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アジアのUX:その2〜リテールテイメント

アジア旅行レポートの2回目は流通や小売ビジネスについてです。

アフターデジタルの中で、リテールテイメントという言葉が紹介されていました。これは流通の『リテール』に娯楽の『エンターテイメント』を掛け合わせた造語ですが、ユーザーにとって楽しい流通サービスが、アジアの中でいくつか見られたので紹介します。

まず小ネタから。上海のお寺での参拝はお線香の購入もQRです。中国に住んでいる友達にお願いしてスマホでQRを読み込むと、音も光もなく、自動販売機からスコンとお線香が落ちてきます。シュール!

盒馬鮮生(フーマ・フレッシュ)

日本でもかなり知られるようになった盒馬鮮生です。アリババが設立した中国でのスーパーマーケットで、2017年ごろから都市部を中心に多店舗展開しています。僕は友人のいる蘇州(上海から電車で40分ほど離れた場所にある大きな都市です)の店舗に行ってみました。

このスーパーの特徴は、リアルとデジタルが融合していることです。友人は盒馬鮮生をよく利用しているけど、生鮮食品をネットで購入できるので、ちゃんとお店を訪れたのは始めてかもと言っていました。

店舗のレジは基本的に無人です。Amazon Go のように素通りで支払いというものではないですが、会計は端末やスマホを使って済ませます。支払いはもちろんQRです。僕は中国の銀行口座を持っていないからAlipayなどのサービスは使えないので、現地の人が使っているのを観察していました。

店舗空間はIKEAに似た倉庫のような位置付けです。品物を集めている店員がいましたが、これは多分ネットで受けた注文を配送しているのだと思います。集めたものは上のレールによって送られます。僕らがいたときはあまり動いていませんでしたが、売り場とバックヤードを分けていない構成は、合理的で見た目にも面白いです。(工場見学って結構楽しいですよね、あの中に入った感覚です)

デジタルを使った注文や支払いが合理的であるのに対して、フィジカルな実店舗には楽しさの要素がたくさんあります。例えば鮮魚売場ではザリガニ釣りをやっていました。(釣ったザリガニをその場で調理してもらって食べたり、持ち帰りできます)。お店の構成も在庫管理を目的とした画一的なレイアウトではないので、見ていて楽しい空間になっています。

魚にタグがついているのもまた何ともシュール。

クレーンのベルトで集まった商品は裏側にまわります。配送先のところを出待ちしていると、次から次へと盒馬鮮生の宅配バイクが出てきます。(アリの巣から出撃してくる戦闘アリみたい)店舗はバイクで30分以内の範囲にエリア戦略を行なっているようなので、注文があり次第すぐに個別配送を行い、結果としてお客にはすぐに届くので便利、という従来のネット通販にはないスピードで提供できています。

ネットでの購入が便利になっているいま、実店舗で魅力を出すためには合理性とは違った価値を提供できるか、ということを象徴しているお店だと思います。

JEWEL

シンガポールのチャンギ国際空港には、ショッピングモールが併設されています。ここはただのお土産物屋ではなく、巨大でラグジュアリーな総合施設です。(知らなかったですが2019年にオープンしたらしい)力の入れかたがすごいなと一目でわかる光景がこちら、

施設の中心に大きな滝がドーっと流れています。僕は日中しかいなかったので見られなかったですが、夜にはプロジェクションマッピングなども行われるようです。一番上の階には親子で楽しめる施設があったり、VRの新しい体験ブースがあったりします。(できたばかりだったので中は見られなかったです)空港で時間をつぶすのは退屈になりがちですが、ここはいるだけで楽しめます。ディズニーランドにいるみたい。

シンガポールのデザイナーに教えてもらったのですが、iChangiというアプリもまたよく出来ています。このアプリは空港のフライト状況や商業施設の案内が一緒になっているので、買い物をしながらも予約時間やマップを確認するのに便利です。(このモールはドーナツ状の空間構成になっていて、各ターミナルにアクセスできます)

玄関先である空港で、便利に楽しんでもらい快適に過ごしてもらおう、という観点からつくられたこの施設も(もちろん高い利益率が得られる理由もありますが)、リテールテイメントであるといえます。

ちなみに日本では僕の故郷・北海道の新千歳空港もいい勝負していると思います。アジアの旅行者を日本的エンターテイメントで楽しませています。これをデジタルでどう組み合わせられるかを考えると面白そう。

抹茶カフェ:Seven Suns

バンコクにある商業施設 the COMMONSの中に、抹茶を主にしたカフェがありました。

抹茶は海外でも人気だろうから、特にめずらしくはないかと思いますが、カウンターに茶筅があったので「もしかして目の前でお茶を点ててくれるのかな?」と興味があったので注文してみました。種類や価格はスタバ的と同じような感じです。

王道の抹茶ラテ(宇治抹茶だった)を頼んでみました。粉末を入れてシャカシャカやってくれます。とろんとしたところにミルクをバッと注いで、できあがり。

気になる味は…かなり美味しかったです。日本人の僕でも満足。苦すぎず甘すぎずなバランスで東南アジアの気候にもよくあったサッパリ感でした。

日本で抹茶を扱うとなると、その道の厳しい人からいろいろとツッコミがありそうですが(茶筅が広がっている状態は日本人的にはうーんと思ってしまうとか)、そういった細かいことは抜きにして、茶道のながれをライブでカジュアルに体感できるのは、素直にいいなと思いました。

コーヒーでもハンドドリップで一杯ずつ入れてもらえることへの需要は増えてきていますが、こういったリアルな場だからこそ、体験で満足できるサービスがより大切になってくることを感じた一例です。

まとめ

リテールテイメントについてまとめます。

中国で話題になっているロボットアームのコーヒーや注文を運ぶロボットレストランは、今回いけませんでしたが、これらを単に業務効率化ととらえるか、リテールテイメントと捉えるかによって、その価値は全然かわってきます。

業務効率化が企業目線であることに対して、リテールテイメントは顧客目線です。デジタルによってサービスの質が均一化しがちな業界において、リアルな接点で心地よく楽しめる体験を提供できるかが、差別化の焦点になってくると考えられます。

そして「顧客を楽しませる」ためのビジネスプランは合理的な考えだけでは生まれてきません。そこにデザイナーなり顧客目線に立って考えられる人がアイデアを持って、それをビジネスの文脈で体系化できるストラテジーの視点を組み合わせられる企業が、成長を続けていけるのだと思います。

ビジネスの企画をしている人はデザイナーとの協業を、デザイナーはリアルな体験をビジネス価値につなげることに、ぜひ目を向けてみましょう。

次回はモビリティのサービスについてです。

デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。