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アジアのUX:その5〜共感とビジネスの間

アジア旅行レポートの最後、5回目は共感についてです。

オンラインでもオフラインでも近年のビジネスでの関心どころは、

どうすれば人が集まるか

ということではないかと思います。サービスの質が成熟化・均一化していくと、提供するプロダクトの差別化だけでは違いを見出しにくくなるので、数値で測れるような利便性の訴求だけでは人は集まりにくくなります。

そのような中でのキーワードが『共感』だと考えます。企業や組織や提供するサービスの目的や考え方に賛同できるかどうか、がユーザーを惹きつける強い力になります。そして近年の関心事はソーシャルグッド、サスティナビリティ、人と人がつながり、など社会性に関する事象が多く見られます。

前回ご紹介したシンガポールのエコホテルもその1つですし、バンコクのthe COMMONSも商業施設とライフスタイルのあり方を追求して、そこに共感してくれたお店や人が集まっている空間です。

上にあげたような例は割とわかりやすいのですが、同時に裏側の仕組みもデザインしていくことが大切という点で、1つの例を紹介します。

NUS Smart System Institute

シンガポール大学による、イノベーションの研究施設でありスタートアップ企業を生み出す機関です。知人経由で運良く日本人の研究員(博士)の方と知り合い、施設を案内していただきましたが、お話を聞いて感じたのは、バックにシンガポール政府の強いビジョンと戦略があり、それが研究機関の活動につながっているということでした。

シンガポールは国土が狭く資源が限られている中、これまで数々の政策によって経済発展を遂げてきました。香港に負けない金融ビジネスの誘致などが有名ですが、近年では異業種をつなぎ合わせたビジネス創出やデータ活用に力を入れて、ここでも研究が行われています。

例えば、中国に負けずにシンガポールでも監視カメラはいたるところにあります。地下鉄の中や駅の周辺にはこのような感じ。見た目ヤバい。

これがどのような経済効果を生み出すかはまだわかりませんが、中国が治安維持や監視要素で語られることが多いのに対して、シンガポールはより国が一丸となってビジネスをつくることに注力されている違いがあるような気がします。

政府の方針がこのようにクリアだと、それに沿って大学の研究期間や企業も活動を注力していきます。NUSでは、テクノロジーを活用した研究からデータを蓄積し、それを環境への取り組みや、エンターテイメントといった分野への展開に取り組んでいます。

共感を呼ぶためには、エモーショナルな伝え方だけでなく、目的や役割がはっきりとわかる仕組みができていることも重要だと教えてくれる一例です。ボトムアップ型が強い日本ではなかなか難しいところです。

パーパス・ドリブンのビジネス

Pizza 4P'sはベトナムにあるピザ屋さんで、都市部を中心に数店舗展開しています。ダナンにも出店をしていたので行ってみました。実はこのお店は創業者が日本人です。地産地消で心地よいひとときを提供するビジネスを目指して、ベトナムで起業したそうです。既に夜は満席だったので、ランチの時間帯にネット予約していきました。

注文は店員に伝えてもいいのですが、タブレットでもできます。メニューにはそれぞれ使われている食材が明記されているので、ベジタリアンや宗教上の理由による人でも安心ですし、メニューのちょっとした解説に食欲がそそられます。(日本語もあるのでらくちん)

待っている間、他のコンテンツを見ていました。このお店が目指していること、採用ための動画紹介、アンケートなどがあります。それらを見てこのお店のことがよく知れるようになるし、タブレットを使って間接的であってもコミュニケーションができているのは、仕組みとしてうまいと思いました。

ちなみに味のほうは、メチャクチャ美味しかったです。旅行の最後のほうに食べたこともあるかもですが、何となく日本的な丁寧さを感じる味でした。今回の旅行はアジアの進化に多く関心させられましたが、日本の良さを再認識する機会もあったのはよかったです。

ベトナムの中では割と高めの価格設定だと思いますが、お店は連日予約でいっぱいのようです。国の事情に関わらず社会性を強く意識したスタンスと、オープンで透明性のあるサービスは、世界全体で共感を得られてビジネスとして成長できるこを示しています。

カルチャーをつくれるか

最後に、これは旅ならではの醍醐味、的なストーリーを。

ベトナムのホステルにいたときに、観光名所よりもここのホステルのようなカルチャーを感じさせる場所が一番好きだという話をスタッフとしていていたら(たまたま朝にこのホステルの建築に関わった人とも知り合ってそんな話をしていました)、その流れで隠れ家的なカフェを教えてもらいました。

仕事が終わった後、彼がよく行くご飯屋さんとカフェにバイクで連れてってもらいました。

地元の人でないと絶対にたどり着けないし入りにくい雰囲気のカフェですが、最高に気持ちいい場所でした。古いレコードやカセットテープの音楽が流れていて、エアコンはないけど吹き抜けになっていて扇風機の風が心地いい場所です。

こういった場所は、今の流行でなくても、お店が宣伝をしなくても、この良さをわかってくれる人たちが自然と集まってくるものです。カルチャーがある場というものを体現しているカフェです。

こういったカルチャーをつくれるかが、これからのビジネスでより強く求められてくると考えます。なぜならこれまで述べたように、デジタルによってオンラインのサービスは便利に平準化していく反面、フィジカルでは理屈や数字では表せられない人間味ある体験が大切になってくるからです。

カルチャーをつくるということは、単にお金をかけることではできません。とても有機的なものだし人間的な営みです。デザイナーがこれからのビジネスで貢献できることは、このカルチャーをつくる仕組みをデザインすることに最も価値があるのではないかと考えます。

まとめ

以上、5回に渡ってアジア旅行をUXの観点でご紹介してみました。

テールではより楽しい顧客体験を、モビリティでは情報を使って提供サービスの幅の拡充を、空間では人が集まる仕掛けをつくることを、それらを支える共感ではカルチャーをつくり育てることを、というのが今回の旅行で気づいたことです。

その中でも特に『共感』は大切です。なぜなら今ビジネスのルールはデジタル化などによってどんどん変わっていきます。そのときに自身がゲームチェンジャーの立場でいられるためには、新しいルールを支持してくれるユーザーの共感が必要となるからです。アジアを見渡したときに、日本が見習うべきことであり伸びしろがある点はこのようなことではないかと考えます。

5回のレポート内容は、プロダクトデザイン、グラフィックデザイン、UIデザイン、建築空間デザイン、サービスデザイン、ソーシャルデザインなど、デザインのいろんな領域をぐちゃぐちゃに織り交ぜながていますが、一貫しているのはユーザーの立場から考察することです。

これをビジネス的な文脈に落とし込むと、デザインの考え方に戦略的な要素が取り入れられるようになります。これが僕の考えるデザインストラテジーで、今回はそれをリサーチで実践したかたちになります。

本当はこれ以外にも、多くの人との出会いからたくさんのことを教えてもらったのですが、それはまた何かのテーマと結びつけられたときに紹介したいと思います。

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書き忘れてましたが、どこの国もご飯が本当に美味しかったです。食事につきあっていただいた上海のFさんとKさん家族のみなさん、タイのPさんホステルで知り合った旅人の方々、シンガポールのSさんとSさんとTSの方々、ダナンのBさん、ありがとうございました〜


デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。