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香川県ネット・ゲーム依存症対策条例年表 2021年編

概要

本記事は香川県ネット・ゲーム依存症対策条例(以下条例)を巡る「AFEE」こと「エンターテイメント表現の自由の会」が発行するAFEEマガジンに寄稿したシリーズの第2回です。最新事情の公開を優先するために22年編をnote先行公開したため初公開時と掲載時系列が入れ替わっています。
また、表記を一部手直し、固有名詞の誤記を修正しています。ご了承ください。

出来事一覧


香川県ネット・ゲーム依存症対策条例(以下条例と表記)が施行されてまもなく二年になります。現在も裁判、イベント、学習会が行われています。本稿では筆者が捕捉した範囲で、香川県内の出来事を整理します。

※人物は報道、各種資料、SNSで公開されている名義で記載。人物の肩書は出来事の日付時点。

2020年

12月22日 損害賠償請求訴訟 第1回口頭弁論

高校生の渉(わたる)さんと母親が、条例が憲法違反として香川県を相手に160万円の損害賠償を求めた。原告側は「ネット・ゲーム依存症の定義や時間制限を設ける科学的根拠が不明確」「自己決定権などの侵害」などが憲法違反であると主張。

被告側の県は請求棄却を求める答弁書を提出。全面的に争う姿勢を示した。

36席の整理券が配布され、場所も高裁法廷で開かれた。県内外から40名が傍聴に訪れたため抽選となり筆者ほか4名が漏れた。筆者は同伴する父から傍聴券を融通してもらい傍聴に臨んだ。

被告側の弁護士は県の顧問弁護士、[1]東京と愛知の弁護人の三名。裁判長は女性である。裁判長より、裁判所としても若干関心を持つ旨が伝えられた。

2021年

3月8日 香川県議会の文教厚生委員会にて条例に基づく「令和2年度スマートフォン等の利用に関する調査」の速報が公表された。


3月15日 損害賠償請求訴訟第2回口頭弁論

 原告側は、条例の憲法違反が明らかなのに県議会が改廃などの措置を怠っている「立法不作為」に加え、条例制定自体も違法だとする主張を追加した。

傍聴者31名と複数の記者。県外より[2]藤末健三参院議員やAFEE准編集委員No.017さんが傍聴した。


同日 渉さんが高松北警察署へ容疑者不詳、私文書偽造容疑などの告発状を提出

 2020年1月に県議会が行ったパブリックコメント(以下パブコメ)に似たような文言が短時間に連続して送信された不正があったとして県内外の14名と連名で提出した。


3月30日 県教委が「学校現場におけるネット・ゲーム依存予防対策マニュアル」公開
4月 小中高校教職員に配布した。


5月 県が代理人弁護士に支払った着手金が不当に高すぎるなどとした住民監査請求を行う動きが複数の県民から見られた。筆者からも参加希望者を募った。


6月14日 損害賠償請求訴訟 第3回口頭弁論

被告側が準備書面を提出。複数の医学文献を挙げ、「ネット・ゲーム依存症の治療や予防の必要性を裏付ける事実は存在する」「条例のスマホやゲーム利用時間は家庭内で話し合う目安を定めた努力目標であり県民の利益を何ら侵害していない」などと反論した。

傍聴者は約20名。

3月の告発状については高松北警察署が私電磁的記録不正作出として一旦立件し県に電話問い合わせをしたとのこと。

高松地検に告発状を提出した市民団体を囲み取材するメディアが多かった。県議と元県議が政務活動費を選挙区内の団体に「意見交換会費」として支出したことが公選法違反の疑いがあるとするもの。


7月8日 テレビ番組「検証ゲーム条例」受賞

[3]瀬戸内海放送(以下KSB)の調査報道番組「検証ゲーム条例」が民間放送連盟賞の中四国地区審査会で報道部門最優秀賞を受賞。中央審査に進むことになった。


7月10日 「Sanuki X Gameサヌキ エックス ゲーム」開催

医師の渡辺だいさんらを中心とした「S・X・G」主催で高松市南部三町商店街にて開催された。アナログ、デジタルの様々なゲームを通してゲームの魅力や向き合い方を考える目的で開かれ、親子連れなどが楽しんだ。

配信もされたトークライブ「海野先生、ゲーム依存症ってなんですか?」では三光病院の海野順院長、石井聡美岡山県高梁たかはし市議、ゲーム業界人、依存症当事者が登壇した。

当事者が「家族には病院に連れて行って欲しかった」「プロゲーマー志望者は実生活の安定も大事」と語ったことが印象的だった。


8月

5日 住民監査請求

渉さんの裁判で県が負担する弁護士費用が高すぎるとして元高校教員の松崎光成みつしげさんら県民5名が行った。

賠償請求額を超える着手金の支払いは県の裁量権を逸脱するため、監査委員に対し、知事に支払い差し止めなどの措置を勧告する。

弁護士費用は、着手金が3名に161万7000円、訴訟終了後に別途報奨金を支払う、交通費や宿泊費も別途実費支払う契約である。

松崎さんは「県弁護士会声明時点で廃止もしくは大幅な改正を行うべきだった」と語った。


7月21・22日 第60回日本SF大会

サンポートホール高松にて開催。初日は有料コーナーにて企画「香川ゲーム条例:ゲーム産業に与えるインパクト」に荻野稔大田区議や山田太郎参院議員などがオンライン参加した。

二日目は無料企画「香川県ネット・ゲーム依存症条例現地民シンポジウム」が開催された。現地参加者は約14名。その他配信視聴者もいた。大会実行委員の中俣保志なかまたほし香川短大教授が司会、渉さん、山根信二東京国際工科専門職大学講師、田中達也三豊市議が登壇。意見や質問はネット上でリアルタイム集約する仕様だった。

裁判、課金などスマホゲームを巡る課題など多岐にわたる議論が展開された。

「県議会には議員提出による政策的な条例を成立できる力量があると示したかったのかもしれない」という意見が出て、筆者は議会の質の向上の図り方にについて悩まされた。

裁判資料も展示された。県による「幸福追求権は判例・学説上基本的人権たり得ない」などの主張が記されていた。


9月8日

渉さんのTwitterアカウントにて15日の口頭弁論に出廷できない旨のツイートがあった。この日を境に発信が途絶える。


9月11日 香川県主催のオンライン講演会

元中学校教諭で[4]ソーシャルメディア研究会の冨田幸子さんや[5]子どもと保育研究所ぷろほ の山田眞理子所長が講師を務めた。


9月13日 かがわデジタル化推進戦略(仮称)(素案)が公表

9月22日から10月21日までパブコメが実施された。ネット・ゲーム依存対策に関する記述が見られた。県外に住む個人も応募可能だったためAFEE有志が意見を寄せた。


9月15日 損害賠償請求訴訟 第4回口頭弁論

 原告側は代理人の作花知志さっかともし弁護士のみ出廷。

「条例は努力目標」と主張する被告側に対し「義務規定と印象付ける目的で制定された」と原告側は反論した。原告側は18条2項の定義にミスがあるのではと指摘した。文中で「コンピュータゲーム」を二重に規制している恐れがあるというもの。「スマートフォン等」の定義をしないまま文の前半でゲームの制限について述べている。(文末参照)

傍聴者23名(親と同伴の乳児を足すと24名)。


9月17日 日本民間放送連盟賞全国審査で「検証ゲーム条例」がテレビ報道番組部門の優秀賞を受賞した。


10月1日 8月の住民監査請求棄却

県の監査委員が「裁判の争点が多岐にわたる」「勝訴により県が得る有形無形の利益は大きいことから着手金の額を算定した」という県の説明に合理性があるという理由による。


10月14日 殺害予告に対し賠償命令

大山一郎香川県議が、殺害予告メールを送った男性に慰謝料460万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が出た。高松地裁は男性に約35万円の支払いを命じた。条例に不満を持ったことが犯行動機だった。


10月15日 住民監査請求を行った県民5名が香川県を提訴

渉さんと母親による違憲訴訟について、県が負担する弁護士費用の返還と支出差し止めを求める。税金の使途が争われる。


10月19日 衆院選公示

香川1区では3名が立候補した。[6]四国新聞オーナー一族かつ[7]西日本放送創業家の平井卓也氏、条例では目立った動きが見られなかった小川淳也氏、小川氏から立候補取りやめを打診された町川順子氏。

香川二区では動画発信や国会内の発言で条例やゲーム依存を扱った玉木雄一郎氏が立候補した。

この様子が映画「香川1区」で扱われた。

10月21・22日

AFEE名誉顧問山田太郎参院議員は平井氏の応援をツイッターに投稿した。


10月31日 衆院選投開票

小川氏が当選、平井氏が比例復活。20時に当選確実が出た点は筆者にとって想定外だった。

香川2区の玉木氏は対立候補に約4万票差で当選。香川3区は大野敬太郎氏は約7万票で当選。


11月8日 観音寺市長選および市議選告示

市長選は保守系の[8]佐伯明浩氏、[9]元衆院議員秘書城本宏しろもとひろし氏の一騎打ちとなった。現職は引退。

市議選は定数二十に対し二三名が立候補した。パブコメが任意形式であるところ、賛否を問う設問を付け加えて市民に募った[10]合田隆胤ごうだたかつぐ市議やAFEEの「表現の自由を守るための約束」に賛同した北野洋一氏などが立候補した。


11月14日 観音寺市長選および市議選投開票 

佐伯氏が市長に当選した。

市議選では合田市議が約1800票、6位で当選。北野氏は約400票、23位で落選。北野氏は票数に対し、諸葛孔明のコスプレと観音寺の軍師というキャラクター性で他候補および支持者の間で話題になったという。誹謗中傷は無く、好意的な反応が多かったとのこと。


11月18日 かがわデジタル化推進戦略(仮称)パブコメ結果公表

個人の応募が8件。条例に関する記述の変更等はなされなかった。


11月22日 県民が条例内容の再検討を求める陳情を県に提出

ITエンジニアの野中康生康夫さん、きしもとみつひろさんによるもの。「ネット・ゲーム依存症」という用語の問題点を指摘した。


11月26日~28日 イベント「うどんゲームス」開催

東かがわ市の絹島温泉ベッセルおおちの湯にて、施設運営会社主催で開催された。条例の趣旨を踏まえて正しい知識の普及啓発をしつつ、温泉・サウナ・食やアウトドアも楽しめるゲームだけにのめりこむことがないイベントを目指した。


11月29日 損害賠償請求訴訟 第5回口頭弁論

原告側は前回に続き作花弁護士のみ出廷。裁判長の質問に対し即答できず、疲れている印象を受けた。

 原告側は「条例で使われる用語の定義や科学的根拠が不明確」と主張した。

傍聴者16名。過去回と異なり山下記者が一般傍聴者席に座った。取材者が減り、原告代理人会見が弁護士と山下記者のほぼマンツーマンになった。


12月20日 弁護士費用返還訴訟 第1回

県民5名が原告となる裁判も始まる。


条例およびネット・ゲーム依存にかかる話題や活動が落ち着いた年でした。

条例を巡り住民による2つ目の裁判が始まろうとする一方、1つ目の裁判傍聴者は減少しています。民事裁判の性質上、法廷では書面の提出に関する確認や日程調整で終わり、5分から10分程度で閉廷するためと考えられます。第5回口頭弁論のテレビ取材はKSBのみとなりました。昨年大きな動きを見せたコンテンツ文化研究会や関係者の活動や発信も減少しました。筆者自身も目標の一つである香川の自民党関係者への聞き取りが未達成のまま一年を終えます。

条例の論点はネットやゲーム依存の科学的根拠、育児、教育に加え、条文を練る政治家の質、政治家を育てる有権者など多岐にわたります。重なる部分が人や団体により異なるため関係者が一枚岩となって向き合うことが難しくなっています。

その一方、県からの啓発が続くほか県民主催のイベントも複数開催されました。積極的に活動する方たちがゲームを楽しみつつも付き合い方やデジタル技術に冷静に向き合う県民が多いことに希望が見えます。

地元を離れて暮らす立場ですが、今後も様々な立場の方の想いを尊重しつつできる活動を続けたいです。


参考資料

香川県ネット・ゲーム依存症対策条例18条2項

保護者は、前項の場合においては、子どもが睡眠時間を確保し、規則正しい生活習慣を身に付けられるよう、子どものネット・ゲーム依存症につながるようなコンピュータゲームの利用に当たっては、一日当たりの利用時間が六十分まで(学校等の休業日にあっては、九十分まで)の時間を上限とすること及びスマートフォン等の使用(家族との連絡及び学習に必要な検索等を除く。)に当たっては、義務教育修了前の子どもについては午後九時までに、それ以外の子どもについては午後十時までに使用をやめることを目安とするとともに、前項のルールを遵守させるよう努めなければならない。


瀬戸内海放送#ゲーム条例のニュース記事一覧

https://news.ksb.co.jp/tag/11031866


学校現場におけるネット・ゲーム依存予防対策マニュアル

https://www.pref.kagawa.lg.jp/kenkyoui/kyoisomu/syokai/sonota/internet/manual.html


ゲーム対策条例に不満、香川県議に「ナイフで滅多刺し」殺害予告の男に35万円賠償命令

https://www.yomiuri.co.jp/national/20211015-OYT1T50048/


山田太郎参院議員のツイート(衆院選応援)

https://twitter.com/yamadataro43/status/1451132556540141570


かがわデジタル化推進戦略(仮称)(素案)のパブリック・コメント(意見公募)実施結果

https://www.pref.kagawa.lg.jp/digital/senryaku/publiccomment_kekka.html


きしもとみつひろさんのツイート(11月22日の陳情)

https://twitter.com/Attihelo37392M/status/1462770590104838145



[1] 2020年5月に香川県弁護士会が「『香川県ネット・ゲーム依存症対策条例』に対する声明」で条例廃止を求めた影響で県内の弁護士は担当しなかった

[2] 第1回から第5回まで傍聴している

[3]地元テレビ局。加藤宏一郎代表取締役会長の祖父は元海運会社社長で元政治家の加藤常太郎氏。出自に背景はあれど、条例関係の精力的な報道は所属する山下洋平記者の尽力と考える。

[4] 代表は兵庫県立大の竹内和雄准教授

[5] 福岡県のNPO

[6] ゲーム依存に関する記事で日本新聞協会賞を受賞した地元誌。社長は卓也衆院議員の弟・龍司氏。

[7] 条例及び関連裁判の報道は少ない。渉さんの訴訟の第1回口頭弁論は報じた。

[8] 2020年3月18日の香川県議会において条例に賛成する立場から意見を述べた。

[9]大野功統(よしのり)元衆院議員・敬太郎衆院議員の父子二代。敬太郎議員とKSBの宏一郎会長は常太郎氏が共通の祖父にあたるいとこ。

[10] 筆者は意見を募ること自体は問題ないと解釈する。


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