ワークミル_メモ01

愛されるビジネス=目の前に見えていること:WORKMILL 04 イベント

WORKMILLという雑誌を知っていますか?

WORKMILLはオフィスの働き方をテーマにした雑誌です。Forbes JAPANの別冊として出版されていますが、実は内容や編集はオフィス家具企業のオカムラが関わっています。といってもオフィススペースに関わる立場として中立的な内容で構成されていますので、自社を紹介する企業雑誌とは大きく異なります。

WORKMILLは雑誌を通した研究機関のような位置づけです。今回は出版に合わせてイベントも企画されていたので参加してみました。リアルなつながりと間接的なつながり、オンラインとオフラインが融合した接点づくり。活動自体がリサーチだといえます。

そんなWORKMILLですが、雑誌の内容に加えてイベントも素晴らしかったので紹介します。

WORKMILL ISSUE04
LOVED COMPANY愛される会社
フォーブスジャパン 2019.04

問いの設定をはじめにする

WORKMILLは年2回のペースで出版していますが、特集テーマは毎回異なります。今回のテーマは『愛される会社』ですが、はじめに編集メンバーでこの問いをもとに議論を重ねて、雑誌編集を通して深堀りしたい研究テーマをつくるということです。(もちろんそこに家具を売るためといった企業側の思惑はありません。)

そうしてテーマが決まり、取材やインタビューなどの調査を行い、考察を経て一冊の雑誌に伝えたいことを統合していくという構成です。僕も仕事でリサーチのレポートに携わることがありますが、はじめに自分たちの内面から出てくる想いを起点に編集していくという取り組み方は、とても参考になります。

イベントで行われたセッション(雑誌のテーマをもとにしたディスカッショントーク)も興味深いものでしたので、2つ紹介したいと思います。

愛されるブランド

デザインの領域でも、ブログやTakramのポッドキャストなどで最近よく聞かれるようになったD2C(Direct to Consumer)をもとに、国内外で実践している取組みや注目を集める理由についての内容でした。ゲストスピーカーはこの3人。

・Takramビジネスデザイナーの佐々木さん
・レザーバッグ製品Objcts.ioを手掛けるZokeiの沼田さん
・オーダーメイドスーツを手掛ける FABRIC TOKYOの森さん

近年のスマートフォンやSNSの普及により、企業よりも個人の影響力が強くなったことで、ビジネスも変わってきている代表例の1つがD2Cです。ついオンラインの仕組みに注目しがちなD2Cですが、より大切なことはユーザーとの接点のつくり方=UXです。ユーザーに愛されるという観点でD2C価値を箇条書きにまとめると、例えばこのようなことがいえます。

・ユーザー1人1人と直接コミュニケーションできる
・社員やユーザー自身が商品を広めてくれる
・1対Nに比べて圧倒的に強いファンがうまれる
・オンオフ問わずたくさんのタッチポイントがうまれる
・データを介してより深い関係をつくることができる

つまり、愛されるブランドをつくるためには、デジタルを普通に駆使してユーザーとのタッチポイントを持ち、フレンドリーで長い関係性を持つことがポイントです。デジタルUXの戦略であり、UXがビジネスに寄与できることを示す観点であるともいえます。

ブランドというと、ハイブランドのビジュアルイメージやラグジュアリーな体験をイメージしがちですが、UX・デジタル・データといったことを活用して、目の前にユーザーがいるように感じられることが今後のビジネスで重要になります。そして、そこにデザインが役立てることはたくさんあります。

愛されるチーム

次は組織の内側についてです。活躍するスポーツ選手を排出する監督や、適切なタイミングで成長の機会を与えるプロデューサーなど、個人を高める人や仕組みの存在が組織の中ではかかせません。ゲストスピーカーはこちらの2人。

・組織変革などを得意とするBIOTOPEの佐宗さん
・脳神経科学を教育に展開するDAncing Einsteinの青砥さん

印象に残ったことを2つ紹介します。1つ目は『グループダイナミズムがはたらく環境を整える』という考え方。1人ではなくグループで、固定的なルールではなくダイナミックに状況に合わせて常に変化できる場。

例えばスポーツでは、サッカーの日本代表のようなチーム力による勢いをテレビで見ることができます。トップダウンによる厳格なルールと統制の中ではこういった現象は起きないと思います。そのときに大切になるのが、言葉にできないような気持ちや本音を分かち合えることだといいます。

この話につながる、2つ目のことが『不確かさを楽しめる場をつくる』という考え方。だれもが曖昧で先が見えない状況からは逃げたいものですが、そこにワクワクを感じて取り組みたくなれると、結果としてチームの創造性を高めることにつながるということです。

すべてがロジカルに判断されると新しい可能性までも排除してしまいます。それはアイデアといったことから、個の潜在力といったことにまで通じることです。言語的に日本語は英語よりも曖昧さが多い傾向がありますが、これを好材料として捉えていけば、日本なりのよいチームづくりができるのだと考えられます。

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イベントはとても示唆に富む内容でした。雑誌のほうでは、それを体現している企業が紹介されたり、実践ビジネスを通じて感じられることのインタビューなどが多く掲載されています。

新規事業企画やイノベーションといった取組みは、新しいアイデアやビジネスモデルなどをつくりこむ一方で、ユーザーとの接点や組織のつくりかたといった、人間的な面のことが同じくらい大切だと、自身の経験からも感じるので、欠かせない観点です。今回の気づきをまとめるとしたら、こんなことが言えるのではないかと考えました。

目の前にユーザーやチームメンバーの顔が見えていて、いつでも気軽にコミュニケーションがとれるようになっていることが大切

WORKMILLの取組は、リサーチプロジェクトの組み立て方や、オンラインとオフラインの融合によるユーザーとのタッチポイントのつくり方についても学びになります。リサーチやストラテジーに関心のある方は、雑誌のバックナンバーやホームページなども面白いので見てみてください。

最後に、公私でいろいろとお世話になっています、サンフランシスコ在住のデザイナー・枝廣ナオヤさんの記事も載っていたので(デザイン・テクノロジー・ビジネスのチームの考え方が面白かったです)、ホームページのURLも紹介しておきます。



デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。