noteメモの魔力

『メモの魔力』に学ぶ 脚本読み込み術

今回の<でびノート☆彡>は脚本の読み込み方についてお送りします。

演技するうえで「脚本を深く読み込むことが大切」だというのはおそらく芝居に携わるほとんど全ての人が同意するところだと思うのですが、

では「脚本とはどうやって読み込むものなのか?」・・・これについて納得のいく説明をしてくれる人にボクは出会ったことがありません。

よく「登場人物の人生の年表をつくりなさい」とか「身上書を作りなさい」とか教わったりしますが、ボクも役者始めた頃に事務所の先輩から教わったりしたんですけど、コレだけはハッキリ言わせてください・・・登場人物の年表や身上書だけは作っちゃダメ!(笑)

理由は簡単。
脚本の内容に沿って本当にうまく作らないと、年表を書けば書くほど人物像がどんどん自分オリジナルになってしまって、脚本家の意図から外れてゆくんですね。 
そしてさらにその自分オリジナルの人物像が頭の中でガッチリ出来上がってしまうと、演出家からのさまざまな新しい要望に対応できなくなってゆくんです。

演出家に「このセリフは言えません」とか「それはこの人はしないと思うんです」とか反論する俳優さんを一度は見たことあるかと思いますw・・・いやいや、言うし!やるんだよ!だって脚本に書いてあるんだから!w
その台詞が言えないのは役づくりが自分オリジナル設定のキャラになっていて、脚本上の人物とは別人物になってしまっているからなんです。

年表や身上書つくり・・・演出する側の立場から言わせてもらうと、百害あって一利なしだと思います。

ボクが脚本を読み込むうえで大切だと思うこと・・・その①は

「脚本家の意図を理解する」です。

よく脚本をよく読まないうちから自分の台詞を暗記しようとしはじめる俳優さんがいますが、ダメダメ。
で台詞をだいたい言えるようになったら、あとは現場でノリで!ライブ感で!とかいう俳優さん・・・絶対にダメです!(笑)
気持ちはわかりますが、そんな雑な取り組み方で脚本の意図する芝居を演じられるわけないんですよ。

よい脚本に書かれた台詞の小さな一言一言、ト書きのひとつひとつには、実は深い深い意味が込められています。だって推敲に推敲を重ねた脚本なんですから。
なのでよく自分が言いやすいように台詞の言葉を言い換えて喋ったりする俳優さんもよくいるんですがw・・・それもダメだと思います。なぜなら言いづらくてもその言葉がチョイスされているのには何らかの意味があるからです。

もし脚本上に言いずらい台詞があったとしたら、それは脚本のミスではなく、自分の役作りになにかミスがあると思った方がいいでしょう。その台詞が苦もなく言えるような人物像を想像してみてください。すると、ふと脚本家の意図した人物像が見えたりするかもしれないですね。

つまり言いづらい台詞は、正しく脚本を理解するための道しるべになるんです。

ボクが脚本を読み込むうえで大切だと思うこと・・・その②は

「登場人物の台詞や行動の動機を理解する」です。

人間の全ての行動には動機があります。なんとなくやってしまう行動にも、本人が意識していないだけで無意識下の動機が必ずあります。そしてその動機はその人物の人間性と深くリンクしています。

その動機を理解して台詞を言う俳優と、ただ感情を込めて台詞を言う俳優では、観客から見てその説得力がまったく違います。前者はリアルで実在感のある人物に見え、後者は薄っぺらな人物に見えます。

台詞ひとつひとつの動機を明らかにしてゆく、という視点で脚本を読み込むことは非常に有効です。

いや~脚本は読み込んで読み込み終わることはありません。
自分の友人を100%理解しきることがないように、自分が演じるべき人物を100%理解しきることはないからです。理解しても理解してもまだまだその先のレイヤーがある、底ナシなんです。

さて今回のブログのタイトルは【『メモの魔力』に学ぶ「脚本読み込み術」】なんですが、ようやく本題に入りたいと思いますw。

SHOWROOMの前田裕二さんの書いた『メモの魔力』、只今絶賛ベストセラー中なんですが、この本を読んで最初に思ったのが、「これ、脚本の読み込みに使える!」ということでした。

ノート術やメモに関するビジネス書って無数に出てて、だいたい「思いついたアイディアを書きとめる習慣をつけるための本」だったり「思いついたアイディアを整理するための本」だったりするんですが、この『メモの魔力』はその類ではなく、「その小さなメモをきっかけに深い洞察をするための本」で、その技術が書かれているのです。

この内容についてはネット上でもあちこちで簡単に説明されているので、例えば【「前田裕二流メモ術ってめんどくさくない?」とツッコんだら、そのウラにある壮大な想いを知った】とかを読んでみると良いかと思います。

この本では「ファクト(事実)」→「抽象化」→「転用」という風に思考を展開してゆくのですが、これって要するに

「対象を観察して、自分の心が動いたことを書く」→「なぜ自分の心が動いたのかについて洞察する」→「その洞察をもとに、他人の心を動かしてみる」

なんですよね。

でもこれって、まさに「脚本を読み込んで、役作りして、客前で演じる」という俳優の仕事そのものじゃないか!とボクは思ったんです。

まず「ファクト」の欄に脚本上の自分の演じる人物の台詞と行動を書き込みます。

そして次の「抽象化」の欄にその台詞と行動の動機や心情を書いてゆきます。この抽象化は「WHY(動機は?)・WHAT(ようするに?)・HOW(心情は?)」という3種類の方法で行います。

で、そこから自分がやりたくなった演技プランを一番右の「転用」の欄に書き込みます。

で、さっそく試しにボクの大好きな岡田惠和さんの朝ドラ「ひよっこ」の脚本の、バッと開いてたまたま出てきた第79話シーン12について、メモをノートに書いてみたんです。
ビートルズが来日する当日、ビートルズの熱狂的ファンの変な叔父さん・宗男(峯田和伸)が羽田空港に行こうとするところで、宗男の姪である主人公みね子(有村架純)が声をかけるシーンです。

ああ、字は変体少女文字だし、書き方も汚いし、抽象化も拙いので超恥ずかしいのですが~w。

このシーンのみね子の台詞はどれも短くて、深く考えないで喋ると単なる相槌みたいになってしまうのですが、その短いそれぞれの台詞が、どんな動機で発せられたのか?を考えてゆくと、脚本家の意図が見えてきます。

みね子の動機や読み解く上でのポイントは、みね子自身の心情について掘り下げてゆくのではなく、その瞬間瞬間に、みね子が宗男に対して何を感じているのか?・・・について洞察してゆくことです。

すると、宗男さんはまあ「変な叔父さん」なので、ディスコミュニケーションが発生しやすい人物なのですが、そのディスコミュニケーションを乗り越えながら宗男とみね子がお互いにお互いを大切にしあう・・・というディスコミュニケーションが解消されてゆく過程を岡田惠和さんがひじょうに丁寧に描写しようとしていることが、あぶり出されてきました。

脚本の文章を徹底的に観察して、そこから脚本家の意図を読み込んでゆく・・・。

ノートを使って脚本を観察・分析してゆくことで、単に台詞を覚えるだけの時や、普通に脚本を読んだ時には気づかなかったポイントがあぶりだされてゆく、という意味において、この『メモの魔力』式の脚本読み込み法って、けっこう有効なやり方なのでは?と思っています。

ボクは「脚本の読み込み方」の決定版はまだどこにもないと思ってます。

なぜなら脚本の書かれ方も20年単位でどんどん変化しているし、つまり新しい方法で脚本は書かれているので、脚本の読み込み方もどんどん新しい方法に更新されてゆくからです。

新しい脚本を読み込むよい方法は、古い本には書いてありません。

2010年代の人間のエモーションを演じるための「脚本の読み込み方」は、我々が新たに作り出してゆくべきものなのです。ちょっとワクワクしますねw。

小林でび <でびノート☆彡>

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