイメージする画像を集めました。


こちらも同じくロゴのツールへの展開です。先ほども述べましたが、こうすることでこの方向性でいったときのビジュアルブランディングが見えやすくなります。


同じく制作が決まっているツールの展開イメージです。


結果プレゼンの末A案に決定しました。クライアントからはこちらの方が自分のイメージに合っているとのことで即決でした。逆にB案を選ばないことで、「A案のイメージでこれから進む」と決意出来たのではないかと想像しています。

その後は封筒・名刺をA案の方向で再考、デザインし直します。ビジュアルブランディングで大切なのはズバリ「色のコントロール」です。


例えば上の画像はよく見かけるコンビニの色を企業別に並べているのですが、どれがどの企業かは言わずもがなだと思います。ロゴではない同じ形なのにも関わらずです。

つまり何度も何度も繰り返し目にすることで、無意識に僕たちの脳に「企業」と「色」が結びついてインプットされているのです。ローソンがブルーだけでなく赤や黄色の店舗が混在すればこのようなことにはなりません。これは中小企業でも大切なことで、色を一貫してアウトプットし続ければ第三者はいつのまにかその企業のことを考えると同時に企業の色(風土ということじゃなくてそのまま“色”)を無意識に思い出してしまいます。こうなればビジュアルブランディングは成功といって良いと思います。

長々と何が言いたいかというと、企業が使用するツールは特別な事情がある場合を除いて企業カラーを入れるべきだということです。

ということを踏まえて、以下が実際に制作したものです。

ちなみに二つ折りのパンフレットについては内容の編集、コピーライティングもしました。業界でもよく「企画・編集」「ライティング」「デザイン」と区分けすることがあるのですがこれはとんでもない間違いで、クライアントも含めた4者が全てに関わってつくることが大切です(全てを1人でやるべきという訳では全くありません)。

今回はビジュアルブランディングの一例を記しましたが、僕の中でもこれは「今回の例」に過ぎず、またデザイナーによっても方法や思考は変わります。ですので“参考程度”と思って頂けると幸いです。

それでは、また次回。

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