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『なつぞら』:イケメン俳優の演技法

みなさん『なつぞら』見てますか?・・・ボクは毎朝欠かさず見ています。

昭和のアニメファンにはたまらんドラマなのです。森康二・大塚康生・高畑勲という日本アニメ草創期の巨人たちが出てきて、もうすぐ宮崎駿まで出てきますからねー。この流れだと手塚治虫も出てくるのかな?

しかし『なつぞら』が真にハンパないのはイケメン俳優に超偏ったキャスティングだと思います。 ほぼ全員が新旧のイケメン俳優で・・・だっていいですか?あの宮崎駿の若い頃を演じるのが染谷将太なんですよ?信じられますか?(笑)
いやいや若者だけじゃない。主人公なつのお爺ちゃん役・・・草刈正雄ですからね。十勝の牧場の頑固な老人が草刈正雄って…イケメン過ぎるでしょーw! で、なつの父親が藤木直人で母親が松嶋菜々子で本人なつが広瀬すずって・・・どんだけ美しい牧場家族かっていう(笑)

そしてなつの幼なじみ、天陽くん・・・いや~先日とある飲み会で天陽くんファンの女優がビール片手に「忙しい朝にはイケメンが必要なのよーっ!」と叫んでましたがw、まさにその通りなんでしょう。視聴率20%越えですからね。 このイケメン絨毯爆撃、作戦としては大成功みたいなのです。

では作劇としてはどうなのか?・・・てなわけで今回はそんなイケメン俳優の演技法について語らせてください。

俳優って通常「他人を演じる」能力とか「物語を演じる」能力とかで戦ってるんだと思うんですよ。でも売れてるイケメン俳優ってそれとは別の能力(スキル)と言うか、別の演技法で戦ってるような感じがするんですよねー。

それはおそらく・・・「自分らしく輝いて魅せる」能力であり演技法です。

たとえば会話シーンにおいて彼らイケメン俳優は「会話で相手を揺り動かすこと」よりも、「その会話の中でどうすれば自分の魅力が発揮されるか」に集中して演じています。

その結果俳優の意識は内向し、演技はナルシスティックになります。 それってようするに傷つきやすい若者の心を演じ続けた「ジェームズ・ディーン型の演技法」です。

ところが『なつぞら』みたいに、こんだけイケメン含有量の多いキャスティングをしてるとさすがに不具合が出てくるんですよ。だって全員ジェームズ・ディーンの演技ですから(笑)。

注意深く見てください、岡田将生さんも井浦新さんも吉沢亮さんも、みんなそれぞれの角度からジェームズ・ディーン的なアプローチで演じています。

キャスティングがイケメン含有量が多すぎるゆえにいまいち「適材適所」になってない。 そのせいで脚本の意図と芝居がうまくかみ合ってない不具合があちこちに出てきているんです。

そのわかりやすい例が第50回、なつが東洋動画の試験に落ちたのを知ったなつの兄の咲太郎(岡田将生)が、東洋動画に乗り込んで仲さん(井浦新)に噛みつくシーンです。

これを脚本通りに普通に演じれば、

咲 「どうしてなつは落ちたんでしょうか?」
仲 「え?なっちゃん落ちたんですか?」
咲 「知らなかった?」
仲 「はい、なにも」
咲 「…それはちょっと無責任じゃないですか?
  なつに入れるっつったの あんたなんでしょ?(肩をドンと押す)」
仲 「うわあ(噴水に落ちる)」
咲 「あ、ごめん・・・」

というちょっと笑えるシーンなんでしょうが・・・実際の演技はこんな感じでした。

咲 「どうして・・・(挑戦的に)なつは落ちたんでしょうか?」
仲 「えええ?(ショックを受ける)な・・・なっちゃん落ちたんですか?」
咲 「・・・(なぜかニヤリと笑って)知らなかったあ?」
仲 「あああ、はい・・・(ナルシスティックに崩れ落ちて)なにも・・・」
咲 「(なぜかニヤリと笑って)そりゃあちょっと無責任じゃないですか?
  なつに入れるっつったの、あんたなんでしょー!!!(突き飛ばす)」
仲 「うわああああ!!!(噴水に落ちる)」
咲 「ああああああ!すみませえええん!」

そしてショックを受けたふたりが個々にあわあわしてるという・・・シーンがガチャガチャ。ふたりともジェームズ・ディーンになっちゃってるんですよ(笑)。

脚本上では2人が仲良くなるシーンのはずなんですが、2人とも演技がナルシスティックに内向してしまってるせいでコミュニケーションできない。ジェームズ・ディーン同志は仲良くなりようがないんです。

「ジェームズ・ディーン型の演技法」が脚本の事情と咬み合わなかった例をもう一つ。

第13週。菓子屋「雪月」の跡取り息子・雪次郎が役者になりたいって言いだす展開。
山田裕貴さんは「俺は役者になりたいんだ!誰が反対しても!」っていう気持ちだけを演じています。ジェームズ・ディーンですね。強い思いが彼を輝かせています・・・でも問題は脚本なんです。

脚本には雪次郎が演劇に強く惹かれてゆく過程が具体的なエピソードとして描かれていないんですよ。だから雪次郎が演劇と触れ合って変化してゆく様を演じて積み重ねてゆくことができない。
では脚本には何が具体的なエピソードとして書かれているのか?それは人間関係です。お世話になってるレストランの人達、北海道で応援してくれてる家族、咲太郎たち劇団関係者、なつ・・・彼らと彼のコミュニケーションがこじれてゆくさまが何度も描かれているんです、脚本上では。

ではなぜそれが表現されなかったのか、それは雪次郎が内向して、周囲の人間とコミュニケーションを結べなかったからです。周囲との摩擦に揺れ動く心を演じられなかった。

なつが話しかけても雪次郎はジェームズ・ディーンよろしく「俺は役者になりたいんだ!」と拒絶します。脚本家が描こうとしていた葛藤が発生しないままいくつものシーンが進行していったんです。
でまた広瀬すずさんっていうのがまたその場その場の状況に素直に反応する能力の高い女優さんなので、内向する雪次郎に対して素直にムカついてしまうw。で雪次郎は怒られるのでさらに内向してしまうという不幸な悪循環が(笑)・・・で、最終的にここから急激に強引な感じで家族との和解が描かれる展開になってしまいました。

これは演出部が調整すべきだったのではないか?とも思うのですが、まあキャスティングと脚本のマッチングの問題でしょうね。脚本の大森さんも残念だったでしょう。

ちょっと今回のテーマから外れるんですが、実在の日本アニメ界の巨人、
高畑勲さんと大塚康生さんの演技についても、ちょっと語らせてください。

高畑勲(坂場一久)役の中川大志さんは非常に強いクセがあるイケメン俳優さんですが・・・大好きです(笑)。
彼はジェームズ・ディーン型の内向をせずに、どのシーンでもしっかり相手や状況とコミュニケーションしながら演じてますね。なつとのやりとりが「いかにも若い頃の高畑さん」って感じで毎回笑っちゃうんですが、脚本の意図通りになつの心を揺り動かすようなコミュニケーションを2人ですごい集中力で演じていて感心します。
無言の時の目の表情にディテールが多くて魅力的です。

彼はauのCMとかでも良いですよねー、コマスギくん(笑)。強いキャラを演じながらも、じつは集中して演じているのはコミュニケーションで、ガッチリ相手役を掴んで逃がさないようなあの感じ・・・面白いなあ。最近のボクの最もお気に入りの俳優さんの1人です。

昨日放送の『なつぞら』第78話、パーティーでの表情も感情の揺れ動きが雄弁だったし、階段でのなつとの会話「ふに落ちましたか?」「はい、落ちました」もよかった。わかり合えた驚きと喜びが溢れていて・・・自らも輝きながら相手も輝かせる演技・・・このシーン何度も観返してしまいましたw。

それに対して麒麟・川島明さん(あ、彼はもちろんイケメン枠ではありませんw)演じる大塚康生(下山克己)ですが、高畑さんが高畑さんにしか見えないのに対して・・・大塚さんはぜんぜん大塚さんに見えないんですよねー、残念ながら。
いや似せようとして表情とか作ってるのはわかるんですよ。明るい人柄を演じようとしてるんですが、それなのに演技がいつもなんだか暗く、内向してるんです。内向はイケメン俳優の特権なのに(笑)。

現実世界でいつもニコニコしてる人って常に周囲をよく見ているからニコニコできてるんだと思うんですよ。もしインプット無しにニコニコしてるとしたらそれは心の中で別のことを考えている人か、それはやはりウソの作り笑顔だって事になってしまう。
現実の大塚さんって描かれた絵を見ればわかるんですが、観察力に優れた方で、もっともっと外界に興味があったはずなんですよね。なつの服装を毎日スケッチしてたってのは実話らしいです。(ヤバいw) つまり彼の目は常に周囲に開かれていて、外界の人物や物を詳細に観察していたんだと思います。だからニコニコしていたのだと。

なので形態模写的な作り笑顔や作り表情をしないで、コミュニケーションした方がいいと思うんですよねえ。せっかくの数少ないイケメン俳優でないキャストなんですから。

劇中の高畑さんも言ってるじゃあないですか。「そういう表現は単なる説明になってしまいませんか?」とw。

『なつぞら』脚本の大森寿美男さんは、上辺だけでない人間関係の深いところを描くのが持ち味だそうで、それだけにこの「あまりにイケメン含有度の高い座組み」においてはちょっと難易度高いことになってしまっている気がします。やはりバランスが大切かも。

ハリウッド映画では近年、内向型のイケメン演技の俳優は減りましたね。ジョニー・デップ、キアヌ・リーブス、ブラッド・ピット、レオナルド・ディカプリオあたりが最後じゃないでしょうか。ここ数年のイケメン映画スター、アダム・ドライバーやライアン・ゴズリングあたりは、ほぼ内向しないコミュニケーションで相互に輝く演技法で演じてますよね。

『ひよっこ』や『いだてん第1部』なんかもそうだったんですが、脚本がコミュニケーションのもつれを描写しようとしているその時に、俳優が個人の感情を内向的に演じてしまって、芝居が空中分解するシーンを見ることが最近たまにあるんですが、でもそれは逆にTVドラマ脚本のアップデートのチャレンジがおこなわれている!ってことなんで、ボクはワクワクしてるんですよ。 「わー!いいぞ!」とか「おしい!」とかスポーツ観戦する人みたいに声出しながら、毎朝『なつぞら』を応援しています。変ですよね(笑)。

さてさて『なつぞら』、そろそろ染谷将太演じる宮崎駿が出てきますよね。さあ新たなジェームズ・デーィンの登場になるか、それとも???・・・楽しみだなあ!

小林でび <でびノート☆彡>

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